この駅には不思議な幽霊がいる
「ふわぁ⋯」
四時五十分に件の駅に着く。
家を出る時には日は出ていなかったが、
今やっと出始めた。
死んだ顔をしたサラリーマンや、
釣具らしきものを持った人達以外には、
人は見当たらない。
「十分前に到着、流石ね」
後ろから好きな人の声。
霊美ちゃんだ。
両手に缶コーヒーを持っている。
「どうぞ」
「わーい」
ちょうど人肌に冷えた缶コーヒーを開ける。
「ふ〜」
微糖が染みる。
空いた手で霊美ちゃんの手を握る。
「買ってきてくれてありがと」
「どういたしまして」
少し反応が薄い。
「何か考え事?」
「ええ⋯失敗した時のことを考えていたわ」
「ああ⋯山中さんがね。
気づいたら線路に降りそうになってたって、
幽霊に乗り移られてたってことなのかな」
「分からないわ⋯本人も幽霊は
今まで見たことがなかったと言っていたし、
何かしらのシンパシーがあって、
負の感情に影響されてしまったのかもしれないわね」
「なるほどね」
流石によく考えている。
真剣な表情も可愛い。
「失敗か⋯今まであんまり考えたことなかったな」
「そういう部分のマネジメントは
私に任せてちょうだい、
すみれさんは幽霊を注目するのをお願いするわ」
「わかったー」
コーヒーを飲み終え、缶をゴミ箱に捨てる。
霊美ちゃんはまだ飲み終えていない。
飲むの早すぎたかな。
「⋯ああ、缶のジュースなんて
滅多に飲まなかったから、
ゆっくり飲むのが癖になっていて⋯」
「ううん大丈夫、ゆっくり飲んでね」
「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」
猫のようにちびちび飲んでいる。
眺めているとすぐに飲み終わられた。
少し惜しい。
「さて、では行きましょうか」
「うん」
駅の中へ入り改札を通る。
ホームにはやはり人がほとんどいない。
そして件の幽霊も。
「居そうかしら」
「いないみたい」
「なら先に位置取りましょうか」
「そうだね⋯どうする?もう死角に行く?
それとも近くの椅子に座る?」
「そうね⋯幽霊が見える椅子に座りましょうか」
「うん!」
ホームの一番端にある椅子に座ると同時に、
各駅停車の電車がやってきた。
人の動きは少ない。
そういえば気になっていることがあった。
「霊美ちゃんって、
わたしが学校に着く頃にはもう席に着いてるよね」
「ええ」
「いつも何時くらいに家出てるの?」
「七時くらいね」
「七時!?早いねー」
「ええ、家にいるよりは学校に行って
早くすみれさんと会う方が楽しいから」
「え?そう?えへへ」
我慢しようとしてもはにかんでしまう。
「じゃあ私も早く来ようかな」
「無理しなくてもいいのよ?」
「大丈夫大丈夫、近いからって
今まで無駄に遅刻ギリギリを攻めてただけだから」
「それで遅刻したらどうするの」
「そしたら慰めて」
霊美ちゃんの膝に頭をのせる。
「そうならないように気をつけるの」
頬を指で押される。
「はーい」
霊美ちゃんの膝が少し冷えている。
自分の顔の温度で温め、温度を中和する。
「温かいわ」
「ん⋯頭撫でて」
「ええ」
霊美ちゃんの細い指が髪を通り抜ける。
「んふ⋯ふあ」
自然とあくびが出る。
「眠たいの?」
「うん⋯」
「そう⋯」
同意した瞬間に、撫でる手が止められ体を引かれる。
そして元の体勢に戻る。
「わわっ!」
「仕事なのだから、しゃんとしなさい」
「わかったぁ⋯」
再度頭を撫でられる。
「頭なら後でいくらでも撫でてあげるから」
「ほんと?」
「ええ」
「うん、頑張る」
ホームを見渡す。
少し人が増えてきて、
それに伴い細々としたもやが増えた。
だが大きいもやはまだ見えない。
「どうかしら?」
「まだ見えないね」
やはりホームに大きいもやはない。
⋯小さいもやもない?。
「⋯確かOLがいるって話だよね」
「ええ」
いる。




