第73話 分かってた。平穏無事な学校生活なんて存在しないって。
ルイ→アリエス視点で参りまーす。
よろしくどうぞ( ・∇・)ノ
ボクらの事情にガット(←歳下だから呼び捨てにしてくれと言われた)を巻き込むことにして、最終的に一代目《ハイエナ》がヤバいなって結論に至ってから早三日。
色々と諦めて(笑)ボク達とつるむことになったガット達と、なんだかんだ平穏な学園生活(?)を送っている今日この頃。
アリエスの方はガットが上手く手引きしてくれてるお陰で……いい感じで、クラスに馴染み始めているみたいだった。
「アリエスちゃん! 一緒に体育祭の練習行こう!」
「あ、うん……!」
授業が終わって放課後に入って直ぐーークラスメイトの茶髪の少女と、橙色の髪を持つ少女が声をかけてくる。
だけど、アリエスは直ぐに動かずに……チラリとこちらを伺うように見た。
毎回毎回こんな風に伺わなくてもいいのに……少しは離れるの寂しく思ってくれてるのかな?
でも、これこそがアリエスに必要なモノらしいからね。
ボクは彼女を安心させるために、にっこりと笑いながら手を振った。
「行ってらっしゃい、アリエス。終わる頃に迎えに行くよ」
「……うん。待っててね、ルイ君。行ってきます」
アリエスはボクの頬にキスを落としてから、キャーキャー騒ぐ彼女達と共に教室を出て行く。
これから約一半時間ほど。ボクは時間を潰して、程よい時間でアリエスを校庭に迎えに行くのだ。これがここ最近のルーティーン。
……。
…………はっきり言おう。
アリエスと一緒にいる時間が減ったのが腹立たしいやら、初めて(?)出来たクラスメイト達とおっかなびっくりしながら交流してるアリエスが可愛いやらで中々に感情が忙しい……!!
「…………なーんか。すっっごい顔になっちゃってるぞ、ルイさん」
前の席に座ったガットがくるりっと振り返りながら声をかけてくる。
どうやら無意識に百面相(?)状態だったらしいボクは頬杖をついて、溜息を零した。
「煩いなぁ……。仕方ないだろ? アリエスが側にいないから寂しいんだよ。学校に入る前は四六時中ずっと一緒だったから……余計に、ね」
「お、おぅ……な、なるほどぉ……?(っていうか……サラッと惚気るな……? そもそも、今でも結構一緒にいる気がするのに……前はもっと一緒にいたのか? えぇ……? スゲェな……?)」
「で? 君は体育祭の練習に行かなくて良いの?」
「あぁ……今日は女子の応援練習がメインらしいから、男子は自主練なんだよ」
「あっそう」
「(聞いたのそっちなのにぃ……!?)」
この学校ではほぼ毎月、何かしらの行事がある。
今月は体育祭。クラス単位で様々な競技の対抗戦をする行事らしい。
体育祭まで後二週間ほど。だから、放課後に皆で競技の練習をしているんだってさ。(※行事にはクラスが一丸になる必要があるから、行事に関わってる間は派閥対立は休戦状態になるらしいよ。無駄に臨機応変な派閥関係だよね。)
でも、それはあくまでも若い子達の話。大人であるボクが参加したら、身体能力差とか体格差とかが原因で確実にボクが勝っちゃうことになるので……ボクは体育祭に参加出来ない。というか、体力系の行事は全部参加不可。
まぁ、その代わりに? 体育祭当日はプログラム進行アナウンス担当(そのに)になっちゃったんだけど。
まぁ、そんなこんなで。自分が言ういうのもアレだけど、ボクが練習を近くで見てるとこっちの方が気になっちゃって全然練習出来ないからってことで、ボクはこうしてお留守番をしているのだった。
あぁ……アリエスが頑張って練習してるの、近くで見たかった……!!
「おーい、ルイさん? おれの話、聞いてる?」
「ん? なんか言った?」
「あっ……聞いてなかったんだな……。まぁ、分かってたけどよぉ。どうせアリエスさんのこと考えてたんだろ?」
「そうだけど?」
「そ・く・と・う! まぁ、そうだよなー? まだちょっとしか一緒にいねぇのに……ルイさんはアリエスさん至上主義でこそルイさんって思うわ」
そう言ったガットは、〝ヤレヤレ〟と言わんばかりの態度だ。
ちょっとムッとするけれど、実際にそうなので否定はしない。
だって仕方ないだろう? ボクはアリエスが好きで大好きで、愛してるんだから。アリエスのためならばどんなに汚れようと、穢れようと構わないと思うほどにアリエスのことが大切なんだから。
………………まぁ、ボクのこの気持ちは普通の人にはちょっと理解されづらい重いモノだから、敢えて言わないけど。
でも、いつかガットも分かる日が来ると思うよ。
自分より大切なヒトが出来ることって、本当に凄いことなんだからさ。
「……………まぁ、ボクがアリエスを優先するのは今に始まった話じゃないから置いといて。それで? 改めてなんか用?」
「またサラッと惚気る……。えっと……暇そうなルイさんとお話ししようかなっと思って?」
「…………え? なんで?」
「えっ、なんで?? クラスメイトと話すのに理由なんていらないだろ?」
「ふぅん……そういうもんなんだ?」
「……………(時々ルイさんから感じる、このヤバそうな感じはなんなんだろうなぁ……)」
ガットは頬を引き攣らせて、固まる。
きっと〝アンタおかしい〟とでも思ってるんでしょ。心を読まなくてもなんとなく分かるよ。
アリエスと出会ってからだいぶ人間味が増してきたボクだけど……やっぱりまだ、人間らしくない変なところが残っているみたい。どうやら学ぶことは、まだまだ多いみたいだ。
「…………それで? 何を話すの? 生憎と、何を話せばいいのかが分からないんだけど」
「えぇ!? 何話せばいいか分からないって……逆に、普段はどんな話してんの……?」
「普段? 普段はひたすらアリエス可愛がってるだけだけど?」
「え? だから、話は……」
「別にアリエスとは話さなくても気まずくならいし」
「いや、そういうことじゃ……えっと……えーっと。あ、じゃあ男友達とは?」
「………………」
「……ルイさん?」
ちょっと待てよ? ボク……友達っていたかな……??
兄様達は身内でしょ? ネロとかアダムスとかとはよく喋るけど、仕事仲間って意識が強いし。サイラスはアリエスの下僕って感じだし……。
ひよこはひよこ。ひよこはそれ以上でもそれ以下でもない。
……。
…………。
……うん、やっぱり。ちゃんと考えるとボク、友達いないな……? 別にいなくても全然困りはしないけど。
「まさか……」
黙り込んだボクにガットが、信じられないモノを見るような目を向けてくる。
ボクはその視線を真っ直ぐに見つめ返して、こくんっと頷きながら答えた。
「うん。ボク、友達いないね」
「(ま・さ・か・の! 友達が! いない!)」
ーーヒョォォォォォォ。
どうやら聞き耳をたてていたらしい他のクラスメイト達も巻き込んで……。
教室にはなんともいえない沈黙が流れるのだった。
*****
「はぁ〜……アリエスちゃんとルイさん、らぶらぶだね〜!」
応援練習の休憩中ーー。
私を練習に誘った女の子二人(確か茶髪の方がキララちゃんで、橙色の髪の子がリンちゃんだったかな?)が頬を赤くしながら、そう言ってくる。
隣で休憩していたターニャ(←さん付けは座りが悪いから呼び捨てにするように言われた)がきょとりとしながら、首を傾げた。
「なんの話だ?」
「あっ、あのね〜! アリエスちゃんの練習が終わるまで、ルイさんが待っててくれてるんだよー!」
「練習に来る時もアリエスちゃん、ほっぺにちゅーしてたしー!」
お、おぉう……。
なんでこの子達は、当たり前のことでこんなにテンション上がってるのかな……?
「…………? いつものことでは?」
ターニャも同じことを思ったみたい。
でも、それを聞いた女の子達は更に歓声をあげる。
「えーっ!? そうなの!?」
「ねぇねぇ、アリエス。アリエス! ルイさんとはどこまで進んでるの〜!?」
「馴れ初めは〜!」
周りで聞き耳をたてていた子達も集まって、キャーキャー盛り上がる。
そこでやっと、私はハッとした。
〝こ、この感じ……! 女の子特有(?)の恋バナだ!?〟ーーと。
「ねぇねぇ、馴れ初めは〜?」
「えっ、あっ……私、この見た目の通りちょっとエルフらしくないから……産まれて直ぐに親に捨てられちゃったの。それで、魔物に食べられそうになったんだけど……そこでルイ君に助けてもらったの」
ーーピキッ!!
反射的に返してしまった内容に、ターニャ以外の女の子達の動きが止まる。
〝ん??〟と首を傾げると、頬を引き攣らせた赤毛の子が申し訳なさそうにしながら口を開く。
「そ、そう、なんだぁ〜……? なんか、ご……ごめんね? 言いづらいことを……」
「え?」
「その、辛い過去を……話させちゃって……」
「…………あっ。だ、大丈夫だよ!? 捨てられたからルイ君に会えた訳だし! 実の親の顔も知らないから全然気にしてないし!」
ーーヒョォォォォォォ……。
おっといけない。墓穴を掘ったみたい。余計に、場の空気が、凍っちゃいました。
あ〜……でも普通に考えたら……。親に捨てられたって……重い話だもんねぇ。こうなっちゃうかぁ〜……。
でもでも私、本当に気にしてないんだけどなぁ……。
そんな風に少し困っていたら、ここで最強(笑)ターニャさんの登場。彼女だけは、私の気持ちをちゃんと理解してくれていたらしい。
「皆、大丈夫だ」
『え?』
「アリエスは本心から気にしていない。本当のことしか言っていない。だから、逆に……そんな腫れ物に触るかのような態度を取られる方が困ると思うぞ?」
タ、ターニャァァァ!! 姐さぁぁぁぁん!!
思わず「そうそれ!」と言いながら拍手してしまった。
すっごぉ〜い! 貴女だけです〜! 私の気持ちを正しく理解したのは!
「えっ、そうなの?」
「えっ、そうだよ?」
即答したから割と本心だってのを理解し始めてくれたらしい。
私はもっと理解してもらおうと言葉を続ける。
「それに……そのおかげであんな素敵なヒトに出会えたんだから……不謹慎だけど、親に捨てられたのも運命なのかな? って思ってるくらいでーー」
「ふざけないで!!」
「『!!』」
けど、そんな私の言葉を遮るように。
話に混ざってなかったけど、話は聞いていたらしい薄金色の髪の……かなりぽっちゃりした女の子が急に怒鳴り声をあげた。
…………話したこともないその子は、憎悪に満ちた目で私を睨んでくる。
私は真顔になりながら、問い返した。
「…………何が?」
「なんでっ……なんで親に捨てられてんのに! そんな幸せそうでいられんの!?」
「…………」
「おかしいでしょ!! 私は……私はこんな辛い目に遭ってんのにっ……! なんで……なんでアンタはっ……!」
その瞳に宿るのは、嫉妬と羨望。
あぁ……。うん。君も親に捨てられた感じなのかな?
同じ捨てられっ子なのに、私が幸せそうなのが妬ましい? 羨ましい?
自分がルイ君に拾われたら良かったとでも、思ってるのかも。
でもね? 私よりも精神年齢歳下な貴女には、残酷なことを言うけどね?
「…………私が幸せなのは全部ぜんぶ、ルイ君のおかげ。ルイ君に幸せにしてもらってるから、私は幸せになっただけなの。だから……そんなこと言われても、困るよ」
「っ……!!」
彼女は息を呑んで、手に持っていた応援用のポンポンを地面に叩きつけてからその場を走って去って行く。
残されたのは、気まずい空気だけ。
なんともいえない空気の中ーーあの子が走った方を睨んでいたキララちゃんが、小さな声でぽつりと呟いた。
「…………アレのどこが、辛い目に遭ってるって言うの? 満足に食べさせてもらえてて、甘やかされてて。あたしよりも遥かに恵まれてる癖に……あんな、『私がこの世で一番不幸です!』みたいなこと言うなんて……。あの子の方が、ふざけてるよ」
…………アッ。察しました。
拝啓、一時的に離れてるルイ君へ。
ジャクリーン平民学校での学校生活……平穏無事な日々はここまでのようです。
どうやら、体育祭前に一波乱ありそうな気配ですよ?
敬具




