第十三話 回想
こんばんは。五月雨葉月です。
今回は少し長めになっています。
私が、あの人達にいじめられている、と認識したのは入学して二ヶ月ほど経ったある日のこと。
首席で入学した事を良く思わない、貴族の娘を中心としたグループが、突然私を呼び出した。
今までは影口や噂を闇雲に広めていただけだったが、何故だか分からないけれど、なかなか広がらなかった事に焦りを感じたらしい。
最初の頃は、二~三人にいやな事をされるだけだった。
回を重ねるにつれ、一人、また一人と増えていく。ついに十人を超えた日の夜には、
(なんで……なんで皆に嫌な事をされなくちゃいけないの……? 私、何か皆が嫌な事をしたの? なんで…………)
と、一人ベッドで辛くて泣きながら寝た。
始めのうちはされるがままで、すぐに止めてくれるものだと思っていた。何人もの友達が助けてくれた。でも、その娘達に何かの事が起こり、本当に悔しそうな、悲しそうな顔をしながらグループに加わって嫌々ながらも嫌な事をしてくるのを見て、もう何もかもを諦めた。
そして、ついに止めに入ってきてくれた友達も、始めのうちは強く注意をしてくれていた先生達も、何も言ってこなくなった。
そして、それを良いことに、グループからのいじめは過激になってきた。
私が運動や魔法が苦手な事を利用した、修練という名の一方的な攻撃。
直接的な暴力、暴言も毎日のように受けた。
出来るだけお母さん、お父さんには知られたく無かったのに、毎日傷だらけで帰ったり、夜な夜な泣いたりしていたせいで、とても心配をかけてしまった。
それでも、私は
『大丈夫、何でもない』
と、偽の笑顔で取り繕った。
自分の娘がいじめられている事を知ったら、とても心配されてしまう。心配をかけられたくない。その一心で家では過ごしていた。
でも、多分どこかで知っていたのだろう。
ある時、抜き打ちで国の調査官が学校に来て、いじめがないか、またはその兆候が無いか。
徹底的に調査をしていった。
今思えば、それはお父さんの力だったのだろう。
しかし、グループは貴族の力を利用し、抜き打ち調査の日を知っていた。調査の前後には呼び出しが無く、多分脅しという名の根回しを行っていたのだと思う。
結局、調査では何のいじめの証拠は出てこなかった。
それでさらに力を付けたグループは、もっともっと人を増やして行った。それのせいで、陰ながら支えてくれた昔からの親友も、泣きながらただ見るだけの傍観者になった。
「ミラが助けてくれるまでのおよそ半年間、毎日が辛かった」
嫌な事をされたこと。
友達が離れたていったこと。
学校に行くことが嫌になったこと。
でも勉強がしたいから我慢し続けたこと。
そのせいでさらにいじめが過激になったこと。
それ以外にも、いくらでも挙げられる。
あれ以上、ずっといじめられる日々が続いたら、きっとあの人達に私の人生を壊されてしまっただろう。
大袈裟かもしれないけれど、そう思う。
「だからミラ、改めてお礼を言うわ。助けてくれて、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げ、感謝してもしきれないくらいの感謝の気持ちを伝える。
ふわっとした感触に落ち着く甘いにおい。
ミラが軽く、優しく抱きついてきた。
「どういたしまして」
首に手を回され、耳のそばで囁かれて、少しくすぐったかった。
「ねえ、アリス。実はね、私はずっと前から貴女の事を知っていたのよ
「えっ!? 」
私の事を前からミラが知っていたの!?
「アリス、毎週のように孤児院に行って、子供達と遊んであげているでしょう? 」
な、何で知ってるの!?
「う、うん。そうだけど…………」
毎週、父が行っている慈善活動の一環として、私は孤児院の子供達と一緒に遊んだり、お散歩をしたり、お昼を食べたりしている。
始めのうちは、お父さんから言われて行くだけだったけれど、行く度にせがんでくる小さな子供や、寂しそうにしている子供の見せた笑顔などが胸に焼き付いたのだ。
この子たちを笑顔にしてあげたい。少しでも楽しんで欲しい。
その一心で、毎週欠かさず通い続けた。
いじめられている時も、そこの子供達の笑顔は少なからず力になってくれた。
知られないように気を付けていたはずなのに、どうしてだか分からないけれど、いじめのグループに知られた事がある。
それを理由に散々色々な事を言われたけれど、恥じる事は何もない。それだけは堂々としている事が出来た。
そして、私のその態度を見てか、それについて何かを言われる事は無くなった。
しかし、どうしてミラが…………?
「実はね、ある孤児院の前を通りがかった時に、アリスと、そこの子供達が一緒に遊んでいる所を見たの。始めは、ただ孤児院の子たちと遊んでいるだけにしか見えなかったんだけれど、子供の姿を見て考えを変えたわ」
ミラが一旦言葉を切ってずっと抱きついていた手をほどき、互いに見つめ合う姿勢に戻った。
「子供達はね、アリスの事をすごい信頼していた。そして、アリスも子供達をよ~く見て、みんなが楽しめているかどうか、しっかり見ていたわよね? 」
その通り、確かによく見ているけれど……どうしてミラに子供達の気持ちが分かるんだろう?
「だからね、孤児院という、子供達にとってはあまり良い思いはないはずの所で生活する子供達を、あんなに輝かせるあなたの事がとても気になった。事実、他の孤児院を見たときには、あなたがいた所の様な輝きは無かった」
「気のせいなんじゃないかな……? 」
「ううん、そんな事は無い! 私には分かるの。知ってた? 私たち王族には精霊と妖精の血が流れているの。自然の摂理である精霊と、生物の基である妖精。これくらいは知っているわよね? 」
それくらいは勉強すれば分かる。
「ええ。知っているわ」
「じゃあ、その二つの血が交わりって、奇跡とは言い表せない程の、神の気まぐれで起こるとも言い伝えられる、永遠の血。今のところこの世界でその血を持つのはシスタリア王族だけね。その血がもたらす恩恵の事を何て言うでしょう。さすがに知らないかしら? 」
永遠の血の恩恵……?
たまたま、本当にたまたま知る機会があった。
確か、あれだったはず。でも…………
「あら、知っている顔ね。でも言わないのは、あれのせいかしら」
わたしは頷く。
あれ、とは。
この国の重要機密に指定されている、とある秘密の憲法の事だ。
何百年も昔、それこそその憲法が出来た当初、それは一部の人が知るような特別秘密という訳では無かった。でも、ある事件が起こってから、完全に秘匿され、各国からそれに関する文献、資料が消えていった。そして、憲法からもその一文が秘密とされ、人々の記憶からも徐々に薄れていった。
さらに、一部の噂では、その事を知った者は記憶を消されるとまで言われている。
私も始めて知った時には震えた物だ。
後に、絶対に他の人に知られないように、自分の中でも鍵をかけて忘れるようにしたかったが、出来なかった。
「でも、言って良いわ。だって、私のお嫁さん――将来の王族が知っていて、何が悪いの? それに、ここに他の人は居ないわ」
えっ? えっ? えっ?
今、将来のお嫁さんって…………私の……こと?
――――――――正直、嬉しい。
だって、大好きなミラに認められている気がしたから。
でも、お嫁さん…………お嫁さん…………お嫁さん…………お嫁―――――
「アリス、アリス? ごめんね、私も恥ずかしい……忘れて…………」
そんな事を言われても……忘れられる訳がない。
「ミラ…………」
嬉しい気持ちを押さえられず、ミラにぎゅっ♪と抱きつく。
ミラもぎゅっ♪と返してくれた。
「アリス…………」
しばらく見つめ合う。
しかし、急に言葉で言い表せない程恥ずかしくなった。
悟られないようにあわてて離れると、話を戻す。
「こほん。…………な、なら安心ね」
ミラは残念そうな顔をしたが、
「ええ。安心して良いわ。もしもの事があっても私がアリスを守るから」
そんなことを言われて嬉しくない筈がない。
ミラに抱きつ――――はっ
危ない。
「あれよね、あれ。王族の奇跡」
「その詳しい事は? 」
頭に残ったわずかな記憶を探る。
確か――――
「二つと無い、王族のみに与えられた特別な魔法」
ミラがにっこり微笑み、よしよし、と頭を撫でてきた。
やさしくて、気持ちいい。
「正解。知ってた? この事を知っているのは王族以外に両手で数える程しか居ないのよ。さすが私のアリス」
そんなに少ないの……!?
もっと居るかと思った…………
「その王族奇跡。それのお陰で何て子供達の喜びが分かるのよ。だから、アリスの力で子供達が輝やいていた」
王族の奇跡を出されたら私には敵わない。納得して頷く。
「今、この国で純粋な子供以外に輝ける人はほんの一握り。その子供でさえ、本当の喜びを感じなければ、輝く事は無い。それを孤児院の子たちという難しい中で行っているあなたに興味を持った」
よくわからないけれど、すごいこと……なのかな?
「ええ。すごいことよ」
ミラが私の心を読んだかの様に話しかけてきた。これも王族の奇跡の力なのかな?
その質問に答えたのかは分からないが、こくり。と頷くと、軽く手を合わせ、首を軽くかしげると、ごめんねと言ってきた。
「そんなあなたが気になって、軽く調べたのよ」
へぇ……知らなかった…………
「本当にごめんね? 」
その言葉にううん、と首を振ると、
「ミラになら良いわ。だって、私の大好きな人だから」
と言った。
すると、ミラが思いっきり抱きついてきた。
「やっ、ミラ、いたい……」
それでもずっと抱きつかれていると、
「ちゅっ♪」
突然キスされた。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
いよいよいちゃラブシーンの登場です!
お楽しみに!
ブクマ等、ありがとうございます!




