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バンドー  作者: シサマ
76/85

第75話 最強剣士はこの俺だ!


 7月16日・19:00


 ジルコフ大佐の要請を受け、ボロニンとライザの回収の為にウラジオストク空港に到着した、ロシア最強剣士イグナショフ。


 空港には既にひとりの男が待機しており、彼がボロニンとライザの居場所を案内する情報屋である事が上院議員、ムーチェン・ガオから電話で伝えられる。

 この通話を最後に、警察に指名手配されたガオとの連絡は突然途絶える事になるのだが、彼の周りで何が起こったのか、この時のイグナショフは知る由もなかった。


 

 「マラート・イグナショフだな、流石にデカいぜ。俺はデュピン。ボロニンとは古い友達(ダチ)だが、奴はもう十分いい夢を見ただろう。俺もいい加減、いい夢を見てえんだ。謝礼の1000000CP、間違いないだろうな?」


 空港ロビーでの出会いもそこそこに、すぐに報酬の話で釘を刺すデュピン。

 彼は小柄だが、言葉も態度も荒っぽく、如何にも海の生活に揉まれてきた男に見える。


 「……小切手を持ってきた。ウラジオストクですぐに換金出来るから安心しろ」

 

 庶民には大金の1000000CPだが、ロシアで敵なしのイグナショフにとって、この程度は武闘大会の賞金ですぐに得られる金額。

 デュピンが友達を1000000CPで売る、その現実には首を傾げたくなるものの、そもそも孤高のイグナショフに友達という概念は存在しなかった。


 「夜の沿岸道は危ねえ。今日は空港のホテルで泊まるのが無難だ。明日の午後にはボロニン達に合わせてやるぜ」


 デュピンはゆっくり時間をかけ、更に食事や宿を無心している様に見える。

 とは言え、イグナショフにウラジオストクの土地勘はなく、この男にひと晩付き合う事になるのだろう。



 7月16日・20:00


 「……以上で私のスピーチを終わらせていただきます、ご清聴ありがとうございました!」


 フェリックスの現社長、デビッドの妻であるナシャーラが教祖を務める新興宗教団体『POB(プライド・オブ・ブラッドラインズ)』。

 そのロシア系信者の身内と友人を集めただけの小さな演説会が、ここウラジオストク沿岸部の市民会館で開催されていた。


 参加者は当然、ロシアで馴染みのない宗教団体と妖艶な美貌を持つナシャーラに違和感を拭えない。

 だが、統一政府の本拠地であるロシアにいながら満足な暮らしが送れない沿岸部の人々は、高額の会場使用料を提示した彼等をすんなりと受け入れる。


 その結果、世界中で地震が頻発する世相不安を代弁するナシャーラの巧みなスピーチが瞬く間に彼等を引き込み、最後は満場の拍手と入信希望者が溢れる大盛況となっていたのだ。


 「ナシャーラ様、貴女のスピーチ、とても感動しました! その日暮らしが精一杯の私達老夫婦に、もう失う物はありません。息子のもとに移住し、皆様とともに新しい誇りを見つけたいと思います!」


 沿岸の小さな集落ではあるものの、目論見通りの入信者を迎え入れたナシャーラ。

 彼女は満足気な笑みを浮かべ、母親の護衛を務めるメナハムのもとには、貧困から抜け出そうと剣士を夢見る子ども達が群がっている。


 「私達は生まれ故郷への誇り、生まれた民族としての誇りを大切にするべきであると説いています。ですが皆様、今だけは危険な地震の迫るロシアを離れるべきなのです! 皆様は神に選ばれた人間であり、私達のヘリコプターは理想郷への方舟(はこぶね)です!旅立ちの時はすぐそこまで迫っています、どうぞお乗り下さい!」


 ナシャーラの熱いスピーチに煽られ、続々と貨物ヘリに乗り込んでいく信者達。

 

 だが一方で、メナハムは機内で一般信者相手の世間話など出来そうにない。

 彼は剣士として、マティプやゾグボの練習相手を務めた方が気が楽であり、いつ訪れるのか定かではない行動のタイミングを黙って待っていられないのだ。


 「……母上様、今日の時点では、まだ東欧の余震は小さいという連絡が入りました。私もマティプ達の実力を確認してみたいですし、明日までにヘリが戻れるのであれば、今パリに信者を運んでも大丈夫です」


 息子の本音を理解したナシャーラは静かに頷き、メナハムに1枚のメモ書きを手渡す。


 「……昼間に私の部下が情報を集め、この近くに住んでいるデュピンという男から、ボロニンとライザの居場所に関する情報を1000000CPで買いました。廃業した漁師の倉庫を改造し、若い漁師を指導しながら、ふたりでひっそりと暮らしている様ですね。この紙に倉庫への地図が書いてあります」


 「おお、流石は母上様、仕事が早い。しかしながら、手負いの仲間を金で売るとは、やはりどの街にもろくでなしはいるのですね……」


 極めて順調な事の運びに、思わず余裕の笑みもこぼれるメナハムだったが、ナシャーラの眉間には深いしわが寄り、その瞳は曇ったままだった。


 「……メナハム、気をつけなさい。フェリックス本社の電子マップで確認した所、その地図の道は全てが右に迂回する遠回りルートになっていました。土地勘のある者が何故、そんな事をするのでしょう? 恐らくデュピンは他の人間にも情報を売っていて、そちらには左回りの迂回ルートを教えているはずです。私達をカモにする様な人間に、心を許してはいけません」


 ナシャーラの言葉に確かな根拠はない。

 だが、彼女の底知れぬ魔力と洞察力が、今や百戦錬磨の剣士であるメナハムからも反論の機会を奪っている。


 「……それでは、かつてボロニンが仕事を請け負っていたという、軍の関係者もウラジオストクに……?」


 「それは分かりません。ですが、私達が何故ウラジオストク沿岸に来ているのか……そこを警戒する勢力は必ずいるでしょう」


 ナシャーラは自身の額に指をあて、メナハムの無事を祈って見せた後、信者とともに貨物ヘリに消えていった。



 7月16日・21:00


 「……うわわっ!? また余震だよ! メグミさん、ちょっと待って!」


 昨夜の地震から、断続的にヨーロッパを襲い続ける余震。

 その頻度は特にアジアと東欧で増しており、体感震度は小さくとも、心身に刻まれた衝撃にバンドー達も戦々恐々としている。


 「バンドーさん、大丈夫!? オランダは余震もそんなに来ていないけど……」


 アニマルポリスのメグミ、旧名シンディことルアーナ、そしてターニャの3名は、地震の被害で動物達の環境修繕が急がれる動物園で活動中。

 慌ただしい1日が過ぎ、ようやくバンドーに電話をしていたその矢先、東欧はまた余震に襲われていた。


 「……ああ、収まった。やっぱりこの地震は、人為的にロシアまで届けようとしているとしか思えないな……。ところでメグミさん達は、カムイ達にも会ったんだよね? 見た目は怖そうだけど、皆いい奴だから安心してよ!」


 メグミ達が派遣されているのは、オランダのロッテルダム動物園。

 アルクマールを拠点にしているチーム・カムイも仕事で偶然ロッテルダムに滞在しており、レディーが動物園のボランティアにチームを誘ったらしい。


 「侍の様なカムイさんを見て、この人達は賞金稼ぎだなとすぐに分かりました。でも、話を聞いているとバンドーさんやフクコちゃんの名前がちょくちょく出てくるので、すぐに仲良くなれましたよ! でも、私達が動物園の仕事をする様になって、これまで野生の動物がいた地域は逆に閑散としちゃいました。やっぱり、野生の動物は大きな地震を予知して逃げたのかな……あっ?」


 「バンドー君、久しぶり! チーム・カムイのミューゼル君って可愛いよね……彼女とかいるのかな?」


 通話中のメグミから、ターニャがいきなり携帯電話を奪い取る。

 

 唐突に恋バナをぶっこむその高いテンションから、彼女には既に酒が入っているとみて間違いないだろう。

 真面目で繊細な印象のミューゼルは、如何にも実年齢より姐御肌(あねごはだ)なターニャの好みのタイプだ。


 「……え!? う〜ん、剣術一筋のミューゼルは多分、暫くは剣が彼女だと思いますよ……。真面目で伸びしろも凄い有望株ですから、胃袋を捕まえて押しまくるのもアリじゃないですかねぇ……」


 相変わらず、歳下のターニャに敬語を使っているバンドー。

 互いに恋愛には不器用だったシルバとリンが、シルバの好意からあっという間に距離を縮めた様に、ミューゼルの様なタイプには立場や身分を無視して押せば、正直早い者勝ちになりそうな気もする。


 「……そっか、ありがとうバンドー君、じゃあね!」


 自分の用事が済むと、そのまま電話を切ってしまうターニャ。

 バンドーとしてはメグミの声が聞けて、カムイ達とアニマルポリスが繋がった事を素直に喜ぶべきなのだが、やっぱりこの結末は釈然としない。


 「メグミさんが言うには、地震の直前から野生の動物が人里から姿を消したんだって。この話を世界に伝えれば、これからロシアとかでも少しは被害を抑えられるヒントになるのかな? フクちゃん、どう思う……?」


 バンドーはパーティーのメンバーに話を振ってみたものの、肝心のフクちゃんは神界の任務で離脱中だという事をすっかり忘れていた。


 「……フクちゃんがいなくなって、まだたった1日なんですよね……。私達はもう、彼女がいるのが当たり前になっていましたけど、これからの戦いでは、彼女に頼らず頑張らないと……」


 リンの魔力は人間として最強レベルだが、弾丸からもパーティーを守れるフクちゃんのシールドの様な魔法が、これから急に生まれる事はないだろう。

 最悪、軍とフェリックス社の衝突までがあり得る事態に備えて、まずは警察と特殊部隊による法的な解決に尽力しなければ……。


 

 7月17日・9:00


 翌朝、事態は急ピッチで動き出そうとしていた。


 警察と特殊部隊はアキンフェエフ警視総監の手引きのもと、ジルコフ大佐を首謀者とする統一政府、軍隊関係者の汚職、更に加えてフェリックス社主導の地層プレート実験と数々の裏稼業を暴き出すという、大規模捜査に着手する。


 その捜査過程に於いて、実際に容疑者と戦ってきた警官と賞金稼ぎを証人としてロシアに同行させるプランが浮上。

 チーム・バンドーとチーム・カムイ、チーム・HPからハドソンとパク、更にチーム・ルステンベルガーが、証人兼非常時の戦力として参加を要請される事となった。


 最終目的は、ジルコフ大佐とその協力者の逮捕拘束。

 そしてフェリックス社の裏稼業の責任者であるデビッド・フェリックス、ヨーラム・フェリックスの指名手配からの逮捕拘束である。

 


 

 「津波から避難していたスコットさんと連絡がついたわ! 奥さんと孤児院の子ども達、勿論カレリン達社員も無事だから安心ね!」


 「トルコのギネシュさん達と、オセアニアの仲間からも励ましを貰ったよ! 何かあったらロシアに応援に行く準備があるってさ!」


 「カムイやルステンベルガーはやる気満々だ! だが、皆がソフィアに押しかけて来ても混乱するよな。シルバ、ロドリゲスの義父(おやじ)さんから集合場所について連絡はあったか!?」


 財団の屋敷に集まる連絡と、それを報告するクレア、バンドー、ハインツの動きは迅速だが、集計する側のシルバやリンはその情報量にてんてこまい。

 リンはクレアとバンドーの報告を指のOKサインで早々に処理し、シルバは特殊部隊のメンバーに集合場所の詳細を訊ねた。


 「……集合場所は、ポーランドのワルシャワです! 既に空港警備をアキンフェエフ警視総監派閥のスタッフで固めていて、空路でのワルシャワ入りは安全ですね。自分達はガンボアの装甲車が迎えに来てくれるそうなので、ルーマニア経由の陸路でポーランドに入ります!」


 「至れり尽くせりだな、伝えとくぜ!」


 シルバからの返答を、すぐさま賞金稼ぎ達に伝えるハインツ。

 

 

 ポーランドは歴史的に、ロシアやドイツといった地域に良い感情を持たない人間が多い。

 その一方で、ユダヤ人の多いイスラエルの企業であるフェリックス社は普通に受け入れられており、両者に睨みを利かせなければならない今回の捜査は、リスクの分散が必要だった。


 「……いよいよ臨戦態勢だね! 統一政府の議会と警察が、すんなり悪を糾弾してくれたら楽なんだけど……」


 バンドーの希望的観測に対し、声を上げての賛同は聞こえてない。

 

 いや、心の奥底では誰もがバンドーと同じ事を願っている。

 しかしながら、これまでの戦いで軍の上層部はおろか、民間企業のフェリックス一族すら拘束出来ていない。


 最後は彼等と戦わなければいけない……。

 チーム・バンドーはその決意を固めなければならなかった。



 「……!? 待って、また余震よ!」


 クレアが初動を察知するや否や、これまでの余震とは比較にならない強い揺れがソフィアを襲う。


 「くっ……! これは一昨日(おととい)の本震に近いレベルですね……おや?」


 警戒を強めたシルバが拍子抜けする程、短時間で収まる余震。

 瞬間的な揺れは凄まじいものの、建物から飛び出した人々が安堵する様子が窺える程に、単体の地震としては影響が少なかった。


 「……震源が移動した可能性もあるな、テレビをつけようぜ!」


 ハインツはテレビに駆け寄り、ニュース速報に目を光らせる。


 【臨時ニュースをお届け致します。臨時ニュースをお届け致します。只今の地震は、先日の地震と同じくアイスランド沖を震源とする地震の余震です。体感震度にはばらつきがありますが、地震の規模は小さく、今の所ヨーロッパ地域に津波の心配はありません】


 「……おお、良かった。一瞬凄く揺れたけど、大した事なかったんだね」


 胸を撫で下ろすバンドー。

 だが、そのニュース速報には続きがあった。


 【……新しい情報が入ってきました。先程の地震とほぼ同時期に、旧日本海付近を震源とする新たな地震発生です。マグニチュードは5.0で、この度の地震で初めてロシアに揺れが及びました。今の所、津波の心配はありませんが、ウラジオストク地方などでは念の為、高波に注意して下さい】


 「……!! 遂にロシアに地震が……」


 まだ心配する程の規模ではないが、フェリックス社の野望は確実に統一世界を侵攻している。

 

 早く彼等を止めなければ。

 バンドー達の出発に、もはや一刻の猶予も許されない。



 7月17日・10:00


 「高波を恐れてボロニン達が避難するかも知れない、もっと急げ!」


 昨夜は結局、デュピンに宿と食事を無心されてしまったイグナショフ。

 

 橋渡し役の上院議員、ムーチェン・ガオとも連絡が取れなくなり、デュピンの横柄さにほとほと嫌気がさした彼は、地震を合図にこの情報屋に剣を突き付けて恫喝。

 くたびれた漁業用トラックを目的地へと走らせた。


 「そ……そう慌てんなよ、ボロニン達は警察に顔が割れてるんだ。街に出る訳がねえさ!」


 望む物全てを手に入れ、今殺される訳には行かないデュピン。

 だが、その拓けた沿岸道を一望しながら、デュピンのトラックは大きく左に膨らむコース取りを行っている事を、イグナショフは見逃さない。


 「……おい、前は通行止めじゃないだろ。お前は何故、さっきからいちいち遠回りをしているんだ?」


 「……へっ、この辺りは道の補修もされねえからな。地盤がヤバくなってんだよ。焦る気持ちは分かるが、地元の人間よりここに詳しい奴はいねえだろ? まあ落ち着きな」


 胸の内を悟られたデュピンは額に冷や汗を浮かべつつ、すぐに弁解を始める。

 

 地震をきっかけとして、フェリックス一派も動き出しているに違いない。

 デュピンとしては、取りあえず最悪のバッティングを避け、現場に到着次第イグナショフを置いて逃げればいいだけなのだ。 




 「おいおい、スピード出し過ぎだろ!? ボロニンに会う前に死んじまうぜ!」


 ふたつの地震を合図にナシャーラのGOサインが送られ、貨物ヘリから搬出していた特殊ジープでウラジオストクを暴走するメナハム。

 剣術に勝るとも劣らないドライブテクニックを持つ彼ではあるが、そのスピード狂ぶりにはマティプ達も困惑気味である。


 「特殊装甲車だ。万一転倒しても大した怪我はないだろう。むしろ加速がつくだろうな!」


 メナハムはこの状況を楽しんでいる。

 万一軍隊関係者と鉢合わせしても、銃撃に耐える堅牢さを誇る特殊ジープが、名門一家に収まりきれない彼のポテンシャルを解放していた。


 「この地図は右回りの迂回ルートらしい。道があれば直線を突っ切るぞ、しがみついてろ!」 


 「ヒィィ、冗談じゃねえよ!」


 ゾグボは頭を抱えて悲鳴を上げる。

 一世一代の大仕事に名乗りをあげた彼も、生まれ持った加速攻撃と大きな盾の防御力で本来の臆病さを覆い隠しているに過ぎない。


 

 「……おいメナハム、あそこじゃねえか!?」


 加減を知らない暴走が功を奏したか、予想より早くマティプがとある建物を発見する。

 

 薄汚れた白い壁には浅い亀裂が入り、かなりの年季を感じさせる佇まい。

 しかしながら非常階段つきの2階建てで、1階が漁の道具を入れる倉庫、2階は住居になっている様子だ。


 「……地図的にも間違いないな。奴等を呼び出すぞ、覚悟は出来ているか?」


 暫く実戦の機会がなかった事もあり、欲求不満から興奮を隠せないメナハム。

 マティプとゾグボがライザの地殻魔法を限界まで引き出す事が目的だが、彼等が策を練ったとして、五体満足で帰れるレベルの相手ではないだろう。

 

 「おうよ! 追加報酬も貰わないとな!」


 マティプとゾグボは自らを奮い立たせ、メナハムはジープのクラクションを連打するという、極めて分かりやすい挑発手段に出た。


 「……何だお前ら!? 漁師じゃないな!」


 2階から手すりを伝って降りてきたボロニンと、彼を支えるライザ。

 ボロニンは未だ杖を手放せない状態だが、その熱い眼差しにかつてのオーラはまだ残っている。


 「セルゲイ・ボロニンと、ライザ・コノプリャンカだな? あんたらに恨みはないが、始末を頼まれたんだ。すまねえな」


 マティプは如何にも悪党を気取った口上を炸裂させ、メナハムもその立場を大いに楽しんでいる様に見えた。


 「始末だと……お前ら、ジルコフ大佐の刺客か!?」


 「……セルゲイ様、あの男は確か……」


 ライザはメナハムの姿を確認し、ボロニンに耳打ちする。


 「俺の代わりに3位になった、メナハム・フェリックスか。俺を倒した所で、お前のランキングはもう変わらないぞ! 大企業の御曹司が今更俺に何の用だ!?」


 「フッ……今話した所で分からんだろう。まずはこの男達を倒してからだな」


 メナハムは不敵な笑みを浮かべ、自身の背後に隠れているゾグボの攻撃準備が整うのを待っていた。


 「走れないお前に、俺の加速攻撃がかわせるかな? うおおぉぉっ……!」


 背中から立ち昇る、蒼白い魔法の光。

 その光が跡を引くゾグボの加速攻撃は、目にも止まらぬスピードでボロニンに襲いかかる。


 「ぐわあっ……!」

 

 剣を抜く間もなくゾグボの体当たりに突き飛ばされたボロニンは、そのまま背中から地面に激突した。


 「……セルゲイ様!?」


 「おっと、お前の相手は俺だぜ!」


 ボロニンの救助に向かおうとするライザの前に、剣を構えたマティプが立ちはだかる。


 「……男達は皆、私が女だと思って舐めていた。だが、そんな男達はもれなく痛い目に遭ってきたのだ! はああぁぁっ!」


 ライザの左足から放たれる地殻魔法。

 その力はまだ全力ではないが、彼女の正面に立つマティプの足下を激しく揺さぶった。


 「くおおっ、立てねえ……こいつは本物の地震だな! おもしれえ!」


 マティプはシャツを捲り上げ、へそのあたりから放たれる魔力の光を解放。

 彼はまだ風魔法しか使えないものの、持ち前の格闘センスと剣術を組み合わせる事で己の地位を確立している。


 

 「ククク……かつての名剣士も手負いの上、自分の間合いが取れないんじゃお手上げだろう。とどめにその足を完全に粉砕してやる……うおっ!?」


 ボロニンに対して圧倒的優位に立っていたゾグボ。

 だが、突然何者かが放ったナイフが彼の盾を直撃した。 


 「チッ、誰だ!?」


 ゾグボの視線の先には、ひとりの剣士の姿。

 早々に走り去る情報屋、デュピンの車には目もくれないロシア孤高の剣士ランキング第1位、マラート・イグナショフである。

  

 「……悪いが、そいつらは俺の獲物だ。ボロニン、ジルコフ大佐は抵抗しなければ法的バックアップを約束すると言っている。ライザ、両親が心配している。ふたりとも抵抗はやめて、俺と一緒にモスクワに来い!」 


 ライザの将来を気にかけるボロニンは彼女に視線を送るが、ライザの方はイグナショフの呼び掛けを無視している。

 微妙な空気が流れる中、ライザに全力を出させなければならないマティプが先手を打ってきた。


 「ハアッ! 喰らいやがれ!」


 挨拶代わりの風魔法は、掌に乗る程の空気球。

 小さな球を全速力で相手の腹部に投げつける事により、ボディーブローの様な威力が期待できる。


 「……こんなもの……たあっ!」


 見るからに自分を見下している攻撃に、ライザは魔力のみなぎる左足を振り、まるでサッカーボールの様にマティプの空気球を蹴り返した。


 「そうそう、そういう所だよ! これは魔法合戦じゃねえんだぜ!」


 左足の魔法を除けば、ライザはフィギュアスケートを得意とする、同世代よりもやや筋力のある少女に過ぎない。

 マティプは軸足として伸びている彼女の右足を斬りつける目的で、スライディングで素早く間合いを詰める。


 「ライザ! うおおぉぉっ!」


 脛の骨折を感じさせない底力を見せ、杖を捨てたボロニンはライザのもとへと駆け出す。

 ゾグボは自分に背を向けたボロニンにとどめを刺すべく、再び魔力を充填していた。


 「お前達、邪魔をするな! 死にたくなければここから離れろ!」


 イグナショフが戦線に殴り込みをかけようとしたその瞬間、それまで静観を決め込んでいたメナハムが剣を抜き、孤高の剣士の前に立ち塞がる。


 「……誰かと思ったら、お前、ランキング1位のマラート・イグナショフだな? 俺はメナハム・フェリックス。思わぬ所に最高の舞台だ、ここで最強の剣士を決めようじゃないか!」


 突然の乱入者に眉をひそめるイグナショフだったが、メナハムから放たれるオーラは尋常ならぬものがあり、先に進む為には彼の挑戦を受け入れざるを得ない。


 「……お前とは、まだ戦いたくなかった。だが、俺が最強だと知らしめる為には、ルールのある武闘大会ではなく、ここで消しておいた方がいいだろう」


 この戦いには、レフェリーも観客も存在しない。

 勝者は剣士ランキングの頂点を極め、敗者は勝者の脅威から排除する為に、この地で永遠(とわ)に眠る事となるのだ。


 

 「あううっ……!」


 マティプの剣はライザの右足を掠め、その白い肌に一筋の鮮血が流れる。


 「そこをどけ! ライザから離れろ!」


 ダメージを受けながら気力だけで走っていたボロニンは、剣のコントロールもおぼつかないまま、倒れ際にマティプを左腕で殴りつけた。


 「がっ……! 畜生!」


 「背中が隙だらけだぜ、ボロニン! マティプ、そこから離れろ!」


 マティプはボロニンに殴られた肩の辺りを押さえ、既に攻撃準備の整ったゾグボに道を譲る。


 「このタイミングなら後頭部直撃だ! ボロニン、逃げるなら今だぜ!」


 ボロニンに最期の猶予をちらつかせたゾグボだが、攻撃開始のタイミングを遅らせる事は出来ない。

 

 「ぐおおぉっ……!」

 

 ゾグボ2度目の加速攻撃は無防備なボロニンを直撃し、後頭部をゾグボの盾に強打して流血したボロニンの意識は、もう2度と戻らなかった。


 「そんな……セルゲイ様!? うわああぁぁ!」


 武闘大会からヒール役を(いと)わなかったマティプとゾグボにも、流石に罪悪感があるのだろうか。

 ボロニンのもとに駆け付けて大粒の涙を流すライザに、更なる一撃を加える事が出来ない。


 「……私が……私がいなくなれば良かった……。こんな力、忘れてしまえば良かった……わああぁぁぁ!」


 ライザの感情の爆発が強大な地殻魔法を生み出し、これまでにない激しい揺れは蒼白い閃光を撒き散らしながら、ウラジオストクの大地に地割れまでも呼び起こした。

 

 「おい、何だよこりゃあ!? こんなの聞いてねえ……ぎゃああぁ!」


 「……冗談だろ!? こんな所で死ぬのかよ……畜生、バカ野郎……!」


 ひび割れた大地は、ボロニンの亡骸(なきがら)を安息の地へと導く様に落下させ、ゾグボとマティプには罰を与える様に、地中深くへと封じ込める。


 「……罪深き私を捧げる……! 大自然よ、どうか両親を、友人を、ロシアの民を見逃したまえ!」


 全ての希望を失ったライザは両手を大きく広げ、やがて訪れる津波に自身の罪と、その存在の全てを捧げる覚悟を決めていた。



 「……くっ、まずい! もうすぐ津波が来るぞ! 勝負は後回しだ!」


 ともにパワーよりもテクニックに優れる剣士だけに、スピーディーかつハイレベルな戦いを繰り広げるイグナショフとメナハム。

 一時休戦を申し出たのはイグナショフの方だったが、土地勘のないこの地を単身で避難しなければならない彼にとって、無理もない話である。


 「どうした、怖気(おじけ)づいたのか? こんなに楽しい勝負は久しぶりだぞ!」


 イグナショフの持つ『最強剣士』の称号は、ロシアの要人によって作られたもの。

 だが、その実力は伊達ではない。

 

 互いの手を読み合いながら、より確実な一手ヘ。

 剣同士が接触すらしない風の如き技の応酬に、メナハムは喜々として、この生きるか死ぬかの激闘に身を投じていた。


 「……お前、命が惜しくないのか!? くそっ……!」


 メナハムの底知れぬ度胸の裏づけは、ナシャーラ達の貨物ヘリがこの地に自分を迎えに来るという確信。

 彼を倒す以外にこの地から逃れる方法がないと悟ったイグナショフは、1対1の剣士道に反すると知りながら、道端の小石をメナハムの目に向けて蹴り上げる。


 「くっ……!?」


 「悪く思うな! この勝負、ルール無用だ!」


 咄嗟に顔に手を上げて小石を払い、その代償として胸から下がノーガードとなったメナハム。

 

 (左胸を刺す事さえ出来れば、例え急所を外しても奴は戦えない身体になるはず……!)


 イグナショフは、自身の正面に見えるメナハムの左胸に狙いを定め、せめてもの情けか、全力を出さずにやや軽めの突きを繰り出した。


 だが、これが彼の命取りとなる。


 ギギイイィィン……


 メナハムの肉体に直接突き刺さると思われたイグナショフの剣は、聞き慣れない金属の接触音を残して脇へと逸れる。

 軍隊関係者からの銃撃の可能性に備えて、メナハムはかつてパウリーニョ達も使っていた、フェリックス社の最新型防弾チョッキを着用していたのだ。

 

 「……バカな!? 何だこの硬さは……ぐふっ……!」


 咄嗟に反撃し、カウンターの形でイグナショフの左脇腹を刺していたメナハム。

 かなりの出血が見られたが、ナシャーラ達の貨物ヘリが早く到着すればイグナショフの命は助かるだろう。


 

 「……俺は神に選ばれた男だ! 見ろ、あれが神だ! この勝負の続きの為に、お前を死なせはしない!」

 

 メナハムの指差す先には、ナシャーラ達を乗せて大空を突き進む貨物ヘリの姿。

 地震の規模が広がると予想したか、全速力でその影が近づいているのが確認出来た。


 「メナハム、津波が見えます! 岸から離れるのです!」


 開かれたヘリの格納庫から、気丈にも身を乗り出しているナシャーラ。

 メナハム救出用のロープが降りてはいたものの、海面には荒立つ波が散見され、まずは小規模な津波の第一波がウラジオストクの大地を捉えている。


 「くっ……ああぁぁっ!」


 最初の津波は高さが1メートルにも満たなかったが、小柄なライザはその勢いに耐えられず波に足をさらわれ、無抵抗のまま海中深くに消えていった。


 「……もういい、お前だけでも逃げろ。お前なら……いずれ俺など抜き去るだろう。実力的にも人格的にも、お前が最強剣士に相応(ふさわ)しい……」


 「バカを言うな! あの母上様は世界一の魔道士だ。この津波だって少しは喰い止めてくれるはず……もう少しの辛抱だ!」


 死を覚悟したイグナショフから、メナハムは最強剣士の称号を贈られるだろう。

 しかしながら、貨物ヘリの中でメナハムを待ち侘びるナシャーラは瞳を閉じ、息子の望みに首を横に振る事しか出来ない。


 「くっ……あっちへいけ! 非常階段から倉庫の屋上にまで上れば、お前は助かる! ……ぐわっ……!」


 メナハムを突き飛ばしたイグナショフは、勢いの増した第二波の津波に飲み込まれる。

 半ば放心状態のメナハムは倉庫の屋上に辿り着き、貨物ヘリのロープを掴んで命からがらウラジオストクからの脱出に成功した。


 

 「な……!? ちょ待てよ! 俺はまだ……やりたい事が沢山あるんだ! 折角金持ちになれたんだぞ……グヘッ……ゴホッ……!」


 この日最大の第三波の津波が訪れ、空港に逃走中のデュピンのトラックは逃げ切る事が出来ず、水圧に押し潰されている。



 

 「……メナハム、計画は全てが順調に進んでいます。良きライバルを失った事は悲しいでしょう。ですが、まだロシアにはもうひとり、貴方のライバルがいるはずです。貴方の戦いは、まだ終わりません」


 メナハムにとって、貨物ヘリの中で受けるナシャーラからの激励は虚しく響くだけ。


 ライザの全力が想像を超えていた事だけが、この計画の誤算である。

 マティプ、ゾグボを失い、イグナショフを救えなかったメナハムは、津波で得た最強剣士の称号を受け取る事はなく、イグナショフの消息に言及する事もない。


 自身の剣士ランキングはまだ第2位であり、第1位はイグナショフの代わりに繰り上がるロシア人剣士キリチェンコに、ひとまずその座を譲る決断を下していた。



 7月17日・14:00


 「ケンちゃん! ウラジオストクで地震があったって本当なの!? こっちは全然揺れてないんだけど……」

 

 特殊部隊や賞金稼ぎ仲間からの連絡係として、クレア財団の屋敷に残ったシルバとリン。

 一方、バンドー、クレア、ハインツの3名は、キリエフやスーパーマーケット店長フリストらとともに、ソフィアでのボランティア活動を再開している。


 「はい、本当です! どうやらかなり局地的な地震で、震源もまさにウラジオストク。津波は……現地は勿論ですが、今や無人の日本列島にも押し寄せたらしいです。こんな事が出来るのは……」


 「……フェリックス社が、まさかウラジオストクでも地層プレート実験を!? ……いや、もしかして逃亡中のライザさんが現地にいて、地殻魔法を使った……!?」


 バンドーに事情を説明するシルバの隣で、リンは最悪の事態を想像し、全身から血の気が引いていた。



 

 7月18日・12:00


 津波から一夜明け、その被害の全貌が明らかとなる。

 

 ウラジオストクは南部の一部地域がほぼ水没し、統一政府は死者・行方不明者の合計が1000人を超えると発表。

 地震の被害は北部のハバロフスク周辺にも及び、インフラの崩壊により救援物資が遅れる隙を突いて、フェリックス社が統一政府の許可を得ないまま援助活動を開始した。


 これに異を唱えたのは、他地域からの干渉を許さないジルコフ大佐を筆頭とする、軍部の強硬派達。

 彼等はフェリックス社が剣士や魔道士を大量に雇用しているという脅威と、津波の予言的中という狂言により世界的なカリスマ性を手に入れたナシャーラが率いる、新興宗教団体『POB』の勢力拡大を何よりも恐れている。


 一方、ロシアの民の為にフェリックス社の援助を特例で受け入れようと主張する、軍の最高責任者レブロフ司令官。

 そしてジルコフ大佐とレブロフ司令官の間で揺れ動くリトマネン参謀など、穏健派や中間派の思惑も交錯し、軍部では予定を前倒しした司令官選出選挙が行われる事となった。



 「……それでは司令官選出選挙、最終投票結果を集計致します!」


 EONA(アース・ワン・ネイション・アーミー)の幹部選出選挙は軍の既出幹部達に加えて、軍事費の決定に強い権限を持つ、統一政府の上院議員を合計した500名による投票である。


 組織の性格上棄権は許されず、2名による対決の場合、過半数の票を獲得した候補が問答無用で当選。

 3名以上の争いとなった場合、得票数上位2名による決戦投票が行われるのだ。


 「……なお、昨日汚職疑惑により警察に拘束されたムーチェン・ガオ上院議員は、今回の投票に参加しておりません。投票総数は499でお願い致します」


 腹心ガオの退場に、苦虫を噛み潰すジルコフ大佐。

 つい先日まではジルコフ大佐の優勢だったが、ガオの拘束でジルコフ派がレブロフ派に鞍替えする可能性があり、事態は予断を許さなくなっている。


 「……ジルコフ候補、得票数244。レブロフ候補、得票数255。よって司令官はレブロフ氏の再任となります!」


 僅差での決着に、会場内にはどよめきが湧き上がる。

 しかしながら、やはりガオの拘束が効いたのだろう。ジルコフ派の数名が自己保身に立ち回りしていた。


 「くっ……! 臆病者どもが!」


 苛立ちも露わに机を叩くジルコフ大佐。

 だが、彼はその目に覚悟を滲ませ、出入り口で銃を構えて不審者を監視する、ひとりの兵士とアイコンタクトを交わす。


 

 「……動くな! 我々はこの会場を占拠する! 両手を挙げて着席しろ!」


 監視の兵士は全員、ジルコフ大佐の息がかかっていた。

 彼等とジルコフ派の244名は、ジルコフ大佐の指揮の下にレブロフ派255名とレブロフ司令官本人、そして議長にライフルと拳銃を向け、手錠をかけて拘束したのだ。

 

 「……ジルコフ、まさか貴様がここまで堕ちるとは思わなかったよ……! 確かにフェリックスには疑惑がある、だが、それについては今、アキンフェエフ警視総監の下で捜査に当たっているんだ! ロシアの民が被災している今、戦争の準備でも始めるつもりなのか!?」


 怒りと落胆の入り混じった表情で、ジルコフ大佐を見上げるレブロフ司令官。

 

 彼にはウクライナの血が流れており、彼の両親は幼い頃、ロシアに祖国を侵略された経験を持っていた。

 故に彼は、統一国家と軍の内部でロシアとヨーロッパに権限が集中する事を恐れ、ウルグアイ出身のロドリゲス軍曹をやがて参謀にまで抜擢するなど、軍の多人種化を推し進めてきたのである。


 「……レブロフ、君の言い分も分からなくはない。だが、フェリックスがもし、サンクトペテルブルクやモスクワを支配しようとしたらどうするのだ!? 今のユーシェンコ大統領にリーダーシップはあるか? 私がロシア主導の世界を残したいと考える様に、奴等は旧アメリカ合衆国の亡霊や、ユダヤ人の支配する統一国家を作りたいだけなのだよ! 私は戦犯でも構わない、10年後、20年後に伝説の英雄になれるのであればな!」


 風見鶏(かざみどり)揶揄(やゆ)される、統一政府のユーシェンコ現大統領。

 彼はあらゆる人種の坩堝(るつぼ)である統一世界をまとめられず、就任以来軍部の方針に従うばかり。

 

 ジルコフ大佐はそんな大統領と時代の節目に、恍惚とした表情で高らかに宣戦布告を叩きつける。

 しかし一方、絶望を隠せないレブロフ陣営の中で議長のヒメネスは何かに気づいた様子だ。


 「……お言葉ですがジルコフ大佐、貴方の味方は兵士と貴方自身を除けば244名のはず。ですが私が数えた所、245名いるようですな……」


 「……何だと!? 命乞いする愚か者が、銃を見せてみろ!」


 ジルコフ大佐に投票を決めていた者は、最悪の事態にはクーデターに参加する意思を見せる為、拳銃と手錠の持参を強制されていた。

 だが、ひとりだけ丸腰で拘束を逃れようとした男が存在する。


 かつてはジルコフ大佐の部下でありながら、ロドリゲスに代わる参謀の座欲しさに穏健派に転身したと噂されている、リトマネン参謀だ。


 「リトマネン……君はレブロフに投票しながら、拘束を逃れる為に、また私の顔色を伺ったのだな……? 最低の奴だ、()れ!」


 「ぐはっ……!」


 ジルコフ大佐は顔色ひとつ変えずに兵士に命令し、その場でリトマネン参謀は射殺される。


 「全軍に命令を出せ! フェリックスの援助を取り締まる! 抵抗した者は拘束、実力行使に出た者は射殺しても構わん! サンクトペテルブルク、モスクワに近づくフェリックス関係者はひとり残らず追い払え! 武力行使を用いてもだ!」


 風雲急を告げる展開に、ジルコフ大佐に支配された軍部はフェリックス社との全面戦争さえも厭わない。

 

 またその一方で、ロシア進出に風穴を開けたフェリックス社は総力を結集し、統一国家に巣食うガン細胞を除去すべく、手術(オペ)の準備を着々と進めていた。



  (続く)

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