新たな依頼
「どれから食べようかな」
丸一個ずつ食べると全部の種類は食べられないな。
「その⋯半分こして食べてもいいかしら?」
「うん!丁度そう思ってた」
メロンパンの中央を掴み、
左右に引っ張ると簡単に割れた。
「ふわふわだ」
「ええ、本当に美味しそう」
言葉通り霊美ちゃんが
美味しそうな目でパンを見る。
「⋯はい、あーん」
「え」
「あーん」
「あ、あー⋯あむ」
そしてパンを噛みちぎる。
「ん〜」
美味しそうに食べる
霊美ちゃんにそっとパンを渡す。
そして自分も食べる。
「ん!」
美味い。
砂糖とクッキー生地でザクザクした食感と、
それをくどくさせない中の柔らかい食感が、
いい感じにメロンパン。
「美味しいね、これ」
「ええ」
あっという間に食べ終わってしまった。
「次は⋯」
「これなんてどうかしら」
アップルパイに指さす。
「割れるかな⋯」
「なら、先に半分ほど食べてちょうだい、
私は別のパンを半分食べるから」
「分かった、そうしよう」
霊美ちゃんはこれもまた割りにくそうな
ピロシキを手に取った。
二人同時に食べる。
めちゃくちゃ美味い。
パリパリと子気味いいパイ生地と
甘いリンゴが非常にアップルパイ。
美味しいから半分と言わず、
六割くらい霊美ちゃんのために残しておこう。
「食べたよ」
「私も」
アップルパイとピロシキを交換する。
心做しか、ピロシキが縦半分ではなく、
楕円を描いているような気がする。
とりあえずひと口。
「!」
美味い。
旨みがすごい。
今までで食べたピロシキの具の中で一番美味いかも。
楕円形で残してくれたってことは、
少しでも具を多く渡そうとしてくれてたってことか。
霊美ちゃんを見る。
目が合う。
キスがしたくなる。
でもすぐにキスができる距離感では無いので、
口寂しさを紛らわすためにピロシキを食べた。
美味い。
すぐに食べ終わり、
その後もクロワッサンやカレーパンを分け合う。
そして最後に残ったのは。
「こうみると⋯少し大きわね」
「うん⋯」
腹五分目辺りに丸一人分の
ボリューミーなカツサンド。
入るかどうか急に不安になってきた。
しばし霊美ちゃんと見合い、満を持して一齧り。
『ジャクッ』
「ッ!」
表面を焼いたパンを割り、
歯ごたえのある衣を破った先の肉汁と肉感。
噛めば噛むほどそれぞれの美味さが調和していく。
飲み込んだと同時に、胃が拡張する感覚がする。
別腹が発動する瞬間を、初めて体感した。
「霊美ちゃん⋯」
「ええ⋯」
『ガブッ』
昼からのフラストレーションと、
それを最大限報わせるカツサンドによって、
手と咀嚼が止まらない。
感想も言葉も交わさず、ただ貪る。
二切れだったそれらはあっという間に一切れになり、
そして瞬きをした次の瞬間には、
その一切れもなくなっていた。
誰かがとったんじゃないかと
思うほどにすんなり消え、
気づけば飲み込んでいた。
「⋯はっ!」
数秒経って、食べ終わったことに気づいた。
「無くなっちゃった⋯」
「おかしいわ⋯確かにここにあったはずなのに、
味の感想を言う前に消えてしまった⋯」
「でも⋯確かな満足感がお腹にある」
「ええ、本当に食べたのね」
カツサンドの味よりも、
不思議な現象について語り合ってしまっている。
目の前には空のプレート。
「ご⋯ごちそうさま」
「ご馳走様でした」
呆気に取られて、無意識にスマホを見た。
「⋯あ!」
DMに連絡が来ている。
それも除霊相談所すみれいの方。
「霊美ちゃん!依頼来てる!」
「本当に!?」
体を乗り上げてお互いスマホを見る。
そこには確かに、
丁寧な文面と依頼内容が書かれていた。
突然のDM失礼します
お気軽にご相談できるという銘文を見て、
相談をしたく連絡させていただきました
相談の日時は、
今週来週再来週の日曜日を考えております
相談する場所は、
依頼する場所の近くを考えております
返信が届いた際に追って詳細をお伝え致します
どうか宜しくお願いします
「どうする?」
「うーん、
直近の日曜日は急過ぎるかもしれないから、
来週か再来週の日曜日になるかしら」
「そうじゃなくて、
依頼を受けるか受けないかとか、
返信するとかしないとかだよ」
受ける気満々だった霊美ちゃん優しい。
「あ、そうだったの、その⋯受けてもいいかしら?」
「うん!日時はどうする?」
「そうね⋯場所を把握してからにしましょうか」
「分かった」
DMの返信を練る。
DMありがとうございます!
こちらとしましては、
このご依頼既に前向きに検討しております
相談場所を把握してから日時を決めたいので、
そちらの方のご検討を先によろしくお願いします
日時としましては、
来週再来週の日曜日が好ましいです
返信お待ちしています!
「返信したよ」
「今度の依頼はどんなものになるのでしょうね」
「サクッとしたのがいいな⋯前みたいなのは怖いし。
まあ必殺技があれば大抵何とかなりそうだけど」
「衆目に晒されるのは、少し勘弁願いたいわね」
「それはそう」
テーブルに散らばった包装をまとめる。
「行こっか」
「ええ」
その日は依頼のための準備で、
お互い駅で解散となった。




