9-1いよいよだよ
長澤由紀恵15歳(中学三年生)。
根っからのお兄ちゃん大好きっ子。
そんなお兄ちゃん大好きっ子が学校見学で兄の高校に行くと‥‥‥
「私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!」
ここから始まるラブコメディー。
さいとう みさき が送る初のラブコメ小説!
あの二人何しに来たのよっ!?(由紀恵談)
三学期になっていよいよ私たち三年生もラストスパートとなる。
「ふぇぇえええぇぇ~ん! 由紀恵ちゃん模試の結果合格率七十九パーセントだってぇ~!!」
教室で模試の結果をもらって希望校の合格率表示を見ている。
―― 長澤由紀恵 桜川東高校/合格率:百パーセント ――
私の結果は見ないでも分かっているいるけど問題は紫乃だった。
「うーん、この時期には八十パーセントは越えたかったわね?」
「ううぅぅ、あと少しなのにぃ~」
何度見ても同じなのに紫乃は結果表とにらめっこしている。
しかし紫乃には桜川東高校に何が何でも合格してもらいたい。
そしてお兄ちゃん防衛隊に入ってもらい迫りくる高橋静恵や矢島紗江、泉かなめを撃退するのを手伝ってもらいたいのだ!
「仕方ないわね、苦手教科を勉強会ね!」
「ええぇ~、由紀恵ちゃん厳しすぎるからなぁ、高橋さんたち呼んじゃ駄目?」
こいつ、何故敵を呼ぶ!?
しかし高橋静恵の勉強を教える方法は確かによくわかるし紫乃でさえ学力が向上したのは事実だった。
ここは断腸の思いで呼ぶか?
私が悩んでいたら紫乃は既にスマホで連絡をしていた。
「高橋さん大丈夫だって~。やったぁ~!!」
「はぁ、仕方ないわねぇ‥‥‥」
まあいつもの事だから仕方ないか。
でもついでとばかりに他の二人もついてくるのだろうなぁ。
お兄ちゃんがいない時に誘導でもしようかな?
その時は私はそう思うのだった。
* * * * *
「えぇっ? 高橋さんインフルエンザで寝込んでるだって!? それじゃあ仕方ないよねぇ~」
紫乃はスマホからのメッセージを読んでいた。
そしてあのおっぱいがインフルエンザで寝込んでいると。
う~ん、この時期は要注意よね?
確かに最近はインフルエンザが流行しているってテレビのニュースでもやっていたわね。
私は仕方なしに紫乃に言う。
「インフルエンザじゃ仕方ないでしょ? 明日の勉強会は私が紫乃に教えるからね。覚悟なさい!」
「ひえぇぇぇ、由紀恵ちゃんお手柔らかにぃ~」
涙目の紫乃だけど甘やかすわけにはいかない。
「明日は苦手な部分を集中的にやるわよ!」
私はそう紫乃に言うのだった。
* * * * *
「で、なんで矢島さんと泉さんがここにいるんです?」
「あ~、中学生の問題なら私にも教えられるかなぁ~って。でも意外と難しいですねぇ~」
「‥‥‥分からない時は鉛筆に番号を振って転がす。これなら運が良ければ正解」
何しに来たんだこいつら?
「う~ん、やっぱりわからない~」
「だからここは代数を入れてイコールの反対にも同じく代数を入れて‥‥‥」
あれ?
紫乃に教えるのってこんなに難しかったっけ?
何度言っても紫乃は注意点を覚えないで間違いを繰り返す。
私はだんだんとイライラしてくる。
「なんで何度言っても分からないのよ!」
「ふぇぇええぇぇ~ん、由紀恵ちゃん怖ーいっ!!」
思わず強く言ってしまう。
そしてハッとする。
ちょっと涙目の紫乃。
高橋静恵だったらもっとうまく教えていただろう。
悔しいけどあのおっぱいは人に物を教えるのが上手だ。
「‥‥‥ごめん、紫乃。強く言い過ぎた」
反省する私。
しかしこうも勉強がはかどらないと言うのも想定外だった。
コンコン。
ドアをノックする音がする。
誰だろう?
私は返事をして部屋に入ってもらう。
「由紀恵、誰か来ているのか?」
お兄ちゃんだった。
そしてお兄ちゃんは私の部屋を見てすぐに理解する。
「ははぁ~ん、高橋がいないんで苦戦しているな?」
「なんでわかるの?」
「紫乃ちゃんが涙目だもん」
お兄ちゃんはそう言って笑っている。
むう、こっちの苦労も知らないで。
しかしお兄ちゃんは問題集をひょいっと私から取り上げパラパラとめくってみる。
「まあこれなら俺でもなんとかかな? いいかい紫乃ちゃんここはねぇ」
そう言ってお兄ちゃんは紫乃に問題の解説を始める。
そして私は驚く。
高橋静恵ほどではないけどお兄ちゃんも教えるのが旨い。
でもなんで?
「お兄ちゃん、何でそんなに教えるのが上手いのよ?」
「ん? いやこれって由紀恵が小学生の時に宿題教えるのと同じやり方なんだけどね」
お兄ちゃんはそう言って笑っていた。
私が小学生の時?
私は遠い過去を思い出そうとする。
何時からだったろう。
お兄ちゃんとずっと一緒にいたい、学校もお兄ちゃんと一緒の所へ行きたい。
そう思うようになって自主勉強を頑張って来た。
でも考えてみれば最初は私も勉強嫌い。
それを分かり易い様に教えてくれたのは‥‥‥
「ふう、紫乃に勉強教えるのは小学生みたいにしなきゃいけないって事ね?」
「あぁ~、由紀恵ちゃんひどぉ~いぃっ!」
「うーん、でもまあ実際そうなんだけどな。ほら紫乃ちゃんここまで出来たら休憩だよ。飲み物持ってくるから頑張ろうよ。うん、そうそう。やればできるじゃないか! 次の問題も同じだよ」
お兄ちゃんはそう言って紫乃に勉強を教えていく。
それは小学生にでも教えるかのように、そして間違えそうになると問いかけ前にやったことを思い出させ上手くいけば褒める。
それは何となく安心が出来そして褒められると凄くうれしくなる。
そうだった、お兄ちゃんに褒められるたびに私はどんどんと勉強にのめり込んでいったのだった。
「やっぱりお兄ちゃんだよね」
「ん? なんか言ったか?」
「んーん、なんでもない!」
私はしばしお兄ちゃんが紫乃に勉強を教える姿を懐かしく思いながら見守るのだった。
あ、矢島紗江も泉かなめもすっごいぃ使えなかった!
ほんと何しに来たのよあの二人はぁっ!!
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