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私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!?  作者: さいとう みさき
第六章お兄ちゃんは妹がもらったラブレターを気にしなきゃいけないよ?
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6-10灯台下暗し

長澤由紀恵15歳(中学三年生)。

根っからのお兄ちゃん大好きっ子。

そんなお兄ちゃん大好きっ子が学校見学で兄の高校に行くと‥‥‥


「私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!」


ここから始まるラブコメディー。

さいとう みさき が送る初のラブコメ小説!


はぁ、めんどくさい(由紀恵談)


 「長澤先輩! どう言う事です!?」



 吉野君はかなり慌てて昼食の時間に私の教室に来ていた。

 途端にさわさわと周りで何か言われている。



 「えーと、吉野君。ちょっとこっちに来て」


 私は吉野君の手を引っ張って廊下の向こうへと行く。


 教室を出る時に後ろから女の子たちの黄色い声が聞こえたので後で戻った時何を言われる事やら。




 私は吉野君を引っ張って誰もいない実験室に入る。


 

 「一体何があったって言うのよ?」


 「何がじゃないですよ、生徒会室で会長が爆弾発言するものだから天川さんなんかそれはそれは取り乱して」


 ここまで聞いてなんとなく想像が出来るので私は思い切り大きなため息をつく。



 「違うからね。私は会長の事なんかこれっぽっちも好きじゃないからね?」


 「‥‥‥ですよねぇ~。やっぱり」



 吉野君も既に分かった様だ。

 そう、あの会長様が早とちり始めて陽子ちゃんがそれに取り乱しているのだろう。


 私は高橋静恵のSNSメッセージを思い出す。



 『そう言ったのには早めにはっきりと言っておかないとどんどんと良い方に拡大解釈され取り返しがつかなくなるわよ!』



 既に始まっている様だ。


 「吉野君、これ以上被害が拡大する前に会長を止めるわよ!」


 「はい、僕もその方が良いと思います。このままでは長澤先輩が天川さんに刺されてしまいます!」



 なにそれ、こわっ!


 しかし陽子ちゃんの事だ、会長の暴走を止めないと私を亡き者にしてそのまま会長も、そして自分も後を追ってなんてなってしまうかもしれない。



 「急ぎましょう、吉野君!」

 

 「はいっ!」



 私たちは急いで生徒会室に行くのだった。



 * * *



 「会長、考え直してください!」


 「ええぇぃ、天川放さんか! 長澤は僕の気持ちを理解したのだ。今からでも新島先生に僕から理解を求めに行く!」


 生徒会室に行けばすでにそこは修羅場と化していた。



 「何やっているのです、会長!」


 「おお、長澤ではないか! ちょうど好い、これから僕と一緒に職員室へ行きお前も一般入試で県央高校を受けると話に行くぞ!」


 「会長! 待ってください、長澤先輩は桜川東を受けるって言っているのですよ!!」


 新田会長は鼻息荒く私に向かって「さあ行こう、すぐ行こう!」などと言っている。



 「新田生徒会長!」



 私は声をあげる。

 ここでようやく会長と陽子ちゃんがピタッと止まる。



 「新田会長、私は桜川東高校へ行きます! そして私は桜川東高校にいる思い人と一緒に地元の大学に行くのです!」



 「な‥‥‥に‥‥‥?」


 新田会長は私の言葉に動きを止めたままそう聞き返してきた。


 「長澤先輩?」


 陽子ちゃんも私を見ている。


 「良いですか、新田生徒会長。お気持ちはうれしいですが私には既に心に決めた方がいます。会長の申し出は残念ながら受ける事は出来ません。この場ではっきりとしておきます、私は県央高校へは行きません。私は桜川東に行きます!」


 ここまではっきり言って新田会長は初めて状況を理解したようだ。


 「長澤、お前、僕以外に好きな奴がいたのか?」


 「はい、います!」


 「ぼ、僕の手紙を読んでくれたのではないか?」


 「読んだうえでの正式なお答えです。私は会長のお気持ちを受けられません! そして私は私の好きな人の為に桜川東高校を受けます!」



 ずるっ。


 会長の眼鏡が思いきりずれる。

 そして腰にしがみつく陽子ちゃん共々へなへなと床にしなだれる。



 「そんな‥‥‥ 長澤に好きな奴がいて、そいつの為に桜川東なんて所へ行くと言うのか? 全国模試で上位百人に入れる実力を持ちながらそんな奴の為に未来を捨てるのか?」


 「そんな奴とは失礼な! あの人はとても素晴らしい人です!!」



 そう、お兄ちゃんは誰よりもステキで私の一番。

 それをそんな奴なんて!!



 「信じられん。将来東大を経て官僚へと突き進みこの僕と共に明るい未来を築くのではなかったのか?」



 「いや、無いからそんな未来!」



 何時の間にそんなストリーが出来上がっているのよ!?

 しかも新田会長と明るい未来を築く?


 ないないっ!


 そんなおぞましい未来は無い!!


 

 「長澤先輩が桜東に行きたがっていた理由って‥‥‥」


 吉野君はそう言って私を見る。

 そう言えば吉野君も私の事が好きって言ってくれていたんだっけ。



 「長澤、そんな未来で貴様は本当に良いのか? 僕と共に切磋琢磨して頂点を目指すのではなかったのか?」


 「目指す方向が違います! 私は自分の幸せを目指しています!!」


 はっきりとそう言うと新田会長はうなだれた。

 そしてそのまま黙ってしまった。


 「会長‥‥‥」


 陽子ちゃんはそんな会長に気遣っている。


 って、新田会長ってまさか陽子ちゃんの事気付いていない?



 「会長、もしかして陽子ちゃんの気持ちわかっていないのですか?」


 「天川の?」



 新田会長は私のその言葉に反応した。

 そしてぼんやりと私を見てから陽子ちゃんを見る。


 「陽子ちゃんも会長のこと好きならしっかりと支えてあげなさいよ。一緒に県央行って東大目指して会長と一緒にいてあげなさいよ」


 「長澤先輩‥‥‥ 新田会長?」


 陽子ちゃんは私に言われて顔を真っ赤にしながら会長を見る。


 「天川、お前本当に僕の事を‥‥‥」


 「‥‥‥はい、会長の事好きです。ずっと好きです。だから生徒会にも入りました。勉強も頑張って会長の目指す県央にも行けるように‥‥‥」


 陽子ちゃんは今にも泣きそうな顔だった。

 それを驚きの顔で見る新田生徒会長。


 「ほら、会長。陽子ちゃんに何か言ってやるべきじゃないですか?」


 「僕は‥‥‥」


 私は最後までそれを見ずに生徒会室を後にした。

 



 「長澤先輩、それでも僕はあきらめませんからね。絶対に先輩を追って桜川東高校に行きますからね。そして必ず先輩を‥‥‥」


 「ふう、吉野君のその情熱はうれしいけど。今はやっぱり私はあの人の事が好き。それは変えられないよ?」


 「それでも僕はあきらめませんからね!」



 むう、こう言う所は頑固ね吉野君は。

 お兄ちゃんにも少しは吉野君を見習ってもらいたいくらい。




 私は吉野君に手を振って自分の教室へと戻るのだった。

 



 

  


 






 

 「由紀恵ちゃんクラスで噂になってるよ? 下級生の男の子と駆け落ちしたって」


 「いや、ちゃんとこうして戻って来てるでしょうに! 何その駆け落ちって!?」


 「愛の逃避行?」


 またまた私のスマホに高橋静恵以下略のSNSメッセージが飛び込んでくるのだった。 



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