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影食いリルマ  作者: 雨月
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第四十七話:だーれだ?

 夕方ぐらいの時間帯に何となく街をぶらついていると卒業した学園の近くまでやってきていた。

「お、蛍ちゃんだ」

 少し離れた距離だったが、蛍ちゃんがいるのを見つけた。

 数名の友達と一緒に帰っている所を見ると、青春を謳歌しているように見える。俺の時はよくすみれと帰っていたからあんな風に集団で下校というのはなかったかな。

 声をかけようとしたところで目を塞がれた。

「だーれだっ」

 最近、流行っているらしい。残念なことに声は女という以外、近くを通った車がクラクションを鳴らしたので特定できるほどの情報量はなく、よくわからなかった。

 場所の事を考えればリルマだろうか。いや、待て。美空美紀も通っているって言っていたよな。さっき見た蛍ちゃんも実は残像で、俺の後ろに回り込んでいる恐れがある。

 選択肢としてはこんなところか。無論、今のところだと裕二の可能性もある。

「ちょっと失礼」

 そういって手を触った。うん、女の子だ。これで裕二の選択肢は外れる。俺が変態さんなら手の感触で理解し、一発であてられるんだがわからない。その点は残念と言える。

「ふーむ……いい手をしている。もっと触っていたい」

 肌触りがいいねと追加で言ってみる。相手の動揺を誘い、何か喋ってくれればよかったのに、何も言ってくれなかった。

「あだっ、ぐはっ」

 代わりに、目を塞ぐ手に力が入れられ、更には尻を蹴り上げられた。急いで後ろを振り返ったが曲がり角に消えている。

「誰、だったんだろうか」

 答えを出せなかった以上、俺の負けだが相手が逃げたら引き分けと言ってもいいはず。

「リルマの気もするし、蛍ちゃんの可能性もなくはない、美空は……まぁ、ありえなくはないか」

 この前ちょっとからかったら割と好感触だったし。

「確率は低いが、青木の可能性もあるか」

 あいつも割と純情なところがあるからな。そう考えると尻を蹴り上げると言う野蛮な行為、蛍ちゃんには似合わないか。待てよ? 宗也が以前蹴り上げられたって言っていた気もする。ま、白井の可能性もないな。あの人が手を触って褒めたぐらいで逃げ出すたまじゃない。

 逃げられてしまった以上、犯人しか今日の事を知りえるわけがない。もし、これを外していたらと思うと冷や汗しか出ない。

「……へぇ、声で聴き分けられないってどういう事? 相棒相棒って言うくせに別の名前出すなんて変でしょ」

「ほー、やっぱり年下がいいんだ? つーかさ、普段から聞きなれているのはあたしでしょ。耳の掃除してあげるから貸してよ、あ、もちろん、突き刺さっても文句言わないよね?」

「私が出てきたのは意外でしょうけど、一応通っているから。愚図はおとなしく、帰りなさい」

 俺の都合のいいはず仕方が脳内を駆け巡る。

 おかしい、都合がいいはずって言ったのにどれも罵倒されてばかりだ。付き合いが非常に浅いためか、美空しか普通の対応を想像できない。

 その後、犯人探しをしたい気持ちもあったのだが、名乗り出る可能性もあるので結局放置することになった。

 後日、試しに背後からリルマへだーれだを仕掛けてみた。

「だーれだ」

「もう、裕二先輩。啓輔の声を出してからかわないでくださいよ」

 そしてあっさりと間違えられた。

 どうやら俺以外にも声の被害者がいたらしい。

 その後、探ってみると宗也や青木もやられたようで(誰の声真似をされたかは教えてくれなかった)、仕返しをする流れになった。

「僕のゆんなたんを汚しやがって……いや、そっちはいいんだけど蛍の声であんな言葉をよくも……よくも、よくもっ、よくもおおおおっ」

 なるほど、これが妹燃えか。妹がやられることによって覚醒するらしい。

「啓輔は絶対あんなことをあたしに言わない、啓輔は絶対あんな口調で馬鹿にしない、啓輔は絶対に、あんな風に見捨てたりしない」

 こっちは若干病んだ視線を虚空へと向けていた。

「……裕二先輩の被害者ってかなり悲惨なのね」

 どんな仕打ちをしたのだろう。気になったものの、何をされるかわからないので聞くのはやめておいた。。

 少し遅い時間だったがそれから裕二を大学内で見つけ出し、リルマが目を塞ぐ。

「だーれだっ」

 そして青木が声を変えて質問する。

「……かなえちゃんだな?」

「はずれ。外れたら腹パンしちゃうぞ」

「ははぁ、女の子からのそれはご褒美……」

「せいっ」

 無機質な宗也の声が響き、右腕が唸りをあげていた。

「ぐふっ、なかなか腰の据えたいい一撃だ。我がライバルの一人、九頭竜宗也の拳に似たものを感じる」

 わかっているのか、それとも勘が鋭いのか当てて見せた。

「ほぉら、喜んで無いで当ててよ」

 青木の声は恨みがこもっていた。相当、酷いことを言われたらしいな。

「……こんな重たいの数発しかもたねぇ。次であてる。ずばり、ゆっこだろ」

「せいっ」

 さっきと寸分違わず同じ場所に拳が入った。

「ち、違うのか。じゃ、じゃあ……」

 そして数分後、半分尻を出した状態でバットを突っ込まれた男が大学で発見されるのだった。


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