お米食べろ
米。
ご飯という食事を意味する言葉がそのまま炊いた米も意味するように、正に日本人のソウルフードと言える存在です。
とはいえ、一昔前の日本では粟や黍などの五穀と呼ばれるものが主食であり、米が純粋に主食になったのは江戸時代末期から明治と最近のことだったりします。
そのため文明開化後間もないころは「米が食える」というのが兵隊募集の謳い文句だったりしたそうです。
「……お米が食べたいわぁ」
そして異世界に召喚されたせいで、お米を絶たれて落ち込み気味な日本人が一人。
メルディア王国第一王子ハインツ殿下の腹心であり、いつの間にか騎士団の副団長になっちゃってたオネエです。
王宮の中庭で紅茶を片手に優雅に座る姿は実に様になっています。流石黙っていれば男前なオネエです。
「……おまえ人が敢えて考えないようにしていた問題を!?」
そしてオネエの向かいで相変わらずキレているのは、ガルディア王国の王妃様であるアサヒさんです。
初対面こそお互いに己の立場を考え静かだった二人ですが、その後の衝撃的な事件を経て血よりも濃い絆で結ばれた魂の友となり、定期的にお茶会を開いています。
周囲には同郷だからだと思われていますが、実際は王妃様の趣味とオネエの趣味がファイナルフュージョンしてしまった結果です。
ホモとBLは違うと主張する人も居ますが、オネエと異世界の人たちは二次元もびっくりな美形揃いなので問題ありません。
「アサヒちゃんの権力でどうにかできないかしら? 日本に似た国もあるんだから、お米もあるんじゃない?」
「あったとしてもそう簡単にはいかねぇよ。こっちの土地で育つか分からないし、育っても味の保証はできねぇ。この土地に合う上に味まで保証できるレベルまで品種改良するなんて、数年か下手すりゃ数十年かかるプロジェクトになるっての」
今でこそ日本では簡単に食べられるようになったお米ですが、安定した品質と収穫を得るまでには長い品種改良の歴史があったのです。
その結果生まれた品種は既に三百を越えるとされ、しかも今もなお改良が進められ新たな品種が生まれているほどです。
長年に渡る品種改良の努力を一瞬で凌駕するなど、内政チートな王妃様にも流石に無理があります。
「となると輸入しかないかしら。でもそれだとコストがかかるわね」
「だから考えないようにしてたんだよ。私個人の道楽のために無駄金使うわけにはいかないし、そこまでやって手に入れた米が不味かったら心が折れる」
「……ならやるしかないわね。品種改良を」
「おまえ人の話を聞いてなかったのか?」
無駄にかっこいい顔で決意するオネエに、王妃様が呆れた視線を向けます。
「下手をすれば数十年かかる。逆を言えば数十年の努力で私たちは美味しいお米を食べられるかもしれないのよ?」
「そこまでやる意味が……」
「あるのよ!」
「!?」
いまいち乗り気でない王妃様に、突如オネエが拳を突き付け立ち上がります。
「貴女は忘れたの!? 炊き立てのご飯の宝石のような美しさを!? 唐揚げを噛みしめた後に訪れる米のハーモニーを!? つゆに浸ったトンカツと共にある米の究極を!?」
そして拳を天に突き上げ咆哮するオネエ。
もうこのまま米の良さを語って一片の悔いも無く逝ってしまいそうな勢いです。
密かにお茶会を覗き見ていた王様とグレイスもドン引きしています。
「忘れる……ものかぁ!? ただ握られただけの米と海苔の完成された美を!? タレに濡れた肉と邂逅した米のワルツを!? カレーと溶け合う米の至高を!?」
そして対面する王妃様も立ち上がり拳を掲げました。
二人ともそれぞれに米の良さを語り合い、テンションに比例して風が渦を巻きプチ台風が発生しています。
今日も食い意地のはった日本人は絶好調です。
「おのれコクショウ。あんなにアサヒと意気投合して妬ましい……!!」
「あの……私もう帰っていいですか?」
そしてその様子を見てハンカチを噛む王様と、遠い目のグレイス。
今日も異世界は平和です。




