網戸に大量に張り付く虫の恐怖
書籍化の続報あり。詳しくは活動報告で。
稲刈り。
秋の風物詩ともいえる農作業であり、多くの人手を必要とすることから、農村部では稲刈りの時期は学校が休みになったりもしていたそうです。
稲刈りの後は束にした稲を稲架(稲木)と呼ばれる木組みに引っかけて干すのですが、最近は稲用の乾燥機を使うのが一般的であるため、稲を干している光景を見たことが無いと言う人も多いでしょう。
そもそも稲刈り自体を機械でやるため、稲が束になってる所すらあまり見ません。
でもじっちゃんがコンバインに乗って稲を刈り取っていく姿も、それはそれで風情があるので不思議です。
「あー、腰が痛ぇ」
そしてそんな稲刈りを終わらせて、腰を叩きながら大きく背伸びをする少年が一人。
ケロス共和国の辺境のフィト村に住む農業少年サロスくんです。以前よりちょっと背が伸びて、アスカさんをちょっと見下ろせるようになって内心で喜んでいるのは内緒です。
ようやく収穫時期を迎えたフィト村の日本米ですが、前述した通り稲刈りの後には天日干しをするため、実際に米が収穫できるのはもう少し先になります。
異世界に乾燥機はもちろんコンバインもあるはずはなく、稲刈りはもちろん全て手作業で行われました。
サロスくんはもちろん、村のじっちゃんばっちゃんの腰に大ダメージです。でも人間って案外慣れるから大丈夫です。
「何だ、この程度で情けないな。腰を痛めるには早いぞガキ」
「誰がガキだチビ」
それを見て鼻で笑うスクナヒコナ様と、最早脊髄反射で言い返すサロスくん。
相変わらず仲が良いです。
「って、あれ? おまえ一人か。アスカはどうしたんだ?」
「あいつは野焼きの準備をしてる。さっさとやらないとウンカとかが集落にまで来ちまうからな」
稲刈りと並び風物詩と言える野焼きですが、これには残った藁などを燃やす他に害虫駆除の役割もあるのです。
つまりこれをやらないとカメムシやウンカみたいな害虫が大量発生します。
ちなみにウンカというのは5ミリ程の虫で普段は稲の汁などを吸っているのですが、たまに何か間違えて人間を吸ってくる上に、痒みを引き起こす唾液をプレゼントしてくれます。
窓に! 窓に!
「それにしても不思議なもんだよな。夏には水はって稲が青々としてたのに、今じゃ乾いた地面と枯草で茶色だし」
「まあこれも季節の移り変わりだな。農業ってのは人工の自然だ。どこまで行っても人は自然(神)と共にあるってことを忘れんなよ」
「言われなくても分かってるよ」
自然と共に生きる。
日本人にとっては馴染み深く、アニミズム的な信仰にも通ずる考えですが、この地で信仰されているギリシャの神々もアニミズム信仰から生まれた神と言えます。
そのせいか意外にスクナヒコナ様のいう事に理解を示すサロスくん。農業少年なため当たり前かもしれません。
「……そうだ。せっかくアスカが居ないなら聞いときたいことがあるんだけど」
「何だよ。おまえが俺にそんな殊勝な態度とるなんて珍しいな」
「おまえってアスカの故郷の神様なんだよな」
「そう認識してるくせにおまえ呼ばわりなのは見逃すとして、それがどうした?」
「おまえたちってこっちの神様みたいに、人間を……よ、嫁にしたりしないよな?」
「……」
おまえは何を言っているんだ。
そんな表情をしつつもすぐに言いたいことを理解したのか、ニヤリとあくどい笑みを浮かべるスクナヒコナ様とそれにビクッと後退るサロスくん。
「へぇー。そうだよなぁー。気になるよなぁー。好きな子が他の男と仲良くしてたらなぁー」
「う、うるせえ! どうなんだよ!?」
「まあ無くは無いけど、俺にその気はねえよ。大体アスカもアレでキッチリ俺の事神様扱いしてるしな。男女のそれに発展するこたぁねえよ」
「そ、そうか」
スクナヒコナ様の言葉にホッとするサロスくん。そしてその様をニヤニヤと見つめるスクナヒコナ様。
ここに居るのが相棒のオオクニヌシ様だったら縁結びでもしていたのでしょうが、野次馬根性で面白おかしく見守る気満々です。
「そういや最近アスカがおまえの事を度々話題に出しててな」
「お、俺を?」
自分が話題になっていると聞き顔を輝かせるサロスくん。単純ですが思春期なので仕方ありません。
――サロスくん? 最近私の胸とか足とかジロジロ見てくるんですけど、バレバレだって教えた方が良いんですかね。でも男子ってそんなもんだし、仕方ない気も……。
「って相談された」
「……」
男のチラ見は女のガン見。それを痛感し崩れ落ちるサロスくんと、今日も飯が美味いスクナヒコナ様。
ちなみに「こんな田舎で男の子ってどうやって処理してるんでしょうか?」とつっこんだ相談までされて逆に焦ったのは内緒です。
エロ話は意外に男子より女子の方がえげつないので注意しましょう。
「あ、スクナヒコナ様に……サロスくん? どうしたのうずくまって?」
「お……」
「お?」
「俺を見るなああああぁぁぁぁッ!? 穴が開くううううぅぅぅぅッ!?」
「ええ! どうしたのサロスくん!?」
どっかのマッドな悪魔のような雄たけびをあげながら逃走するサロスくんと、慌てて追いかけるアスカさん。
当然アテナ様の加護を受けたアスカさんから逃げ切れるはずもなく捕獲され、ある種の羞恥プレイを強制されるのでした。
今日も異世界は平和です。
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「稲刈りか。懐かしいなぁ……スサノオの田んぼ破壊」
「何故ピンポイントに嫌な記憶を思い出しているんですか」
一方高天原。
かつて大暴れしたスサノオ様の所業の一つを思い出し遠い目をするアマテラス様と、呆れた視線を向けるツクヨミ様。
どこにトラウマスイッチがあるのか分からなくて面倒くせぇと思ったのは内緒です。
「ほら、元気出してくださいアマテラス様。今日は炊き込みごはんですよ。鮭もあぶらがのってて美味しいです」
「炊き込みごはん!? 油揚げ入ってる!?」
「はい、入ってますよ。おかわりもたくさんありますからね」
「ありがとうトヨちゃん!」
「……」
相変わらずトヨウケヒメ様に餌付けされているアマテラス様と、それを胡乱な目で見つめるツクヨミ様。
「どうしましたツクヨミ様? もしかして炊き込みごはん嫌いでしたか?」
「いえ、大好きです」
しかしトヨウケヒメ様に不安そうに聞かれた瞬間、キリッと答える紳士ツクヨミ様。
今日も高天原は平和です。




