表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運からの最強男  作者: フクフク
エスタニア王国中編
161/222

余波_01



 そのニュースは、驚きとともに、各国に伝わった。

 三年前の武道大会で優勝した帝国の選手エイが、決勝トーナメント二戦目に姿を現さず、試合は棄権とみなされ敗戦した。

 帝国は、審議を申し入れたが、大会側はそれを受け入れず、敗戦を決定する。

 帝国関係者は、陰謀や誘拐、犯罪などの関連性を強く主張した。

 混迷を極めるかと思われたが、大会本部宛にエイ選手本人の『魔手紙』が届き、本人の意思の元、棄権するとの連絡がはいる。

 帝国関係者は怒り狂い、特級魔術師を派遣してエイ選手を探したが、いまだ彼の痕跡は掴めていないという。

 武道大会において、帝国は上位常連だったため、その歴史に泥を塗ったことになる。


 暗闇の中で、「ざまぁ、ないな」との男の声が、静かに聞こえた。



 ***



「殿下、お疲れのようですね」

「とんだ番狂わせのせいで、我が国の関与が疑われたよ」


 ユリウス殿下の肩に乗っていたスラが、机に飛び降りると、殿下のお菓子に手を付けだした。

 その姿に俺はぎょっとして手を伸ばし、机からスラをはがす。


「ピィ<クッキー>」

「少し、我慢しようね。スラ」


 俺の真剣な表情を見て、空気を読んだスラは、大人しく俺の膝の上に座った。


「アルベルトは、どうした?」

「所用で出ています」


 ユリウス殿下は叔父の説明に「そうか」と、一旦言葉を切ると、「ある噂が私の耳に入った」と言った。

 続けて、「先方へ了承をえているので、相手にせず無視をしたが、傍から見ても狂気だ。本気なのか?」と、無表情で叔父に尋ねた。

 叔父が「わかりません」と、首を振る。

 殿下は、真意を探るように俺たちを見つめ、小さく溜息を吐くと、「アーベル家が受け入れるなら、口出しはしない」と、叔父に告げた。

 その堂々たる振る舞いに、上に立つものの風格が見え、俺は圧倒された。


「心遣い有難く」

「口出しはしないが、報告はするようにと伝えてくれ」


 叔父が畏まった返事をすると、ユリウス殿下が早口でまくしたてた。

 その主張に叔父が半笑いで、答える。


「わかりました。殿下がとても心配していると伝えておきますよ」

「別に、心配などしていない。報告をしろと言っているんだ」


 表情は変わらないが、語尾を強めて主張する殿下に先ほどの風格はない。

 ユリウス殿下って、まさかのツンデレさんですか。

 空気が変わったことに、いち早く気づいた殿下は、咳払いをすると本題に入った。


「明日より、連戦が行われることになった。アルベルトには、十分に気をつけるよう伝えてくれ」

「連戦とは、また、無茶をしますね」

「私は反対したが、主催国のひとりの主賓がやけに日程をこだわった。まるでその日が決勝戦でなくてはならない、そんな様子だった」


 殿下は叔父をじっと見つめ、「まぁ、私には関係ないが」と言って、スラが口にしたクッキーに手を伸ばした。

 俺は思わず「あっ」と、言葉が漏れてしまう。すると、ユリウス殿下が怪訝そうな顔で俺を見た。


「ジークも食べたいのかい」

「えっと、その、殿下のクッキーは、スラが口にしたもので、よければこれをどうぞ」


 叔父の助け舟に、俺は慌てて状況を説明すると、魔法袋から新しいクッキーを出して、ユリウス殿下の前に置いた。


「ふっ。ジークベルトは、まだ子供だな」

「?」


 ユリウス殿下の表情が緩むと、俺の出したクッキーに手をつけた。

 殿下の行動に近衛騎士が、息をのんだのがわかる。

 俺が周りの反応に戸惑っている中、隣にいるテオ兄さんが、そっとその理由を教えてくれた。

 王族、特に大国の王太子は、必ず毒見をするのが当たり前で、俺の出したクッキーをそのまま食したことは、本来ならありえない行動だったようだ。

 ちなみに、スラはその役目を買って出たそうで、ユリウス殿下の食事の際は、スラが毒見をしているようだ。

 そう言えば、アンナのスパルタマナー教室で、貴族は直接プレゼントを貰わない。侍女を経由するなんて、話しがあったと思い出した。


「ユリウス殿下、申し訳ありません」


 真っ青な顔をして謝る俺に、ユリウス殿下は「気にするな。安心した」と、言った。

 えっ、それは、どういう意味。

 困惑している俺に、叔父の手が伸び、俺の頭をなでる。


「堅苦しいルールだから、ジークが気にすることはないよ」

「叔父様、それはジークの教育上あまりよくないと──」


 ヴィリー叔父さんの慰めに、テオ兄さんが反応すると、苦言を始めだした。

 その間も、ユリウス殿下は食べる手を止めず、俺の膝の上にいたスラが、我慢できずに「ピッ<クッキー>」と、殿下の元に飛んで行った。

 すごくカオスな状況に頭を悩ませる俺。挙句の果てには、「ジークベルト、このクッキーはまだあるか?」と、ユリウス殿下が、俺に尋ねてきた。



 ***



 しばらくして、ユリウス殿下が懐から書簡を出した。


「ヴィリバルト、陛下からだ」


 叔父が書簡に目を通すと、「しかと、お受けしました。王家に感謝します」と、書簡を『収納』に収めた。

 ユリウス殿下は、それにうなずくと、淡々と述べる。


「我々はアルベルトの優勝を見届けたあと、すべての予定をキャンセルし、直ちにマンジェスタ王国に戻る。それに伴い、任を解く。これは陛下からの勅命だ」

「御意」


 叔父の返事とともに、俺とテオ兄さんも、頭を下げる。


「長居をし過ぎた。王城に戻るとしよう」


 ユリウス殿下は、そう言って席を立つと、「ジークベルト、君の魔物をあと数日借りるよ」と、言った。

 俺が「はい」と返事をすると、机の上でまだクッキーを食べているスラに、「帰るぞ」と声をかけ、スラを肩に乗せて歩き出した。


「ピッ<主、また>」


 スラの小高い声が部屋に響き、ユリウス殿下が部屋をあとにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ