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バンドー  作者: シサマ
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最終回 ワン・ネイション・ラストダンス


 軍事クーデターから、統一世界に於けるロシアとヨーロッパの支配力を強めようと目論んだ、ジルコフ大佐とその一派達。

 そして、莫大な資金力を元手に、人工地震計画と新興宗教によって統一世界の経済支配を企んだ、イスラエルと旧アメリカ系財閥の合同大企業フェリックス。


 両者の野望は、警官、軍人、そして成長著しい賞金稼ぎ達で結成された混合部隊が打ち砕き、僅かばかりの神のご加護が犠牲者を抑える事に成功した。


 しかしながら、それでもこの戦いでジルコフ一派12名、フェリックス陣営4名、混合部隊3名の死者を出している。。

 つい4ヶ月前までニュージーランドの農場で働いていた日系人青年、レイジ・バンドーの活躍がなければ、更なる犠牲者を生んでいたに違いない。


 『2099年・7月20日』

 

 この日は統一世界の歴史に於いて、忘れてはいけない記念日となったのだ。 



 2099年・8月


 事件の全貌が明らかとなり、ジルコフ一派とフェリックス陣営の処分が正式に決定する。


 クーデターに協力した軍人と上院議員は地位に関わらず有罪となり、刑期の差はあっても執行猶予は付与されず。

 上院議員達の議員資格も、もれなく剥奪された。


 サンクトペテルブルク基地に帰還して以降、長期休暇という名目で逃走を続けていた戦闘機のパイロット、ジャブニン少尉が7月30日に逮捕された事で、全ての容疑者が警察の管理下に置かれる事となる。



 フェリックス陣営の中で最も罪が重かったのは、長年裏稼業を統括し、無期懲役を言い渡されたデビッド会長。

 彼の相棒のレオンは密告と出頭を評価され、懲役20年に減刑されたものの、ともに高齢なだけに獄中でその生涯を終える事になるだろう。


 孫娘のシンディと和解し、彼女と面会出来る分だけレオンは幸せ者と言えた。

 

 社長のデュークは裏稼業に強制的な権限を持っていなかった為、刑期はレオンと同じ懲役20年。

 だが、彼は会社の存続を条件に社長を引退、自身の処遇に対して上告もしていない。


 ナシャーラの刑期は懲役10年。

 彼女の特異な生い立ちと苦難の人生が考慮された処遇だったが、万が一の魔力復活が懸念され、声帯の治療は警察の厳しい管理下に置かれた。


 ナシャーラが教祖を務める新興宗教団体『POB』は解散を命じられ、信者達もその命令を受諾。

 だが、彼女に心酔するマギンが新たな教祖となり、ナシャーラの教義は小規模ながら確実に受け継がれている。


 メナハムは剣士としての実績と貢献が評価されており、一族の理想に従っていただけと判断された為、フェリックス陣営の中では最も軽い懲役3年の刑。

 加えてモスクワ武闘大会終了の年末まで、刑の執行は猶予された。


 とは言うものの、モスクワ武闘大会で彼の宿敵であるハインツと戦う為には、団体戦に参加しなければならない。

 加えて彼には重要参考人としての拘束期間が3ヶ月あり、11月からの2ヶ月間でコンディション調整とチームメイト4名を探さなければならないという、大きなハンデを背負わされる事となる。

 


 

 混合部隊はその功績を称えられ、統一政府から表彰を受ける事となった。

 

 政府と警察からの報奨金に加え、この戦い以前の仕事の報酬が全て入金されたチーム・バンドーは、一気に高額所得者の仲間入り。

 その成果を持ち帰る為、それぞれが自身の故郷へと帰省する。

 

 長年の夢である剣術道場開業資金の目処がついたクレアは、ハインツとともにソフィアで候補地探し。

 シルバはパリに住むリンの両親に挨拶後、今は亡き実父パウロの会社、シルバセラーを訪れる為にニュージーランドへと急行。


 バンドーとメグミの交際は、彼女の父親の希望もあり、お互いが賞金稼ぎとアニマルポリスを引退する年末まで控える予定だった。

 だが、モスクワでの活躍を知ったメグミの父親は早期交際を認め、ふたりはいち早く冬のニュージーランドを訪れていた。



 

 「綺麗……。8月に雪景色が見られるなんて、夢の中みたい!」


 人生初のオセアニア旅行に誘われたメグミは、南半球のニュージーランドならではの光景に感激が止まらない。

 

 北半球にある彼女の故郷ポルトガルとは、まさに真逆の季節感。

 バンドー達が一時帰省した6月はまだ朝晩が肌寒い程度だったが、8月は世界中からスキーやスノーボード客が詰めかける真冬なのである。


 「ウチは農家だから、雪のありがたみも厄介さも身に染みている。でもこうして、生まれて毎年ここの冬を見る事が出来て幸せだよ。もし戦いが長引いていたら、今年の冬どころか、生きて帰る事さえ出来なかったかも知れないしね……」


 一躍時の人となり、今やバンドーはヨーロッパの英雄扱い。

 

 しかしながら魔力を失い、剣士としてはまだまだ発展途上の彼に、世間の過大な評価は重荷でしかない。

 そして彼はどんなに強くなろうと、また、どんなに追い詰められようと、悪党ひとりとして殺す事は出来なかった。


 だからこそ彼は、故郷ニュージーランドでの人生を選ぶ。

 今、隣で微笑むメグミが、自分の死の瞬間まで隣にいてくれる事を願いながら……。




 バンドーとシルバの故郷カンタベリー地方でも、新しい時代の波が確実に押し寄せていた。


 バンドーファームでは、バンドーの兄シュンが今は亡きクォンの遺志を受け継ごうと、本格的にバイヤーへの道を歩み始める。


 バンドーの祖母であり、かつてのオセアニア格闘女王のエリサは長年超人的な存在だったが、流石に格闘師範を続けられる年齢ではない。

 彼女はバンドーファームで働く、元ムエタイ選手のタワンを次代の師範として育成する決意を固め、彼とシルバセラーのジェフェルソンを交えた格闘技教室には、カンタベリー地方以外からも多くの練習生が集う様になっていた。


 

 そのジェフェルソンはかねてより賞金稼ぎ志望であり、エリサ達との格闘技教室で自信をつけた為、遂に年末でのシルバセラー退職を直訴。

 

 現社長のガブリエウは6月に彼の希望を却下していたが、いよいよ根負けしてジェフェルソンの退職を許可。

 創立者パウロの息子であるシルバを会社に呼び戻そうと画策した。


 シルバとリンはバンドーと同様、モスクワ武闘大会を最後に賞金稼ぎを引退する予定。

 バンドーとの縁から、ふたりは彼と会いやすいシドニーかオークランドでの再出発を望んでおり、リンは図書館司書に復職する為、オセアニアの図書館事情を調べ始めている。


 だが、その経歴と実力が高く評価されたシルバは、本人の希望とは裏腹に軍や警察関係の仕事ばかりを紹介されてしまう、そんな現実に直面していた。

 

 リンやバンドーとの平穏な暮らしを望んでいた彼にとって、このシルバセラー復帰要請は朗報。

 しかしながら彼は、両親の仇討ちのに為に実家を捨てて軍人の養子になった過去を、長く引け目に感じてきたのである。


 「……ケンちゃん、後ろめたさを感じる事はない。俺はパウロとは違って、長い間いい加減な社長だった。君とレイジ君が取ってきたリスボンのサッカークラブとの契約で、ようやくウチも上り調子になってきたんだよ。だから君の力が、どうしても必要なんだ!」


 シルバの事をケンちゃんと呼ぶのは、バンドーとこのガブリエウだけ。

 いつかはこのふたりに混じって、パートナーの事を『ケンちゃん』と呼んでみたいリンは、自身のキャリアには執着がない事を彼に進言した。


 「シルバ君、私なら大丈夫です。力仕事は難しいかも知れませんが、魔法はこの会社にも役に立つと思います。お隣のクライストチャーチにも図書館はありますし、皆でこの会社を盛り上げましょう!」


 「ジェシーさん……! あ、ありがとうございます! ガブリエウさん、いや社長! こちらこそお世話になります!」

 

 ガブリエウとリン、ふたりの厚意に胸を打たれたシルバはその場で熱く漢泣(をとこな)きし、早速社長のガブリエウと無類のワイン好きのクレアから、知識と情報収集に全力を尽くす。



 バンドーファーム近隣のもうひとつの農家、日系のタナカ夫妻が経営する『タナカ農園』。

 ここのひとり娘であるサヤはバンドーとシルバの幼馴染だが、農園での仕事にも慣れてきたスペイン人サンチェスと関係を深めており、両者の婚約は既成事実となっていた。


 タワンとともに前科者であるサンチェスにとって、タナカ農園の仕事は堅気になれる最後のチャンス。

 一方、生まれ変わった彼を認めたサヤの胸の内にも、サンチェスと一緒にタナカ農園を継ぐ決意が生まれたのだろう。


 ……尚、これは蛇足かも知れないが、サンチェスはバンドーよりイケメンだという事を付け加えておかなければならない。



 2099年・9月


 故郷での用事を終えたチーム・バンドーとメグミは、賞金稼ぎとアニマルポリスの仕事に復帰する為、ともにヨーロッパへと集結する。


 チーム・バンドーをはじめ、チーム・カムイやチーム・ルステンベルガーは、今や世界中から依頼が殺到する超売れっ子。

 互いのコンディションを考慮しながら依頼を分担し、更なる賞金とモスクワ武闘大会に向けた経験値を稼ぐ為に、世界中を駆け巡っていた。


 その奮闘ぶりは、またの機会にお伝えする事が出来るだろう……。


 

 アニマルポリスはメグミの後釜となる予定の新人、アグネスをドイツから迎え、ターニャと組ませて東欧の仕事を実践中。

 

 メグミがアニマルポリスでいられる期間はあと4ヶ月しかないが、今はバンドーとの新生活にも期待が高まっている。

 残された時間を大切に、シンディに少しでも多くの事を教えたい所だ。

 

 


 一方、統一世界を巡る人事にも激しい動きが見られている。


 混合部隊を指揮し、そのリーダーシップと戦闘能力に衰えがない事を証明したロドリゲス隊長。 

 彼と特殊部隊のキム、そしてグルエソの3名は、ジルコフ一派が大量除隊した影響で人材不足に陥った軍に復帰した。


 中でもロドリゲス隊長は、第2次レブロフ政権を支える参謀に返り咲き、これまでロシアとヨーロッパに偏りがちだった役職人事を一新。

 第2のジルコフを生まない為に、彼等には休む間もなく新しい戦いが待ち受けている。


 特殊部隊に残ったガンボアは新たな隊長となり、バルセロナで薬物依存症と戦う隊員ゲレーロの復帰に尽力。

 加えて、レオンの極秘資料を回収してフェリックス役員の逮捕に大貢献した警視総監補佐班のモクーナ、ナイティンク、サイの3名がそのまま特殊部隊にスカウトされ、アキンフェエフ警視総監の補佐班は次世代の残り3名に託された。


 ちなみに、ガンボアが軍に戻らず特殊部隊に残った理由は、密かに交際していた女性との結婚が決まったかららしい。

 この激務の中で女性と交際が出来るガンボア、侮り難し。


 

 そして最後に、政府は今回のクーデターと大企業の暴走という経験を反省し、ヨーロッパに権限が集中しがちな統一世界(ワン・ネイション)政策自体を再考する事となる。

 

 これまでロシアに置かれていた大規模決定機関体制から、ヨーロッパ、中南米、アフリカ、アジア・オセアニアの4大陸に中規模決定機関体制を敷く。

 そのやり方で、より地域の実情に則した政策を可能にするEFNP(アース・フォー・ネイション・プロジェクト)の雛形を作り、22世紀の早い段階からの施行を目指すのだ。


 銃器を軍と警察に集中し、自動車産業の縮小などで環境政策には一定の成果が出た事を踏まえた『先祖返り政策』は、賛否両論を呼ぶに違いない。

 

 だが、この世に変わらないものなどないだろう。

 約50年間続いた統一世界(ワン・ネイション)は、新たなミレニアムを迎える直前の2099年、華々しいラストダンスを舞うのである。

 


 12月27日・10:00


 「……あ、会場が見えたわ! ゾーリンゲンの大会とは比較にならない広さね!」


 「すげー、めっちゃ渋い! こんな所で試合出来るんだ!」


 雪の舞い散る酷寒のモスクワ。

 クレアとバンドーがはしゃぎながら指差す会場は2070年、武闘大会という概念誕生とともにに完成したモスクワ格闘技の聖地、その名も『スーピェルアリーナ』。


 西暦2000年代最後のバトルイベント、『第30回モスクワ武闘大会』の開幕をいよいよ明日に控え、大会にエントリーした賞金稼ぎ達は組み合わせ抽選会に参加。

 今や高級ホテルと会場を高級車で送迎される身分となったチーム・バンドーだが、各々が言いたい事を正直に言いまくる庶民派ぶりは相変わらずだ。


 「今回の大会は、剣士ランキングTOP10ランカーの殆どがチーム持ちだ。だから高級車でここに来る奴はライバルだぜ、よく見ておけよ!」


 この日まで剣士ランキング第1位を死守したハインツに、この3ヶ月の旅でそれぞれランキングを第20位と第38位に上げたバンドーとクレア。

 新設された格闘家と魔道士のランキングでも、シルバが第6位、リンは納得の第1位となり、今やチーム・バンドーは世界最強の賞金稼ぎチームと言えるだろう。


 「あの車、カムイさん達ですね! カムイさんはどんな車でも窮屈そうだから、すぐ分かっちゃいます」


 ゾーリンゲン武闘大会では、自分に戦いの順番が回る事にさえ実感がなかったリン。

 彼女にとって魔道士ランキングなどはどうでもよく、大切な仲間との想い出を最高の形で残す為、今最後の試練に挑むのだ。


 「おーい、シルバだろ!?」


 対向車線から左折してくる高級車から手を振るのは、チーム・ルステンベルガーのヤンカー。

 

 彼やミューゼルはバンドーとランキングTOP20争いを続けている、直近のライバル。

 互いに手の内を知り尽くしているだけに、出来れば初戦から当たる事は避けたい。


 「やはり皆、顔つきが逞しくなってますね……。気を引き締めないと参加賞だけで終わっちゃいますよ!」


 シルバは指を鳴らし、早くも明日からの激闘に想いを馳せながら自身に気合いを入れていた。



 統一世界のバトルイベントで最高の権威を持つ、モスクワ武闘大会。

 

 例年、ヨーロッパ剣士ランキングのTOP10ランカーによる個人戦、或いはTOP10ランカーを含むチームの団体戦がメインイベントとなっていたが、今回は10名中7名が既にチームを所有済み。

 メナハムもチームを結成して団体戦に参加する意思を表明している為、残り2名のTOP10ランカーをメナハムがスカウトしない限り、彼等は個人戦の優勝候補となるだろう。


 更に加えて、かつての軍部ゴリ押し剣士の存在がランキングの信憑性を損ねた為、個人戦はランキングに関係ないオープン参加の大会となった。

 剣士、格闘家、魔道士それぞれの個人トーナメントが拡大された大会は空前のスケールとなり、バンドー達の知人の多くが参加する予定である。


 

 「凄い人だね。これでまだお客さんは殆ど来てないって言うんだから、大会が3日がかりになったのも頷けるよ」


 エントリーで賑わう個人戦会場を抜け、団体戦の抽選会場へと歩みを進めるチーム・バンドー。

 その人混みの中で、バンドーを睨みつけるひとりの大男が姿を現した。


 「……お前がバンドーか。近くで見ると、割と小さいな。師匠の仇は俺が取る、覚悟しておけ!」


 短く刈り上げた銀髪に、シルバ並の屈強な肉体。

 その冷たいグレーの瞳は、精密な剣術マシーンの様な雰囲気を醸し出している。


 「……バンドー、奴がチーム・スカンジナビアン・ユニオンのリーダー、オルセンだ。俺もついさっき知ったんだが、この大会直前にTOP10に滑り込んだ、アッガーの弟子だよ」


 バンドーが水魔法を駆使して撃退した、執念の仕置人アッガー。

 

 彼は一命こそ取りとめたものの、呼吸器が完治せずに剣士を引退。

 殺人罪の刑の執行は彼の容態が安定するまで延期され、その間に弟子のオルセンに剣術をレクチャーしたアッガーは、病床から打倒バンドーに意欲を燃やしていたのだ。


 「魔法が使えない俺から見れば、第10位は格上だ。でも、それがどうした! 俺だってこの3ヶ月、魔法なしで戦ってきたんだからな!」


 「いよっ、カッコいい! 今の台詞、メグミさんに聞かせてあげたかったわ!」


 クレアはバンドーの気合いを茶化しながら、抽選会に顔を出すと聞いていたアニマルポリスの姿を探す。


 「……あっ、いた!」


 女性としてはかなりの長身で目立つ、アニマルポリスのターニャ。

 彼女はクレアと旧知の仲であり、現在は個人的に興味のあるチーム・カムイの若手剣士、ミューゼルの女房役を買って出ていた。


 「ターニャ、来てくれてありがとう!」


 クレアを先頭に、チーム・バンドーはチーム・カムイと再会。

 仲の良いバンドーとゲリエは、ラグビータックルで互いのフィジカル強度を確かめて満足気である。


 「久しぶりね、クレア。最近ミューゼルはターニャさんの勢いにすっかり押されちゃって、色々お世話して貰っているみたい。これは賞金で何か買ってあげないとダメよね〜!」


 「ね〜!」


 レディーとクレア、そしてターニャ本人も性別を超越した女子会を楽しんでいる。

 剣術一筋で不器用なミューゼルだが、ターニャの押しかけ女房っぷりも満更ではないらしい。


 「おいハインツ、チーム・ロシアン・ヘリテッジを見たか? エフセイ・キリチェンコ。あのユスティンの弟がメンバーにいるぜ!」


 メナハムのチームを除く参加者をあらかた確認してきたカムイは、興奮気味にハインツに注意を促していた。

 

 現在、ロシアで唯一剣士ランキングTOP10に名を連ねるルスラン・プーチン。

 しかしながら、現在のロシア剣士は彼以外人材不足で、チーム・ロシアン・ヘリテッジは参加8チーム中最弱という下馬評である。


 大会主催者側として、地元ロシアの観客が盛り上がらなければ大会の成功は望めない。

 剣士ランキング第1位のハインツとの因縁を前面に出す事により、ロシアの観客の興味を引こうという魂胆なのだ。


 「……やれやれ、あちこち因縁だらけだな。メナハム達は後回しにするとして、残りの2チームの詳細は分かったか?」


 ハインツとカムイが互いに情報を交換する中、彼等の姿を見かけたチーム・ルステンベルガーがその輪に加わる事となる。


 「チーム・ジョルジーニョは不気味な存在だ。ジョルジーニョはイタリアで名を上げた剣士だが、元々ブラジル系。チームメイトは全員南米出身で、俺達が集められる情報には限界がある。どうやら残忍な柔術格闘家がいるらしいが……」


 「チーム・エルモハマディはベルギーのアフリカ系選抜ですね。剣士ランキング第9位のエルモハマディに注目が集まっていますが、魔道士が2名いる変わったチームです。アフリカ系の魔道士は呪術的な魔法を持っているので、武闘大会での戦いは予想がつきませんね……」


 ルステンベルガーとバーバラは、それぞれに警戒するチームの名を上げ、最低限の情報が手元に集まった。


 「バンドーさん、お待たせ!」


 「メグミさん! シンディ!」


 残るアニマルポリスのふたり、メグミとシンディも団体戦の抽選会場に到着し、バンドーも勇気100倍。

 個人戦にはオセアニアの仲間やチーム・ギネシュの面々、ハドソンとパクなどが集結しており、役者はほぼ揃っている。



 

 「……メナハムの奴、遅いな……。そもそも奴の仲間は昔の師範だったザハビしかいねえ。フェリックスの悪評が災いしてチームメイトが集まらなけりゃ、ふたりで参加って訳にも行かねえだろうしな……」


 宿命のライバル、メナハムに欠場の可能性が浮上し、胸騒ぎに襲われるハインツ。

 だが、そんな不安を嘲笑うかの様に、メナハムを先頭とする一団が遂に抽選会場に姿を現した。


 「フフフ……この日を待っていたぞハインツ! 優勝するのは俺達だ、この世界最強のチームでな!」


 長い参考人暮らしで剣を剥奪され、髪と髭が伸びたワイルドな風貌。

 22歳になったばかりの青年には辛い苦難の日々が続いたが、その自信に溢れた表情がメナハムの成長を物語っている。


 そして、彼とフェリックスの剣術師範であるザハビの背後から現れたチームメイト。

 その正体に、バンドー達は激しい衝撃を受けるのだった。


 「メナハムは俺の命の恩人だ。貰った命は正しく使ってやるさ!」


 「少しばかり引退していたが、私のラストダンスは2099年の年末まで延期したよ。新しいミレニアムの到来に合わせて、老兵は最高のタイミングで消え去るのだよ!」


 「バンドー君、君がどれ程強くなったか、私が直々に確かめさせて貰うよ、フフッ……!」


 メナハムから治療費を借り受け、胃癌から蘇ったダニエル・パサレラ。

 

 モスクワの最終決戦でフェリックス陣営を食い止め、統一世界の平和に貢献したアーメト・ギネシュ。

 

 そしてバンドーに剣術の極意を叩き込んだ最強のレジェンド剣士、ダグラス・スコット。


 イスラエル初のTOP10ランカー、ザハビを含めて、まさに新旧3世代のレジェンド剣士達が集結した『チーム・レジェンドスターズ』が、団体戦最後の1枠を埋めたのだ。


 「げげぇ〜!? こんなの反則じゃん!」


 思わず顔面蒼白で叫び散らすバンドー。

 

 だが、メンバー集めに特別なルールはない。

 稀代の名剣士メナハムの再起を願い、彼に言い訳の出来ない舞台を用意した、レジェンド3剣士最後の大仕事である。


 「おもしれえ……超おもしれえ! 皆ぶっ倒してやるぜ!」


 近頃大人になっていたハインツに、少年の様な笑顔が戻っている。

 そんなパートナーを横目に、呆れて両手を上げていたクレアだったが、その目は母親の様な温もりに溢れていた。


 いよいよ運命の抽選スタートである。



 「それではこれより、第30回モスクワ武闘大会、団体戦トーナメントの組み合わせ抽選会を行います! まずは準々決勝第1試合の1番枠に、剣士ランキング第1位であるティム・ハインツ選手を含むチーム・バンドーが入ります!」


 ハインツの剣士ランキングからシード扱いされたチーム・バンドーは、試合後の休養時間が一番長く取れる第1試合の枠をゲットした。


 「第3位のバシリス・カムイ選手を含むチーム・カムイは第2試合の2番枠、第4位のニクラス・ルステンベルガー選手を含むチーム・ルステンベルガーは第3試合の3番枠、恩赦出場枠の第2位メナハム・フェリックス選手を含むチーム・レジェンドスターズは第4試合の4番枠に入ります!」


 まずはトーナメント表の片側が完成。

 各々が努力して上げたランキングが幸いして、仲間同士の準々決勝からの潰し合いは回避出来ている。


 「ここからはくじによる抽選です。残りチームの代表者はくじを引いて下さい!」


 抽選会に観客は呼ばれておらず、チームの関係者として許可を貰った者だけが入場している。

 しかしながら、この緊張感は否が応でも会場のムードを高めていた。


 「準々決勝の組み合わせが決定しました! 第1試合はチーム・バンドー対チーム・ロシアン・ヘリテッジ、第2試合はチーム・カムイ対チーム・エルモハマディ、第3試合はチーム・ルステンベルガー対チーム・ジョルジーニョ、第4試合はチーム・レジェンドスターズ対チーム・スカンジナビアン・ユニオンです!」


 個人戦の参加者を含めて、盛大な拍手で沸き上がる団体戦抽選会場。

 この瞬間、団体戦参加チームは一斉にトレーニングと情報収集に集中する。


 チーム・バンドーの初戦の相手は、地元ロシアのチーム・ロシアン・ヘリテッジ。

 試合当日は客席の大半がアウェーと化すだろうが、幸いにして情報は集めやすい。


 

 

 「ひゃあー」


 スーピェルアリーナを飛び出したチーム・バンドーとアニマルポリスを待っていたのは、すっかり見慣れた珍種のフクロウ。

 

 ガシーン!


 謎の音を立ててそのままバンドーの頭に合体したフクロウは、完全に彼とシンクロし、足蹴にしたご主人様とダブルで太字スマイルをキメてみせた。


 「フクちゃん、おはよう! また会えたね! お昼ごはん、フライドポテト食べに行く?」


 「ひゃあー」

 

 チーム・バンドーは高級車による高級ホテルへの送迎を断り、アニマルポリスとともに相撲取りの様な完全防寒装備を揺らしながら、酷寒のモスクワを闊歩(かっぽ)する。


 


 これは5人揃った彼等の、最後の晴れ舞台。

 その力とチームワークで、きっと最後の栄光も掴み取り、それぞれの新しい人生を歩むのだろう。


 とは言うものの、そんな彼等にもひとつだけ不安がある。

 

 因縁や人生の岐路と向き合い、大切な人の想いを背負うライバル達。

 そんな彼等に比べると、チーム・バンドーの未来は幸せ過ぎるのだ。


 だが、幸せを手放して過酷な現場に飛び込んだ所で、人が強くなれる訳ではない。

 不幸の種を根絶やしにして、金や力で畑を焼き払った所で、人が幸せになれる訳ではない。


 一生懸命に生きた彼等が、自分達の生きた証を素直に受け入れて前に進む。

 それこそが彼等の、そして未来への道標(みちしるべ)なのだ。


 

  (『バンドー』 完 )


これで完結です!


こんなわがままな形の連載作品を、3年半に渡って支持してくれた読者様には、全くもって感謝の言葉もありません。


3年半、本当にありがとうございました!



……尚、『バンドー』はこれからも番外編や特別編といった形で、作品を発表する事があると思います。

私にとって一番大切な作品であり、キャラクターにも愛着があり過ぎるんですよね(笑)。



それではまた、いつか再会するその時まで……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] どんなに活躍し名声を得ても、バンドー・レイジにとって、 賞金稼ぎの道は、長く続ける職業ではなかった。その彼のブレない生き様、らしさを感じる良いエンディングでした。 [一言] 長編大作の完走…
2023/06/19 18:42 退会済み
管理
[良い点] まさに大団円ですね。 途中飛ばして読んだ自分からすれば知らないキャラも居ましたが、第二話とかから出てるキャラやポッと出っぽくなりがちなキャラでも大切に扱う姿勢がしっかり見て取れます。 そ…
2023/04/23 11:54 退会済み
管理
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