佐倉美来の相談
『ワイワイガヤガヤ』
「はい、どぞー」
「ありがとう」
今日は気分で霊美ちゃんにお弁当を作ってきた。
「開けていいかしら?」
「うん!」
こちらも同時に弁当を開ける。
「きゃー」
恥ずかしくて霊美ちゃんが何かを言う前に、
顔を手で隠してしまった。
「すみれさん⋯」
「うん⋯」
手を離し霊美ちゃんのお弁当箱を見ると、
ご飯の上に桜でんぶで描いた大きなハート。
「ありがとう⋯可愛くて、凄く嬉しいわ」
「えへへ」
お互いはにかみながら黙々と食べる。
こういうのは何度やっても気恥ずかしいが、
なくなってはいけない気恥ずかしさな気もする。
「あのー」
「ん?」
クラスメイトの⋯誰だっけ?。
「あの子が呼んでるよ」
指が指された先、教室の扉の向こうに、
また一人の見知らぬ女子。
「霊美ちゃん、あの子知ってる?」
「いいえ、知らない顔」
「そっか、ありがとう、行ってくるね」
「気をつけて」
見知らぬ女子の方へと歩き、
真正面で顔を合わせる。
顔を見ても、やはり誰かは分からない。
やや身長が高め、
ハーフアップに編み込みを作っていて、
大人びた印象を受ける。
「あの、もう一人の方も⋯」
「あ、うん」
霊美ちゃんの方を見て手招きする。
すぐさまやってきてくれた。
この二人を揃えて何か話があるというのなら、
要件はかなり限られてくるだろう。
「二人ともありがとう、でなんだけど⋯」
「場所を変えた方がいいかな?」
「うん!ありがとう!」
流れで人気のない体育館裏に着く。
先客がいなくて助かった。
「えっと⋯まず自己紹介から、
私は一年C組の佐倉美来。⋯えーと、
出席番号は八番」
私達はA組だから、
どうりでこの子を知らないわけだ。
「部活はバレーやっててー⋯保健委員でー⋯」
「自己紹介ありがとう佐倉さん、
それで⋯私たち二人に何か用があるのかしら?」
どうでもいい周辺情報に耐え兼ねて、
霊美ちゃんが堰を切って質問した。
「あ、うん!えっとね、
部活が始まるまでの間にだけ
バレー部に混ざる先輩がいるんだけど、
丁度私が皆に悩みを話してたら、
その先輩が鈴木さんと払除さんを紹介してくれたの」
中途半端に部活に混じりそうな二年の先輩⋯。
山中しかいないか。
「その悩みっていうのは?」
「うん⋯私の友達に
桐谷みなぎっていう子がいるんだけど、
最近その子がやたら疲れやすくなったり、
だるさを感じたりしてるの。
お医者さんでも原因が分からなくて、
もしかしたら霊的な仕業かと思って⋯」
「なるほど」
それで私達二人にお鉢が回ってきたと。
「それでその⋯鈴木さん達って、
結構ちゃんとしてる感じ?」
「ちゃんとしている、とは?」
「お金とったり⋯税金払ってたりとか⋯」
「そういうことなら、
ちゃんとしていると言えるわね」
気分で受け取る金額変わるけどね。
「じゃあその、お金の事なんだけど⋯
全額払うのは月末まで待ってもらえるかな?
バイトのお給料が振り込まれるから」
「それはいいのだけど⋯今の手持ちはお幾ら?」
「自由にできるのは⋯五千円くらいかな」
「除霊の難易度によっては、
その位の金額でも構わないわ」
「え、あ、ありがとう」
またそんな安売りしちゃって。
「桐谷さんを除霊する時の、何か条件ってある?」
「えっと⋯私が除霊を依頼したってことは
黙ってて欲しいかな、
あと出来ればなるべく早くお願い」
「了解したわ」
人に取り憑いた霊は初めてだけど、
バレずに除霊なんてできるのかな。
「黙っておく理由って?」
「彼女がこのことを聞いたら、
絶対依頼料を肩代わりしようとすると思うの。
バイトをしてないあの子に
お金を出させるのは酷だから」
「なるほどね」
「あと⋯これは難易度に関わるものなんだけど⋯
直接見てもらった方が早いかな」
「「?」」




