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姫は猫、魔法使いは大男  作者: 黒森 冬炎
第六章、プリムローズの誕生日

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60/80

60、マーサと小さな人形

 プリムローズたち3人が階段坂でお昼を共にしている頃、ティムはエイプリルヒル王城の、王族付き使用人食堂に来ていた。本来なら王族の身の回りを整えるスタッフ以外、立ち入り禁止である。今回はマーサに案内されてきた。


「お城広いねえ、僕、レシィと違ってお城には魔法省ぐらいしか来ないから、お城でこんなに沢山歩いたの、初めてだよう」


 ティムは、首が痛くなるほど見上げても全貌が掴めないほど高く広い天井を眺めた。豊かな国を象徴するかのように滑らかに塗られた真っ白な天井は、所々に漆喰細工が施されていた。


「お城は働いてる人用の食堂も広いんだねえ」

「たくさんの人が働いていますからね」


 食堂はいま、人でいっぱいである。小さな城とはいえ、ティムのような町育ちの青年にとっては、想像もできない広さである。王族に直接仕える人々だけでもかなりの人数にのぼる。スタッフは時間をずらして順番に昼食を取るが、それでも広い食堂をほとんど満席にしていた。


「さあ、こちらです」

「あ、うん」


 マーサはテーブルの空いている席へと向かう。エイプリルヒルの王族付き使用人は、中堅貴族の家から選ばれる。そのため、王族付きスタッフ専用のこの部屋では、声高なお喋りは聞かれなかった。話し声もさやさやと小波のようだ。



 入り口で掌に収まる四角い札を渡して、席で待っていれば定食を持ってきてくれる。札は食事が出る時に戻ってくる。これは食事用の札で、1人1枚支給されている。王族付きのスタッフは、周りを金で縁取った札を持っている。


「ティムさんが透明ブローチで良かったです」

「そうだねー」


 ティムは透明ブローチの魔法使いなので特別待遇である。透明ブローチと虹色ブローチを賜わる魔法使いだけは、スタッフの付き添いがあれば、王族付きスタッフ専用エリアも利用できることになっていた。


 これは本来、魔法に関わるトラブルが起こった時のためのルールだ。難しい現象が起きた時に対応出来るのが、透明と虹色のブローチを賜わる魔法使いだけだからだ。だが、目的については決まりが何もないので、今回のように食堂を利用するだけということも許されている。



 2人が空いた席に並んで座ると、周囲の人々が軽く会釈をした。マーサも会釈を返す。ティムも真似をする。今日のティムは、職人然とした革の大判エプロンを外している。左胸には透明なアーモンドの花を象るブローチをしていた。


 普段は工房に置きっぱなしにしている、エイプリルヒルで認可された魔法使いであることを示すものだ。利用資格に関わるために、きちんと身分を示す必要があるから今は目立つ場所につけている。


 座る時、ティムの柔らかそうな茶色の毛がふわりと揺れた。空色の人懐こそうな瞳が、機嫌良く辺りを見回す。何人かの若い女性がうっすらと頬を染める。フォレストといることが多いのであまり目立たないが、実際にはティムもそれなりに背丈がある。


「美味しそうだねえ」

「今日は鶏肉の野菜煮込みですね」

「いい匂いがするよ」

「ここの食堂は、専用の厨房があるんですよ」

「ああ、作ってる匂いも流れてくるのかぁ」


 周囲の席の女性スタッフが、ちらちらとティムを盗み見る。マーサは少し不満そうな様子を見せた。



 ティムの友人フォレストは、雲つくような大男である。手入れもせずに艶もなく普段は整えてもいないが、豪華な銀髪を頭に輝かせている。厳ついが顔立ちは整っている。菫色の瞳もエイプリルヒルでは珍しく、銀髪と組み合わされるとたいへんに華やかな印象を与える。


 フォレストも苛々と怒ってばかりいなければ、相当な人気が出ただろう。しかし、だいたいいつも眉間に皺をよせて口をへの字に曲げている。怖いという印象が先に立ち、持て囃されることはない。


 ティムは丸顔でいつもにこにこしている。人当たりがいいので、地味な女の子たちからとても人気があった。しかし、勇気を出してアプローチしてくる人は今までいなかったので、ティムはそのことを全く知らなかった。



 ティムは魔法細工一筋で、恋心を抱いたのもマーサに対してが初めてである。流石に街の噂になったり、積極的なアプローチをしている人だったりすれば、他人の色恋にも気がつく。フォレストはそれすら解らないようだが、ティムはそこまで鈍くはなかった。


 だが、自分が渦中にいるとは想像もしていない。今、ちらちら見られているのも、見慣れない人が来たからだと思っていた。そして、頬を染めるのは、ティムがマーサの恋人だと思ったのだろうと自惚れた。


(女の子、恋バナ好きだもんねー。でもなんでマーサ、ちょっと怒ってるんだろ?僕が恋人だと思われるの、嫌なのかなあ?)


 ティムはとりあえずマーサの機嫌を取ろうとして話しかける。


「飲み物も食堂のスタッフが決めるんだねー」

「はい。熱いか冷たいかも選べません。そこだけちょっと不便です」

「それで温度の調節がしたかったのー?」

「それはありますね。せめて冷たいか暖かいかは選びたいです」

「でもさあ、冷たくして出す物って、もとの味は濃くないー?」

「そうですけど、そのくらいは我慢します」


 ティムの瞳が空色に光る。また何か思いついたようだ。



「これなんだけどさあ」


 ティムはポケットから金属の人形を取り出す。親指の半分くらいしかない銀色の身体である。鼻や口はないのだが、目に当たる場所には、薄茶色の透明な宝石が埋まっている。手足は動く。肘も膝も、指に至るまで関節は動いた。どうやら首の角度も変えられるらしい。


「凄い。可愛いです」


 マーサの顔が嬉しそうに綻ぶ。ティムは、マーサの笑顔に胸を高鳴らせながら、褒められて少し照れる。同時に得意そうに人形をあれこれ動かしてみせる。


(細工のこととなると、子供みたい。可愛いわねえ)


 マーサは、ティムが耳の先を赤くしながら、詳しく人形の説明をする様子を好ましく思った。これまでも細工の説明をするティムは見たことがある。だが、これほど嬉しそうな様子は初めてだ。



「それでね、濃さもちょうど良くできたら、もっと良くないかなあ?マーサどう思う?」

「それは素晴らしいと思います」

「でしょうー」


 ティムはポケットから、今度は細く茶色い筆を取り出した。柄の部分は銅のような金属で、穂の部分は濃い茶色のコシがありそうな毛で出来ていた。ティムはその筆の先で人形に触れると、小さな声で何か歌った。


 周囲の王族付き召使いたちが、一切にティムの手元を見る。だが、躾の行き届いた中堅貴族の子女たちは、その場でじろじろ見ることはしない。一瞬注目したあとは、そそくさと視線を戻す。



(凄い!ティモシーさんが魔法を使うところ、初めて見たけど、やっぱり大魔法使いとあまり変わらない実力なんだわ)


 お城で見かける魔法使いの中には、幾人か透明ブローチを輝かせる人もいる。だが、彼らも大きめな杖を持ち歩き、長い呪文を必要とする。


「できたー。はやく飲み物来ないかなあ」

「思いついてすぐに造りかえるなんて、やはりティモシーさんの技術は段違いですね」

「マーサありがとう。褒めてくれて、とっても嬉しいなあ」


 ティムは臆面もなくにこにこ顔を晒す。


「でも、まだ使ってみてないからねー」

「すぐに飲み物が来るから、試せますよ」

「うん。うまくいってるといいなぁ」

「はい。楽しみですね」

「魔法の調整をする道具持ってきたから、なにか不具合が起きてもすぐに直せるよー」



 周囲に座る人々の食べるスピードが遅くなる。殆ど食べ終えていた人も、そやそわとしながら座り続けていた。ティムの道具が気になるのだ。魔法細工は高価な物である。その最高級品が目の前で最後の仕上げを施されている。こんな珍しいものが見られるチャンスはまたとない。


「でもティモシーさん、どうやって使うんです?コップを人形に見立てるんですか?」

「そうじゃないよー」

「人形用魔法細工は、人形以外が使うと砕け散るのではないですか?」


 マーサは心配そうに目を細める。


「そこは大丈夫だよー。これは人形の本体一体型の装飾品なんだー」

「本体一体型?初めて聞く言葉ですが」

「ごめん、魔法細工用語だから知らないよねー」

「はい。何でしょう?教えていただけますか」

「うん。もちろん」


 ティムは大好きなマーサが自分の仕事に興味を持ってくれて、ご機嫌である。



「これねえ。この眼、宝石に見えるでしょ」

「はい、宝石のようですが。違うんですか?」

「これねえ、魔法鉱石を細工魔法で加工したものなんだあ」

「魔法鉱石って、かなり貴重なものだと聞きましたが」

「うん。特別な条件が揃わないと出来ないものだからねえ。ほら、これ。この魔法使いのブローチにも使うんだよー」


 ティムは胸の透明ブローチを自慢そうに指差した。


「そんな貴重で扱いが難しいものを、簡単そうに扱えるなんて」


 マーサは改めてティムの能力に感心する。


「へへっ、凄いでしょー」

「はい!」


 マーサは、力強く頷く。ティムはその様子に嬉しくなった。マーサの瞳が宝石のように見える。ティムは、フォレストがプリムローズにすぐ抱きついたりキスしたりしたくなる気持ちが、初めてわかった。


(僕はしないけどねー)


 まだ恋人同士でもないし、たとえ思いが届いたとしても、ティムは人前でベタベタするタイプではない。


(マーサもそういうの、嫌いそうだしー)



 皆が密かに注目するなか、マーサとティムに飲み物付きの定食が運ばれてきた。ほかほかと湯気を立てる煮込み、柔らかそうな焼きたてのパン、熱い薬湯。薬湯は、王城の薬草園から仕入れるハーブを煮出したものである。


「あ、来たね」

「来ました」

「これね、人形の本体と装飾品が一体になってるの。だから、本体一体型っていうんだー」

「なるほど」

「眼が本体の装飾品扱いなんだよー」

「まあ、そうだったんですね」

「うん。だから、安心して使ってね」


 熱い薬湯が定食についてくるのは、調理スタッフの優しさである。王城は広いので、スタッフの疲労を軽減する気遣いなのだろう。この薬湯は飲みやすく人気だ。しかし、真夏でも熱々なので、不満な人も多い。


「じゃあ、早速試してみよ」


 ティムは、銀色の人形をマーサの前に置く。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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