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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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ドラゴンストライク

 メルディア王国の王宮食堂。

 当然というべきか一般の使用人と騎士や貴族階級の人間が使う食堂で分かれてはいますが、厨房は一つだけなので出されている料理は一緒だったりします。

 つまりは貴族もとりあえずは納得するレベルの料理を、使用人にまで出す余裕があるということでもあります。

 さらに最近では北のドワーフ王国で活躍する某日本人の影響でレシピが増えてきており、たまに小腹すかせた王子が騎士や兵士に紛れて何食わぬ顔で飯食ってたりします。


「し、死ぬかと思った」

「おつかれー」


 そんなにぎやかな食堂の端の席にて、ようやく団長から解放されたカオルさんがテーブルに突っ伏していました。

 正面にはがつがつと海鮮パスタを食べてるディレットさん。

 一応カオルさんを労っていますが、注意が八割パスタに向かっています。


 ちなみに死合いはかなりの接戦となりましたが、テンション上がった団長が魔力放出して練兵場が崩壊したので、グレイスに連行されて終了しました。

 カオルさんは少し焦げたけど軽傷で済みました。

 オネエに比べたら防御力が低いようですが、練兵場が崩壊するレベルの無差別爆撃受けて焦げただけで終わるのもおかしいです。


「あれ? 先輩は何処行った?」

「何か用事ができたって言ってたわよ」

「おかしいな。あの人が中途半端に物事を放置するなんて」


 この好奇心旺盛な人魚がどっか行っちゃったらどうするつもりなんだと思ったカオルさんでしたが、オネエはオネエでディレットさんの食べっぷりを見て、この子は食ってる間は動かないと確信したため場を離れてたりします。

 そして目の前で皿を五枚ほど重ねているディレットさんを見る限り、それは恐らく正解です。


「カオルも注文してきたら? 見たことない料理がたくさんあるわよ」

「一律じゃなくてメニューがあるのか。贅沢な食堂だな」


 促されたカオルさんがテーブルの中央に置かれたお品書きを見ると、確かに色々な料理の名前と簡単な説明が書かれています。


「……何か見たことある名前がチラホラと」


 そしてそれらの料理は、名前は見たことないけれど大体予想がつくものの他に、明らかに見知った名前な上に説明も合致するものがあります。

 言うまでもなく、ジュウゾウさんの店でカレーのみならず様々な料理を食べつくしてきた騎士たちのリクエストで増えたメニューです。

 そのメニューのために厨房の料理人が何人かジュウゾウさんの下を訪れていたりと、無駄にメルディア王国へのジュウゾウさんの影響力が大きくなっています。


「とりあえず注文してみるか」


 立ち上がりカウンターへと向かうと、少し小太りなおばさんに注文を告げ、意外に早く出てきた料理を受け取るカオルさん。

 注文したのはエビドリア。

 日本料理ではありませんが、実は日本で働いていたスイス人料理人が考案した料理だったりします。

 やるなスイス人。


「いただきます」


 そして席に戻るなり、手を合わせて食べ始めるカオルさん。

 チーズは日本のものより臭いが強いですが、エビは新鮮なものを使っているのか噛みしめるたびにプリプリとした肉がちぎれて口の中にうま味が広がっていきます。


「……エビ」


 そしてカオルさんが食べているのをものほしそうに眺めるディレットさん。

 アンタもう十分食っただろとつっこまれそうですが、人が食べているのを見ると自分も食べたくなるものだから仕方ありません。


「……少し食べるか」

「うん。食べる」


 その視線に負けエビドリアを差し出すカオルさんと、目を輝かせて受け取るディレットさん。

 少しと言ったのに半分近く食べられたのは言うまでもありません。



「さて。こんなもんか」


 メルディア王都の裏手にある草原にて。何やら満足して頷いているのは、魔法学園に通う日本人の魔術師なカガトくんです。

 視線の先にはガッツポーズをした半魚人みたいな手のひらサイズの奇妙なオブジェ。

 見ていたらSAN値が削られそうな禍々しさです。


「お久しぶりねカガトちゃん」

「ほわぁ!?」


 突然耳元でささやかれて、カガトくんは文字通り飛び上がりました。

 驚いて振り返ったそこにはにっこりと笑みを浮かべたオネエの姿。

 捕食者に背後をとられた。カガトくんピンチです。


「お、お久しぶりです国生さん」

「ええ。それで、何をしているのかしら? 随分と名状しがたいものを設置してるみたいだけれど」

「ああ。これ転移魔術の目印です」

「……これが?」


 てっきり人様の庭で呪いでもかけてたのかと思ったオネエは拍子抜けしたように言います。

 しかし改めて確認しても何か深そうな物体の禍々しさは変わりません。


「えーと、転移魔術を作ったはいいけどまだ問題があって、目的地に人が居ると危ないんですよ。だから知り合いに目印になるけど人が近寄らないようなモノを作ってくれって頼んだんですけど……」

「……確かにこれは人は近づかないわね」


 撤去しろと言われても近づきたくないレベルです。

 むしろ転移魔術を使うとコレ目がけて飛ぶことになるとか、何の罰ゲームでしょうか。


「でも何でそんなものを王都の近くに設置してるのよ」

「転移魔術がどれくらいの距離まで使用可能かの実験のためです。これからフィッツガルドとこちらで往復してみようかと」

「ふーん。なるほどねえ」


 そう言って空を見上げるオネエですが、ふと何かに気付いてカガトくんに向き直ります。


「転移魔術って言っても実際には空を飛んでいくのよね?」

「え? はい。だから同時に使ったとき空中で衝突しないよう調整中なんですけど」

「メルディアからフィッツガルドに飛ぶなら、もろに竜王山の上空を通るけど、ドラゴンに撃墜されたりしないの?」

「……」


 オネエの言葉を聞いて青ざめるカガトくん。

 どうやらその可能性はまったく考えていなかったようです。


「……安全を考えて速度は控えめだったんですけど、ドラゴンが追いつけないくらい加速するよう改良してきます」

「そう。まあ頑張りなさいな」


 そうして無自覚な自殺未遂はオネエの手によって止められ、カガトくんは陸路でフィッツガルドへと帰っていきました。

 今日も異世界は平和です。


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