女子の方を見ていたと思ったら突如プールに飛び込む男子
「水泳の授業ですか?」
それはまだ夏が始まったばかりのころ。
夏服になったせいで男子生徒の目に逆まつげが刺さりまくっている昼休み、クラスメイトの女子たちに言われてシーナさんは不思議そうに首を傾げました。
「うん。もうすぐ体育で水泳の授業が始まるんだけど、シーナさんって泳げるのかなって」
「さあ、泳いだことがないので。日本では水泳の訓練が学校であるんですね。さすが侍の国です」
「へー、異世界じゃ泳いだりってあんましないんだ」
「いや、その前にどうしてそんな感想になった?」
シーナさんが泳いだことがないと聞き驚くクラスメイトと、どっから侍が出てきたのかと呆れる一部。
これは一見シーナさんの天然ボケのように見えますが、実は中世くらいの頃には水泳は軍事技術の一部であり、水辺で生活でもしない限りは一生縁のない技術だからだったりします。
ちなみに実際に侍なヤヨイさんは、水が嫌いなので水泳と聞いて珍しくはみ出してる尻尾が逆立っています。
猫だから仕方ありません。
猫は他の動物と違って毛が水を弾かないので、一度濡れてしまうと体温調整が難しくなり死活問題なのです。
じゃあヤヨイさんは体毛が濃いのかという疑問を持っちゃった悪い子はしまっちゃいましょうねー。
「それにしても水泳ですか。やはり水着は露出が多いのでしょうか?」
「あー、やっぱりシーナさんはそこが心配だよね」
「スカートも長いもんね」
当初膝上だったシーナさんのスカートですが、やはり落ち着かないのか徐々に長くなっており、今では足首にもう少しで届くレベルのロングスカートになっています。
一歩間違えればスケ番ですが、シーナさんの見た目と雰囲気が上品なせいか普通にお嬢さんっぽく見えるので問題ありません。
スケ番が分からない?
ハハッ。またまた御冗談を。
……え? マジで?
「つまり私たちはヤヨイさんたちの水着姿を拝見できるということか!?」
「その通りだローマン!」
「イヤッッホォォォオオォオウ!」
その事実に気付き雄たけびのような快哉を上げるローマンさんを筆頭とした男子生徒たち。
女子生徒たちの視線が絶対零度になっています。
このままでは女子生徒たちが男子は馬鹿だという永遠の真理に気付いてしまいます。
「あ、でも大丈夫じゃない?」
しかしそんな狂乱する男子生徒を無視するように、一人の女子生徒が言います。
「うちの学校って水泳の授業は男女別だから」
「ちくしょおおお……!」
「ちくしょおおおーーーー!」
衝撃の事実に絶望のあまりどっかの若本さんっぽい悲鳴をあげる男子生徒たち。
そしてそれを白い目で見つめる女子生徒。
今日も日本は平和です。
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「だからね。ミズハっちの力を応用すればもっと涼しくなると思うの」
一方高天原。
未だ夏の暑さの続く中、諦めきれないのかミズハノメ様と交渉するアマテラス様。
そんなアマテラス様にミズハノメ様は呆れたようにため息をつきます。
「あのねえ。夏は暑いもんなんだから素直に受け入れなさい。無理やり冷やしたりしたら、どこでしっぺ返しが来るか分からないわよ」
「……じゃあ部屋の中だけ冷やせば!」
「素直にエアコンでも買ってきなさい」
アマテラス様渾身の発案にクールに返すミズハノメ様。
さすが水の神です。
「だって電気屋さん高天原まで来てくれないんだもん!」
「そりゃそうでしょうよ。というかパソコン関連はどうやって回線と電気引いてきたのよ」
「オモイカネが一晩で」
「……あの爺さんも大概よく分からないスキル持ってるわね」
見た目は爺ながら機械に強いオモイカネ様。
高天原の参謀役の名は伊達ではありません。
「ふっ。お困りのようですなアマテラス様!」
「あ、タケミカヅチ」
どうしたものかと悩むアマテラス様のもとに颯爽と現れたお久しぶりのタケミカヅチ様。
ミズハノメ様が「うっわ、暑苦しいのが来た」と嫌そうな顔をしています。
「暑さに悩むアマテラス様のために、扇風機を調達してきましたぞ!」
「おお! でもコンセントはもう埋まってるよ?」
「ふふ。そこは某にお任せあれ。某は雷神。こうしてコンセントを握って電気を……」
「……」
扇風機のコンセントを握って何やら集中し始めるタケミカヅチ様と、オチを察して距離を取るミズハノメ様。
「では、いざ!」
燃えました。
「……で、何か言うことは?」
『すいませんでした』
ボヤ騒ぎが起きて急いで駆け付けてきたツクヨミ様と、土下座するちょっと焦げたアマテラス様とタケミカヅチ様。
家電に規格外の電流や電圧を流すのは、危険ですので絶対やめましょう。
今日も高天原は平和です。




