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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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水分はこまめにとりましょう

「カガト。ル○ラという瞬間移動魔術を知っているかしら?」

「いきなり何言ってんですかお嬢様」


 とある休日の昼下がり。

 将来の就職先として懇意にしているヴィルヘルミナさんに呼び出され、学外の喫茶店に呼び出されたカガトくんでしたが、唐突に意味の分からない質問をされて思わずつっこみを入れます。


「あら、勇者様から日本では有名な魔術だと聞いたのだけれど」

「いや確かに日本一有名な魔術体形と言えなくもないですけども」


 そもそも日本に魔術は存在しねえ。

 そう言いたいカガトくんですが、実は日本は女王卑弥呼が鬼道とかいうよく分からない術で国を治めていたり、皆大好き陰陽師が公務員やってたりと普通に呪術的なものがまかり通っていた国だったりします。

 というか現代でも、探せば普通に呪殺屋とか存在します。

 さすが日本。未来へ突き進みながら過去へ逆行しています。温故知新です。


「確かに知ってはいますけど、再現するとなると空を飛ぶのか空間を跳ぶのかで難易度が変わってくるし、そもそも目的地にアンカーをうったり下準備が……」

「勇者様は強引に空間をぶち抜けば行けると言ってましたけれど」

「そんなの魔術じゃねえ!?」


 あまりの暴論に敬語も忘れてつっこむカガトくん。

 召喚勇者なマサトくんは師匠譲りの脳筋なので、魔術も「物理法則? 何それ美味しいの?」と力技で何とかしちゃうので仕方ありません。


「まあ勇者様の言い分は置いておいても、再現できれば貴方の将来は約束されたも同然ですわよ。一瞬で離れた場所に移動する魔術。軍事、政治、貿易エトセトラ。様々な面で他国よりもアドバンテージをとることができますわ」

「将来が約束されると同時に、重要性が高すぎて身柄を拘束されそうなんですけど」


 色々と自由なマサトくんはまだしも、あくまで優秀な魔術師でしかないカガトくんは国に脅されたら普通に屈します。

 どちらかというと実力云々ではなく本人がヘタレなだけな気もしますが、このまま学園を卒業してなし崩し的にハーレムから逃げる気満々なザ・キング・オブ・ヘタレなので仕方ありません。


「ふふ。そこは私を信用してほしいですわね。このヴィルヘルミナ・フォン・インハルト。一度懐に入れた人間を見捨てるような真似などいたしません。例え皇帝陛下が貴方を差し出せと言っても、我がインハルト家の名に懸けて必ず守り抜いて見せますわ!」


 一方ヘタレな未来の配下とは正反対に、皇帝にすら喧嘩を売ってやると豪語するヴィルヘルミナさん。

 男前です。

 女性に男前などという評価は失礼ですが、そこらの令嬢なら惚れかねないほどに男前です。


「お、お嬢様!」


 そしてそんなヴィルヘルミナさんの言葉に感動し目を潤ませるカガトくん。

 さすがのヘタレです。もし仮に何かの間違いでヴィルヘルミナさんと結婚することになっても、尻に敷かれること間違いなしです。


「ふっ。チョロいですわね」


 そしてそんなカガトくんを尻目に、わっるい顔で計画通りとほくそ笑むヴィルヘルミナさん。

 基本いい人ですが、この程度の黒さは侯爵令嬢の嗜みです。

 むしろ自分に心酔させつつも、宣言通りに守り通す気満々なのでやはりお人よしです。


 今日も異世界は平和です。



「……暑い」


 一方高天原。

 いつものように畳の上をコロコロ転がっていたアマテラス様でしたが、どうやら夏の日差しにやられたらしくグロッキーです。

 太陽神が日差しにやられるとか意味が分かりませんが、アマテラス様なので仕方ありません。


「暑い……ツクヨミ。太陽爆破してきて」

「遠回しな自殺ですか? あと私は月ですから太陽をどうこうできませんよ」


 暑さのあまり自殺志願するアマテラス様に、ツクヨミ様が冷静なつっこみを入れます。

 さすがカッコつけの隠れ中二病。暑くても服装は首元まできっちりしてる上に背筋も伸びたままです。


「諦めんなよ! 月だって頑張れば日食とか起こせるよ!」

「地上を大混乱に陥れる気ですか。そもそも日食を起こすなら、姉上が岩戸にこもった方が早いでしょう」

「……それだ!」

「いや『それだ!』じゃないでしょう。暑いからって日食起こさないでください」


 いいこと聞いたとばかりにノートパソコンを持って立ち上がるアマテラス様を、即座に襟首掴んで引き倒すツクヨミ様。

 倒れたアマテラス様から「ぷぎゅう」と謎の声が漏れます。


「……何やってんのアンタらは」

「あ、ミヅハっち」

「誰がミヅハっちよ!?」


 姉弟がじゃれあってるその場に現れたのは、アマテラス様と同じくらいの年頃の外見の少女。

 腕組みをしながら呆れた視線をアマテラス様に向けています。


 彼女は弥都波能売神みづはのめのかみ

 トヨウケヒメ様の親である和久産巣日神わくむすびのかみと共にイザナミ様から生まれた水の神であり、三貴子からすれば姉とも言える神様です。


「あーもう、しゃきっとしなさいよ。この程度の暑さでだれてんじゃない」

「そうだ! ミヅハっちの力で涼しくして!」

「話を聞け! あと私はそういう神じゃない!」


 水の神であるミヅハノメ様ですが、その主な役割は地下水の管理や治水などであり、少なくとも気温を操ることはできません。


「まあ雨を降らせるくらいならできるけど、雨降らせっぱなしになんかしたら人間たちが困るでしょう」

「……じゃあ曇りで!」

「……ツクヨミ。この子しばき倒していい?」

「暑さで冷静さを失っているだけですので、手加減をお願いします」


 グッと親指を立てるアマテラス様をしばこうとするミヅハノメ様と、手加減しろと言いつつ止めないツクヨミ様。

 今日も高天原は平和です。


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