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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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浮気ダメ。絶対。

 一体いつから――――――週一更新だと錯覚していた?

 魔法学園。

 一言に魔法と言っても精霊に力を借りる精霊魔術の他に、神様に力を借りる神聖魔術やら悪魔に力を借りる暗黒魔術と色々あるのですが、魔法学園に在籍している殆どの魔術師は精霊魔術を得意としています。

 というか「神様? 祈らなくても力くらい貸せよケチ」という輩や「悪魔? とっ捕まえて実験できないかな」という考え方の輩ばかりなので、精霊くらいしかまともに力を貸してくれないのです。

 神も悪魔も寄り付かない地。なので神官たちには「あそこは人外魔境を超越した何かだ」と言われています


「……自由だーーーー!」


 青空の下。両手を天に突き上げ叫んでいるのは、何か異世界に迷い込んだ挙句に魔法学園に放り込まれた少年、加賀カガトくんです。

 背後には魔法学園の門。警備の人たちはカガトくんが叫んでいる理由を知っているので、生温かい目を向けています。


「ようやく、ようやく長期休暇に入った。ようやくあの娘たちから解放される!」


 どうやらカガトくんは未だに半強制ハーレムから脱却できていなかったようです。

 望まないハーレムと聞くと可哀想な気もしてきますが、根本的な原因はカガトくんの優柔不断な態度のせいなので同情の余地はありません。


「さーて、初めての長い休みだからこっちの世界の観光とかしないとなー。首都の方に行ってみるか。召喚された勇者っていうのも日本人らしいから、繋ぎを作っといて損はないだろうし」


 偶然手に入れた観光案内を見ながら、とりあえず魔法学園を離れて街の中心を目指すカガトくん。

 完全におのぼりさんですが、見た目はイケメンなので周囲の人たちも微笑ましい目で見ています。


「もし。そこの黒髪の方」

「は……い?」


 しかし唐突に声をかけられて視線を向ければ、予想外な光景に一時停止してしまいます。


「突然失礼。あなたがカガトさんかしら?」


 そこに居たのは、黒いドレスを纏った銀髪の少女でした。

 今まで見たことのない、ある意味場違いな姿の少女にカガトくんも一瞬混乱してしまいます。


「……違ったかしら?」

「え? あっ! 俺がカガトで間違いないけど……君は?」

「あら失礼。私ったら名乗りもせず。私はヴィルヘルミナ・フォン・インハルト。貴方の通う魔法学園の対とも言える学府の方に通っていますの」

「フォン……ってことは貴族!?」


 日本人には馴染みがありませんが、西洋などでは貴族の姓の前には「フォン」や「ド」などの前置詞が付きます。

 フォンというのは元は出身地を意味する言葉で、そのまま訳すならヴィルヘルミナさんは「インハルト出身のヴィルヘルミナさん」という感じになります。

 元は姓というものが無かった時代に始まった習慣なのですが、次第に貴族の称号のようなものになり、出身地とか関係なく姓の前に付くようになったそうです。


「し、失礼しました! 俺この国の出身じゃないか……ないので、礼儀とか疎いんです」

「構いませんわ。魔術師の大半は唯我独尊な変人ですし、魔術が使える人間は希少ですもの。それほど構えなくても、魔術師に礼儀を求める人間なんてそういませんわよ」

「へえー、そうなんですか」


 感心するカガトくんですが、それは要するに「あいつらに常識を求めても無駄だ」と諦められるレベルで魔術師が変人ばかりだということでもあります。

 そんな変人の巣窟にいるカガトくんの明日はどっちだ。


「それで、何で俺の名前を? さっき言った通り俺はこの国の人間じゃないんで、知り合いとか居ないはずなんですけど」

「でしょうね。私が貴女に興味を抱いたのは、友人に日本人が居るからです」

「日本人……まさか勇者ですか?」

「勇者様とも面識は一応あるけれど、友人というわけではありませんわね。私の友人というのは、同じ学府に通うミイナという少女ですわ」

「……どんだけ日本人いるんですかこの国」


 たった三人です(増えないとは言ってない)。


「それでそのミイナなのですけど、なんというか純朴で優しい子なのですけど、同時にどこか抜けてる子で世話が焼けて……。同じ日本人の貴方は大丈夫なのかと様子を見に来ましたの」

「どんだけお人好しなんですか」


 呆れると同時に今更ながら安心するカガトくん。

 魔法学園のゴーイングマイウェイな女の子たちとは違い、この子はまともだと。


「打算もありますのよ。魔術師としては優秀ときいていますし、うちの家で召し抱えられないかと。給金ははずみますわよ?」

「えー、お誘いは嬉しいです。でも情けない話なんですけど、俺戦いとかは恐くて……」

「たまに護衛をやってもらう程度で、魔術師としての知恵を貸してもらうだけでも良いのですけれど」

「うーん、それでもやっぱり。うーん」


 ヴィルヘルミナさんの勧誘に靡きつつも悩むカガトくん。相変わらずの優柔不断っぷりです。


「……お悩みのようね。それならミイナに対日本人向けの切り札と言われたのですけれど」

「はい?」


 何やら秘策があるらしいヴィルヘルミナさん。その様子に首を傾げるカガトくんでしたが、次の言葉に態度を豹変させます。


「私の家に仕えてくださるのなら、ミイナの家を通してお米を貴方のために仕入れてみせます!」

「犬とお呼びくださいお嬢様!」


 米が食えると聞いて片膝付いて忠誠を誓うカガトくん。

 なんかどっかの国会で似たような光景を見た気がしますが、多分気のせいです。


「……早まったかしら」


 一方カガトくんのプライドの捨てっぷりに引いてるヴィルヘルミナさん。

 今日も異世界は平和です。





「ねーゼウス。お米ができたからスクナヒコナにお酒作らせてもいい?」


 一方高天原……ではなくギリシャの神々の住まうオリュンポス。

 異世界には無いものを作り出すので一応ゼウス様に許可を取りに来たアマテラス様。

 許可を取りに来たと言うよりは近所のおっちゃんに頼みごとに来たみたいなノリですが、深く気にしてはいけません。


「よし。では脱……ぐだけではつまらんから半脱ぎでこのポールを使ってダンスを……」

「はい喜ん……」


 アマテラス様のお願いに安定のセクハラで返すゼウス様。

 そしてさらにそれに快諾しちゃうアメノウズメ様。


 ――メキャッ。


 しかし両者の言葉が終わる前に、珍妙な音が辺りに響きます。

 原因はゼウス様の首を両手で鷲掴みおかしな方向に捻じ曲げてるヘラ様(奥さん)。

 ゼウス様の首が神様なのにエクソシストみたいになっています。


「原料の米が既にあちらに入っているのだから、わざわざ許可なんて取らなくても大丈夫よ」

「う、うん。ありがとうヘラ」


 にこやかな笑顔で言うヘラ様にドン引きしながら返すアマテラス様。

 ヘラ様の足元でゼウス様が陸に打ち上げられた魚のようにのたうち回っています。危険ですので人類は真似しないでください。


 ちなみに夫に対し圧倒的優位に立っているように見えるヘラ様ですが、たまに夫相手に反乱起こして罰として縛られて天から吊るされたりしています。

 さすがギリシャ。神様がおかしいです(ブーメラン)。


「それとアメノウズメ。調子に乗ってると潰すわよ?」

「す、すいませんでした!」


 そして夫は勿論浮気相手にも容赦しない安定のヘラ様。

 満面の笑みが恐いです。アメノウズメ様もいつものテンションを置き去りにして謝るしかありません。


 今日もオリュンポスは平和です。


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