第74話 急に滅茶苦茶重い話をぶっ込みつつ、今後の方針を決めましょう。
【注意】シリアスあります。苦手な人はお逃げください。
よろしくどうぞー( ・∇・)ノ
私の世界は幸せに満ちていた。
『メディア、プレゼントだぞ!』
いつも沢山プレゼントをくれるお父様。
『メディア。今日の夕飯は貴女の大好物のステーキよ』
いつも甘やかしてくれるお母様。
『お嬢様。お綺麗でございます』
私の言うことを聞く従順な下僕達。
欲しい物はなんでも手に入った。
私を傷つけるものは存在しなかった。
私の世界は、完璧だった。
なのに。
それなのに。
「メディア! いい加減にしないか! 使用人達に理不尽に当たるんじゃない!」
「煩い煩い煩い煩い! 私は悪くないっ!」
煩い叔父さんの声を遮って、私は与えられた部屋に閉じこもる。
お父様とお母様に預けられた叔父さんの家。
叔父さんは商家に婿入りしたから平民になった。
なのに、貴族の娘である私にいつもいつも命令ばっかりしてくる。
「ひっく……ひっく……お父様……お母様……早く迎えにきてよ……」
毎日毎日、泣きながら。今日も来ない迎えを待つ。
……………早く早く迎えに来てと、今日も願う。
お父様達に捨てられたなんて……。
私は絶対に、受け入れない。
*****
「あのメディアって子、元々ラダ男爵家の令嬢だったらしいけど……その男爵家は横領と人身売買で取り潰しになったそうだよ」
面倒そうなクラスメイト出現☆
…………に際して、情報共有と今後の対応を決めるためにみんなで集まった学校の裏庭。
そこで明かされたルイ君(提供は〜精霊情報局がお送りしま〜す)からの情報に……私とガット君with愉快な仲間達と、新メンバーキララちゃん&リンちゃんは、いきなりぶっ込んできた重い話に〝ぽかぁ〜んっ〟と口を開けて固まった。
「横領も罪といえば罪だけど、奴隷の人身売買・所持はこの国では違法ーー横領よりも重い罪、極刑にもなる大罪だ。本来なら一族連座の処刑なるところなんだけど……あの子本人は知らなかったみたいだし、幼い子供には罪はないからって、特別に処刑を免れたみたいだね。で……現在は商家に婿入りした叔父の下で暮らしているんだってさ。商家での暮らしだから、なーんの不自由もなく。良い生活をしているらしいよ?」
流石、盗み聞き盗み見がデフォルトな情報収集の専門家・精霊さん達だよ……。
個人情報がダ・ダ・漏・れ!!!!
「本人の認識は、〝自分は叔父の家に預けられただけ。でも、いつまでも両親が迎えに来ないから捨てられたのかもしれない。捨てられたなんて認めたくなんかない〟って感じになってるみたいだ」
「えーっと……つまり……私に怒鳴ってきたのは……」
「八つ当たりだね。親に捨てられておきながら幸せそうなアリエスが妬ましかったんじゃない? 親に捨てられる子なんて珍しくないのに、とばっちりで怒鳴られるなんて……。いい迷惑だったね、アリエス」
『ぴっよー!?』
ヒョイっと私を抱き上げて、頭を撫で撫でしながら頬を擦り付けてくるルイ君。
ぶっちゃけ、全然傷ついたりなんかはしてないんだけど……。
ルイ君が励まそうとしてくれる気持ちが嬉しかったから、黙ってそれを受け入れた。
あっ。撫で撫でされたから、ひよこが私の頭から落ちたね……。ひよこは仕方ないと言う感じで溜息を吐くと、ちょこんっと四阿の中央に置かれた丸テーブルに落ち着きました。ごめんね。
「…………それで。えーっと……キララ、だっけ? 君、今は国営孤児院で暮らしてるらしいけど……孤児院に入る前に君の方が本当に、親から捨てられてるんだってね」
『!?!?』
急に暴露されたキララちゃんの過去に、(私とルイ君以外の)みんなの視線が彼女に集まる。
ほら……私はメディアって子が去っていた後に呟いていた言葉で、なんとなく察してたからね。
でも流石に……この後の展開は私にも想定外だったかな。うん。
「…………なんでそれを、知ってるの?」
「精霊が教えてくれたーーってのもあるけど。ボクが軍人だってのは話したことがあったっけ?」
「!? い、いいえ……」
「そっか。じゃあ今言うけど。ボク、軍属なんだよ。だから……精霊に教えてもらったついでに思い出したんだ。ボクの同僚が警邏中に女の子を保護したって話してたのをさ」
「!!」
キララちゃんの目が輝き、勢いよく立ち上がる。
そして、喜色の浮かんだ表情でルイ君に迫った。
「もしかして……同僚の方ってゲイル様!?」
「うわっ、近い。離れて」
「ルイさんっ!! 答えて!!」
顔をグイッと近づけて、いっそ鬼気迫る様子で問うキララちゃんに私達は困惑する。
ルイ君はそんな彼女の姿に面倒だという態度を隠そうとしなかった。
「あー……煩っ。そうだよ、そうそう。ゲイル。アイツがボクの同僚。んで? 君がゲイルが話してたあの、ゴミ捨て場に捨てられてた子?」
「えぇ、そう!」
いや、あのさ。キララちゃん、滅茶苦茶目をキラキラさせてるけどさ。
今、サラッととんでもない言葉出てきませんでした??
え?? 空耳??
「そっかー……ゲイル様、同僚の方にあたしのこと話してくれてたんだぁ〜。うふふっ、嬉しい〜」
心の底から嬉しそうにふんわり笑うキララちゃん。
事情を詳しく知りたい私達の、なんとも言えない視線がルイ君に集まる。彼は面倒そうに溜息を零すと、未だにふわふわ状態のキララちゃんに声をかけた。
「話していいの、詳細」
「えぇ、どーぞ」
「そう。そこのキララって子、小さい頃に飲んだくれの両親から育児放棄を受けてたみたいでね。食事を何日も食べさせてもらえなかった時に親に死んだって勘違いされてゴミ捨て場に捨てられたらしいよ」
ねぇ!! なんで!? なんで急にっ!!
こっちにもそんな重い話をぶっ込んできたの!?!?
想像以上に重くて、カルセ君なんか口から魂出そうになってんだけど!?!?
「その時に街を警邏中してたゲイルーーあ、ボクの前の同僚ね? がキララを見つけたらしくって。保護して、病院に送ってやって、それから孤児院に入れるように手引きしてやったそうだよ。勿論、キララの両親を捕縛するのも忘れずに、ね」
「うん、そうなの。今、あたしが生きてられるのはゲイル様のお陰。こうして良い生活を送れてるのはゲイル様のお陰。昔みたいにひもじい思いもせず、学校にも通えてるのもゲイル様のお陰。ゲイル様は今でも時々あたしの様子を見に来てくださるし。あのクソみたいな両親を捕まえてくださったし。あたしはゲイル様のお陰で救われたの。だからあたし、ゲイル様がとっても大好きで……とっても尊敬してて……ふかぁく感謝してるんだ〜」
かなりの熱量でうっとりとするキララちゃん。
えっとつまり……キララちゃんも私達と同じ捨てられっ子って訳で……。
中々にハードな目に遭ってるっぽいけど、ゲイルさんのお陰で救われたから、そんなに気にしてないって感じなのかな……??
……なんかちょっと、そこは私と似てるかもね。私もルイ君に救われたから、親に捨てられても気にせずにいられてるもん。
「だから、親に捨てられて不幸になってるなら同情するけどね? 今でも綺麗な洋服着て。学校にも通わせてもらってて。ひもじい思いもしてなさそうなのに『親に捨てられた私はこの世界で一番不幸なの!』って言わんばかりな態度で振る舞ってるのが。ましてや他人の幸福を僻んで無関係なアリエスちゃんに当たってるのが。…………心底気に食わないんだよね」
ーーと、さっきまでの熱量が嘘のように。
スンッと真顔になったキララちゃんの迫力は、えぇ。本当にとんでもなかく怖かったです。
美少女だから余計にね。
『…………』
全員が黙り込み、なんとも言えない空気が流れる。
ルイ君はもうこの話に興味もなくなったのか、私の頭に頬をスリスリさせるのに集中してるし。
カルセ君は話の重さにとうとうエクトプラズマしちゃったし。
何事にも動じなさそうなターニャも流石に、今回の話に関しては微妙に動揺気味だし?
リンちゃんは「キララちゃんの恋バナ初めて聞いちゃった〜。後で詳しく教えてね〜」なんてのほほ〜んっとしながは言っている。
いや、待って?? リンちゃんさん?? キララちゃんの過去話よりも恋バナの方が重要とか……地味に肝据わってますね?? 実はこの中でリンちゃんが一番の猛者なのかもしれない……。
……と、まぁ。この三人はこんな感じなので、後始末役には適さなくて。
そうなれば今回の話をまとめるのは……当然ながら(笑)最後の一人(え? 私は最初っからやる気ないから論外ですよ)になる訳でして。
無駄に聡い所為で求められてる役割を悟っちゃったらしいガット君は若干死んだ魚みたいな目をしながら……渋々といった様子で、口を開いた。
「(くそ……おれが話をまとめんのか……)あー……えーっと……取り敢えず確認なんだが……。キララはあのメディアが気に食わないってだけで、特になんか仕返してやろうとか思ってる訳じゃないんだな?」
「ん? あぁ、勿論。そんなことをするつもりはないよ? だって、ワザワザそんなことするなんて時間が勿体無いし。復讐なんかしている暇があったら勉強して軍部に入って、ゲイル様のお近くに行く方が遥かに有益だもの」
「あ、そうですか……(やっべぇよ、コイツ……。そのゲイルさん? とかいう話になると目がイッてるぅ……)んーと……じゃあ、結論。メディアは面倒くさそうだからなるべく関わり合いにならない方針ってことで。みんなもそれでいいか?」
『意義なーし』
「はいじゃあ解散っっ!! お疲れ様でしたッ!!」
ガット君のヤケクソ気味な解散宣言を受けて、終わる方針会議。
けれど、この時の私達の頭からは〝ある可能性〟がすっかり抜け落ちていたのです。
そう……向こうから絡んでくる、という可能性をねーー……。
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