心の距離
会計を済ませ、ファミレスを出る。
「ほな、これ」
山中はよれて少し偏った膨らみのある
茶封筒を差し出した。
「ありがたく頂戴します」
「そんなに畏まらんでも、
最初の通りの成功報酬やで」
「そうだよ、もっと胸をはらなきゃ」
「ええ、確かにそうね」
霊美ちゃんがやや顎が上向くくらい胸を反る。
可愛い。
「ほな、私はバイトがあるから、これでお別れやね」
「せっかく穏やかになったのに、忙しいですね」
「急がんとお金は逃げてしまうからな、
そんじゃまた」
山中は駅の方へ颯爽と走り去っていった。
「ふう⋯今回も無事に一件落着だね」
「ええそうね、ただ少し、
引っかかるところはあるけれど」
引っかかるところ⋯。
「確かに⋯今回は被害の割に
幽霊をすんなり除霊できたね」
「そうじゃないわ⋯分からないなら、大丈夫よ」
「え⋯うん」
どうしたんだろう、
霊美ちゃんはいつもつつがなく話してくれるのに。
引っ掛かりというか、
自分に非がある部分はわかる。
「霊美ちゃん⋯ごめんなさい」
「⋯何に対して?」
分かる。
霊美ちゃんは今、少し怒っている。
「私が⋯自分を顧みなかったせいで
取り憑かれたこと」
今思い当たるのはこれくらいしかない。
「それは⋯ええそうね、それも反省して欲しいわ」
それも、ということは大元のものがまだある。
「⋯」
早く答えなきゃ⋯
分からないことがバレちゃいけない。
これか?。
「さっき、ファミレスにいた時⋯」
「ええ」
「霊美ちゃんが依頼料を無料にしようとした時⋯
体調悪いか聞いたこと」
「ええ⋯どうしてそんなこと聞いたの?」
おそらく正解を引いた後、また新たな問題が。
「それは、直前に霊美ちゃんが受け取ってもない
お金を返そうとしたから、
咄嗟に言っちゃったの」
限りなく正直に答える。
「そう⋯確かにあの時の私は気がはやっていたし、
それを心配して言ってくれていたのね⋯」
「うん」
「なるほど⋯分かったわ、それなら大丈夫」
「よかった⋯」
危うく関係に亀裂が入るところだった。
「その⋯霊美ちゃんは、言われて嫌なこととか、
傷ついちゃうことってある?」
この際だから聞いておこう。
「そうね⋯少ないけれど、一つあるとすれば、
心の距離を感じさせる言葉、かしら」
「心の距離を感じさせる言葉⋯」
さっきのがその言葉なんだ。
「すみれさんが私を心配してくれた時、
私はすみれさんが全面的に
賛同してくれなかったことに対して、
心の距離を感じたの。
その後すみれさんは賛同してくれたのにも関わらず、
つい先程まで心に残っていたわ。
今思えば、あれは単なるわがままだったわね」
「そんなことないよ、
そこだけなら私だってそう感じちゃうし」
「ええ⋯ありがとう。
いけないわね、私達の関係が、
言葉の一つでどうこうなるはずがないのに」
「そうかな?言葉は大切だと思うよ?」
霊美ちゃんの耳に顔を寄せる。
「大好き」
「ッ!」
「ね?」
「ええ⋯ええ⋯しかと胸に刻み込んだわ」
霊美ちゃんは耳を赤くして
早足で歩き出してしまった。
「待って待って〜」




