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ただの友達です

「おーっすお前らおはようさん。今日も今日とてダルいが、HR始めていくぞー。」


史田がやってきた。


いつの間にやらHRの時間になっていたようだ。


皆が席に着く。


「さて、と。今日は昨日話した通り学力テストだ。今回は適当な点を取ってくれて構わないぞ。年度末にそっから伸びてくれれば俺の評価は上がるしな。」


ナチュラルに自分のことしか考えていない発言をする史田。


「そしたらとりあえず教科書の配布だな。体育館でまとめて配ってるから、今から受け取りに行くぞ。お前ら廊下に出席番号順に並べ。」


ほれほれ、と俺たちを追いやる仕草をする史田。


言われるがまま廊下に並ぶ。


「並んだな。じゃ、出発だ。」


史田の号令で体育館に向けて出発する。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「よし、一年の机はあそこだ。あそこで出席番号と名前を言うように。そしたら教科書がもらえるので、そのまま教室へ戻れ。間違っても寄り道とかするなよ。俺が怒られるからな。」


体育館に着くと史田が説明をする。相変わらず自分のことしか考えていない発言をする男だ。


「じゃあ最初は明神からだな。行ってこい。お前らも列崩さずにそのまま並ぶように。」


指示された直矢が机に向かう。


「教科書、重そうだねー。」


とさやかちゃん。


「そうだねー。嫌だなぁ。」


重いものは持ちたくない。


しばらくして直矢が教科書を受け取って戻ってくる。すれ違いざま、


「出たところで待っている。そこそこ重いから代わりに持ってやる。」


と言った。


「えー、嘘! やっぱり二人付き合ってるんじゃないの!?」


とさやかちゃん。


「いや、単に直矢は優しいだけで……」


まさかパシリ契約を交わしているとも言えないので適当にいって誤魔化す。


「ふーん……それって皆に、なのかなぁ?」


ニヤニヤしながら言うさやかちゃん。


「そ、そりゃそうでしょ。」


「じゃあなんで楓ちゃんの分だけ持ってくれるんだろうねー?」


「それは……仲がいいから、とか……?」


「仲がいい、ねー……」


「そ、それだけだよ、ホント!」


含みのある言い方をするので言葉を重ねて何かあることを否定する。


「あ、私たちの番みたい! 行こう!」


気づくと前に人はいない。


慌てて机の前に行く。


「1A07の古田島さやかです!」


「はい。古田島さんね。こちらが教科書になります。」


ズン、と重そうな教科書をまとめた束が机に置かれる。


「んしょ……それじゃあ私は先に行くね。」


よいしょ、よいしょと重そうに歩いていくさやかちゃん。


「1A08新条エディです!」


「はいどうぞ。」


「ありがとうございます! じゃあ楓さん、お先に戻ってますね!」


エディも重そうにしてこの場を去っていく。


「1A09新条楓です。」


「どうぞ。」


ズシンと重い教科書の束が目の前に置かれる。


「んぬぬ……」


気合いで持ち上げて体育館の外に向かう。


「おう楓。重いだろう。持ってやる。」


外に出るとシュッと手を上げる直矢。隣にはさやかちゃんとエディも。


「澄也は?」


「先に行かせた。あいつの荷物まで持ってられんからな。」


「えっ、それなら私も自分で持っていくよ!」


とさやかちゃん。


「いやいや。女子にこの荷物は少々重すぎる。俺は肉体労働くらいしか取り柄がないからな。これくらいやらせてくれ。」


「それなら私より天神君の荷物持ってあげた方が……」


「アイツは男だ、大丈夫だよ。それにもう少し筋肉をつけるべきだしな、いい運動だ。」


さて、行くか、と直矢はビニール紐でまとめられた教科書の束を4つ持って移動し始める。


「悪いね直矢。」


持ってもらうのはありがたいが当たり前に思っちゃいけないな、と言う気持ちから発言する。


「気にするな。さっきも言ったがこれくらいしかやってやれることもないしな。」


「直矢さん、ありがとうございます!」


「ありがとう明神君!」


各々お礼を言う。


「いいねえ直矢。女の子にお礼言われまくっちゃって。羨ましい限りだ。」


と、階段の上から澄也の声が。


「なんだお前、まだ教室に戻っていなかったのか。」


「生憎僕の体は貧弱でね、休憩が必要なんだよ。直矢が持ってくれれば楽なんだけどなぁ。」


「たまには運動も重要だぞ。自分で持て。」


「へいへい。じゃ、休憩もしたし、僕も行こうかな。」


よいしょっと、と澄也が教科書を持ち上げる。


「あのー、本当に良かったの? 明神君。」


とさやかちゃん。


「ん? ああ。楓の友達だろ? そうでなくともこんな重い荷物を女子が目の前で持ってたら持ってやるのが男ってもんだ。だからなんの問題もない。」


俺は鍛えてるしな、と直矢。


「ありがとう! 明神君、男らしいんだね!」


「……ああ、どういたしまして。」


フイッ、と目を逸らしボソッと言う直矢。


「ふむ。これは女子に直球で褒められて照れてる姿だね。発生条件さえ整えば結構見られるそんなにレアじゃない反応だ。ああ、でも何回も繰り返すと耐性がついてしまうから程々にするように。以上、直矢観察博士からでした。」


と澄也。


「……」


「アウチッ!」


無言で澄也の腰を蹴る直矢。倒れ込み腰を押さえる澄也。


「大丈夫ですか澄也さん!」


澄也に駆け寄るエディ。


「行くぞエディ。怪我する程の力で蹴っちゃいない。」


「なら安心ですねー。」


スタスタと歩いていく二人。


それでいいのか……


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


教室に到着した。澄也も後から追いつき、普通に話していた。直矢の言う通り心配は無用なようだ。


「よっこらせ。悪いが持ち帰る時は自分でなんとかしてくれ。」


ドン、とそれぞれの机に教科書を置いてさやかちゃんに言う直矢。


「ああ、それは大丈夫。家の―――あー、家族に手伝ってもらうから。」


とさやかちゃん。


何を言いかけたんだろうか。


まあ、言うのをやめたことをわざわざ追求するものじゃないし、気にしないでおこう。


「そうか、それなら良かった。楓とエディの分は持っていけるがどうする?」


「ああ、それなんだけど、私たちカバン持ってきてないんだ。ロッカーに入れちゃえば大丈夫って母さんが言ってたから。」


「そうなのか?」


「まあ、この学校の3年生と2年生の子供を持つ人間が言うんだから間違いないんじゃないかな。直矢たちもそうしたら?」


「ああ、そうだな。おい、朗報だぞ。」


何やらすごい勢いで教科書を読み込む澄也に直矢が声をかける。


「ん? ああごめん、読むのに夢中で聞いてなかった。何が朗報だって?」


「ロッカーに入れれば教科書は持って帰らなくていいんだとよ。」


「あ、そうなの? そんなにロッカー大きいのか。」


「そうらしい。」


「まあでも、教科書なんて遮蔽物としてしか使わないからなー。ロッカーのスペース節約のために持って帰っちゃおうかな。」


「お前、間違いなく教師に嫌な顔されるぞ。」


顔をしかめる直矢。


「え、どう言うこと?」


途中から全く話がつかめない。


「いやさー、この程度の量なら丸暗記は無理でも数時間で大体把握できちゃうからさー、教科書持ち歩いたりするのは無駄なんだよね、僕にとっては。その気になれば一冊くらいなら丸暗記もできるし。正直必要ないっていうか。それなら、カバンに入れたりロッカーに入れたりするのは無駄以外の何者でもないだろう? あ、いいこと思いついた。フリマアプリで売っちゃおうか。そこそこの値段で売れるんじゃないかなー。」


言うや否や携帯で教科書の写真を撮り始める澄也。


「天神君ってなんて言うか……とっても自信家なのね。」


とさやかちゃん。


俺もそう思う。


「あー、古田島さんだったか。今のうちに言っておくが、こいつが言ってるのは冗談じゃないし、教科書無しで俺らよりよっぽどいい点とってくるぞ。もしそうなっても無駄に落ち込まないように。異常なのはこいつの方だから。」


と直矢。


確かに教科書売った人間にテストで負けたら落ち込むなぁ……


「そ、そうなんだ……気をつけるね!」


とさやかちゃん。


「よっし、出品完了! 直矢ー、教科書見せて。」


「自分の読めばいいだろ……」


「馬鹿だなぁ、これはもう商品なんだ、読んで開き癖とかつけるわけにいかないだろ? でも流石の僕も一回は内容に目を通す必要はある。となれば直矢のを借りて読むのが最適だろう?」


「……まあ、減るもんでもないし構わんが、馬鹿とはなんだ馬鹿とは。」


「ごめんごめん。つい心にもないことを言ってしまったよ。」


あー、直矢様、わたくしめにどうか教科書を貸し与え給えー、などと真面目な顔で言う澄也。


「ふふっ、二人とも仲いいのね。」


思わず笑ってしまった、といった風のさやかちゃん。


「まあ、付き合いだけは長いからな。」


「そそ。腐れ縁ってヤツさ。まあお互い持ってないものを持ってるからね、持ちつ持たれつって感じ?」


と二人。


「ああ、腐れ縁で繋がった男子二人……これはいい腐の香りが……」


ふふふふ、と若干不気味な感じの笑いをするさやかちゃん。


……聞かなかったことにしよう。

早いですが今月はこれで終了となります。来月はもう少し書けるといいのですが...

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