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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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兎は耳を羽ばたかせて飛ぶんだよと言われて信じた子供時代

 精進料理。

 仏教により肉食が禁止された故に生まれた料理ですが、意外にも手間がかかる料理でもあります。そのため「もう面倒くさいから肉食解禁しようぜ!」とか言い出しちゃった僧侶が居たとか言われていますが、真相は定かではありません。

 ちなみに兎を一羽二羽と数えるのは、日本では鳥肉は食べても良かったので「これ獣じゃないよ。鳥だよ」と誰かが一休さんみたいなことを言い出したのが始まりだという説もあります。

 もう肉食禁止とか無くなったのだから、全国の小学生を混乱させるのはやめてほしいものです。


「ふむ。このお揚げとやらは本当に美味しいですね。大地の恵みをいただいているようです」


 そしてそんな精進料理に舌鼓をうっているのは、今日もご飯が美味しくて忠誠度爆上げ中な意識高い系エルフなイネルティアさんです。

 たっぶりと汁を吸ったお揚げを噛みしめ、いつもは凛々しい顔を幸せそうにとろけさせながら咀嚼しています。


「わしは大豆なら豆腐の方がさっぱりしていて好きじゃな。特に冷ややっこは良いぞ。シンプルだが故に豆腐の味が良く分かる」


 対して豆腐推しなのは、イネルティアさんを食道楽の道に引きずり込んだダークエルフなリィンベルさんです。

 今では慣れた箸を巧みに使い、豆腐を一口サイズに分けては口の中に放り込んでいきます。


「なるほど。大豆というのは『畑の肉』などと呼ばれているそうですからな。肉を食べられないお二方にとっては肉に等しいご馳走というわけですか」


 そしてそんな食いしん坊万歳なエルフ二人の前で何やら頷いているのは、アマテラス様を信仰するフリーダム神官ナタンさんです。

 安達家の料理担当の一人に就任しレパートリーを増やしているのですが、中でもベジタリアンなエルフ二人に対応すべくこうして試食してもらっているのです。


 そのせいかイネルティアさんの中で「人のために努力できる素晴らしい人だ」とナタンさんの株が急上昇中です。

 しかしリィンベルさんの中では「発作のように阿呆なことを言い出さなければ普通に尊敬できるんじゃがな」と相変わらず評価が微妙です。

 真面目と見せかけて、見えてる地雷をあえて踏みに行くお茶目神官だから仕方ありません。


「しかし随分と手際が良いの。わしも料理自体はできたが、こちらの調理機器に慣れるのに苦労したのじゃが」

「確かに慣れは必要でしたが、慣れてしまえば便利なものですからな。特にこの炊飯器というのは素晴らしい。米をたくだけでなく、なんとパンやケーキも焼けるのです!」

「なんと!? これ一つで主食からデザートまでカバーできるのですか!」


 どっかのテレビショッピングのようなノリで言い放つナタンさんと目を輝かせるイネルティアさん。

 最初のクール系美女なイネルティアさんは何処に行ったのか。


「というわけで、豆腐を利用してチーズを使わないチーズケーキなるものを作ってみたのですが」

「それはもはやチーズケーキでは無かろう」

「まあ私たちはチーズは食べられないので、違いなど分かりませんが」


 相変わらずフリーダムに大豆祭りを続行するナタンさんと、その細い体のどこに入ってるのかという勢いで食べ続けるエルフ二人。

 今日も日本は平和です。



「ケロス共和国のフィト村で稲刈りが始まったそうです」

「行ってくる」

「待てい」


 一方ガルディア王国。

 文官からの報告を聞き立ち上がる王妃様と、即座にガシッと肩を掴む王様。

 目的ができたら暴走機関車並みに一直線。今日も王妃様は絶好調です。


「手伝う気か? 一国の王妃が稲刈りを手伝う気か!?」

「日本人なら一度は稲刈りやってみたい衝動にかられるんだよ!」

「どんな民族だ貴様ら!?」


 農耕民族にして追い詰められたら戦闘民族に変容するHENTAI民族です。


「別に稲刈りくらい良いだろ。狐狩りとかに比べたらよっぽど平和的な趣味だし」

「おまえは故郷の君主が稲刈りをしてたらどう思う?」

「……ヤバい。めっちゃ尊敬する」

「何故だ!?」


 価値観の違いからすれ違う王妃様と王様。

 このままでは離婚の危機……は無いですね。うん。


「分かった。納得できんが理解した。だがこちらでは支配者というものは下々の者とは違った在り方を求められるものなのだ。庶民に混じり侮られるのは好ましくない」

「それは私も分かってるよ。だからお忍びで一般人に紛れて……」

「おまえは、自分の、容姿の、珍しさを、理解、しろ!」

「いだだだだだ! 梅干しはやめろ!」

(……うめぼし?)


 頭をぐりぐりされて叫ぶ王妃様と、梅干しの意味が分からず首を傾げる神官。

 仲が良さそうで何よりです。


「……分かった。稲刈りは諦める。大人しく執務を続けるよ」

「と言いながら足先がドアに向いてるのに私が気付かないとでも思ったか」


 言う事を聞くふりをして逃亡を図った王妃様でしたが、武闘派な王様がその前兆を見逃すはずがありません。

 最初の一歩を踏み出す前からあっさり捕獲される王妃様。キレてない時は身体能力も一般女性と変わらないので仕方ありません。


「……ちょっと絶対王政してくる」

「お気をつけて」

「またかよ!? せめて横抱きにしろよ! 米俵みたいに担ぐな!」


 王妃様の暴走を止めるため、日も高いのに発動する絶対王政。

 今日も異世界は平和です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 西洋なら麦畑に刈り込みにいく王族? やめてくれ。 だけど日本なら 稲刈りに勤しむ天皇陛下? …ありでは? こうなる。
[一言] >「おまえは故郷の君主が稲刈りをしてたらどう思う?」 >「……ヤバい。めっちゃ尊敬する」 1話目から読み返してて気づきました。 天皇陛下は毎年皇居の田んぼで田植え&稲刈りしてますよぉ。 …
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