鬼は外、福は内
疫病神。
その起源は中国より伝来した疫鬼とされており、目に見えない病の原因を霊的な存在に求めた結果生まれた存在とも言えます。
そこで普通は疫病神を恐れ忌み嫌うのが一般的な民族の対応だと思われるのですが、残念ながらここは日本。
「疫病撒き散らさないでね☆」と疫病神にお願いするお祭りを作っちゃったり「盛大におもてなししてあげるからさっさと帰ってね☆」とやっぱりお祭りしちゃったりと、疫病神すら他の神様と同じように祀っちゃったのです。
日本三大祭りの一つとされる祇園祭も、実は牛頭天王という疫病神を祀るお祭りだったりします。
一見するとおかしな事ですが、自然に逆らうのではなく折り合いをつける日本人らしいお祭りとも言えるかもしれません。
ちなみにとある疫病神を祀った神社では、疫病神を追い払うために日々ご神木が参拝客たちにフルボッコされてたりします。
ある意味正しいのですが、疫病神たちが可哀想だと思うのもまた日本人のサガでしょうか。
「どうも。貧乏神です」
「帰れ」
そしてそんな疫病神の一種である貧乏神が、何故か天津神たちの居る高天原に現れました。
これには普段は温厚なアマテラス様も、スサノオ様が無駄にでかい足音響かせながらやって来た時並の迅速対応です。
「……貧乏神に決まった姿は無いと聞きますが、これはまたオーソドックスなのが来ましたね」
ツクヨミ様の言う通り、現れた貧乏神は襤褸に身を包んだみすぼらしい老人の姿をしています。
一般的な人々が想像する、ぶっちゃけ水木し○る先生の描く貧乏神そのまんまです。
「ふん。わしらに姿かたちなんぞ大した意味は無いぞな。おぬしらじゃってそうじゃろうに」
「それについては否定しませんが、何故貧乏神がここに?」
「アマテラス殿が『風邪の神可哀想』等と言っておったから、お言葉に甘えて代わりに世話になりにきた」
「ほら変なの来ちゃったじゃない!」
「ごめんなさい!」
話題になったのは風邪の神なのにやってくる安定の図々しさ。流石は貧乏神です。
そしてアマテラス様の言葉が原因と聞き叫ぶツクヨミ様。珍しく動揺したせいか言葉遣いがオカンになっています。
「いくら高天原が何でもありとは言え、疫病神を住まわせるわけにはいきません。姉上が本気出して浄化される前に消えなさい」
「え? 私がやるの?」
警告を発しながらも他力本願なツクヨミ様につっこむアマテラス様。
でも実際ツクヨミ様が戦うとなれば、どんな戦い方をするのか中二病患者にもちょっと想像がつきません。
「ふはははは! 仮にも神をなめんことじゃ。わしは力尽くで追い払うのは不可能じゃぞ。むしろ消すと増える!」
「な、なんだってー!?」
どこぞの削除動画のような貧乏神に驚愕するアマテラス様。
というか貧乏神が高天原に居ついたところで高天原が貧乏になるとは思えないのですが、細かいことを気にしてはいけません。
「落ち着いてください姉上。こういう正攻法で倒せない魔物は、何か別の対処方法があるものです」
「だれが魔物じゃ」
「な、なるほど。こういうときこそネットで……」
ツクヨミ様の言葉を受けてネットで貧乏神対策を探し始めるアマテラス様。
主神がネットで貧乏神退治を検索。何か根本的におかしい気がしますが、日本だから仕方ありません。
「えーと……『囲炉裏を焚くと熱さで逃げる』」
「囲炉裏はありませんね。もう直接燃やせばいいのでは」
「ああ、灯油かけて?」
「鬼か貴様ら」
淡々と自分を燃やす算段をつける姉弟に戦慄する貧乏神。
「あ、どうせなら……」
そしてそんな貧乏神を眺めている内に何かを思いついたのか、アマテラス様がポンと手を打ちました。
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「久しぶりに呼ばれたと思ったら何だこの扱い!?」
数分後。
そこには薪を両手に持ち、世の理不尽を嘆くように人体発火するカグツチ様の姿が!
「ひゃあー熱い! こりゃたまらん!」
「おお、貧乏神が逃げていきますよ。流石カグツチ兄上!」
「やっぱりいざというときは頼りになるね。カグツチ兄さん!」
「こんな時だけ兄呼ばわりすんな!?」
一人キャンプファイアー(焼身)状態なカグツチ様の熱気に怯え逃げていく貧乏神。
そんな貧乏神を見てガッツポーズでカグツチ様を讃えるアマテラス様とツクヨミ様ですが、当の本人は納得がいかないらしく火力が上がっています。
「大体おまえらは俺を……って誰だ?」
そして火力に身を任せ文句を言おうとしたカグツチ様でしたが、いつの間にかそばに恰幅の良いおっさんが現れ呆気にとられます。
「あ、どうも。福の神です」
「どっから湧いた!?」
現れたのはまさかの福の神でした。おなかの豊かさが貫禄の福っぷりです。
「あ、そういえば貧乏神が逃げた後の囲炉裏には福の神が暖をとりに来るんだって」
「それはめでたいですね」
「って、何か増えてんぞこいつら!?」
カグツチ様の言う通り、暖を取りに来たのか「ふー落ち着きますな」とか「最近はエアコンばかりで風情がないですからな」とか言いながら福の神たちが次々とカグツチ様の周りに集まっています。
まるでコタツに群がる猫のようです。
「わあ、カグツチ大人気だね」
「そうですね。では私たちも戻って何か温かいものでも食べましょうか」
「あ、私お汁粉食べたい」
「待て! 何とかしてくれこのぬるい地獄!?」
続々と集まる福の神たちと、完全包囲されて動けないカグツチ様。
今日も高天原は平和です。




