第69話 そのアドバイスは、私欲のため
体調が少しずつ崩れ始めた島田です。
温度がググッと変わってきましたね……季節の変わり目は体調が悪くなりやすい……。という訳で、皆様も体調には気をつけてお過ごしください!
それでは、ルイ君目線で参りまーす。
多分、次あたりはガット君目線かな?
まぁ、今後ともよろしくどうぞー!ヽ(・∀・)
目覚めた彼女は、ネロを助けるために《神王》を召喚した時に出てきた人格だった。
名前があると存在が強化されて、アリエスの存在を揺るがしかねないから……敢えて彼女は名前を名乗らない。死んだ者に名などいらないとも言っていた。
でも、呼び名がないと困るから、彼女のことは〝天使〟と呼んでいる。実際に、熾天使だったらしいしね。
そんな彼女はガット君を一瞥した後に、ボクへと視線を動かす。
そして、深々と頭を下げて、謝罪の言葉を口にした。
「ご機嫌よう、ルイ君。この度の監督不届き、大変申し訳ありませんでした」
「やぁ、天使。謝罪、受け取るよ。で? 何が起きたか説明して」
さっきまでのアリエスに対する態度と変わったからか、向かいのソファに座ったガット君はギョッとした顔になる。
まぁ、そうだよね。彼には今のアリエスはアリエスじゃないなんて説明してないし。
でも、賢い彼はアリエスの中身が違うのだと目敏く気づいたみたい。ガット君は大人しく黙って、事の成り行きを見守っていた。
「〝彼〟の事情を聞いたところ……どうやらあの少女が彼の地雷を素晴らしいぐらいに踏み抜いたらしく。一種の心理的障害で精神が不安定になり、アリエスの意識を奪うほどのパニックを起こしてしまったようです」
「…………地雷?」
「えぇ」
それから天使に聞かされた彼の話は、それはもう気分が悪くなる話だった。
平民であった彼には、幼馴染の少女がいた。共に育ち、成人前に婚姻することを約束したらしいが……悪徳領主に幼馴染の少女が目をつけられ、〝花嫁として娶る〟と無理やり連れて行かれそうになったんだとか。
勿論、彼は幼馴染が連れて行かれないように抵抗した。
しかし、領主の決定に逆らったと、騎士によって痛めつけられ……その場で殺されそうになった。幼馴染の少女はそんな彼をなんとしてでも助けたかったらしい。花嫁になるから彼を助けてくれと懇願し、助けてもらう代わりに領主について行ったんだって。
それから数日後ーーなんとか一命を取り留め、目覚めた彼は自分のために村を去ってしまった幼馴染を取り戻そうと領主の屋敷に忍び込んだ。
けれど、そこで見たのは……両手両足を斬られ、薬漬けにされて、道具のように扱われていた人々の姿。その中には、変わり果てた幼馴染の姿もあった。
あまりにも惨く、残酷な光景に彼はその場に動けなくなったらしい。
その少しの間の硬直が、彼の運命を分けた。
「…………地獄のような光景の前、立ち尽くした彼は背後から領主に頭を殴られ、意識を失った。次に目覚めると彼は既に、拷問部屋の中。そうした彼は、不法侵入をした盗賊として拷問の末、処刑されたそうです」
「「………………」」
多分、本当はもっと残酷な内容なのだろう。
子供であるガット君がいるから、だいぶオブラートに包んだみたい。そんな気配がバシバシする。
でも、今の今まで普通の人生を送ってきたらしいガット君には刺激が強過ぎる内容だったらしい。彼は口元を押さえて、顔面蒼白になっていた。
「………貴族、泥棒、横恋慕……その辺りかな?」
あの少女が貴族って時点で、一アウト。
泥棒猫=盗賊でニ《ツー》アウト。
横恋慕とか略奪とか所有物扱いとかで、花嫁として連れて行かれちゃった幼馴染を思い出しちゃって、三アウトってところか。
「あの自分のことしか考えていない貴族特有の振る舞いも、ですね。彼からの伝言です。〝ついパニックになってしまった。ごめんなさい〟だそうです」
「………反省してるんだ?」
「彼はアリエスと友好関係を結んでいる側ですからね。自分の所為でアリエスの意思を押し退けてしまって、凄く反省しています。というか、鬱陶しいぐらいですわ。他の人格達に慰められるレベルで大号泣してます」
「あー……あぁ〜……うん。それは……まぁ……そこまで反省してんなら……情状酌量の余地あり、かなぁ」
アリエス至上主義なボクだけど……流石にそんな話を聞いて無情になれるほど、血も涙もない奴じゃない。
ボクはポリポリと頭を掻いて、溜息を零した。
「今回は不問にするよ。でも、今回だけだ。次は許さない」
「えぇ。伝えておきますわ」
「そうして」
「ですが、アリエスの中から見ておりましたが……あの女は早々に対処すべきかと思いますよ? アレは自分のために他者を傷つけることを厭わぬ者ですから」
「………………」
どうしてかなぁ……。彼女の言葉は酷く実感こもってるんだよねぇ……。
そんなボクの心の声を見抜いたのか、彼女はニッコリと笑う。
そして、その目を妖しく細めながら、口を開いた。
「わたくしの世界における天使とは、魂を導くモノ。ゆえに、魂の性質を見るのに長けておりますの。アレは、傲慢です。自分が世界の中心だと考えている。ですが、逆を返せば自分が一番可愛いのです。ゆえに、自分に害を成すと判断すれば自ずと離れていくでしょう」
「……………つまり?」
「模擬戦でもして、自分の手には負えないヤバい奴だと示してやりなさいな」
「うっわぁ〜……結局それ?」
「えぇ、そうですわ」
なんて言うか……それ、シエラ義姉様が王女を決闘で下したヤツみたいだね。アレのおかげで基本的に、手ェ出してくる奴が減ったらしいし。馬鹿な奴は結局状況が読めない馬鹿だったから、そいつらだけは例外だったらしいけど。
でもなぁ〜……そんなことしたら、メルンダの思惑から外れちゃわないかな?
メルンダはボクらに学校で人間関係を学んで欲しい訳で。なのにボクがヤバい奴だって分かっちゃったら、怖がって関わってこなくなりそうじゃない? 一緒にいるアリエスも漏れなく同じ扱いになるよね?
あ〜……でも、逆にヤバい奴だって知っても仲良くしてくれる人が残る可能性が出てくるのか。そうすれば、兄様が言ってた信頼出来る人を作れるって訳だよね。
それに、シエラ義姉様も邪魔してくる奴は容赦なく潰せって言ってたし……ある意味は問題ないちゃ問題なーー……。
「……………そういえば。彼の兄君もアリエスに好意を抱いているんでしたっけ? ルイ君、それの対処はどうなさるつもりで?」
「は? そんなの潰すに決まってるだろ? アリエスはボクのだ」
天使の唐突な言葉に、ボクは真顔になりながら反射的に返した。
何言ってんの。そんなの、対処も何もない。普通に潰す。
というか、ボク以外の誰かがアリエスに想いを向けるなんて許せるはずがない。好意だろうが悪意だろうが、関係ないんだ。
そんな気持ちを隠さずに顔に出していたら、天使はクスクスと笑い出した。その顔は……まぁ、うん。なんかちょっと大人びた笑み。全てを見透かしているって言うの?
ボクは思わず顔を顰めながら、首を傾げた。
「何」
「ふふっ。きっと、〝平民の彼〟の所為で眠ってしまわなければ……アリエスも容赦なく、あの貴族の少女を潰していたでしょうね」
「……………ボクと同じ選択をしたってこと?」
「えぇ。というか……貴方達はあのエクリュなのでしょう? ヤンデレ好きな《精霊王》の所為でヤンデレ属性を付与されて、それも最愛にヤンデレを感染させていく超恋愛主義生物なのでしょう?」
……………いや、待って?
結構、真面目な感じだったのに急にぶっ飛んでない……?
〝超恋愛主義生物〟って……なんか、ちょっとエクリュ侯爵家の説明がアレな気がするんだけど……?
あ、ふざけてない感じですね。真面目にやれって顔ですね。
いきなりぶっ込んできた天使の所為でもあるけどな! それでも、ちゃんと真面目にやるけど!
「貴方達は最愛に手を出されそうになったら容赦ない手段で〆るヤンデレ集団なのでしょう? 何を色々と考える必要がおありで?」
ほんの少しだけ意識が明後日の方に飛びかけたけど、そう言われて……ボクは大きく溜息を零す。
うはぁ〜……まさか、ヤンデレ属性を付与されてないはずの天使からそう言われるとは思わなかったよ。
けど……うん。確かにその通りだ。
愛しい人の前では全てが無意味。人間関係を学ぶよりも、最愛に手ぇ出される方が問題だもんね。
相手、まだ成人もしてない餓鬼だけど。ちょっと大人気ない気もしなくもないけど、アリエスに関するなら話は別。現実の厳しさを教えてやるってことにしておこう。
それに……。
「…………うん。いつまでもアリエスに好意を向けられてたら……殺したくなっちゃうもんな。実際に手ぇ出しちゃう前に、どうにかしようっと」
「是非そうなさってください、ルイ君。わたくしのためにも」
……。
…………。
………………は?
「…………え?? 天使の……ため??」
多分、今のボクは宇宙を背負っていたと思う。
いや、だって……意味分からなさすぎる。
なんで?? なんで天使のため????
「えぇ、そうです。アリエスの前世の中には、貴方達が破局することを願ってたり、《邪神》の力が暴走してしまい世界が滅んだらいいのにと考えていたり、《邪神兵団》に捕まってグチャグチャになってしまえばいいのにと思っていたりと……破滅願望増し増しの輩もおりますが。わたくしは専らのハッピーエンド厨でして。まぁ、それもこうしてアリエスの前世の記憶として存在するようになってから自覚したのですが」
………………おっとぉ?
「ヤンデレ……うふふっ、素晴らしいじゃないですか。愛し過ぎて病んでしまう……なんて……なんて重くて、一途な愛でしょう。どうして前世でわたくしはヤンデレを知らなかったのかしら……? 死者が生者の邪魔をするなんて、天使としてしてはならないことだとは分かっているのですが……それでも、わたくしはいつまでも貴方達の重い愛を見守っていきたい。貴方達の愛の行方を見守ることが出来る今の方が、前世よりもよっぽど生きている気がするのです」
うっとりと頬に手を当てながら、そう熱い吐息を零す天使は……うん、なんだろう。
ーーーーヤンデレ好きな、どっかの誰かに似ている気がする。
「ですからね? わたくしのために、貴方達にはいつまでも相思相愛、他人からの横槍なんて入れさせずに、ずっっっっっとイチャイチャラブラブしていて欲しいんですよ。だから、出る杭は早々に打ってしまいなさいね」
…………そう言った天使は、それはもう素晴らしいぐらいの笑顔で。
ボクはこの日、天使という渾名に相応しい真面目な性格してるっぽいなって思ってた〝彼女〟が……結構、俗っぽいことを知ったのだったーー……。
とある花園では。
『ぺくちんっ……! ハッ!? 息子に噂された……!』
『………うわぁ……無駄に可愛いくしゃみだよぉ……』
『………なんか、鳥肌立ったな……』
そんな会話をするヤンデレ好き王と、風と火の精霊がいたとかいなかったとか。
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