背泳ぎのターンとゴールで頭をぶつける
水泳。
日本人なら誰しも学校で習った経験があり、まったく泳げないという人は少ないと思われますが、実は海外では水泳の授業がないというところも結構あったりします。
学校で習わなくてもスイミングスクールが一般的な場合や、家族に教わるものだという地域もありますが、日本のように公立の学校に必ずプールがあるというのは実は珍しかったりします。
これは昭和三十年に、修学旅行中の小学生が乗った船が沈没し、多くの犠牲者を出したのがきっかけであると言われています。
水難事故での犠牲者を少しでも減らすために、学校のカリキュラムとして取り入れられたのです。
とはいえ、泳げない人にとっては苦痛の時間ですし、理由があれば欠席もできるので結局泳げないまま学校を卒業してしまったという人も多いでしょう。
結局はやる気の問題なのかもしれません。
作者も昔は泳げなくて、姉にキャッチされて足のつかないところでリリースされたりしましたが、小学校を卒業するころには各種泳法はもちろん立ち泳ぎまでできるようになっていました。
生きてるって素晴らしいね。
「わあ。思っていたより大きいですね」
さて、そんな水泳の授業を初めて受けるシーナさんですが、目の前に広がる五十メートルプールを見て目を瞬かせています。
ちなみに着ている水着は普通のスクール水着。いわゆる新スクです。
地味なデザインのはずなのにシーナさんの体の凹凸が著しいせいで、他の女子とは別のデザインの水着を着ているようにすら見えます。
ちなみに創作等でよく見られる旧スクは、八十年代には新スクに取って代わられたはずなのですが、未だに採用している学校は実在するのでしょうか。
「は……HAHAHA! う、腕がなるでござるな!」
一方大量の水を前に腕組みをして仁王立ちしつつも、尻尾の毛を逆立たせプルプル震えてるヤヨイさん。
いっぱいいっぱいです。動揺のあまり笑い方がアメリカンになっています。
天然オッドアイの似非アメリカン猫耳侍女子高生ってもうわけわかんねえな。
ちなみにプール回と聞いて前回登場した人魚のフェリータさんの出番を予想した人も多いでしょうが、出ません。
あの面倒くさい人魚を学校のプールにまで持ってくるなんて面倒くさいことを誰がするというのでしょうか面倒くさい。
「ヤヨイさんもしかして泳げないの?」
「な、何をおっしゃるうさぎさん!? 武士ともあろうものが泳げなかったら笑いものでござるよ! 何せ甲冑を着て泳ぐことすら当たり前でござるからな! そのため親父殿に海に放り込まれたこともあるでござるが、何度も沈みながらも生還し泳げるようになったでござる!」
「うん。そのせいじゃない?」
要は猫としての本能的な恐怖よりも、トラウマの影響が強いようです。
お風呂は普通に平気なので、徐々に冷めていくお湯につけたら茹で蛙状態になるかもしれません。
「つまり今はどんなに怯えていてもプールに放り込んだら人魚の様に泳ぎだすんですね?」
「HAHAHA。今日もシーナ殿のジョークは物騒でござる」
「いやあれ本気だって」
「実際に放り込んだらどうなるのか興味津々だってあれ」
冷や汗を流しながらアメリカンに笑うヤヨイさんと、いつもの微笑みで目を輝かせながら言うシーナさん。
今日も日本は平和です。
「ぎにゃああああぁぁぁぁっ!?」
……平和です。
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一方ローマンさん率いる男子生徒たち。
「みんな! 双眼鏡は持ったな!」
「応!」
水泳の授業は男女別で行われるため、女子が水泳の授業を行っている間男子はサッカーをしているはずでしたが、何故か数名の男子が授業中の校舎内をスニーキングしていました。
「ふっ、この暑い中サッカーなど死ぬかと思ったが、教員も余程やる気がなかったと見える。まさか監督を放棄して自習状態にしてくれるとはな。故に覗くのは必然!」
何が故にで何が必然なのかはよく分かりませんが、覗きは学生がノリでやっても立派な犯罪なのでよい子も悪い子も真似しないでください。
修学旅行でノリでやろうものなら強制送還もありえるので自重しましょう。
「で、でもよかったのかローマン? 反対してる連中を置いて来て」
「ふっ。あのような己の心をも裏切る自称草食系など置いておけ。あいつらは去勢された豚だ! 少し上を見上げれば極上の餌があるというのに、足元の粗末な餌を貪ることしかできない意気地なしだ!
男ならば時に狼とならねば世の魅力的な女性に対し失礼だろう!」
「お、おう。何かよく分からんが俺たちは間違ってないんだな!」
「何て気迫だ。これが貴族……ッ!」
何かよく分からん理論でよく分からん説得力とリーダーシップを発揮するローマンさん。
そのカリスマ性をどっか他の真面目な場所で出せばヤヨイさんが好意を抱く可能性もあるのですが、ローマンさんだから仕方ありません。
「よし。ついたぞ。この屋上からならば、奥まった場所にあるプールを一望できる」
「遠いな。なるほどそれで望遠鏡か」
「さあ……覗け! 己が栄光を掴み取れ!」
屋上にたどり着くなり、フェンスにしがみつく勢いでプールをガン見する男子(馬鹿)たち。
馬鹿な子ほど可愛いとは言いますが、身内ならともかく他人の馬鹿は可愛くないのでこのままフェンスごと落下してくれないでしょうか。
「……ったあ!?」
「いってえ!」
しかし各々が双眼鏡や望遠鏡を覗き込むなり、目を押さえて痛みを訴え始めました。
逆まつげの呪いではありません。夏服のブラ透けで鍛えられた彼らには、今更まつげが目に刺さったくらいで狼狽えるような常識は存在しないのですから。
「ふ……誤算だった。まさか『盗撮しようとカメラを覗き込んだらうっかりスコープに目をぶつけてしまう呪い』が双眼鏡にも発揮されるとは」
「おまえそういうことは先に言っとけよ!?」
「だからおまえはローマンなんだ!」
ちなみにスコープを覗かずに撮影した場合はレンズが砕け散ります。
今日も日本は平和です。




