謎の椎茸推し
国会中継。
政治に強い興味がある一部の人しか見そうに無い番組ですが、最近は地味に視聴率が上がっています。
原因は異世界人。
稀に召喚返しによって現れる彼らをいち早く見るために、興味もない会議を見る人が微増したのです。
「えー、それでは異世界召喚に関する報告なのですが……こちらの手紙をご覧ください」
そして最近定例化した総理による異世界召喚報告。
どうせ大した進展無いんだろと油断していた議員たちに、総理からサプライズがかまされます。
――今日のお昼頃に召喚返しするねbyアマテラス
『……』
沈黙に包まれる国会。
つっこみ所が多すぎて、最近つっこみのお兄さんと国民に周知されている若手議員もつっこめません。
「今朝私の自宅のポストにシイタケと一緒に入っていました」
――何故シイタケ。
議員たちの心がシンクロしました。
「って、昼頃っていつですか!?」
再起動した若手議員のつっこみ。
「さあ?」
安定の総理。
投げやりなようでいて余裕たっぷりなその姿勢に支持率うなぎ登りです。
「まあ来るときは来ますから落ち着いて……」
「ふむ。ここが異世界か」
落ち着き払った総理の声に、同じくらい落ち着き払った女性の声が重なります。
『……』
いつも通り、いつの間にか議会のど真ん中に一人の女性が居ました。
「むぅ、人間ばかりだな。なるほどアマテラス様の言っていた通りだ」
神妙な顔をしているのは、黒い肌に長い銀髪を靡かせる長身の女性です。
日本人から見ても美しい女性でしたが、その顔の横についた長い耳に議員たちの視線が集中します。
――エルフキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
某匿名掲示板が異様に重くなりましたが辛うじて落ちませんでした。
今落ちてるよねとメタな事を言ってはいけません。
「……ようこそ日本へ。私は内閣総理大臣を務めております安達と申します」
「うむ。わしはイルイの森に住むエルフたちの長老で名をリィンベルという」
何か外見に似合わない役職が飛び出しましたが、紳士な安達くんはスルーです。
女性の歳に言及してはいけないのは世界を越えた理なのです。
「内閣総理大臣というのは長老のようなものか?」
「いえ、どちらかというと村長です。長老はあちらの議長ですな」
「……なるほど。味のある老い方をしている」
リィンベルさんの評価に議長は『ふぉっふぉっふぉっ』と謎の笑みです。
確かにその曲者っぷりは味があるにも程があります。
「先ほどアマテラス様とおっしゃっていましたが、事情は認識しているということで?」
「うむ。事情説明ついでに言伝を頼まれたのだが、わしの世界に召喚された少女は元気だそうだ。田舎の農村に辿り着き農業ライフを満喫しているとか」
異世界召喚された日本人の安否を聞き議員たちの間に安堵の空気が流れます。
「その件については本当に申し訳ない」
しかしそんな空気を冷ますようにリィンベルさんがいきなり深々と頭を下げました。
――またか。
いい加減議員たちも悟りました。
「わしらは見ての通りダークエルフでな。五百年ほど前に人間との争いに負け森の奥深くへとおわれたのだ。
まあ所詮縄張り争いと当事者のわしらは納得していたのだが……」
さらりとリィンベルさんの歳が五百歳以上だと確定しました。
しかし空気が読める日本人な議員たちはスルーです。
「最近になって百年も生きておらん若造どもが『復讐だ』と騒ぎだしてな。しかも情けないことに自分たちだけでは勝てそうにないと異世界召喚なぞやらかしおって。
しかも召喚したは良いが見失い、かといって森の外に探しにいく度胸も無いときた」
どうやらダークエルフの若者たちは威勢の良いヘタレなようです。
長老なリィンベルさんの苦労が偲ばれます。
「そこに神木に宿る精霊を通じてアマテラス様よりこちらの冥界の神が怒っていると聞いてな。
一人代わりにこちらへ行かねばならぬと聞き、長老なんぞやってられ……長老として責任をとるためにわしが応じたわけだ」
何か本音が聞こえた気がしましたが空気が読める議員たちはスルーしました。
というか自分たちも厄介事は総理に押し付けているので何も言えません。
今日も日本は平和です。
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「あの人エルフだけあって信心深いね。供物だって野菜とか果物たくさんくれたよー」
一方高天原。
リィンベルさんからもらったお供えにアマテラス様が満面の笑みです。
どうやらリィンベルさんは元々精霊と親いエルフだけあり、自然現象への敬意や畏怖が根本にある日本の神々への信仰にすぐ馴染んだようです。
何かアマテラス様が信仰されたことより食べ物をもらった事を喜んでいるように見えるのは気のせいです。
「しかし姉上。あのエルフはハイエルフよりさらに上位の、場所によっては王族にあたるエルフですよね」
「うんそうだよ」
「……王族エルフはハイエルフよりさらに寿命が長く、不老不死に近いですよね」
「うん?」
ツクヨミ様の質問に、それがどうしたのかとアマテラス様は首を傾げます。
「輪廻する魂が減ったから異世界人を呼んでいるのに、世界が終わるまで死にそうにない魂を呼んでも良かったのですか?」
「……」
ツクヨミ様の指摘にアマテラス様がフリーズします。
どうやら自分が何故召喚返しを始めたのか忘れていたようです。
「……肉厚なシイタケってバターで焼いただけでも美味しいよね」
「……そうですね」
そしてシイタケをほおばり現実逃避を始めるアマテラス様。
ツクヨミ様は駄目だこの姉と思いましたが、口で言ってもどうせ治らないので生暖かく見守ることにしました。
今日も高天原は平和です。




