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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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はい、二人組作ってー

 体育。

 運動音痴な人や「はい二人組作ってー」という言葉が死の宣告にしか聞こえない人には地獄の時間ですが、子供に最低限の体の動かし方を覚えさせるためにも重要な教育でもあります。

 最低限の運動能力とか体育なくても身につくだろと思う人も居るでしょうが、筋力が未発達だとただ椅子に座っていることすらできないという深刻な状態に陥る可能性すらあるので過信は禁物です。


 そうでなくとも運動不足になりがちな現代。健康のためにも日常的に体を動かしておくに越したことはありません。

 大丈夫。体を動かすのに慣れてきたらバク転とかも普通にできるようになります。

 うっかり失敗して頭から落ちた上に石が刺さったりしても大丈夫。ちょっと自分でもビックリするくらい血が出るだけです。

 頭は血液が集まるからね。仕方ないね。


「ぜひゅー……ぜひゅー……」


 そんな体育の時間に死んでるのは、フィッツガルドの侯爵子息ローマンさんです。

 グラウンドの真ん中にうつ伏せに横たわり、明らかにヤバい呼吸音を漏らしています。


「大丈夫かこいつ。グラウンド一周全力疾走しただけでこれって」

「マジで体力ないよな。貴族って戦争になったら最前線で戦う戦闘民族じゃねえの?」

「文官志望とか言ってたから、あんまそっちの訓練はしてないんじゃね?」


 そしてそんな死にかけのローマンさんの周りで言いたい放題の男子生徒たち。


 貴族というと税金だけ絞り取って楽してるイメージがあるかもしれませんが、基本的に騎士とイコールであり戦争に赴く義務があるのです。

 近年においても英王室のヘンリー王子がアフガニスタンでの軍事作戦に参加したりしています。


「おい起きろローマン。ヤヨイさんが来るぞ」

「ゼハァ!?」


 ヤヨイさんが接近中と聞き勢いよく立ち上がるローマンさん。

 呼吸が整っていないせいで変な音が口から漏れています。


「ヤヨイさんお疲れー」

「お疲れ様でござる。……ローマン殿は生きてるでござるか?」

「フッ。この程度で屈する私ではありませんよ」

「オイ。腹筋痙攣してんぞ無理すんな」

「息切れしてんのにセリフを言い切るのは感心するが無理すんな。素直に空気を肺に入れろ」


 全力で平然としながら言うローマンさんですが、即座に周りの男子生徒からつっこみが入ります。

 呼吸の乱れをごまかすために息すら止めています。好きな子の前で意地を張るその姿は紳士の鏡ですが、このままでは黄泉のイザナミ様にお出迎えされかねません。


「相変わらず軟弱でござるな。もっとグライオス殿の稽古に付き合った方がいいのではござらぬか?」

「私に死ねと?」


 死ぬというと大げさに思えますが、グライオスさんは人類の限界とか突破しちゃってる人種なので、獣人の中でも武闘派なヤヨイさんくらいじゃないとまともに相手などできません。

 安達くん? この期に及んで安達くんが普通の人間だと思っている読者が果たして存在するのでしょうか。


「おーい、ヤヨイさん女子走り始めるみたいだぜ」

「承知。では失礼するでござる」

「うん。頑張ってねー」

「……やっぱヤヨイさん可愛いよな」

「風が吹いたとき耳パタパタしてたけど何アレ可愛い」

「もういっそ撫でたい。絶対怒るだろうけど撫で倒してひっかかれたい」


 どうやら柳楽くんの予想通りヤヨイさんは生徒の間でも人気なようです。

 人気の方向が若干間違ってる気がしますが、猫が可愛いのは真理だから仕方ありません。


「おっ、シーナさんも走るのか」

「ローマン。シーナさんって運動できんの? お姫様だろ?」

「知らん。最低限の護身術程度は学ばれているはずだが、シーナ殿下は魔術師としての適性が高い故にそちらの訓練はされていないかもしれん」

「おっ始まった」


 体育教師の合図に従い走り出す女子生徒たち。

 さすがというかやはりというかヤヨイさんが一気にトップに立ち、僅かに遅れてシーナさんをはじめとした女子たちが続きます。


「おお、やっぱ速いなヤヨイさん」

「猫だからな」

「その上侍だからな」

「猫で侍ってもうわけわかんねえな」


 そうでもない。


「それにしても……」

「うん……」

「……揺れてるなあ」


 体育教師に煽られながら必死に走る女性生徒たち。

 そんな女子たちのある部分が激しくシェイキングされるのに見とれる男子たち。特にシーナさんのそれは某総統閣下も納得のアースクエイクです。


「ってあれ? 何か目が痛ぇ!?」

「俺もいてぇ!? 何だこれ!?」


 しかしそんな男子たちを突然謎の痛みが襲います。

 揃って目を押さえ、痛みのあまりに涙すら流しています。


「フッ。愚か者どもが」


 そしてそんな男子たちを確認し、鼻で笑うローマンさん。


「貴様らのような不埒者を戒めるために、お二方を邪な目で見る者には逆まつげが眼球に刺さりまくる呪いがかけられているのだ!」

「オイ。偉そうに言ってる本人の目にまつげ刺さりまくってるぞ」

「邪な心が目から溢れだしてるぞ」


 相変わらず物理的に無理のある傾斜のポーズをとりつつ、まばたきしまくりながら滝のように涙を流すローマンさん。

 それでも痛みに耐えてヤヨイさんをガン見するその根性は、変態という名の紳士の鏡です。


「いつの間にそんな呪いをかけてたでござるかリィンベル殿は」

「相変わらず地味に嫌な呪いをかけますね」


 そして走り終わったはいいものの、自分でも知らない間に珍妙な呪いをかけられていたことに呆れるヤヨイさんとシーナさん。

 今日も日本は平和です


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