その速さに幽霊は追いつけるか
「まずうちの教室に⋯いないね」
「体育館⋯もいないや」
ああでもないこうでもないと学校中を歩き回り、
昼休みも半ばを過ぎた。
「あ、あそこ!」
おもむろに佐倉がグラウンドを指さすと、
そこにはトンボがけをしている一人の女子生徒。
遠目からだが、ショートカットに焼けた肌、
泥だらけの体操服など色濃く個性を放っている。
「あの子が桐谷みなぎ。
私の幼なじみで、見ての通りとても活発な子なの。
沢山の部活と沢山の委員会に入ってて、
いつも忙くしてるから
どこにいるか分からなくなっちゃった、てへ」
部活はともかく、
委員会って掛け持ちできるものなんだろうか。
「すみれさん、ここから見えるかしら」
「ちょっと待ってね」
目を凝らし、
素早くトンボがけしている桐谷や
その周辺を見るが、もやのようなものは見えない。
「うーん、遠すぎてちょっと見えないや」
「残念ね⋯佐倉さん、
あなたが連絡して
彼女を呼び止めることはできないかしら」
「そうしたいのもやまやまなんだけど、
みなぎちゃん重要なことも
任されてることが多いから、
なかなか呼び止められなくて」
「そうなんだ⋯あれ」
グラウンドから桐谷が居なくなっている。
「お待たせ!一緒に帰ろー!」
突如背後から新しい女性の声。
振り返るとそこには先程までグラウンドに居た
桐谷が、制服に着替えて傍までやってきていた。
着替えるの早くない?。
「佐倉その二人誰?友達?」
不快感の無い程度で顔をのぞき込まれる。
「うん!さっき友達になったの。連絡先交換しよー」
佐倉はスマホを取り出し
QRコードを読み取る画面を見せつける。
読み取る方を先に見せるのかと
一瞬疑問を持ちつつ、
コードを読み取り友達登録する。
「ありがとう、またねー」
佐倉は桐谷を連れて、
ゆっくりとした歩調で歩いていった。
ここでやっと、
桐谷の背中に着いている小さい黒いもやが見えた。
二人が階段を下りるところまで黙って見送る。
「馬が合わなそうな二人に見えるけれど、
不思議な関係ね⋯。それで幽霊は本当にいたの?」
「いたよ、背中にちっこいのが」
「今回の依頼はいい羽休めになりそうね」
「確かに、前みたいなのはあんまりだね」
振り返ってみると
前回の依頼ではかなり危ない目にあった。
手段が選べるのだったら、
なるべく安全策を取っていきたい。
今回は人に着いた幽霊だから⋯。
「そういえば、
人にくっついた幽霊の除霊ってしたことあったっけ」
「⋯確かにないわね、
地縛霊なら沢山取り扱ったけれど、
考えてみれば一回もなかったわね」
「ね、だよね」
地縛霊なら、
時間帯や物陰を工夫して除霊もとい、
霊美ちゃんとのあんなことやこんなことを
容易くできるが、
相手が動く人間となれば話は変わってくるだろう。
「桐谷さんが止まってる時に
除霊するのがベストだよね」
「ただ⋯彼女、
同じ場所にどれくらい留まるのかしら」
「うわぁ⋯かなり相性悪いね」
移動しながらキスなんてできないだろうし、
何とか桐谷を一つの場所に留めておきたい。
「佐倉さんと連絡しながら、作戦考えてみるね」
「ありがとう、お願いするわ」
「じゃあ霊美ちゃん、私達も帰ろっか」
「そうしましょうか」




