52.エモースト街眺望(使者視点)
王都から馬車と馬を使って歩兵なしですら
魔法学園要塞都市エモーストは十五日かかる
近くて遠い場所だ
もともとは隣国の王都であり現在は我が王国の防衛の要所である
細い谷間を抜け、山から眺望するエモーストはまさに要塞都市であった
林立する塔が街の全貌を隠し、スキル史眼やサーチは視界にもやがかかり
やわらかく拒絶を示される
さすがだ、と思う
この規模のものを覆い隠すならば、相当手練れの魔法使いを数人用意し
魔石や、マジックアイテムを湯水のごとく使わねばならないだろう
そんな中ぽかりと開けられた場所がある
それは、街の入り口
ここならば好きに監視しろと言わんばかりに東西南北四か所の入り口が
開かれている
安全であると示しているのだろうが
そこに集まる人々の雰囲気がそうでないと示す
こちらの様子はもう見て取れているだろう
輝ける使役獣、学長のそれがここにあるというように
くるりと円を描くように飛ぶ
その中心に目的の人物はいた
スキル史眼で観察すれども、サーチで見れども
彼女は凡庸であった
安っぽい革の鎧に身を包み、周りの大人たちに取り囲まれて笑っていた
子供だ、と感じる
それは、馬車の中にいた魔法医師ウユンも同じだったようで
彼は馬車を降りてきた
危険ならば彼を下ろしたりはしない
護衛の騎士たちも、彼を留めることしなかった
王の英知であり医師であるウユンだ
傷一つつけようものならば、叱責は逃れられない
と分かっているのに
それほど脅威ではない、と示す
ぶしつけな視線を感じる
下手なサーチの感覚が降り注ぎ
それは対象者の彼女からであることがわかり全員から失笑が漏れた
ウユンが、ちらりと、目配せし、魔法師団はばちりと視線を弾く
「下手だな」
ぼそりと呟き、馬車へ戻り、ごんと、屋根を叩く
進めと合図され、山を下る
視線をあわせたまま、馬を進める
あちらの雰囲気が、ふ、と変わる
彼らが手に持つのは魔法花火
ああ、歓迎と試作品試しだな、と皆が思う
あれを武器にして戦うことはできないから、攻撃されることはない
むしろ、攻撃するならこの学園の最大の特徴である
使役獣が牙をむくだろう
事実大型獣や、魔鳥、精霊たちが隙のない姿である
こちらのサーチに敏感に察知し、そのものを見つめ、お前が見ているのは分かっている
指令があれば、お前たちなど瞬時に滅ぼしてやると険しい気配を送られる
じとりと汗が浮かぶ、しかし視線を外すわけにはいかない
あれらに挑むとなれば、この人数では怪しい
使役獣使はだから、嫌いなのだ
従獣使より危険なものをいともたやすく扱い
そして、それは、決して主を裏切らない
死ねといえば、人より簡単に命を投げ出すだろう
その存在は、脅威でしかなかった
王都でも使役獣使の姿は多い
そして、その実力は計り知れない
彼らに秘密にできることはなく、すべてを見抜かれ行われる
王は片腕として、使役獣使を登用させたが
彼らは、王に忠誠を誓わない
力をお貸ししましょう、とさも当然にいったのには血が沸騰するかとおもった
それはウユンとて同じ
魔法技師・魔法医師・魔法騎士団を含む魔法師団も特殊形態ではあれども
騎士団とそうは変わらない
使役獣使はあくまで雇用の形態をとり
貴族としての後ろ盾、忠誠はあれども、絶対ではない
護るべき領地と領民を中心とし、過去何度も反乱と同盟をしてきた
しかし、貴族なくては、たとえ王でも、国を保てない
王という指針と柱があってこその国
しかし、貴族共が領地を纏め国として成り立たせていることはしっている
使役獣使たちが入ってきたことにより
それは強固なものとなった
領地を護り、領民を護り縛る力を彼らは示し抑える
だから、王にも使役獣使が必要だった
彼らは独自形態だが、王の指針には従う
苦言を呈すことはよくあるが、最後には従うのだから
最初から従えばよいと思うが使役獣使たちは異なるらしい
その傲慢な態度は我慢ならない
しかし、王は重きを置かれる
それは、王の采配に取り入り、かつ王を立てている
当たり前だが、あの傲慢な使役獣使どもがすれば
それは巧妙なる采配とし評価される
「来るぞ」
ランス隊長が言う、何がと思いあちらを見れば魔法花火が
光の軌跡を描きながら空に放たれる
ごぅと音をたてて火柱が空に林立し
それは見る間に形を作っていく
美しい門であり、橋ができる
ぐぅとうなり、だが次の瞬間歓声が迸る
王都でもこれほどのものは見られない
小さな使役獣が、花と花火を降り注ぎ
歓迎とそのアーチに美しさを添える
「スライム、だと・・・」
魔法師団の幾人かが唸るように呟く
小さすぎてサーチでは捉えられなかったが
あれはスライムだったらしい
スライムの街であるとは聞いていた
そして、それは、対象者の彼女へと一直線に戻る
恋人を迎えるような笑顔で迎え両手で宝物だというように包みこむ
ぽんぽんと同じような小さなスライムが彼女にくっつき
同じように包み笑う
花が咲くように・・・
王の使者視点です
やっと世界感がでてきましたねー




