隠すと逆にエッチな場合ってあるよね
「「「ただいまー。」」」
兄貴の言葉に従い、家まで帰った。
さて問題はエディがどこに住むかだ。母さんが別の考えであることを祈る。
「お邪魔しまーす。」
とエディ。
「エディちゃん? 今日からここはあなたの家なんだから、『お邪魔します』じゃなくて、『ただいま』でいいのよ?」
姉貴に言われるエディ。
「あっ、そうですね! ただいまですー!」
「お帰りなさい。あら? 勇牙は?」
「あー、兄貴ならチャリに轢かれて轢き逃げ犯を追っかけてどっか行った。」
「あらそう。怪我してないといいけど。あ、その服どうしたの? 可愛いじゃない。」
サラッと流す母さん。
息子が轢かれたんだからもう少し驚いてもいいんじゃ……
「これ、エディちゃんが出してくれたのよ。可愛いわよねー。」
と姉貴。
「あ、そろそろ戻しますねー。元の服変化させたものだから戻さないと困っちゃうでしょうし。」
人差し指をクルクルーと回すと各々元の洋服に戻る。
「えー、アレ気に入ってたのにー。」
ブー、と頬を膨らませる幸。
「また今度、着させてあげますよー。」
「ホント!? 約束ね!」
「はい!」
やったやったー!とはしゃぐ幸。
やはり俺の妹は可愛い。
「お風呂、沸いたから入っちゃいなさーい。あ、エディちゃん、ウチのお風呂のシステム分かるかしら? 日本では普通な形ではあるんだけど……」
母さんが言う。
「お風呂……って、このお家にあるんですか?」
ポカン、とした顔で言うエディ。
「え? そうだけど。」
「地下とかにあるんですか?」
でも階段が無い……と呟きながら辺りを見回すエディ。
「いや、そこの扉入ったところよ。」
エディの的外れな発言に首を傾げながら言う母さん。
「ええ!? こんなスペースにお風呂あるんですか!? あっ、空間圧縮かー!」
なるほどなるほどと勝手に頷くエディ。
……なんのこっちゃ。
「……まあいいわ。幸、エディちゃんにお風呂の使い方教えてあげなさい。」
「はーい! エディお姉ちゃん、一緒に入ろ!」
「いいですよ! でもすごいですね、ただの民家に空間圧縮魔法なんて……」
「魔法!? 魔法使ってるの!?」
「え? 使ってるんじゃ無いんですか?」
「先入りなよ。俺、姉貴の後でいいから。」
二人のどうも噛み合わない会話をよそに姉貴に伝える。
「え? 楓は私と一緒に入るのよ? ね、母さん!」
「ええそうよ。」
「ッ! はぁ!? なんでそんな……そんな、高校生にもなって姉と一緒に風呂なんか入らなきゃいけねーんだよ!?」
しかもよりにもよってこの変態と!
「だって、楓、女の子の体のケア方法とか知らないでしょ?」
と母さん。
「それはまあ……そうだけど。そんなこと別に必要ないだろ。万一必要だとしても口で言ってもらえれば多分できるし。」
この体が可愛いのは分かるがだからってそれを使ってどうこうなんて考えちゃいないし別にケアなんかしなくったって……
「ダメよ楓! 美少女たるもの自分の体のケアは何より大事にするべきよ! 楓は髪も長いからケアも大変だしお肌だってケアしなくちゃいけないわ! そんなの口だけじゃ無理よ! 私が、手取り、足取り、教えてあげるわ。」
ねっとりとした口調で言う姉貴。
……勘弁してくれ。
しかし、姉貴だけならともかく母さんまで賛同してるとなると避けるのは難しそうだな……参った。何か脱出できる策は……
「無いか。」
諦めよう。ただ、
「水着つけて入ろう! な! 姉貴!」
こういう代案でいこう。
「水着? 水着ねえ……本当なら裸の付き合いといきたいところだけど、楓は断固拒否するだろうし……まあ、いい落とし所かしらね。でもゆくゆくは……」
またしてもフヒヒ笑いをする姉貴。
……水着でも嫌になってきたな。
「ところで、水着の用意はあるの?」
「あー……それは……」
考えていなかった。エディにポンと出して貰う?
「無いのね? 無いのね!?」
あっ、これは……
「着せ替えタイムね!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「嫌だあああああ!」
「駄々こねないの! ほら行くわよ!」
机にしがみついて抵抗する俺。足を引っ張る姉貴。
「いやー、大きなお風呂しか入ったことなかったですけど、小さなお風呂もいいですね! 何よりお家から出なくていいのがいいですね! ……ん? 楓さん、どうかしたんですか?」
エディと幸が戻って来た。
「あっ、そうだエディ! なんか水着見繕ってよ! 適当でいいから適当で!」
「水着……ですか? 何に使うんです?」
「いやあの、姉貴と風呂に入ることになったんだけど、そのー、全裸は嫌だなーって……」
春から高校生になる歳にもなって姉と全裸で一緒に風呂っていうのは流石に恥ずかしすぎるからな……いや、水着でも十分恥ずいんだけど。
「……? あー、なるほど! じゃあ楓さん、水着、着るんですね?」
キュピーンと効果音が出そうな目をしてエディが言う。
これは……
「色々用意しますよ! 好きなの選んでくださいね! なんでも出しますから! ワンピース型ですか!? ビキニ型ですか!? あ、お風呂入るならビキニ型ですよね! そしたらいくつか出すので気に入ったのを―――」
猛烈な勢いで話すエディ。
エディもこういうのノリノリでやるタイプだったかー……
「え、楓お姉ちゃん水着着るの!? 私も可愛い水着着るー!」
と幸。
地味に幸にお姉ちゃんって呼ばれるの傷つくな……
「幸ちゃんにも出してあげますよー! あ、そしたら僕も着ちゃおうかなー。」
フンフンフーン、と鼻歌を歌うエディ。
「そしたら私の部屋に行きましょうか。あ、エディちゃん、私も色々着てみたいんだけど……」
「もちろん、どんな水着でも出しますよー!」
「ありがとうエディちゃん! よーし、今日は水着パーティーよ!」
なんか趣旨が変わって来てる気がする……
◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺は男俺は男俺は男俺は男……」
皆があまりに俺の目を気にせずに着替えるものだから自分は実は男じゃなかったのではと一瞬考えてしまったことに気づき、うつ伏せになって床を超至近距離で見つめながら自分に俺は男だと言い聞かせている。
「さてと、そろそろ楓の水着を……」
「ッ!」
近づいてくる姉貴に対して反射的に身構える。
「楓さん……」
「楓お姉ちゃん……」
エディと幸も近づいてくる。
「「「覚悟っ!」」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「分かった、着るよ、着るから着替えてるときはあっち向いててくれ!」
体は女とはいえ裸を見られるのはやはり恥ずかしい。
「分かったわ。あ、着方分かる? 分からないなら私が……」
「多分分かるから大丈夫。分からなくても幸に聞く。だから大人しくあっち向いてろ。」
こっちを向こうとした姉貴の肩を持って回れ右させる。
「あ、どれとどれが組かは―――」
「大丈夫! それくらい分かるからこっち向くな!」
何かと理由をつけてこっちを向こうとする姉貴を向こうへ向かせる。
「で、えーと……これがこうなってるからこれをこうして……こうか。」
最初は比較的面積多めのやつから。
胸を一周覆って、下のすそにはフリル。首にかかった紐で吊っている。下は普通のいわゆるビキニ。コルセット型とかいうヤツらしい。
「おおー! 可愛いです楓さん!」
「楓お姉ちゃん可愛い!」
「素晴らしいわね! 私はこういう可愛らしいのあまり似合わないから羨ましいわ。」
三人に褒められてなんだか照れくさい。
「……まあ、可愛いな。」
鏡を見て呟く。
自分で言うのも何だが。
元がいいから何着ても似合うのかもしれない。俺を着せ替え人形にしたがる気持ちが少し分かった。
「そうでしょそうでしょ!? 楓は何着ても似合うんだから! さあ、次のを着てみて頂戴!」
「はいはい。えーっと次は……これか。これは……ん? ああ、ここがこうなってるのか……」
少々形が複雑で着るのが難しいが、ヘルプは出さない。
「っと、できた。」
ハイネックビキニとかいうヤツ。胸部分の生地が首元まであるが、背中は大きく開いている水着だ。着てみたところなんだか上品な感じ。背中の方を見るとかなりセクシーだが。
……自分で思っているだけだが自分のことをセクシーだと思ったことに恥ずかしさが出てきた。
「おおー、楓さん、セクシー!」
「大人っぽーい!」
「ああ、素晴らしいわ……」
カシャカシャ、とデジカメで俺を撮る姉貴。……って、
「あーねーきー?」
姉貴の首をつかんで前後に揺らす。
撮るなんて聞いてないぞ?
「あ、いや、これは反射的にというかなんというか……」
ばつの悪い顔で言う姉貴。
「没収! さっき撮った写真は消すからな!」
姉貴からデジカメを取り上げ中を見る。
「そんなー!」
泣きそうな顔で手を伸ばす姉貴。
泣きそうになるほど悲しいのか。
「というか、着替えてるトコ隠し撮りとかしてないだろうな?」
姉貴ならやってもおかしくない、と思う程には姉貴の評価は低いぞ。
「してないわよ失敬ね! そりゃ撮ってもいいなら撮りたいけど、犯罪じゃないそんなの! 女の子の嫌がる事と犯罪はしないわ!」
後者はともかく前者はしてるけどな。
というか撮ってもいいなら撮りたいってやっぱ変態じゃねーか。
「まあとにかく、中身見させてもらって、さっきの写真は消させてもらうから。」




