集う日本人たち(米)
メルディア王国。
大陸の南部に存在し隣国のガルディア王国の姉妹国にあたります。
しかしそのガルディアとメルディアのどっちがどっちだったか分からなくなり、作者すらたまに間違えたりするのは内緒です。
大丈夫だ。八割は気付かれないうちに修正している。
「うん。味噌焼きは初めて作ってみたんだけど上手くいって良かったわ。ご飯は無いけど、これならパンに挟んでもいけそうね」
そしてそんなメルディア王国で無駄に高い女子力を発揮しているのは、第一王子の腹心にして騎士団の副団長を務めているオネエです。
肌の露出したタンクトップの上からエプロンを纏う姿は破壊力抜群です。色んな意味で。
「グレイスはサンドイッチは焼いた方が好きかしら? 何なら両方作るのも……」
「いや、私は手紙を届けに来たのであって、御相伴に与りに来たわけではないのだが」
一方いきなりサンドイッチの好みを聞かれて戸惑っているのは、オネエと同じく第一王子の腹心であるグレイスです。
王国随一の騎士団の副団長であり第一王子のお気に入りであるオネエは、王都にそれなりに大きな屋敷をもらっており使用人もそれなりに居ます。しかしそんな屋敷を訪れたグレイスが見たものは、キッチンで自らフライパンを握る屋敷の主の姿。
お転婆ではあるものの、生粋の貴族であるグレイスには訳が分からない光景です。
「というか何故ユキが厨房に居る? いや、ユキが料理ができるのは知っている。だが使用人の仕事を奪うのはどうかと思うぞ」
「大丈夫よ。私が家事をやっちゃうとエミリーも奮起するから。今では良いライバルよ」
「うん。そうか。ライバルか。競い合う事は大事だな。うん」
サムズアップしたオネエに良い笑顔で言われて何かを諦めたグレイス。
目が死んでいます。このままではグレイスのSAN値がピンチです。
因みにエミリーというのは、オネエの屋敷に仕えるメイド筆頭であるクール系な女性です。
今日も昼食を作る機会をオネエに奪われ「次こそは――――!」と叫びながら廊下をモップかけつつ爆走しています。
……紹介から一行でクール要素が瓦解しました。
これも全てオネエが悪いのです。
「それにしても手紙ですって? グレイスが直接持ってきたという事はハインツ王子からかしら?」
「当たらずとも遠からずだな。差出人はアサヒ殿下だ。下手な人間に預けるわけにもいかないから、私が届けに来た」
「あら、アサヒちゃんから? 何か緊急の用事かしら」
グレイスから手紙を受け取り、封を切るオネエ。
中から出てきた日本語の手紙を懐かしみながらも、それが読めないであろうグレイスのために読み上げていきます。
『ユウキ。おまえがこれを読んでいるという事は、私は変態王に拘束(性的な意味で)されているということだろう』
「……あらあら、お盛んね王様ったら」
「出だしからおかしいぞ!?」
手紙を読み上げて微笑ましそうに笑うオネエとつっこむグレイス。
どうやらガルディア王国では未だに絶対王政が続いているようです。
『以前ドワーフ王国に日本人の料理人が居る事は話したな。その人がケロス共和国で米が栽培されていることを聞きつけ、こちらの方に来るから私が案内するつもりだったんだが、リチャード(変態)に捕まり私は今動けない』
「あらあら、束縛しすぎると嫌われるわよ王様」
「それ以前に、捕まらなかったら王妃自ら案内するつもりだったのか」
夫婦関係を心配するオネエと常識的なつっこみをいれるグレイス。両者目の付け所が絶望的に違います。
『そこで頼みなんだが、私に代わりその料理人――曽我ジュウゾウさんをケロス共和国まで案内してくれないか』
「ケロスねえ……ガルディアを挟んだ向こう側だから、時間をとられるわね」
「そうだな。あまり長い間ユキに王都を離れられるのも問題だ」
ある程度自由のきく王妃様とは違い、オネエには騎士団の人間として王都を守る義務があります。
そのためいくら友人である王妃様の願いとはいえ断ろうと思ったのですが……。
『なおこの依頼を受けると、ジュウゾウ氏が旅の間日本の料理を作ってくれる』
「ならやるしかないじゃないか!」
「いきなりどうした!?」
突然地声で叫ぶオネエと驚くグレイス。
ヅラじゃない。ザラだ。
「グレイス! 私ちょっと王子様に休暇もらってくるわ!」
「ああ、ちょっとか。ちょっとですむといいな。無理だろうけど」
エプロンを脱ぎタンクトップのまま王宮へ向かうオネエと、注意してもどうせ止まらないんだろうなと諦観し見送るグレイス。
そうして王子様の部屋に突撃し休暇を申請すると言う暴挙に出たオネエでしたが「あの謙虚で報酬も最低限しか望まないユキが必死になるとは……余程大事な用事があるに違いない!」と思われあっさり許されるのでした。
今日も異世界は平和です。




