そうだ、パン屋に行こう
「きりーつ、れーい、着席―」
「お昼だー」
時鐘と共に生徒が各々の配置に着く。
さて。
「霊美ちゃん、購買行こ」
「すみれさん、待っていてくれてもいいのよ?」
「ううん、今日は私も買いに行くから」
「なら、一緒に行きましょうか」
「うん」
『ワイワイガヤガヤ』
「⋯なんだか今日はいつもより人が多いわね」
「うーんなんでだろ⋯あ!」
生徒の足元の隙間、目新しいボードに指さす。
「新商品入荷、カツサンド⋯成程」
代わり映えのしない購買のメニューに
新商品というだけでも人が寄ってるくるだろうに、
カツサンドとなれば殺到するのも分かる。
けどどうしよう。
「この人数がはけるまでに、
お昼休みが残っているかしら」
「食べる時間くらいは欲しいよね」
数分待つが、はける様子はない。
「自販機でジュースでも買って、
帰りに何か買って帰る?」
「そうしましょう、放課後デートと洒落こみながら」
「へへ」
「ちょっとそこの、仲のよろしいお二人さん」
「「ん?」」
仲がいいと言われて、
振り返らずにはいられなかった。
おそらくの声の主は、顔の知らない、
リボンの赤から見るにおそらく二年生の人。
中肉中背、茶髪で短髪、少しの化粧。
何かを後ろ手に持っている。
「もしかしてお昼ご飯で困ってたりしてます?」
そしてやや関西弁?。
「ええ、まあ」
素直に答えちゃう可愛い霊美ちゃん。
「でしたらこれ、いります?」
後ろ手に持っていたものが差し出される。
それは二袋分のカツサンドだった。
「くれるんですか?」
素直に聞いちゃう霊美ちゃん。
「ただでとは、そんなそんな⋯
こちらも商売でやらせてもらっているので」
「おいくらですか?」
「一つ五百円です」
ボードを一瞥すると、カツサンドは一つ三百円。
「元より二百円高いじゃないですか?
ソレって転売ですよね」
「酷いなあそんな言い方、
私も授業が終わる五分前くらいに
仮病使ってここにスタンバってたのに。
ちょっとはお気持ちを貰わんとやっていけません」
「なら遠慮しておきます、私たち別に
カツサンドが食べたくて来た訳じゃないので。
いこ、霊美ちゃん」
「え、ええ」
「あらそう、では、おおきに〜。
あ、そこのお姉さん⋯」
まだやってる。
「ああいう人も世の中にはいるんだね」
「⋯」
「どうしたの霊美ちゃん?」
「いえその、
カツサンドを今まで食べたことないから⋯」
霊美ちゃんは惜しそうに群衆を一瞥した。
「ッ〜放課後食べに行こ!」
「ええ!」
駅前。
お腹を空かせながら大きめのパン屋に着いた。
「もしかしたら、
こういう本格的なパン屋さんに
来るのも初めてかもしれないわ」
「そうなんだ」
パン屋にさん付け⋯可愛い。
「入ってもいいかしら?」
「うん、入ろう」
扉を開けると、
雰囲気のある喫茶店に
設置されているようなドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませー」
霊美ちゃんが遊園地にでも
来たみたいに辺りを見回す。
「いい匂い⋯」
「そうだね〜」
焼きたてのパンのいい匂いが鼻をくすぐる。
『『グゥー』』
腹の虫が二匹喚いた。
「ご、ごめんなさい、私ったら⋯」
「え?霊美ちゃんも?」
「すみれさんも?⋯ふふ」
「へへ」
なんて微笑んではいるが、
お互い目端でパンを自然と吟味している。
滅茶苦茶お腹空いた。
「えっと⋯これを使うのかしら」
霊美ちゃんがトングとプレートを指差した。
「えーと、カツサンドだけじゃ足りないだろうし、
使おっか、やってみる?」
「ええ!」
嬉々としてトングをカチカチさせている。
だがしかし、プレートが水平にならずおぼつかない。
「私がプレート持つよ」
「ありがとう、欲しいものを遠慮なく言って頂戴ね」
「うん、じゃあまずそこのメロンパン取って」
「了解」
お腹が減って色んなものに目移りしてしまい、
その度にお腹が減る。
あっという間にプレートが
パンの山になってしまった。
「後はカツサンド二人分、手で持ってて」
「わかったわ」
そしてレジで会計する。
「合計で三千六百七十円になります」
良心的価格設定で
三千円越えをたたき出してしまった。
「一旦私が払うわ」
「お願い」
霊美ちゃんが大きなお札を出して会計する。
包むパンが多い上に先に言われてしまったので、
お願いしてしまった。
臨時収入があったとはいえ、
私の方がお金持ちなのに。
⋯多分。
「よいしょ」
「あら」
「いいのいいの」
「なら⋯あそこに座りましょう」
陽の光が差し込むテーブル席を指さす。
「いいね⋯よっこいしょ」
トレーをテーブルに置いて対面に座り、
パンの山を均しながら財布を開く。
そして代金の半額を握る。
「はい霊美ちゃん」
「あら、後でいいのに」
やり取りが終わって、
二人の間にあるパンを鑑賞する。
「どれから食べようかな」




