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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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異世界オネエ物語6 拳闘の花嫁

「最近平和ね」


 麗らか良い天気の中で空を仰ぎながら呟くオネエ。

 そんなオネエをグレイスが呆れた様子で見上げています。


「先日ガルディアと合同で学校を作ることになり『仕事増やしてんじゃねえッ!』とアサヒ殿下に殴られていなかったか?」

「ああ、あれは良いのよ。子猫ちゃんがじゃれついてるだけだから」


 そう言って笑うオネエですが、実際には全力疾走からのジョルトブローをもらい、ダンプカーの正面衝突事故みたいなショッキング映像を村の皆様に提供しています。

 しかしそれでもオネエは無傷。

 オネエの照り輝く筋肉の前には、地を砕く王妃様の拳も猫パンチ同然なのです。


「さて、見回りも終わったわね。ここらで少し休んで行きましょうか」

「はあ。たまに思うんだが、ユキは防げる時もわざとアサヒ殿下に殴られてないか?」

「あら、バレた?」

「……本当にわざとだったのか。また何故?」


 城の中庭のベンチに座りながら聞けば予想外の答えが返ってきて、グレイスは目を丸くして聞き直します。


「いえ、ねえ。あの子が生きてた頃は、何かポカするたびに殴られてたから、ああやって本気で怒られると何か安心するのよねぇ」

「……」


 衝撃。オネエはまさかのソフトMでした。

 ソフトと言うにはS側の攻撃力が過剰な気もしますが、オネエの防御力は某神にも悪魔にもなれるスーパーロボット並なので仕方ありません。


「まあでもあの子も手加減はしてくれてたんでしょうね。子供の頃の私って本当にもやしっ子だったから」

「それもにわかに信じがたいのだが。何をやればそんな強靭な肉体が手に入るのだ?」

「そうね。きっかけはボクシングを始めたことだと思うけど、そういえばそれ自体もあの子がきっかけだったわね」


 そう言うと、オネエは何かを懐かしむようにクスリと微笑みました。


「私って本当に弱虫でね、いじめられても泣いてばっかり。そんなだからあの子が私の代わりにいじめっ子に立ち向かっちゃって。情けないわよねぇ。男だったら好きな女の子くらい守れないと」

「……」


 言ってることはもっともなのですが、言ってるのがオネエなせいでグレイスも素直に賛同できません。

 というかそもそもオネエが昔はか弱くいじめられっ子だったことが信じられません。

 何をどうすれば、男の娘が世紀末覇者にまでワープ進化するのでしょうか。


「大好きな女の子も守れずにむしろ守られてばかり。そんな臆病者だったから、きっとそのツケを払わされたんでしょうね。ある日いつものように私はいじめられて、いつものようにあの子はいじめっ子に立ち向かって、そして大怪我をしたの」

「何ッ? 大丈夫……だったから結婚したのだろうな」


 オネエの奥さんが怪我をしたと聞き一瞬焦るグレイスでしたが、すぐにそういえば過去の話だったと思い出し浮いた腰を下ろします。


「それ自体は事故みたいなものだったのよ。突き飛ばされた拍子に、落ちてた枝がお腹に刺さっちゃってね」

「それは、さぞ痛かっただろうな」

「ええ。あの子が悲鳴をあげたのなんて初めて聞いたわ。そして私が人をあれほど憎んだのも初めてだったんでしょうね。頭がカッと熱くなって、目の前が真っ白になって。……気付いたら私は、その辺に落ちていた石でいじめっ子のドタマをカチ割っていたわ」

「ほう。よくやった」


 現代日本人なら「やりすぎだろ!?」とつっこみを入れるところですが、グレイスは物騒なファンタジー世界の住人なのでこれくらいでは動じません。

 むしろグッジョブとばかりに親指を立てています。どうやらオネエの語りに聞き入ってたせいで感情移入しちゃってるようです。


「でもね、怒りはいつか冷めるものなのよ。冷静になって本来の臆病者に戻ったら、もう怖くて仕方なかったの。大切な人が傷つくのも、誰かを傷つけるのも。そうなると人と関りを持つこと自体が怖くなっちゃって、すっかり引きこもりになっちゃったわ」

「優しいなユキは」


 自分だったらそのいじめっ子たち全員に復讐して回るだろうに。そう考えちゃう辺り、グレイスも思考が筋肉寄りなデンジャラスガールです。


「でもそこでまた私を救い出してくれたのがあの子だったの。ぐずる私を部屋から引きずり出して、近所のジムに連れて行って『私がおまえを鍛えなおしてやる!』って」

「それはまた思い切った荒療治をしたものだな」


 人を傷つける事を恐れる子供に殴り合いをさせる。確かにグレイスの言う通りかなりの荒療治です。


「もう一方的に殴られて、でもその内何だか腹が立ってきたのよね。何で私がこんな目に合わなきゃいけないんだって。そんな思いが爆発して、思わず出した手があの子の顔面に当たっちゃったの」

「カウンターか?」

「ええ、偶然だけど見事に決まったわね。でもあの子ったら、痛みで涙目になりながら笑うのよ。『やっと元気が出たな』って、鼻血たらしながら。もうこの子には私一生敵わないなって思ったわよ」

「なるほど。ユキが奥方を今でも愛してるのも納得できる。素敵な女性だな」


 団長と違って。

 そんな言葉を飲み込んだグレイスに、オネエもおかしそうに笑います。


「それからは二人でボクシングジムに通ったわ。そして気付いたの。ああ、人間って案外丈夫だから多少凹っても大丈夫なんだって」

「その認識はきっとユキと奥方にしか適応されないだろうから、一刻も早く訂正してくれ」


 そういえばオネエの訓練が激しすぎると部下たちが言っていたことを思い出し、素に戻りつっこみを入れるグレイス。

 今日も異世界は平和です。


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