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第26話 緊急お泊まり会 1

本当は今回入れようと思っていた前話の続き部分を、キリが悪いなと感じて改めて前話の後半に1,000文字程加筆しました。

2025年10月1日に前話を投稿し、翌日2日の11頃に加筆しています。

加筆前に前話をお読み頂いていた方は、今回いきなりお話が飛んだように感じると思いますので、全話後半を読んでからこのお話を読んで頂くのがお勧めです。

「え!? 今夜、竜舎に泊まる!?」


 サーリャとファルの状態や、夜に竜舎に泊まり込んで産卵を手伝う事を伝えると、屋敷の中は大騒ぎになった。

 だが、それは先程までの二人のような緊迫したものではなく、何故かお祭りの準備でも始まったかのように、皆がわいわいと興奮し盛り上がっていた。


「えー! アデット、クッションはやっぱり四つは必要じゃない?」


「何を言っているんです、ミア。大きめのクッションをお二人で一緒に使って頂く方が良いに決まっているじゃありませんか」


「そうですね。安全のためにも、アルフレード様にはできるだけお近くでエレナ様を見守って頂きたいので、毛布も大きめの物1枚で宜しいのでは?」


「クララ、それは良い考えですね。回復薬はもう一箱分、念のため用意しておきましょうか」


「いや、ブルーノそれ不味い方のだろ。アルフレード様、以前改良した回復薬の方が、焼き菓子にも合いますし、それ持って行きましょうよ」


 各々が必要になりそうな物を用意し、弾んだ声が屋敷の中を飛び交う。

 慌ただしくも賑やかな様子に、エレナは面食らった。


「あの……遊びに行くわけではないのよ?」


 ニコニコと指揮を取っていたジョゼフに、困惑したエレナは思わず言ってしまった。


 アルフレードにも説明された通り、産卵ではサーリャの、魔力譲渡ではエレナの命の危険が伴うのだ。慌ただしくなるにしても、もっと物々しい雰囲気になる物ではないのか、とエレナの頭には疑問符が浮かんでいた。


「エレナ様……アルフレード様は、エレナ様に対し()()()()()()なんです」


 苦笑するジョゼフの思わぬ返しに、エレナはパチリと目を瞬かせた。


「え……? 過保護?」


「そうです。エレナ様はすでに、サーリャに()()()()()()()()()お戻りになったのですよね?」


「ええ、そうよ?」


 サーリャを助ける事を決めた後。

 ぐったりとしているサーリャがエレナの魔力を受け入れてくれるのか、応急処置も兼ねてすぐに譲渡を試したのだ。

 喜ばしいことに、サーリャはエレナの魔力を受け入れてくれた。

 様子をみていたアルフレードが「そこまでだ。ひとまず、危ない状態は脱した。あとは準備を整えてから仕切り直そう」と早々に止めに入ったので、エレナは大人しくそれに従い、二人で屋敷に戻って来たのだ。


「まだ起き上がることはできないけど、目を開けて声を出せるくらいには回復したの。ファルも安心してくれたわ」


 眠りから覚めたファルは、回復しているサーリャを見て平静を取り戻し、今は落ち着いている。

 魔力を注ぎ産卵を手伝う事をアルフレードが説明すると、ファルはそれを理解したようで、一鳴きして嬉しそうに尾を振ると、二人を見送ってくれた。


「そんなことができるのは、エレナ様くらいです。譲渡の後、魔力が減った感覚はありましたか?」


「少し減ったかな、とは感じたけれど」


「少し……ですか。ふふふ……やはりアルフレード様は()()()()()ですね」


 またもやジョゼフが笑うと、近くにいたブルーノが話に加わった。


「エレナ様、普通はそんなことしたら、()()()()()()()()()()()()()


「え?」


「お話を聞く限り、エレナ様の魔力はサーリャに一割も渡していないと思います。ファルに無理やり使われて転移した時で六、七割といった所でしょうか。その時に相当焦ったんでしょうね、アルフレード様。サーリャがちょっと可哀想なくらい早々に譲渡を止めに入ってますから」


「命の危険があるのは、普通の人間ならの話です。エレナ様でしたら、回復薬もある状態なら何の心配もないでしょう。……アルフレード様は、お母君──()()()()()()()()()()()()()()()()()こともあり、エレナ様にはどうしても過保護になってしまわれるのですよ」


 エレナの脳裏に、髪色の話をしてくれた時のアルフレードの悲しげな顔がよぎる。


(アルフレード様は……幼い頃にお母様を亡くされている。大切な人の死を経験しているんだもの。私とサーリャのことで『死』を目の前に感じて過敏になるのも頷けるわ)


 ジョゼフやブルーノ達の様子を見るに、エレナの魔力量なら産卵の補助をしても何ら問題はないのだろう。

 だが、家族の死を経験したアルフレードの目には『サーリャの死』と『エレナの死』の二つの可能性が、彼の平静を失わせ苦悩させる程強烈に突き付けられていることが想像でき、エレナは胸が痛んだ。


 言葉を探すエレナの横で、ぱん、とブルーノが手を打ち合わせ、明るい声で言った。


「我々からすれば、もはや今日はただのお泊まり会! 準備が楽しくて仕方ないのは当然ですよね。エレナ様も、そんなお顔をなさらないで。過保護なアルフレード様がいらっしゃれば、安心安全、何の心配もありませんからね!」


「ブルーノ、何を遊んでいるんだ」


 突然背後からアルフレードの冷たい声が降り、ブルーノの肩が跳ねた。


「お前が寄越した私が不在の間の報告書の確認は全て終わっている。お前には、各所に指示の通達に行き()()()()()の設計と手配をしておけと言ったはずだ。なぜまだ屋敷にいる」


 サーリャの魔力量が少なく、産卵の後、雛が孵るまで暫くはエレナが魔力を分ける必要がありそうだ、という話になった。

 だが毎日頻繁に森へ足を運ぶのは大変だ。

 エレナの負担を減らし、夜でも様子を見やすいようにと、無事に卵を産むことができたら、森の中ではなく屋敷のすぐ横に雛のための新しい竜舎を建てるつもりなのだ。


「いや、そろそろ行こうと思っていたんですよ。過保護って言ったの怒ってます? 先に言い出したのはジョゼフですよ」


「うるさい、早く行け」


 アルフレードから圧をかけられ、ブルーノは眉を下げながらエレナに向かって肩をすくめた。


「はあ……ではエレナ様、主人の命令なので働いて来ますね」


 部屋を出て行こうとするブルーノに、アルフレードが追加で声をかけた。


「この先、雛が生まれれば()()()()()()()。できるなら先にもう一度()()もしておいてくれ」


 振り返ったブルーノは、すっと目を細め口角を上げた。


()()、ですね。かしこまりました」









 夕方。

 軽く早めの夕食を済ませ、エレナ達はファルとサーリャが待つ竜舎へと移動した。

サーリャが嫌がるため、竜舎の中にはエレナとアルフレードの二人しか入らないが、万が一に備え建物の周りにはクララ達も控えている。


 中に入ると、穏やかな表情で横たわるサーリャと、彼女にぴたりと寄り添うファルが《クオオオーーーーン》と優しい声で歓迎してくれた。


 たっぷり積まれた干し草の上でゆったりと円を描くサーリャの尾と腹の間には、分厚いマットと毛足が長いふかふかの絨毯が敷かれ、たくさんのクッションと大きな毛布、焼き菓子と飲み物が入ったバスケットに、回復薬が詰められた木箱が置かれていた。


 二頭の周りには柔らかく光るランタンが点々と浮かび、照らされた赤い鱗がキラキラと輝いている。


「何だか、本当にただのお泊まり会みたいですね」


 ジョゼフ達は危険はないと言っていたものの、やはり些か緊張していたエレナは、予想外にも穏やかで幻想的な光景に肩の力を抜いた。


「エレナ、おいで」


 アルフレードに手を引かれ、横たわるサーリャの腹の前、絨毯に座る。

 想像よりもさらにふかふかで座り心地が良く、これならば一晩中いても辛くはなさそうだ、とクララ達の気遣いをありがたく思った。


 エレナの背のあたりを中心に、支えになるようたくさんのクッションをギュッと寄せると、アルフレードもすぐ隣に腰を下ろした。


「エレナ、約束は覚えているね?」


 優しげに、だがその瞳に心配を滲ませながら、アルフレードが尋ねた。


「はい。もちろんです」


 魔力を分けるにあたって、アルフレードと約束したことは三つ。


 一つ、魔力を分けるのは1時間おき。アルフレードが止めに入った時は譲渡を中断しすぐに回復薬を飲むこと。

 二つ、異変や危険を感じた場合は、すぐに伝えること。

 三つ、どうしようもない状態に陥った場合、エレナの命と安全を最優先にすること。


「疲れたら私にもたれてくれていい。とにかく、絶対に無理はしないでくれ。いいね?」


 エレナは何度も確認するアルフレードに微笑むと、そっと手を差し出した。

 魔力を分けている間、体温と脈に変化がないか観察するため、繋いでいてもらうのだ。


 アルフレードはその手を取ると、不安そうに僅かに目を伏せた。


「それじゃあ、始めようか」


 アルフレードの言葉を合図に、エレナは繋いでいない方の手をそっとサーリャの腹にあて、ゆっくりと目を閉じた。


 胸の中から魔力が広がっていく感覚を追いかけ、身体中がじんわりと暖かくなっていく。

 初めてサーリャに魔力を注いだ時と同じく、エレナの意識はだんだんと、サーリャと混ざり合うぬくもりの中へと溶けていった。

 

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