251 卒業イベント 『夢終』
まずはカルラと悪魔の場面から。
前話のリシアの最後の台詞をカットしました。
『§†ヾ†□∮‡‡¢――――』
「――【炸裂岩】――」
白いメイドを模した悪魔――コレットが混沌の瘴気を口から放ち、それをカルラの放つ無数の岩石弾が迎え撃つ。
ドォオオオンッ!!
ぶつかり合った衝撃波が避難客や騎士たちを薙ぎ倒し、会場の外壁さえも破壊した彼女たちは、瓦礫や破片を浴びた者たちの悲鳴と断末魔の響く中、そのまま城の外へと戦場を移した。
「カルラっ!」
風の魔術で王族を守っていた筆頭宮廷魔術師――レスター伯爵が被害を広げる娘の行動に歯噛みして、近衛騎士とエルヴァンに守られたクララは街の方角から聞こえるその音に身を震わせた。
「唄が……聞こえる」
『――――――――――――――――――――――!!!』
王都の上空に浮かんだコレットが広範囲に声を響かせる。
人では聞き取ることもできない魔界の調べ。王都の人々はクララ同様その歌声に身を震わせるが、その唄に心奪われる者たちもいた。
聖教会の神殿騎士、信心深い信者……かつて聖女の姿を見て魅惑され、今なお聖女を信じる者たち。そして、彼女を利用しようと深く関わっていた貴族たちが足を止め、まるで〝夢〟見るような表情で宙に浮かぶコレットを見上げ――そして異変が始まる。
『……ぅあぁああぁああぁあぁああああああ』
その者たちから苦しむような呻きが漏れ、口から泡を吹き、突然苦しみ始めた隣人に周囲の者たちが駆け寄ると、その者たちは黄色く濁った瞳で他の人間を襲い始めた。
夢魔の力は信じるほどに嵌まっていく。聖女の魅惑に嵌まり、様々な想いで聖女に近づいた者たちは、その傍らに控えた〝悪魔〟の罠に嵌まり、その精神は深く〝悪夢〟に絡め取られていた。
『あああああああああああああああああああああああああああああっ!!』
まだ心が残っているのか、妻を、夫を、親を、子を、その手にかけた者たちの悲痛な叫びが木霊する。
収穫した〝負〟の感情を浴びたコレットが恍惚の笑みを浮かべ、全身から発する魔力が増大したように溢れ出す。
【夢魔コレット】【種族:上級悪魔】【難易度ランク6】
【魔力値:4721/4812】
【総合戦闘力:5193/5293】
「――【火炎飛弾】――」
だがその瞬間、数十もの火炎弾が叫びをあげる者たちへ雨の如く降りそそぎ、街を焼く炎の中に信者のなれの果てが沈んでいく。
『黒髪の……女!』
「ふふ」
コレットが怨嗟の声をあげ、それをカルラが嘲笑い、互いに魔力を高めたそのとき燃え始めた建物を突き破るように、さらに燃えさかる炎の巨人が現れた。
『ウゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
【アモル】【種族:――】
【魔力値:608/630】【体力値:――/――】
【総合戦闘力:3856】
【超再生】【錯乱】
カルラの炎に焼かれ、狂える蟲の巨人が炎を撒き散らしながら暴れ回り、怨敵の一人を見つけたアモルであった残骸は狂気の叫びをあげる。
『カァルゥラァアアアアッ!!』
アモルは巨大な瓦礫を掴み、夜空に舞うカルラに投擲する。カルラはそれを冷たく見下ろし、撃ち放った岩弾が瓦礫を貫き撃ち砕く。
アモルが直接攻撃をしようと建物に登り始め、屋根の上から飛び出したその時――
『ガァアアアアアアアアア!!』
漆黒の旋風が吹き抜け、巨大な爪の一撃がアモルの巨体を吹き飛ばした。
【ネロ】【種族:クァール】【幻獣種ランク5】
【魔力値:312/330】【体力値:520/520】
【総合戦闘力:2541(身体強化中:3210)】
『ケモノガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
『ガァアア!』
取り逃がした獲物を追うネロと蟲の巨人アモルが咆吼をあげながらぶつかり合い、幾つもの建物を崩壊させながら、さらに戦禍を広げていった。
***
遠くから聞こえる人々の悲鳴。逃げ惑う人々の叫び声。そしてここからでも王都で火の手が上がっていることが分かる。
「あぁありぃしあぁああああああああああああッ!」
一瞬だけ垣間見えた〝リシア〟は消えて、再びあの女が出鱈目な動きで殴りかかってきた。
ギンッ!
私はおぞましいほどの速さで振るわれる拳を躱して無防備な腕に斬りつけるが、骨を断つつもりで放った一撃は骨で止まり、無造作に振り回された腕の一撃をダガーで受けた私は身体ごと吹き飛ばされた。
「っ!」
ドレスの裾を大きく飜しながら軽業のように回転して距離を取る。
「きゃははあああああ!」
すぐさまあの女も追ってくる。私も体勢を立て直そうとするがあの女の速度が予想を超えていた。
戦い方は出鱈目だが身体能力が肉体の限界を遙かに超えている。すでに人間ができる動きじゃない。あれでは行動するだけで肉体が崩壊していくはずだが、寄生した蟲が同時に修復もしているのだろう。
すでに斬りつけた傷も蟲が埋めていた。おそらくアモルのように、魔石以外すべて置き換わった時点で〝リシア〟は消える。
「アーリシア様、助勢いたします!」
でもその時、あらかた一般客の避難は済ませたのか、騎士の一部が駆けつけてきた。
「迂闊に近寄るな!」
常軌を逸したあの女に常識は通じない。だが騎士たちはあくまで常識的に、聖女であった彼女の無力化を試みた。だが――
「ひゃぁあああああああああ!」
「ぐあっ!?」
あの女は騎士が殴りつけてきた盾を逆に殴りつけ、右腕と盾がひしゃげるほどの力で殴り飛ばされた騎士が床に叩き付けられた。
さらに追撃をしようとあの女が騎士を襲う。でも、その一瞬で体勢を立て直した私は黒いダガーを構えて矢のように飛び出した。
「――【神撃】――」
『!?』
私は一撃必殺の戦技を繰り出す。たとえ戦技の技は知らなくても、その一撃が心臓の魔石を狙ったものだと気付いたあの女の顔が歪む。
――ガギンッ!
「――っ!」
だがあの女は、人ではあり得ない動きで戦技の狙いを外してみせた。そのせいで私の一撃はクリティカルをせずに通常攻撃となって蟲と骨に阻まれる。
心臓の魔石を砕けばあの女は消えるはずだ。でも、以前石で砕こうとして出来なかったように、通常攻撃では破壊できない恐れがあり戦技を使ったが、小さな魔石を狙うのは簡単ではない。
でも、そんな一撃でもわずかに魔石を掠めていたのか、あの女の様子が変化する。
「――ぁあがあがあががががががががっ」
全身が激しく震え始め、肉が裂けるように血を噴き上げると、そこから蟲が飛び出すように全身に絡みつき、リシアの身体にへばり付く形で、蟲で出来た女の上半身が形成された。
『アァリシィアア……』
蟲が髪の毛まで形成し、あの女の顔になった蟲の集合体が私の名を呼んだ。
「ば、バケモノめ!」
もはや人外と化したあの女に、騎士たちが戦技を使ったばかりの私を庇うように武器を向ける。
『じゃぁまぁをするなぁあああ!』
「キャハハハハハ!」
それに対し、蟲の女とリシアの顔が同じ表情を浮かべて、四つの腕で騎士に襲いかかる。騎士たちも盾で受け止め、剣や槍で斬りつけるが、こんな化け物を想定していなかった彼らの武器は戦場で使う大きな物ではなかった。
「ぐぉ!」
騎士の振るう刃は蟲の表面に食い込まず、盾で受け止めきれずに倒される。
ゴンッ!!
でも、その一瞬の隙を突いた分銅型のペンデュラムがリシアの側頭部を撃ち抜き、血飛沫を撒き散らしながら吹き飛ばした。
「下がって! あれはまともじゃないっ」
私はペンデュラムを飛ばし、その糸で絡め取るようにして騎士たちをあの女から遠ざける。
「……アアァリシァアアア!!」
人間なら即死する一撃でもあの女は止まることなく、血塗れのリシアの顔がぎょろりと目玉だけで私を睨むと、騎士たちを追うことなく私に襲いかかってきた。
「…………」
右腕は先ほどの戦技で魔力熱が溜まっているが、左腕はまだ動く。両脚はドレスの長い裾があるけど、右側のスリットを解放したため動きを阻害するほどじゃない。
今は、蟲とリシアとどちらが本体か? あの女の魔石はどこにあるのか?
でも、どちらでも構わない。カルラとの戦いに備えて温存していたけど、余力を気にするのはやめだ。
あの女もリシアも約束通り私が殺してあげる。
「――【兇刃の舞】――」
左腕だけで放つ渾身の四連撃、でも私は右腕に向かうはずの魔力を魔力制御で強引に脚に溜め、左右の爪先の刃でさらに四連撃を繰り出した。
黒いドレスの裾が孔雀のように広がり、リシアと蟲の身体を斬り裂く変則の八連撃が一撃ごとにその身体を吹き飛ばし、まだ無事だった色玻璃窓を突き破りながら城外へと弾き出した。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!!』
最後の蹴りがリシアの首を半ばまで斬り裂くと、悲鳴をあげた蟲の身体がリシアから離れ、逃げるように悪魔のほうへ飛んでいく。
ドォンッ!!
残った斬り裂かれたリシアの身体が中庭に叩き付けられ、スカートを飜した私がその横に音もなく舞い降りた。
「……逃がしたか」
あちらがあの女の本体か。でも、魔石と蟲の身体しか残っていないあの女に、もう碌な力はないはず。逃がしはしない。
「……ッ」
再び戦場へ向かおうとした私の足を、小さく咳き込む音が止めた。
リシア……まだ生きていたのか。常人ならすでに死んでいる。生きていたのは蟲の効果がわずかに残っていたのだろう。
もう手の施しのようもなく、全身から止めどなく血が零れ、命を繋いでいた纏わり付く蟲もあの女が離れたことで枯れるように干からびていた。
「……言いたいことはある?」
なんとなく……最後に声を掛けると、リシアの目がわずかに開いて唇が少しだけ笑うように動いた。
「……すごく疲れた……眠いわ」
すでに痛みもなく記憶も混濁しているのか、リシアは険の取れた朗らかな顔で声を零す。その心臓の辺りに魔力ではなく瘴気のような感覚を覚えたのは、彼女の魂がまだ悪魔に縛られた罪の証のように見えた。
「……夢を見てたの……。ねぇ……信じられる? 私……この国の王子様を……手玉に取ったのよ……凄いでしょ……」
「うん……」
私がそれに相づちを打つと、リシアは微かに身体を震わせゆっくりと目を閉じた。
「……あぁ……楽しかった……」
「…………」
最後まで勝手な女だ。それきり動かなくなったリシアから視線を外し、私は次の戦場へ目を向け、振り返りもせずに歩き出す。
もしあの世があるのなら待っていて……。
「あの女も悪魔も、ちゃんと私が殺すから」
リシアはこんな終わり方にしました。彼女が運命に翻弄されたのではなく、アリアやエレーナと同様に自分で選んだ道の結果です。だから恨み言はありません。
エレーナ「アリア!(はしたない!)」
次回、アリアが燃える街へ。





