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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました【連載版】  作者: 湯立向日/ガタガタ震えて立ち向かう


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私のために争わないで


 ガルディア王国とメルディア王国。

 かつて一つの国だったその国が二つに別れたのは、様々な要因が重なっての事ではあるが、その中でも大きな原因となったのは、メルディアの初代国王であるマティアスと神殿との仲違いである。

 ガルディア王の弟であり、大公の地位にあったマティアスは、以前より神殿の神官たちが政治に多大な影響を持つことに不満を持っていた。

 しかし当時のガルディア王であるカルヴィンは神官長であったアビゲイルと蜜月の関係にあり、マティアスの再三の警告と要求を無視し続けていた。


 それでも表面的には上手くいっていた彼らだが、とある問題を巡り対立は表面化した。

 異世界より王の花嫁として召喚された女性。神殿と王国の結びつきを強くするために呼び出されたその少女を巡り、カルヴィン王とマティアス大公は流血沙汰の闘争まで引き起こしたのである。


 結果国は二つに割れ、貴族たちはもちろん神官たちも旧来の神殿に従う者とマティアス大公の方針に従う者で二分された。

 国土も、王も、民も、神殿も、神官も。全てが二つに分かたれたのだ。


 マティアス大公が、何故たった一人の少女のために戦争すら起こし反逆したかには諸説ある。

 少女に憐みを抱いた程度では、国を二つに割るような愚行は起こさなかったであろう。

 少女に恋心を抱いていたなどというロマン溢れる説を唱える者も居るが、当時大公は既に結婚しており、その後少女を側室にとったなどという記録も無い。


 ただ確かなのは、花嫁召喚という儀式が結果的に国を割ったという事実だけである。

 そのためメルディアは勿論ガルディアにおいても花嫁召喚は禁忌とされ、長きに渡り封印される事となる。


 そして現在。

 そのガルディアとメルディアの国境にある村にて、ガルディアの国王リチャードと、メルディアの第一王子ハインツがにらみ合っていた。

 ――かつての歴史を繰り返すように、一人の少女を巡って。



「誰が少女やねん!?」


 長閑な村の澄み渡った空に、異世界に迷い込んだ日本人、明智リョウコさん(二十四歳)のつっこみが木霊する。


「びっくりした。どうしたのリョウコちゃん?」

「は!? す、すいません。今、誰かに失礼な事を言われたような」


 突然叫び始めたリョウコさんに驚いているのは、ハインツ王子の護衛として引っ付いてきたオネエです。

 リョウコさんがちみっこ過ぎることもあり、並ぶと某ヘラクレスと魔法少女のようです。


「大丈夫? まあストレスもたまるわよねぇ、この状況」

「えー、まあ確かに。やるなら他所でやってくれって感じですけど」


 二人が視線を向けた先には、村の入り口でにらみ合う二人の青年。

 ガルディアのリチャード王と、メルディアのハインツ王子です。


 昨今の世界情勢。庶民層の生活にも余裕ができ、頭角を現す者が増えてきた状況を見て、奇しくも二つの国の指導者は同じことを考えました。


 ――うちでもフィッツガルドみたいに教育機関作れば良いんじゃね?


 教育機関を作るとなれば、当然教師が必要です。

 そしてそこで目をつけられたのが、最近優秀な人材を出稼ぎで送り込んでくる国境の村でした。


「うちで教師やってみませんか?」

 ↓

「え、お断りします」

 ↓

「そう言わずに」

 ↓

「○○からのお誘いも断ってますので」

 ↓

「何!? いかん。こうなったら私が直接交渉に行く!」

 ↓

「え? 何それ怖い」←今ココ


 二つの国の王族から勧誘を受けて、リョウコさん板挟み状態です。

 どちらか一方からの勧誘だったならその内折れたのでしょうが、現状でどちらかの誘いを受けたらもう一方に角が立ちます。

 ここまで来たらリョウコさんの自由意志など在って無いようなものです。


「相変わらず貴様は血の巡りが悪いようだな。この地は先の戦の後よりガルディアの領土だ。ならばアケチ師もガルディアにて教鞭をふるうべきなのは自明の理だろう」

「あはは。そういう貴方は相変わらず抜けてますね。アケチさんはユキやアサヒ殿下と同じ日本人であり、この世界において明確な所属は存在しません。故に貴方の主張に正当性はありません」


 往来のど真ん中で話題の本人そっちのけで言い争う王様と王子様。

 どちらも爽やかな笑顔ですが、その笑顔の下から「ぐだぐだ言ってんじゃねえよボケ」という本音が溢れ出しています。


「両方受けるのは無理だから、両方お断りする方に持っていきたいんですけど」

「二人とも頑固だから難しそうねぇ。アサヒちゃんを呼べば王様は引き取ってくれるでしょうけど」

「じゃあ後は国生コクショウさんに王子様を引き取ってもらえば万事解決ですね」

「……さらっと無茶な要求しないでちょうだい」


 無邪気な笑顔でどす黒い提案をするリョウコさん。

 女って恐いわあとオネエですら戦慄しています。


「というか、そもそも私この村から離れたくないんですけど」

「もうこの村に二国共同で学校建てちゃえば良いんじゃない?」


 ――!?


 投げやりに放たれたオネエの言葉。その言葉にそれまで笑顔で睨み合うという器用な事をしていた二人が反応します。


『――それだ!!』

「え?」

「幸いこの地は最近になり街道が整備され、両国の首都からの往来も楽だ。両国の共同機関を建てるのに、これほど適した土地は無い」

「確かに。それならいっそこれを機に、この村を両国の共同統治、あるいは完全な中立地帯としてしまうのもありなのでは?」

「ふっ。そういった提案に相手を上手く乗せたいなら、もう少し話術を磨くのだな。しかし今回は乗ってやった方が面白いことになりそうだ」

「……」


 それまでのいがみ合いは何だったのかと言いたくなる勢いで方針をまとめていく王様と王子様。

 もうこうなったら止めるのは王妃様以外には不可能です。


「……国生さんの馬鹿あぁぁぁぁ!」

「えー、いや、本当ごめんなさい」


 小さな体を精一杯伸ばして胸板をポカポカ殴るリョウコさんと、ばつが悪そうにそれを受けるオネエ。

 今日も異世界は平和です。


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