表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/536

コンビニおにぎりの海苔が上手く出てこなかった時の切なさ

 はじめちょろちょろ中パッパ。赤子泣いても蓋とるな。


 日本人なら誰でも知っている口伝であり、その発祥は江戸時代ごろとされています。

 様々なバリエーションがありますが、その内容は大まかにはご飯を炊くときの火加減を的確に示しているとされ、正に生活の知恵を凝縮した言葉でもあります。


「でも私の地域だと『親が死んでも蓋とるな』でしたよ」

「むしろ親が死んだら蓋とらずに放置しそうだな」

「確かに『親が死んだからとりあえず釜の蓋とっとこう』ってどんな状況でしょう」


 そしてそんなご飯を炊いてる前に並んで座って話しているのは、農業少女アスカさんとキレ系王妃なアサヒさんです。

 どうやら王妃様は王様の絶対王政から逃れることに成功したようです。しかし余程急いでいたのか、お忍びできたはずなのにドレス姿です。

 一体どのようにして国境を突破したのか気になりますが、少なくとも国際問題は発生していないので警備兵を殴り倒してきたとかいうことは無いでしょう。

 せいぜい某蛇並みのスニーキングミッションを完遂してきただけです。


「それにしても、お米の収穫ばっかり考えてて、いざ炊くときのことなんて考えてなかったわね」

「そうですね。せっかくドワーフ王国に居るのだから、お釜を作ってもらって持ってくるべきでした」


 ご飯を炊くお鍋の前に陣取る女性陣とは対照的に、少し離れたテーブルの前に腰かけているオネエとジュウゾウさんの男性陣二人。

 ……男性陣?


 最初はオネエの言動に面食らったジュウゾウさんでしたが、髭のある女性に惚れかけた前歴があるためかすぐ慣れました。

 慣れたせいでドワーフ王国に戻ったら新たな扉を開いてしまいそうな状態ですが、きっと問題ありません。

 愛は障害があるほど燃え上がるのだから!(髭)


「……作ってもらうって、設計図も書けない素人の説明で再現できるの?」

「完全再現は無理ですが、妙な改良という名の魔改造を施して完成させてくれますよ」


 魔改造に定評のある日本人ですが、どうやらドワーフたちもその拘りっぷりでは負けていないようです。

 日本人とドワーフ。混ぜるな危険の代表格です(手遅れ)。


「ジュウゾウさーん。これまだできないんですか?」

「炊き上がりはもうすぐですが、その後にまだ蒸らすのですぐには食べられませんよ」


 ご飯を美味しくするために重要な「蒸らし」ですが、実は最近の炊飯器はこの蒸らしまで勝手にやってくれるので、炊いた後にわざわざ待つ必要は無かったりします。

 しかしそうでないなら、非常に重要な工程が蒸らしなのです。

 そしてさっきから「蒸らし」が「村氏」と変換されまくるのは何故でしょうか。

 私の知り合いに村さんなんて人は居ません。


「とりあえず味噌汁は定番として、ご飯はみんなでつまめるようにおにぎりにしましょうか」

「あら、いいわね。どうせだから村の皆さんに食べてもらいましょう」


 ジュウゾウさんの言葉を了承するオネエ。

 どうやら突発的におにぎり祭りが開催される事が決定したようです。



 突然ですが、おにぎりの具の中でもポピュラーな梅干しにはシソ梅や昆布梅など様々な種類があります。

 皆さんもお馴染みの赤い梅干しはシソ梅に分類されるものであり、今のように赤く着色されるようになったのは江戸時代ごろと割と最近だったりします。

 もっとも梅干し自体の歴史はかなり古く、紀元前二百年ごろには中国から伝来したと言われています。


 独自の文化を築いている日本ではありますが、その根源には中国の文化の伝来が欠かせません。

 流石は三千年の歴史だったはずがいつの間にか四千年の歴史になり、最近では五千年だとか言い出しちゃってる国です。


「はあー、味噌汁に続いて梅干しとは、ジュウゾウさんマジパないなあ」

「これくらいなら家庭でも作れるものですから。まあ梅を塩漬けにすると言ったらドワーフの皆さんがドン引きしてましたけど」


 一応異世界にも梅はあったのですが、主に砂糖漬けにされてお菓子として売り出されていたため、塩漬けにするという発想は無かったようです。

 そのせいでジュウゾウさんはバーラさんに頭の心配をされてしまいました。

 カルチャーショックにも程があります。


「わあー、まさかお米だけでなく梅干しまでとは。正にごはんがすすむ組み合わせですね」

「そうですね。……ってどなたですか?」


 いつの間にかジュウゾウさんの隣に腰かけ、おにぎり片手にカップに入った味噌汁を飲んでいる黒髪の少女。

 あまりに馴染みすぎていて流しそうになったジュウゾウさんでしたが、どう見ても村人では無いその少女を見てつっこみをいれます。


「あ、すいません。私ミイナ・ウェッターハーンっていいます。日本では風見ミイナという名前でした」

「……転生者の方ですか?」

「いえ、トリップの方です。なんかこっちに来てから商家のおじさんに拾われて面倒見てもらってたんですけど、奥さんにまで気に入られていつの間にか養子になってました。今ではすっかり仲良し親子です!」

「……そ、そうですか。良かったですね」


 いつの間にか現れたのは、かつてアフロディーテ様のせいで逆ハー作っちゃってたミイナさんでした。


 能天気に自分の境遇を語るミイナさんに、少し焦りと呆れを滲ませながら返すジュウゾウさん。

 このアホの子を善意の塊みたいな人が拾ってくれて良かったと。同時にそんな能天気娘が何故ここに一人で来てしまったのかと文句を言いたくなります。


「ほう。ウェッターハーンか。その商家ならガルディアでも取引をしているな」

「そうなんです。そこでケロスにお米があるって聞いて、これは何としてでもフィッツガルドでも輸入せねばとやってきました!」


 王妃様の言葉に頷くと、両手を上げおにぎりと味噌汁を掲げながら熱弁するミイナさん。

 どうやらお米のせいでアグレッシブになってしまった日本人がまだ居たようです。

 このままでは勇者なマサトくんや、在エルフ村のおじいちゃんまで終結(誤字)しかねません。


「しかし米を輸入したい気持ちは分かるが、商家としては採算はとれるのか?」

「ふっふっふ。そこは我に策ありです。ぶっちゃけジュウゾウさんに全てがかかってます!」

「私に?」


 自信満々な笑みで言うミイナさんに、ジュウゾウさんは嫌な予感がしてきました。

 この子はただのアホの子ではない。天然と計算が程よくミックスされてしまっている天然悪女だと。


「お米の取引で稼ごうにも、お米の価値を分かってもらわないと話が始まりません。ではこの世界の人たちには馴染みのないお米を、その料理方法も含めて宣伝するにはどうすればいいのか!」

「なるほど。そこでジュウゾウさんか」


 ミイナさんの言いたいことを理解したらしく、ニヤリと悪どい笑みを浮かべてジュウゾウさんを見る王妃様。

 どうやら天然悪女と内政チートが手を組んでしまったようです。

 もうこうなったらジュウゾウさんに逃げ場はありません。


「ドワーフ王国は大陸の交通の要。そこでジュウゾウさんのお店は知る人ぞ知る名店として商人の間でも有名になってきています。ならそこで数々のお米料理を出してもらえれば、それだけでお米の宣伝となり後は商人たちが勝手に動いてくれます!」

「なるほど。しかしそれだと他に取られないように、ある程度独占契約を結んでおきたいな。米の価値が知られていない今が買い叩くチャンスか」

「あははー、あんまり値切ったら後から破棄されますよー」

「大丈夫だ。その辺の見極めは任せろ」


 ニコニコ笑顔で語り合う王妃様とミイナさん。

 微笑ましいはずの光景なのに、ジュウゾウさんの背中の汗が止まりません。


「というわけでジュウゾウさん。お米の輸入は是非ともうちのウェッターハーン商会に一任してもらって……」

「関税とかも考えないとな。ふふふ……それと私が食べる分はしっかり確保するとして……」


 笑顔で徐々に迫ってくる二人と動けないジュウゾウさん。

 オネエは「女って恐いわぁ」と呟いて撤退済みです。


「いや、まあ私としてはお米が定期的に輸入できるならいいのですが……」


 どうしてこうなった。そう思わずにはいられないジュウゾウさんでした。

 今日も異世界は平和です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの作品もよろしくお願いします。

スライムが倒せない
 とある田舎の村の少年レオンハルトは「冒険の旅に出たい」という夢を持っている。
そのため手始めに村の近くに出没したスライムで魔物との戦いの経験をつもうとしたのだが……。
コメディーです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ