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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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日本のほほん滞在記4

「会議じゃ」


 そう宣言して机を軽く叩いたのは、一部日本人から「ババア結婚してくれ!」と親しまれているダークエルフなリィンベルさんです。

 場所は日曜日の安達家。家主の安達くんは仕事で居ませんが、その他の居候の面々はほぼ全員顔を出しています。


「会議は良いのだが、何故に朝っぱらから始めるのだ。私は朝食をとったら寝るつもりだったのだが」

「貴様……ニートか!」

「吸血鬼だ!」


 昼夜逆転生活を戒めるリィンベルさんとつっこむグラウゼさん。

 実際グラウゼさんは最近ニートを脱却し夜の街の見回りをしており、蝙蝠や野良犬などの野生動物を支配下に置いて監視網を築き、地味に治安の向上に寄与しているのです。

 本人曰く「べ、別にこの国の平和など気にしていないからな!」

 正体隠しているつもりでバレバレなのですが、正義の味方の正体が謎なのは様式美なので誰もつっこみません。


「わしも今日は朝から鍛冶場を借りてシーナに頼まれた包丁を作るつもりだったんじゃが」

「おや? 今日はオグニル殿も休日のはずでは?」

「休みじゃから刀ではなく私事の包丁を作るのではないか」


 ローマンさんの疑問に当然のように答えるオグニルさん。

 どうやら普段から散々鉄を打ちまくっているのに、休みの日にまでやるつもりのようです。

 正に鍛冶馬鹿。ドワーフの面目躍如です。


「ん? そのシーナ殿はどうしたでござるか? 会議をするなら外せない方だと思うでござるが」


 ふと気づいたように言うヤヨイさん。言われて皆が目を向ければ、確かに安達家のオカンであり最高意思決定者であるシーナさんが居ません。


「シーナは今日は入学の手続きなどで朝から出かけておる。ローマンよりも正式に決定するのが遅かった故、手続きにも手間取っているようでな」

「なるほど。では今回の会議はそのシーナに関する事であるな?」


 リィンベルさんの話から会議の内容を察し、ニヤリと笑うグライオスさん。

 それにリィンベルさんも「うむ」と頷いて応えます。


「皆もシーナが学校に通う事になったのは聞いておろう。それ自体は問題無い、むしろシーナにとっては良い事じゃろう。しかしこのままでは、安達家にとって大いなる問題が起こる」

「問題……ですか?」


 リィンベルさんの言葉にはてと首を傾げるイネルティアさん(新人)

 しかし他の面々は問題の内容に気付いたのか、それぞれが渋い顔をしています。


「……このまま家事を全て任せていたら、シーナの負担が大きいな」

「その通りじゃ!」


 相変わらず無表情ながらも心配そうに尻尾を垂らして言うマカミさんに、リィンベルさんがビシィっと指を突き付けながら言います。


「大体おまえら、というか男どもが家事に非協力的すぎるんじゃ。帰ったら弁当箱を台所に置いとけと何べん言ったら覚えるんじゃ!?」

「いや覚えてはいます……よ?」

「覚えては居るのだがな……」

「すっかり頭から抜けておって、夕飯食っとるときに『あっ』となるんじゃよ」


 ここぞとばかりに爆発するリィンベルさんと、目を泳がせながら言い訳するおっさん三人。

 他の面々はダメ親父を見るような白い眼を三人に向けています。


「確かに。私はここには来たばかりですが、一部シーナさんに頼りきりで堕落した部分が見受けられます。シーナさんが学業で忙しくなるのならば、他の者で家事を分担すべきなのでは無いでしょうか」

「その通りじゃ。よく言ってくれたイネルティア」

「恐縮です」


 リィンベルさんに褒められてぺこりと頭を下げるイネルティアさん。

 その姿に子供たちは「この人しっかりしてるなぁ」と感心し、おっさんどもは「この優等生うぜぇ」と胡乱な目を向けています。


「あ、なら私が……」

「エルテはまだ子供じゃし、学業と召喚術の研究で忙しいじゃろうからやらんで良い」

「……えー?」


 張り切って言ってみたのに即座に反対され、ふて腐れるエルテさん。

 そんなエルテさんの頭をヤヨイさんがポンポンと慰めるように叩きます。


「まあ掃除や洗濯などは当番を決めて回せば良いでしょう。問題は料理では?」

「確かに。朝昼晩とシーナに頼りきりだな。しかしそう簡単に代わってやれることではないぞ」


 ローマンさんの懸念に同意するマカミさん。

 他の面々もリィンベルさん以外は料理はできないので、どうしたものかと頭を悩ませます。


「あ、私は料理できますが?」

『なにぃ!?』


 そんな中で手を挙げたのは、まさかのダメ男三人衆の一人、フリーダム神官ナタンさんでした。

 意外過ぎるその宣言に全員が驚きの声をあげています。


「あちらでは精進料理程度しか作っておりませんでしたが、こちらに来てからはもっと美味しいものを食べたくなり料理の勉強もしておりましてな。こちらの料理本は分かりやすいものが多いですし、少しずつレパートリーも増やせていけるかと」


 要は向こうの堅苦しい戒律から解き放たれたのを良い事に、食においてもフリーダム属性を発揮するために地味に努力していたようです。

 まるで美味しいものを求めるあまり、自分で料理を始めちゃう美食家のようです。


「しかしおぬしも大学に向けて勉強しておるのだろう。大丈夫なのか?」

「一日中勉強していても効率が悪いですからな。気分転換にも丁度良いでしょう」


 日本に来てからアマテラス様を信仰するようになったナタンさんですが、実は日本では神職に就くためには資格が必要であり、その資格を取るのに最も手っ取り早いのが神道系の大学をでることだったりします。

 故に年齢的にはおっさんであるナタンさんも、他の学生の面々に負けじと日々勉強しているのです。


「では食事はわしとシーナとナタンで回すとするか。それならばシーナの負担も減るじゃろう」

「シーナ殿の料理を食べる機会が減るのは残念でござるが、仕方ないでござるな。拙者も買い出しなどは手伝うでござる」

「では私も。及ばずながらこちらの料理を覚えるようにしましょう」

「おやおや。これは私だけ何もしないというわけにはいかないようですね」


 リィンベルさんの決定に従い、さらに自分も手伝うと言い出すヤヨイさんにイネルティアさんにローマンさん。

 そして昼頃に帰ってきてその決定を聞いたシーナさんは、嬉しそうに微笑みながらも料理をする機会が減るのを残念がっていたそうです。


 今日も日本は平和です。


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