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お互いスパイス


「オムカレー、カニクリームコロッケつきです」

「お、きたきた」


洒落た食器に囲まれて料理は運ばれてきた。


「思っていたよりも大きいわね…コロッケ」

「でしょ?サイドはかなり気前いいんだ」

「好感が持てるわ」

「いただきます」

「いただきます」

「コロッケかなり熱いから、

最初は食べないようにね」

「分かったわ」


卵とご飯とカレーをスプーンに掬い、口に運ぶ。


「!」


中辛程の辛さのカレーが、

咀嚼によって卵やご飯と混ざり合い

最初から最後まで味が変化している。

美味しい。


「すごく…美味しいわ」

「えへへ、連れてきた甲斐あったよ」


カレーのみを掬ってみる。

辛さの中に確かなスパイスがあり、

溶けた野菜のほのかな甘みや

肉の旨みが見え隠れしている。

次にご飯のみ。

固めに炊かれたのかやや粒だっており、

卵やカレーに負けない

存在感となったことが分かる。

卵だけ掬うのは難しいのでやめる。

改めて三種掬って口へ運ぶ。

うん、美味しい。


「そろそろだね」

『ザクッ』


すみれさんがフォークを突き立てた衣は、

気持ちのいい音を出した。

コロッケが彼女の口に運ばれる。


『ザクッ』

「ん〜これこれ」


本当に美味しそうに食べる人だ。

私も食べよう。


『ザクッ』

「あちっ!」

外側の部分は人肌程度だったが、

中心部はかなり熱かった。


「大丈夫!?」

「はふぅー、はふぅー、ええ、何とか」


火傷はしていない程度。

よく見るとすみれさんのかじった跡は、

私よりもやや浅い。

そこまで注視するべきだった。


「コロッケどうだった?」

「その…熱くてあまり味わえなかったわ」

「そっか…あ、

かじった部分を上向きにしないと

クリーム零れちゃうよ」

「あら、本当」


急いで言われた通りにする。

ご飯の盛り上がりに立てかけたので、

その周辺を最後に食べることになるだろう。


「一回かじったら、その後は結構すぐ冷えてくよ」

「もう食べても大丈夫かしら」

「いけると思う」

「なら」

『ザクッ』

「!」


濃厚。

液体と固体の中間のような食感。

そこにかにの旨みが凝縮されており、

非常に美味。

今まで食べたカニクリームコロッケの中では

まず間違いなくいちばん美味しい。

揚げ物、惣菜と広げていっても

間違いなく五本の指に入る。


「おい…しい…」

「でしょ?…あ、

霊美ちゃんクリームが端っこについてる」

『ペロ』

「ううん…そっちじゃない」

『フキフキ』

「はい取れた」

「…グスッ」

「え!?ちょ…嫌だった?」

「いいえ…その、違うの」


自分でも意外な涙が出たが、答えはすぐに出た。


「幸せだなって思ったら…自然と」

「そっ…かぁ」


不安とはにかみが入り交じった表情を見せられる。

安心させてあげたい。


「すみれさんと出会うまで…

すごく無味乾燥した人生だった。

幸不幸の波が少なかったの。

でもすみれさんと出会って、

気になってから付き合って、

そこからすごい色んな物や事を教えてくれて、

すごい、今が幸せなの」

「私も…友達にばかりついてって、

この高校選んだのも友達が多かったからで、

何一つ自分らしく、

自分で行動を起こしたことなんてなかった。

でも一人孤高に生きる霊美ちゃんを見て、

私もそんなふうになりたいなと

思ってたら好きになってて、

付き合ってからも頑張って

大胆なことしようとして、

それをわかってくれてるように

受け入れてくれる霊美ちゃんが隣にいるの、

すごく幸せだよ」

「…ありがとう、ありがとう…」


事の成り行きを

過大評価されている気がするけれど、

それ故に純粋な気持ちが心に染み込んでいく。

恭しい気持ちで匙を進める。

いい感じの温度になってきて美味しい。


「そういえば、門限も十一時に伸びたのよ」

「…ふーん」


喜んでくれるかと思ったが、

意外と反応は薄かった。


「…ねえ、誘ってる?」

「…?何に?」


どういう風に捉えたのだろう。


「私は今非常に、

霊美ちゃんへの大好きが高まってる状態なの」

「え、ええ」


まっすぐ言われると気恥しい。


「そんな状態で、今日はまだ一緒いれるよ、

なんて言われたら…ねえ?」


ねえと言われても。


「…これ食べたら、二人きりになれる場所探そうか」

「え、ええ」


言われて事の大きさに気づいた。

すみれさんは肉食獣のような目をしている。

少し、気が気でなくなってきた。

この後何をされてしまうんだろうと考えると、

胸が高鳴ってしまう。


「ごちそうさまでした」


は、早い。

私はまだ半分も食べ終わっていない。


『じー』


一挙手一投足を見つめてくる。

気恥ずかしくて食べられたものじゃない。

だが何とか食べ終わる。


「ごちそうさまでした」

「行こ」

「ええ」


いつもなら「行こっか」と言ってそうな場面。

相当、焦っていることが分かる。


「ありがとうございましたー」


会計を済ますと、手を繋がれて即座に歩き出した。

それもかなりの急ぎ足で。


「ど、どこに向かうの?」

「カラオケボックス」

「でも、私歌えないわよ」

「大丈夫、歌わないから」

「え?」



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