第66話 学校初日、最後まで簡単には終わらないようです。
天気が安定しませんね、体調には気をつけて!
ではでは、よろしくどうぞヽ(・∀・)
ジャクリーン平民学校。
まぁまぁ歴史のある学校ではあるけれど、平民だらけの学校なんてタカが知れている。そんな学校に通う奴なんて碌でもないと思っていたけれど……まさかあんなに綺麗な男性が入学するなんて、思ってもなかったわ。
艶やかな黒髪に宝石のような赤い瞳。女性顔負けの色白さに……見たこともないような美しい顔立ち。それでありながらも男性らしい鍛え上げられた肉体。その姿はまるで芸術品のよう……。
あんなにも美しい男性、わたくしは見たことがない。貴族ではないようだけれど、それを補うほどの顔の良さがある。
だからこそ、貴族であるわたくしの下僕に相応しい。
だから、わざわざわたくし自ら声をかけてあげたというのに……あの小汚い平民に邪魔をされてしまって、気づいた時にはお昼休みが終わってしまったいたわ。
いつもいつもそう。この小汚い平民を相手にしていると時間を忘れてしまう。
おかげで昼食を取る時間もなくなってしまったわ。本当に最悪。
まぁ、別に良いわ。また放課後にでも声をかければ良いだけだもの。きっと貴族であるわたくしに目をかけられたことに、あの男は喜ぶことでしょう。
だけど……この時のわたくしは知らなかったの。
この時こそが、運命の分かれ道であると……。
そうしてわたくしは……地獄のような未来に進むことになってしまったのだった……。
*****
ーーキキ〜ンココ〜ン、カカカ〜ン、コ〜ン♪ キキ〜ンココ〜ン、カカ〜ン、コ〜ン♪
無駄に懐かしさを感じさせる(でも、微妙に音程が間違ってるのが面白い)チャイムが鳴って、授業が終わる。
その瞬間ーー。
「わたくしの下僕になりなさい!」
ーースパーンッッ!
……と開かれた教室の扉。そこに仁王立ちするのは、昼間の片割れ(女の子の方)with取り巻きらしき赤・青・黄色の髪の信号機カラー女の子〜ズ。
スンッと静まり返った教室に、ニュイ(だっけ?)とかいう女の子は気づかない。彼女はスタスタと私達の前に来ると……ビシッと手に持っていた扇子でルイ君を指し示した。
「聞こえませんでしたの? わたくしの下僕になりなさい!」
うわぁ〜、早ぁ〜い! もう敵認定の(仮)が取れちゃった〜!
私はスッと目を細めて怒りを迸らせる。あははっ、凄いね?
私とルイ君のお揃いの装飾品の意味が分からない人、多過ぎだって。
私は笑顔(目は笑ってないだろう)を浮かべながら、口を開こうとした。
だけど……。
「アリエス、初日はどうだった? 疲れてない? まだ元気だったら……放課後デートってヤツ、やってみたいと思うんだよね。どうかな?」
ーー私のルイ君は素晴らしいくらいの完全無視で私に話しかけてきていた。
あっ、流石ルイ君。こんな時でも通常運転だね……。
「アリエス?」
思わずぽかんっとした私にルイ君は心配そうな顔をする。
私は我に返ると、慌てて返事をした。
「あ、うん。放課後デートね、いいよ〜。どこに行く?」
「そうだなぁ……あっ、ここ最近噂のカフェは? なんでも猫のカタチのケーキが売ってるんだって」
『ぴぴぴっ?』
「いや、ひよこのカタチはないみたいだけど? というか、ひよこは共食いになるでしょ……」
ひよこに『ひよこ型はある?』と聞かれたらしいルイ君は、ドン引きした顔で肩を竦める。
いや……まぁ、ひよこは私に似てなんでも食べるけど。流石にひよこがひよこ型ケーキ食べてるのはシュール過ぎるわ……。
な〜んて、ほのぼ〜のとした会話をしていたら。
「ちょっと! ニュイ様にお声がけされたのに、なんていう態度よ!」
「ニュイ様を無視するとか良い身分ね、貴方! 失礼よ!」
「そうよ、そうよ! 多少顔が良いからって調子に乗らないで!」
取り巻き〜ズが顔を歪めながら、怒鳴ってきた。
うわぁ〜……案外、君らの台詞もニュイ様(笑)に刺さってるの、気づいてるかな? 頬、ピクピクさせてるよ?
でも、ニュイ(もう呼び捨てでいいや)は強メンタルをしているのか、扇子で口元を隠すことで立ち直る。
ついでに……ビシッと人差し指で私を指差して、睨みつけてきた。
「そこの泥棒猫」
…………は? え? 今、なんて言った?
………………どろぼう、ねこ……?
「その男はわたくしのモノよ」
「…………はぁ…?」
「馴れ馴れしくしないで頂戴」
「……………………」
怒り過ぎると言葉が出ないって、本当なんだね。私は真顔になって、ニュイを見つめ返す。
真顔の圧に気圧されたのか、彼女はギョッとした顔で後ずさった。
まぁ、だとしても容赦しないけど。私は脊髄反射のように喋り出す。
「あのさ? 泥棒猫って意味分かってる? 人の恋人をその人から奪うような奴のことを言うんだよ? ルイ君は私のモノだから、泥棒でも猫でもないの。それに……私とルイ君は〝婚約者〟だから、馴れ馴れしくして良いんだよ」
本当は事実婚状態だけど、対外的には婚約者ということになっている。肉体年齢的に結婚届出せないから、仕方ないよね。
でも、婚約者って言っとけば人前でイチャイチャしてても許されるから、問題なし。
「後、貴女こそ何様のつもり? 随分とまぁ偉そうだけど……ルイ君を下僕にするとか、ふざけてんの? どう考えればそんな結果に至るの? 意味分からないんだけど」
「わたくしは貴族よ! だからーー」
「貴族……貴族ねぇ。確かに貴女は貴族かもしれないけど。爵位を持ってる訳じゃなくて貴族の令嬢ってだけでしょ? 貴女自身はひとっっっっっつも偉くないよね?」
「なぁっ!? 失礼よ、平民の癖に!!」
ーーバンッ!!
ニュイは机を叩いて、ギロッと睨みつけてくる。
こうやっていつも物に当たってるんだろうね。あぁ……腹立たしい……。
嫌だなぁ……コイツ、アイツに凄く似ているや……。
「…………はぁ……貴族だとか平民とか面倒くさいなぁ。皮膚を裂いて……内臓を晒せば……誰も彼も同じなのに……どうして、そんなに………身分を、気にするんだろう……」
「!?」
「本当……貴族って、碌でも……ないや。そうやって……大切な人を奪っていく、んだから。そうやって……権力を笠に……自分より、幸せなのが……許せないからって……僕の恋人を奪って……従順に従わなかったからって……結局、殺されたんだ……ボロボロにされた彼女を、お前は……殺したんだ」
「………は?」
「ううん、違う……彼女だけじゃ、ない。他の、子も……男も、女も。お前が気に食わなければ……誰だって……殺され、て……」
あぁ……なんだろう? 視界が霞んで、思考が濁っていく。
泥の中に沈んでいくような感覚。自分が発した声が少しずつ遠くなって、どんどん眠くなっていく。それなのに、身体が、口が勝手に動いている感じがした。
ぼんやりとしながらも冷静に判断している私が沈んでいって、轟々と貴族に対する怒りと殺意を燃やす〝誰か〟が浮上していく。
あぁ、これはーー……。このままじゃーー……。
「勝手にボクのアリエスを乗っ取らないでくれるかな? ボクのアリエスは〝彼女だけ〟なんだけど?」
「…………………ぁ……」
そっと覆われた目元。視界が暗くなって、不安になる。
だけど、後ろから抱え込まれた温もりに……ルイ君の爽やかな香りに、安堵する。
一気に戻る意識に反して、泣き叫びながら沈んでいく〝誰か〟。
「…………ルイ、くん」
「……喋りながら眠りかけちゃうなんて、器用なことをするね。アリエス」
手が離される。チラリと上を向けば、至近距離で微笑むルイ君の顔。優しく頬を撫でられて、ふにゃんと顔が緩んだ。
「ルイくん……」
「大丈夫?」
「んー……だいじょぶ……でも、だっこぉ……」
「うん」
そう強請ればルイ君は嬉しそうに笑いながら、私を抱き締めてくれる。
背中をポンポンと一定のリズムで叩かれて、とろとろって感じの眠気が襲ってきた。
「眠そうだね?」
「むー……でぇと……」
「また今度にしよう。時間はいくらでもあるんだからさ、大丈夫だよ」
「ん……」
「おやすみ、アリエス」
頬にチュッと柔らかな感触。それを最後に私は意識を手放す。
今度は柔らかな綿に包まれるような沈み方……穏やかな眠りだった。
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