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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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口でビニールプールをふくらませるとかいう拷問

 夏休み。

 多くの国で実施されているこの休みは、要するに「こんな暑いのに授業なんてやってられるか! 俺は実家に帰るぞ!」という休みであり、多くの学生にとっては遊びまくるチャンスでもあります。


 ちなみにアメリカにも夏休みはありますが、六月に始まって九月まで休みという日本人からしたら羨ましくなる長さであり、しかも宿題とかありません。

 羨ましくなると同時に、そんな長期間授業ない上に宿題ないとか休み明け大丈夫なのかと心配になるのは日本人のサガかもしれません。


「さて」


 そんな夏休みのある日。

 安達家の庭にてリィンベルさんが何やらホースをもって水を撒いていました。

 それなりに広い庭の真ん中にはビニールプール。よく子供が遊んでる丸いアレです。

 なみなみと水がそそがれており、強い日差しの中でも涼しげです。


「……あの総理。これは一体?」


 そしてそんな庭に、リィンベルさん以外にも二人の男性が。

 一人は家主の安達くんで、もう一人はつっこみのお兄さんと国民的人気を誇る若手議員です。

 突然総理に呼び出されたと思ったら、謎の状況に置かれて困惑気味です。


「ええ。実はアマテラス様から召喚返しをすると連絡が来まして」

「ああ、今は国会はありませんからね。こちらに召喚返しするわけですか」

「その通りです月込くん」

「鳴海です。それっぽい名前をねつ造しないでください」


 さらりと勝手に名前を付けて呼ぶ安達くんにつっこむつっこみのお兄さんこと鳴海くん。

 でもきっとこの先も若手議員とかつっこみのお兄さんとしか呼ばれないので、多分覚えなくても問題ありません。


「しかし召喚返しをするなら何故私を?」

「君は若手の中でも一番見どころがありますからね」

「……恐縮です」


 どちらかというと安達くんに批判的な自分が評価されていたとは思わず、姿勢を正して頭を下げる若手議員。


「だから今のうちに様々なストレスを与えておくべきだと思いまして」

「私は実験用のマウスですか」


 要するに将来有望な若手へのいじめ、もとい経験をつませるためでした。

 これも将来有望な若手への愛ゆえです。決して安達くんがつっこみ役がいないと張り合いがないとか思っているわけではありません。


「それにしても何故ビニールプールを?」

「今回来るのはちと特殊なやつでの。まあ説明するより見せた方が……」

「きゃああああっ!?」


 若手議員の質問にリィンベルさんが答えていたその時、突如ぼふんという気の抜ける音と共に煙が空中に発生し、中から現れた何者かがビニールプールに落下します。


「……しくしくしくしくしく」


 そしてビニールプールにつかったまま、顔を両手で覆い泣き出す何者か。

 ちなみに「しくしく」というのは擬音ではなく口で言っています。

 それを見た三人は内心で「うわぁ、面倒くさそうのが来た」とシンクロしました。


「何がそんなに悲しいのですかお嬢さん?」

(行った!?)


 しかしそんな面倒くさそうな何者かに向かって、いつも通りの紳士スマイルで話しかける安達くん。

 こういった面倒くさい人種に構うのは、よほどのお人よしか腹黒なので注意しましょう。


「……い、いぢめる?」

「いじめませんよ。私はこの日本国の総理大臣を務めております安達と申します。お嬢さんは?」

「わ、私はフェリータ。人魚だから国とかはなくて、一族のみんなと暮らしてたの」

「人魚?」


 言われて三人がビニールプールの中に視線を向ければ、なるほどそこにはキラキラと輝く鱗で覆われた尾っぽが。

 この時点で若手議員は「また扱いづらそうなのが来たなあ」と遠い目です。


「ではフェリータさん。身近に日本人は居られましたか?」

「そ、それが酷いのよ! 聞いて!」


 安達くんの問いに、勢いよく顔と声をあげるフェリータさん。

 その勢いに安達くんもちょっと距離を取ります。


「ディレットったら酷いの! 私の髪がワカメみたいだって! だから恋人の一人もできないんだって!」


 皆さんも大体予想していたでしょうが、フェリータさんは前回出てきた食いしん坊人魚の知り合いでした。

 ついでに言うとその髪の色は綺麗なエメラルドグリーンですが、ウェーブがかっており水中で揺らめいていれば確かにワカメに見えなくもありません。

 でも多分というか間違いなく恋人ができない原因はそこではありません。


「でも見返そうにも自分から男の人に近づくのも恐いし、だから私でも受け入れてくれそうな男を召喚したの!」


 ――何やってんだてめえ。

 彼女の話を聞いたら大多数の人間がそうつっこんだことでしょう。

 現に若手議員が思わずつっこみフェリータさんが涙目になっています。


「だ、だって異世界から人が来るとは思わなかったんだもん! むしろ異世界まで範囲広げないと私を受け入れてくれる男が居ないって何なの!?」

「逆切れした!?」


 逆切れするフェリータさんとつっこむ若手議員。

 そして若手議員がつっこむせいで書くことがない地の文。


「落ち着いてくださいフェリータさん。それで、その召喚された男性というのはどうなったんですか?」

「……ッ」


 安達くんの問いに再び顔を手で覆うフェリータさん。

 まさか。そんな嫌な予想が三人の脳に過ります。


「ディ……ディレットに先に接触されて取られた」


 うわあ。

 もう何かうわあとしか言いようがありません。

 これも全てディレットって奴の仕業なんだ。


「し、しかも異世界の女神から『召喚した責任とってこっち来い』とか言われるし、踏んだり蹴ったりよ!」


 いやそれ自業自得やんとか、踏んだり蹴ったりってアンタら足ないやんと色々つっこみどころはありますが、とりあえずフェリータさんが残念系女子であることは分かりました。


「……事情は分かりました。大丈夫。幸いこの日本にはものず……優しい男性も多いので、フェリータさんと気の合う男性も見つかることでしょう」

「ほ、本当?」


 いつもの紳士スマイルで言う安達くんと、涙目ながらも目を輝かせるフェリータさん。


「あれ絶対心にも思ってないこと口にしてますよね」

「まああれくらい言えんと一国の指導者なぞやっておらんじゃろう」


 一方二人の様子が詐欺師と被害女性にしか見えず、小声で言う若手議員とフォローするリィンベルさん。

 今日も日本は平和です。



 一方高天原。


「ちゃんと国会じゃなくて総理の家に召喚返ししたよ!」

「まあ姉上にしては迅速な対応でしたね」


「今は国会やってないもんね、えっへん」とドヤ顔で言うアマテラス様と、この姉召喚返しの時期とかちゃんと考えてやってんのかなと疑うツクヨミ様。

 実際のところ召喚返しには色々制約があったりするのですが、その辺りはシリアス回に説明があると思うので今回はスルーします。

 シリアス回とか一年に一回くらいしかないじゃねえかとつっこんではいけません。


「しかしやはり安達総理は冷静かつ有能ですね。相変わらず地味に能力値が高いまま衰える気配もありませんし、やはり彼は父上の転生体なのでは?」

「え? そんなわけないでしょ。総理大臣がお父さんならもっとへっぽこなはずだよ」

「……だから、スサノオといい姉上といい、父上を何だと」


 ツクヨミ様の推測に対し弟同様に父親をディスるアマテラス様。

 それに対し苦言を呈するツクヨミ様ですが。


「だって私のお父さんなんだよ!」

「凄い説得力だ!?」


 アマテラス様の一言に納得せざるを得ませんでした。

 実際のところイザナギ様がどうなのかは皆さんのご想像にお任せします。


「まあそれは置いておくとして、召喚された人間の方も今回は対応が早かったようですね。姉上が加護を与えたのですか?」

「ああ、あれは私じゃなくて……」

「俺だあ!」


 ツクヨミ様の問いに答えるアマテラス様の声を遮って、突如現れる筋肉もといスサノオ様。


「スサノオ……? ああ、そういえばスサノオは父上に海を治めるように言われていましたね。まったく守らずに家出しましたが」


 アマテラス様が太陽神。ツクヨミ様が月神と分かりやすい役割を与えられているのに対し、三貴子の末弟であるスサノオ様に与えられた役割は何なのかというのは未だに議論されています。

 一説にはアマテラス様が高天原、ツクヨミ様が夜の国、そしてスサノオ様が海原を治めるようにイザナギ様に命じられたとされていますが、スサノオ様は「それよりおふくろだ!」と言うことを聞かなかったので結局海は治めずに蹴り出されました。


 しかし一応は海を治めるはずだったのは確か。

 そのためツクヨミ様は、カオルさんのあの驚異の身体能力と水泳スキルはスサノオ様の加護のおかげだと思ったわけですが。


「んなわけないだろ。俺がやったのは難事に臨むとやる気がでる加護だけだぜ。身体能力の強化とか甘い甘い。人間の最大の武器は勇気だからな!」


 つまりカオルさんがレミングス状態なのは、スサノオ様の加護のせいでした。

 サムズアップしつつ歯をキラーンと輝かせ笑うスサノオ様。

 殴りたいこの笑顔。そうツクヨミ様が思ったのも仕方ありません。


「……」

「グホォッ!?」


 そしてその思いに従い無言でスサノオ様の鳩尾に貫手を突き刺すツクヨミ様。

 姉相手とは違って手加減する気ZEROなさすがのシスコンです。


「しかし加護でないとすると、あの人間の身体能力と水泳技術は何なのでしょうか?」

「案外あの銛ポセイドンのやつだったりして」

「アッハッハ。まさかそんな大事なものを人間界に落とすはずが」

「……ッ!?」


 そしてそのままカオルさんの謎を話し合う二人と、息ができずに転がりまわるスサノオ様。

 今日も高天原は平和です。


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