15.学校での初仕事
「リーナさんいますかー?」
司書室を覗くと、皆で朝の団らん中
あ、なんかおいしそうなもの食べてる
「あら、アンちゃん、早いわね
こっちいらっしゃい、食べる?」
なんて言われて、御誘いされちゃいます
うふっ
「あ、お呼ばれしますー」
そう言って、開けてくれた席に座らせてもらう
季節限定の花砂糖のお菓子をつまみながら
お茶を頂く
最近やっと甘味が浸透してきて嬉しい
「それで、どうしたの?」
つい、お菓子をお茶に目的を忘れる私に
リーナさんが聞く
またやっちゃいました
「あ、コムムンの初貸出をしようかと思ってるんです」
そういうと全員が、えっという顔をして
「きゃーっ嬉しい」と跳ねたり手を叩いたりしてる
うんうん、嬉しいです
ほんと、掃除してるの見てると怖いもん
本の数が半端なく多いから、天井まで本棚にしないと
本が置けないのはわかる
上の方は禁書や希少本が置かれているから、読みたい人は
司書さんや、司書精霊たちに頼んでが魔法で取ってくれるから
大丈夫なんだけど掃除は人の手で細い梯子を上って下がって
見てるだけでひぃぃぃぃでした
今の時間まだ掃除前なので、早速しましょうと皆でティータイム切り上げて
図書館にやってきました
光の入ってない図書館って初めて来るかも
「うふふ、初めてって顔ね」
私は頷く
真っ暗で、しんっと静まり返った
まさに寝ている図書館
「さぁ、光を灯しましょう」
司書長の掛け声で、司書さんたちは全員使役獣を右手に掲げる
手の上で光が踊っているみたい
その光をすっと滑らせるように投げると
使役獣は、ガラスの燭台にすべりこみ、ぽんと出ていく
足跡を残すように、光が灯り
どんどんと世界に光が満ちていく
「綺麗・・・」
目覚めていく、というのが分かる
そして、いつの間にかいつもの図書館の雰囲気
「じゃぁ、お願い」
皆が期待した眼差しで私をみる
「はいっ」
私は、ラムムンに目配せ
ラムムンからぽぽぽーんっとコムムンたち10匹が飛び出してきて
いってきまーすっという風にぷよりと跳ねると、各地に散らばっていく
他の子たちが、ちょっとずるーいって言ってるみたいだけど
お仕事の割り振りだから我慢してね
とラムムンごと撫でる
どんどんと空気が変わっていく
どこかカビ臭くて湿気て埃っぽい匂いが
紙とインクの匂いが強くなった
「え・・・嘘・・・」
うん、そう言いたいのが分かる
まさか私も本の匂いが匂うほど変わるとは思わなかった
手書きの本ばかりだから、インクの匂いがして当然なんだけど
一回の掃除でここまで劇的に変わるとは思わなかった
おわったと、縦列で一番近い子がどやぁしてる
「えらいっすごい、綺麗っ」
私は丸めるように撫でる
オレンジ色と黄色で嬉しい楽しいって言っている
「アーン、すごいわ、素敵よっ」
ぎゅっとカトリーナさんが抱きついてくる
「私もびっくりですけど、嬉しいですっ」
私もぎゅっと抱き返すと
周りの人たちもぎゅっと団子になってみた
ラムムンもそしてチビムンたちもみんな合わせて団子
司書長さんなんて涙がこぼれて
コムムンの一匹が、ぴとりとくっついて慰めてた
仲良くできそうで嬉しい
こちらも朝の時間が大幅短縮でき
本の修復や、写本ができる時間が増えて嬉しいって言ってた
司書さんってそういうことまでするんだって
初めて知ったかも
「じゃぁ、コムムン5匹預けていきますね
本人たちがつかれーた、ねむーい、お腹減ったーしてたら
この袋の中いれて誰か御一緒してください」
杏印袋を出すと、全員に笑われた
分かりやすいのが一番よね、と慰め半分なお言葉を
司書長さんから頂いた
うん、私のイメージもね、給食袋なんです
ご飯も入ってるし、安全袋なんでこの際見た目は放置なんですよっ
「夕方回収ね」
「はい、昼休みはカフェの方にお届けに行く予定なので
お願いしてもいいですか?」
「もちろんよ、もうこのままおいて行ってくれてもいいけど、ね」
と怖いこと言われましたけど
半分冗談ですよね・・・半分目が本気でしたけど・・・
人気なのは嬉しいけど、もっていっちゃやーですよ
昼休み、カールさんとその同僚さんの所に持って行ったら
胴上げされました
いやいや、怖いです、かなり
カールさんが、確保っ的に抱っこしてくれたけど
それも心臓が破裂するので勘弁してください
生ゴミは、有料回収なので、今いる子たち全員でもんぐり
「せめてこれだけでも、ラムムンにしてもらうんだったかな」
あ、確かに、というか生徒さんにしてあげるべき?
「生徒さんに依頼しますか?」
「あー、それは考えたんだよね
だけど、一部の人のみ優遇だし
万能スライムはいないからね」
「やっぱり少ないんですねー」
「そうだねぇ、どうしても、特化したものを欲しがるし
全体的にと考えると、スライムは相変わらず少ないからね」
「いない、よりは嬉しいですが
増えてくれると嬉しいですねー」
「アンちゃんみたいに独特な使い方を思い付けば
いいんだろうけどね
と、いうことで、これからも頼むな」
私は頷く
「お預けはしなくていいですか?」
「うん、中は戦場だから、どやどや乱暴な男の足がある厨房は怖いと思うし
危ないからね」
そっか、たしかに、宿の厨房は、男の仕事場って感じで
おじさんが、右に左に忙しいもんね
「それに今は掃除する必要もないくらい綺麗にしてもらったから
また明日きてね
あー、アンちゃん、お休みか・・・」
そうなんです、私、月~水しか学校には来ないんですよ
「ギルドのクエストが泊まりじゃないとき
朝届けに来ましょうか?」
「うーん・・・どうしますか?」
同僚さんたちに聞くとみんなうーん
「アンちゃんまた煮詰めてからでいいかな
一旦綺麗になったからほんと、助かった
報酬のことも話しないとだしね」
あ・・・そうだった
そんなこと全然考えてなかった
「食堂の方にも行くのか?」
「はい」
「カール、付いていけ」
「はい、そうしますね」
にこりと、おにーさんが笑う
そしてするりと手をつながれた
ええええっ
「虫よけ、虫よけ」
笑いながら、きゅっとその手を握ってきた
カールさん、私が死にますっ
死んじゃいますっ
うう、話は楽しいし、にやにやできるのに、なのに、私は、しょんぼり馬鹿とどじっ子いらない




