二十億光年のポエム(三)
うちの妹は宇宙人だった。知らなかった。しかし考えてみれば、私は妹が産まれた時のことを憶えていない。いつの間にか家にいた。きっと親父が無職の暇に任せて橋の下で宇宙人のたまごでも拾ってきて、育てていたのだろう。
まぁ、だからといって、今さら妹に対する態度を変えるつもりはない。元々わけのわからない妹だと思っていたので、じつは宇宙人でしたとか言われても、びっくりはしないのだ。
「私……、この詩集が好き。大好き」
心美はヒカリさんの詩集を抱きしめた。
「故郷に帰ったみたいな気分になれるもの!」
火星人は大絶賛だ。
しかし地球人にはまったく受けなかった。
ヒカリさんの詩集『純金詩篇』は結局、5冊しか売れなかったらしい。私が買った一冊と、妹が買った4冊だけだ。
大学に行き、文芸サークルに顔を出すと、諏訪がいた。
私を見るなり飛びついてきて、サメみたいな口から泡を飛ばしながら言う。
「ヒカリさんの詩集がまったく売れない! なぜだ!」
そういえばヒカリさんの宇宙人にのみ共感されるような詩を見出したコイツも宇宙人かもしれないと思う。容姿の異様さといい、ガニメデあたりから来ていてもおかしくなさそうだ。
「売れなかったから……ヒカリさんとの縁も切れたのかい?」
私が聞くと、諏訪は激しく苦悩するようなアクションとともに、答えた。
「ヒカリさんは詩集が売れなかったことの責任をとって、僕と結婚することになった」
「え……。じゃあ、よかったじゃないか」
「いいことなどあるもんか!」
机を叩いて目をかっ開いた諏訪の姿はまるで阿佐田哲也の麻雀小説に出てくる印南善一の如く、化け物じみていた。
「みんなに才能を認められ、その顔を輝かせたヒカリさんとこそ、結婚したかったんだ!」





