第71話 巻き込まれ人、二人増えました。
お久しぶりです。生存してるけどスランプな島田です。
定期的な書けないシーズンですね。それでもちょっとずつ書いてはいますので、不定期になりますが気長にお待ちください。
という訳で、新キャラ登場!
今後ともよろしくどうぞっ( ・∇・)ノ
あの暗闇空間で〝彼〟のトラウマ話を聞いて、めっちゃ謝罪されて、逆に「大丈夫だよ。でも、次は多分ルイ君が許さないだろうから気をつけてね」と慰めて(?)から起きた翌日ーー。
意識を失っている間にガット君を巻き込んだという話を聞きながら、ルイ君と一緒に朝食を食べて。
昨日の今日でどうなってるかなぁ〜と思いながら、登校した今日この頃。
なんかクラスメート達との間に、距離が出来てました。
……さもありなん。
「おはよー……って、うわ。空気悪っ」
眠そうな顔をして教室に入って来たガット君は、〝シーーンッ……〟とした教室内の様子にぎょっとする。
まぁ、それも仕方ないと思う。だって、それぐらい私達とクラスメイト達の距離が物理的(※私達の周りの席には誰もいない)にも心理的(※誰もこっちを見ようとしない)にも離れてたんだもん。
でも、言っとくけど……私達は何もしてないからね? 朝、教室に入って来たら、もう既にこうだったので。
…………まぁ。こんな風になってる理由は、なんとなく察してますけどね、うん。
「えっと……なんかあったのか?」
ガット君はそう言いながら、私達の前の席に座る。
私を膝に乗せたルイ君は、私の髪を弄びながらそれに応えた。
「さぁ? ボクらが来た時にはもうこんな感じだったから……昨日のアリエスの様子にビビってるか。アイツらが、昨日ボクらが帰った後にでもなんか言ったんじゃない?」
「………あー……成る程。それはあり得る……」
…………およ?
「まぁ、アリエスとの時間を邪魔されないのは最高だよね。あの貴族の子も君のお兄さんも一生、関わってこなければいいのになぁ」
「うわ、辛辣……。ってか、家庭教師の先生に学校で人との関わり方? を学べって言われてんだろ? 遠巻きにされちゃ駄目だろ……」
「それはまぁ、ガット君と知り合えたからもう充分な気もしなくもないと思ってる」
「……………いや……そう言ってもらえてありがたいけど……結構、照れるんだけど……でも、もうちょいと友達作っとけ? 後で中立派の奴ら、紹介してやるからさ」
「…………えぇ? 面倒くさい……。けどまぁ、ガット君の紹介なら大丈夫かな。ちゃんと弁えてる奴でよろしく」
「はいはい、分かってるって」
…………。
…………………。
………………………………イラッ。
私はルイ君とガット君の顔を交互に見て、ムスッとする。
…………なぁ〜んでこんなに仲良くなってんのかなぁ〜? この二人……。
いや、多分昨日の私の意識がなかった間に仲良くなったんだろうけどさ? でもさ?
…………私のルイ君とこんなにポンポンとコミュニケーション取るなんて、嫉妬せずにはいられぬ……!
思わず嫉妬マシマシでガット君を睨んだら、彼がビクッと震えた。顔面蒼白になっていくガット君。
それでも睨んでいると……グイッとルイ君に顎を掴まれて、無理やり顔の向きを変えられる。
視界に映るのは、にっこりと笑ったルイ君の姿。笑ってるのに笑っていないーーハイライトの消えた紅い瞳に、ドロドロした感情が宿ってて背筋がゾワッとする。
でも……ルイ君がそんな風に執着した目で見てくることに。激情を隠せぬ瞳で見つめてくることに。私は思わずうっとりとした顔をしてしまった。
「アリエス? なんでガット君を見つめてるの? 駄目だろう? ボク以外をそんなにジッと見ちゃ。殺したくなるだろ? アリエスの一番はボクなんだからね? 分かってる?」
殺意すら滲んでいる嫉妬に塗れた声に、私はもっともーーっと……うっとりした。
背後からガット君の悲鳴が聞こえたけど、そんなの一切気にならなくて。私はニパーッと笑いながら、ルイ君の頬を撫でる。
「分かってる! 私の一番がルイ君なのは、一生変わらない事実だよ! ただ、ルイ君とガット君がいつの間にか仲良くなってたから、嫉妬したの!」
「……………嫉妬」
「そう。だって、ルイ君は〝私の〟なんだよ? なのに、目の前でルイ君と仲良くされたら嫉妬せずにはいられないよね」
「…………ボクの一番もアリエス、だよ?」
ドロっと一瞬で蕩けた甘い笑顔に、胸がキュンってする。
ルイ君の〝好き〟を隠さない顔、私凄く好きなんだよねぇ……可愛いから。
「ルイ君だって、私の一番がルイ君だって……分かってても、嫉妬するでしょ?」
「うん」
「そういうことなの」
「そっか……アリエス、好きだよ」
「うん、私も大好きだよ」
互いにニコニコ笑いながら、イチャイチャしていると……「あの〜……」と申し訳なさそうな声がかけられる。
二人して声の方を見れば、そこには死んだ魚のような目をしながらこちらを見るガット君の姿。
彼は深ぁ〜く刻まれた眉間の皺を揉みながら……疲れ切った声で、呟いた。
「…………おれ、ルイさんにもアリエスさんにも興味ないからさ……。今後、そういう嫉妬とかに巻き込まないでくれない……? 殺気がさぁ……殺気がよぉ……。凄いんだわ……ビビるんだわ……。命が幾つあっても足りねぇよ……」
「「分かっててもするもんはするから、無理」」
「この似た者同士め! おれは今後も巻き込まれる定めなのね! ならもう諦めるわ、畜生!」
ルイ君と声を合わせて即答すると、頭を抱えながら嘆き叫んだガット君。
そんな彼の姿を見て、ルイ君はケラケラと笑っている。
…………。
…………………。
朝食の席で、異なる世界線ではガット君とルイ君が同僚だったって聞いたけどさ?
結構、親しくしていたと聞いたけどさ?
だから、余計にこの世界線のガット君にも親しみを覚えたとは言ってたけどさ?
……………それでも、こんな風にルイ君と仲良くしてるの見て、嫉妬せずにはいられなかったよね。ムムムッ……。
*****
とまぁ、そんなこんなで今日も放課後。
学校の裏庭に集まった私達は、ガット君の紹介で違うクラスにいる中立派な生徒ーー犬みたいに跳ねた金髪の、ほわほわ系男の子と……青い髪をポニーテールにした強気そうな女の子を紹介されたのだった。
「ルイさん、アリエスさん。この二人、中立派の奴の中でも弁えてる奴ら」
裏庭の木々の間にある、木漏れ日に照らされた四阿。
丸いテーブルを囲うように、隣同士で座った私とルイ君は、向かいの席に座った二人に視線を向ける。
「わ、弁えてる奴らって紹介……何……?」
「というか……紹介したい人がいると言われて来てみれば、この二人とはな……」
男の子の方はなんとも言えない顔をガット君に向けていて、女の子の方は観察するように私とルイ君を見る。
ルイ君をジロジロ見るとか、ちょっと気に食わないけど……まぁ、その視線に恋するような熱量がないからなんとか我慢する。
でも、そんな私の我慢に気付いたのか……ガット君が慌てて口を開いた。
「おい、ターニャ。んなジロジロ見んな。ルイさん達の放つオーラがヤバくなってきちまっただろ! キレられて、話が進まなくなったら困る!」
「へ?」
「チッ、この鈍感! おーい、ルイさんもアリエスさんも。コイツ、色恋的な感じで見てた訳じゃねぇ……と思うから……多分……。と、兎にも角にも! そんな負のオーラ放たないでくれよ!」
んん?
確かに私はイラッとしてたと思うけど、ルイ君はそんなことーーあっ、出してた。私よりも顔、険しいや。
ルイ君は苛つきを隠さずに、私の身体を持ち上げて膝に乗せる。そのまま背後からムギュッと抱き締めてくる。
その姿はまるで、お気に入りの玩具を取られまいとする子供のよう。
私は顔を上げて、ジッと彼を見つめた。
「…………ルイ君?」
「…………アリエスのこと、ジロジロ見てくるから、イラッとしただけだよ。観察、してるだけって分かってても……ボクのアリエスをそんなに見られてたら、不快、だよね」
「ムッ。すまない……編入早々、噂になっていた二人だからな。つい不躾に見てしまった。謝罪する」
そう言って深々と頭を下げる彼女に、ルイ君はほんの少し機嫌を直す。
「…………いいよ。今回は許すけど、次からは気をつけて」
「あぁ。気をつけよう」
…………。
……………えっと……このターニャ、さん? って、女の子だよね?
……………なんでこんな、武士っぽい感じがするのかな……?
「うぅぅ……馬鹿ターニャ。相変わらず考えなしなんだから……噂を知ってんなら、どう振る舞えばいいか分かるだろ……。気をつけろよ……いきなり圧が強くなって、恐かったんだからな……脳筋ターニャと違って……こっちは繊細なんだぞ……本当、止めろよな……」
ボソボソと聞こえてきた声に視線を動かすと……逃げようとしたのかバタバタと暴れるほわほわ男の子と、それを抑え込むガット君の姿があった。
逃さないように後ろから羽交い締めしたガット君は、未だに暴れるほわほわ君に向かって……呆れた顔を向ける。
「そーだな、カルセ。場の空気がちと悪くなったのは、ターニャの所為だなぁ」
「そうだよぉ……」
「だからって、逃げようとすんじゃねぇ。なんのためにお前ら二人を選んだと思ってんだ」
「………………知らないよぉ……僕は、面倒なのが嫌いなの……面倒なのは、苦労人ガットと脳筋ターニャでなんとかしなよ……僕、関わり合いになりたくないから、帰る……」
「残念だったな、逃さねぇぞ! おれだって面倒ごと嫌いだがな! それでも巻き込まれてんだから、お前も巻き込まれろ!」
「うぅぅぅっ……横暴だぁぁぁ……!」
どうやっても逃さないという気迫に負けたのか、逃げられそうにないと諦めたのか……メソメソとしながら大人しくなるカルセ君(?)。
そこでやっと落ち着いたので……ガット君は「始まったばっかなのに疲れたわ……」とぼやきながら、今度こそ紹介を開始した。
「えーっと……今日、この場に集まってもらったのは、ルイさん達が中立派に参加してくれることになったからで……。ついでに、ルイさん達は人との関わり方を学ぶって目的があって入学してるから……中立派でも信頼出来る二人に紹介しとこうと思ったんだわ」
ガット君はまず、私達に手を向ける。
「こちら、ルイさんとアリエスさん。噂になってんなら、もう知ってるよな」
…………噂?
そういえば、さっきも噂って……一体、なんのことだろう?
「あぁ、勿論だ」
「……入学時期がズレてて……それも、平民学校では珍しい……大人の、編入だからね……。噂にもなるでしょ……。それに……一緒に編入してきた子と、イチャイチャしてれば……嫌でも目立つし……」
あぁ、成る程。
子供ばっかの中で大人なルイ君が編入してくれば、嫌でも目立つよね。それは確かに、噂にもなるか……。
「貴族派、平民派の両ボスに惚れられたというのも納得だな。二人とも、顔が良い」
おっと? もしやあの二人が突撃してきたのも噂になってる?
明け透けに言ったターニャさんに、カルセ君は「……顔が良いって……いや、合ってるけど……でも、そんな本人に直接言っちゃう……?」と、微妙そうな顔をしていた。
「んで……こっちのほわっほわした見た目に反して、グズグズしてて口悪い男子はカルセ。思ったことを直ぐに口に出しちまう、ちと配慮不足で大雑把なのがターニャだ。……まぁ、悪い奴じゃないからそこは安心して欲しい」
「ターニャだ。よろしく頼む」
「…………カルセ、だよ。よろしくしたくないけど、よろしく……」
なんともまぁ癖の強い二人だけど、中立派トップらしいガット君の紹介なら大丈夫でしょう。多分。………多分、大丈夫だよね?
ほんの少し不安になりながらも、私はペコっと頭を下げて、挨拶をした。
「……えっと……アリエスです。よろしくお願いします」
「…………ルイ。よろしく」
「!」
耳に入ったルイ君の声の調子がおかしいことに気づいて、私はまた顔を上げた。
見上げたルイ君は顎に手を添えて何かを考え込んでいる。
……いや、何かを思い出そうとしてる感じかな?
「どうしたの?」と聞くと、ルイ君は「んー?」と言いながら、カルセ君とターニャさんを交互に見る。
そして、心底不思議そうに……首を傾げた。
「なんかこの感じ……既視感がある気がするんだけど、なんでなんだか……」
「………どっかで会ったことある、とか?」
「ない。ない、はず、なんだけど……。でも……こう、なんか記憶のどっかにある気がすーーあっ」
「? ルイ君?」
疲れ切った顔で背凭れにぐでっとなったガット君。
聞こえないぐらい小さな声でぶつぶつと呟くーー多分文句を言ってるカルセ君。
腕を組んでふむふむ、と頷いているターニャさん。
その三人の順番に見て、ルイ君は納得した様子で呟く。
「あっ、分かった。《ハイエナ》と愉快な仲間達、だ」
「「「……………………《ハイエナ》と愉快な仲間達??」」」
「あぁー……そういうことか。……うん。これは既視感がある訳だ」
「……ルイ君?」
「あっ、ごめんね? アリエス。今、説明するよ。でも、その前に……《音を遮断》」
ルイ君の声に合わせて、周りからの音が一瞬で消え去る。どうやら精霊術を発動したみたい。
あまりにもサラッとした精霊術の発動だったからか、三人はギョッとした顔で辺りを見渡す。
そんな三人をーー正確にはガット君を見て、ルイ君は告げる。
「良かったね。確実に巻き込める人が二人、増えたよ」
その言葉に嫌な感じを察したのかーー……流石のターニャさんも含めて、三人はピシッと動きを止めるのだった。
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