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不運からの最強男  作者: フクフク
日常編
112/222

迷宮_01



 金髪の長身ニコライが、不機嫌そうに近づくと、前方に指をさし訴える。


「おいっチビ。あれはなんだ。戦闘もくそもねぇじゃねぇか」

「本人は至って真面目なんです。決してやる気をなくすことは言わないでください」

「しかしなぁ、指導しているテオがかなりまいっているぞ、ありゃー持たねぇよ」

「だっ大丈夫です。テオ兄さんは不屈の精神を持っています。こっ、こんなことぐらいで投げ出したりは決してしないはずです」

「おいおい、お前もやべぇーなと思ってるじゃねぇかっ」

「ではニコライ様が代わりに指導していただけますか」

「どうして、そこで俺に振る」

「これでもだいぶマシになったんです。僕が戦闘の指導をできるにも限界があります。魔法なら多少自信はありますが、短剣は論外です」

「お前っ、短剣スキル所持しているだろう。その時の経験をだなぁ……。そうかお前っ、天才肌だったな……くそっ、だから才能がある奴はこれだからっ。ちッ。そもそも鍛える必要あるのかっ。あれは才能うんぬんのレベルではないぞ」


 ニコライは、しばらく自問自答をすると、俺に向けて正論を言い放った。

 それを受けた俺は、平然と事実を答える。


「それは説明しましたよ。ニコライ様も迷宮でのレベル上げに同意してくれましたよね。それに父上とも契約しましたよね」

「ちッ、早まったな。ずいぶんおいしい仕事だと思ったが、こんな裏があったとは」

「契約破棄はできませんからね。すればアーベル家を敵に回すと思ってください」

「次は脅しかよ。ちッ、俺は契約の護衛以外は手助けしねぇからなっ」

「はい。それで十分です」


 俺が満面の笑みで返答すると、ニコライはフンッと踵を返し、俺のそばから離れていった。

 ニコライの視線の先には、何度もスライムの上に転びながら対峙しているエマと、短剣の指導をするテオ兄さんがいる。

 その横でハクとディアーナが懸命に応援している。

 たしかにテオ兄さんの顔から表情が抜け落ちている。

 これは想像よりもはるかにまずい。

 さてどうしよう──。


 俺たちは現在、数年前に発見されたアン・フェンガーの迷宮にいる。

 迷宮はダンジョンと違い、最下層にボスはいない。その代わり最下層に到達すると『到達ボーナス』がもらえる。

 その中身はさまざまだが、迷宮の難易度が高ければ高いほど、いい品がもらえるらしい。

 噂では『スキル玉』や『ステータス玉』といった品もあるようだ。

 今回の表面上の目的は、踏破。

 本来の目的は、エマの強化だ。

 コアン下級ダンジョンでのレベル上げは、順調そのものだ。

 武道大会まで残り一ヶ月、目標であるLv10に全員が到達した。

 エマのステータスは相変わらずの低数値だが、よくがんばったと思う。

 ただ、技術面はなかなか上がらず、ハクの『氷結』に頼ってばかりだ。

 ディアーナは『疾風』が使用できるようになり、短剣の扱いもうまく、もう少しすれば短剣スキルを所持できるのではないかと、俺の勘が伝えている。


 戦闘を終えた後、テオ兄さんが一心不乱にハクをモフっていた。

 これは相当こたえている。ハクを派遣して正解だった。

 ハクは気持ちいいのか、尻尾をパタンパタンと、リズミカルに動かしている。

 ほかの皆は小休憩を終え、次の戦闘への準備を始めている。

 あとはテオ兄さんの復活待ちだ。

 当初の予定では五階層まで一気に下りるはずだったが、いまだ二階層。想像以上のエマのポンコツぶりに、テオ兄さんの精神が悲鳴をあげ、たびたび小休憩を挟んでいる。

 まぁ、精神がまいるのもわかる。

 例えば、スライムに短剣で攻撃を仕掛けるも、その直前で転ぶと、なぜかスライムの真上にダイブする。そのままスライムにもてあそばれ、助けようとしたテオ兄さんを巻き込み、あられもない姿にさせてしまった。

 それを繰り返すこと、五回。この短時間にだ。

 ほかにもいろいろあったが、たぶん一番こたえたのが直前の戦闘だったと思う。

 エマの行動パターンを把握したテオ兄さんは、攻撃方法を変えるよう指示。短剣を投げるという絶対に選んではいけない攻撃手段を選択した。

 この時点でテオ兄さんの判断能力は、だいぶ低下していたんだと思う。

 エマが投げた短剣は、なぜかスライムとは反対方向に飛んでいく。根気よくテオ兄さんは指導するが、短剣は一度もスライムに命中することはなかった。

 いや、とどめを刺したのは、エマの短剣だ。

 意図せずスポッと手から離れた短剣は、スライムの核に命中し、ドロップ品に変わったのだ。

 テオ兄さんはその様子を見て、唖然としていた。

 そこにニコライが現れ、テオ兄さんを慰めていた。

 その姿を見て俺は、エマの面倒を見させて本当に申し訳ないと思った。でも、俺がすがることのできる相手は、もうテオ兄さんしかいないのだ。許してほしい。

 当事者のエマは、動く魔物の討伐に大興奮していた。

 瀕死状態や氷結状態の魔物を刺すだけだったから、とても新鮮なのだろう。

 エマ、本当にレベルを上げていてよかったね。じゃないと瞬殺だよ。


 もう少しテオ兄さんには、癒しの時間が必要だと悟った俺は、新作の『クレープ』を出して時間を稼ぐことにする。

 もちろんクレープは大好評である。


「セラ様も、ご一緒できればよかったですね」


 口の端に生クリームをつけながら、クレープを賞賛していたエマが、ふと思い出したかのように切り出した。


「セラは基礎体力をつければ、動けるようになるが、時間がかかる。悪いなっ」


 ニコライがうれしそうに、エマに答えると、話題の中心がセラの話となった。


 セラは、先日よりアーベル家本屋敷で、治療のため滞在している。

 専属契約の条件の中にセラの治療がある。理由はニコライが仕事に集中するためだそうだ。

 病床生活が長いセラは、体に筋力がなく、歩くにも補助が必要な状態だ。

 その治療だが、俺が極秘に『吸収』と『低下』をしている。

 あの日、コアンの下級ダンジョンから帰宅した後、叔父ヴィリバルトに呼び出されたのだった──。



 ***



「久しぶりだね、ジーク」

「授与式以来ですね」

「そうか、授与式で会っているんだ。ダンジョン踏破で毎日一緒だったから、一日顔を見ないだけでも、ずっと会ってないような気になる。もう感覚が麻痺しているね」

「そうですね」


 俺が同意するようにうなずけば、叔父の目が獲物を捕らえるような鋭さに変わっていた。

 背筋に嫌な汗が流れる。


「それで今日は、折り入ってお願いがあるんだ」


 ゴクっと思わず咽喉を鳴らしてしまう。


「そんなに緊張しなくても簡単なことだよ。ニコライの妹セラの治療に『吸収』と『低下』が必要でね。それをジークに使用してほしいんだ」

「その魔法は、呪属性ですよね。残念ながら僕には適性がありません」

「そうだね。適性はないけど、使用はできるよね」

「……っ」


 核心を突かれ、俺は言葉をなくす。

 やはりバレている。

 どうする。どうするべきだ。落ち着け。


「エスタニア王国の騎士を助ける際、適性のない『癒し』を使用したね。今は理由を問わない」


 やはりあの時、気づかれていたようだ。叔父が見逃すはずがない。

 全属性をなんらかの方法で、俺が使用できるとの結論に至ったのだろう。

 とりあえず俺は、それに乗るしかないようだ。


「今は問わないんですね。わかりました。試してみます。『吸収』と『低下』は、本でしか確認したことがありません。実用までに時間がかかる可能性があります」

「できれば明日には、彼女に使用してほしい」

「努力します」


 叔父の真剣な表情に、病が相当悪化しているのだと察した。

 俺の魔法で治療ができるなら、助けてあげたい。

 ただ呪魔法は一度試しただけで、それ以降まったく使用していない。

 明日までになんとか『吸収』と『低下』を使えるようにがんばろう。


「治療内容は、極秘だから安心していいよ。ジークが、秘密を打ち明けてくれるまで待つよ。兄さんにも内緒だ。まぁ、ほぼほぼ症例がない魔力飽和だから、治療方法を調査するにもできないんだけどね」

「魔力飽和ですか」

「そう魔力飽和だよ。最初は体のいろんなところに小さな気泡ができるんだ──」と、叔父が魔力飽和の説明を始めた。

「本好きのジークも知らない症例だろ。それに知ってるかい。魔力飽和の最近の症例は約二百五十年前のもので、病にかかったのが、勇者と共に召喚された異世界人だったってことだ。バーデン家の血筋をたどれば、もしかするともしかするかもね」


 叔父が興味深そうに話す。その声は弾んでおり、次の研究対象としてニコライが選ばれたのだと察する。

 超紳士な叔父が、妹セラを研究対象にするはずはない。女性や子供にはとても優しいのだ。

 その場でニコライに合掌する。

 耐えろニコライ。きっとひと皮むけ、能力が格段に上がるはずだ。



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