第65話 どうやら……そう簡単な学校生活ではなさそうです。
暑い日が続きますね。
でも、急に温度が下がったりして……気温差の激しさに、具合が悪くなりそうです。
という訳で、皆様も夏バテ、熱中症、体調不良に気をつけてお過ごしください!
よろしくどうぞ〜( ´ ▽ ` )ノ
物心ついた頃から、どうにも自分は〝聡い〟のだと理解していた。
二歳上の兄は、それはもう子供らしい子供だったから、余計にそう思えた。
だって、どう動けば自分に都合良い状況になるか分かった。
どう言葉を使えば、周りの奴らを思い通りに動かせるかが分かった。
笑顔で隠した大人達の本音が、手に取るように分かった。
自分よりも歳上である奴らが、おれよりも馬鹿なんだと分かった。
そして……。
ーー自分の聡さが、子供らしくなさが、大人達に取っては不気味であることが……時と場合によっては迫害の対象になることが、分かっていた。
だから、敢えて子供らしい振る舞いをしながら、自分に都合が良くなるように頭を働かせて、行動してきた。
でも、やっぱりおれはまだ子供で。
全てを上手く取り繕うことは出来なかったらしい。
「さぁ、色々と聞かせてよ? ガット君」
何もかも見透かすような真紅の瞳。その瞳は言外に語る。
〝洗いざらい、全部吐け〟ーーと。
(ーーうわぁ〜……下手打ったかも〜……。)
賢く立ち回っていたつもりで、心の奥底ではなんでも思い通りになると思っていたおれは……子供らしく驕っていたらしい。
上には上がいる、という言葉の通り……世の中には、おれなんかより遥かに優れた人がいた。所詮、井の中の蛙……ってヤツだったんだろう。
今ばっかりは、頭が悪くて聡くない、鈍い奴らが羨ましい。きっと、そういう奴であれば……こんな風に言外の言葉なんかも察することがなかったはずなのに。
隣におっかないのがいるのに……それに気づくことなく、スパゲッティに夢中になってる暢気な奴みたいに。
『ぴぴっ』
アリエスの頭に乗ってるひよこが鳴いて、ルイさんの纏う空気が一気に不穏になる。
「今、アリエスを心の中で馬鹿にしなかった?」
「…………」
ギラリッと剣呑な光を瞳に宿し、ドス黒いオーラを放ち始めたルイさんに……おれは身体を震わせた。
なんで、そんなの、分かんだよ! おっそろしいわ、おい!
ガクガクと恐怖に震えるおれを睨みつけるルイさん。
数十秒にも数時間にも思える重い沈黙の後……彼は纏っていた恐ろしい空気を霧散させ、呆れたように溜息を零した。
「まぁ、子供相手だから今回は許すけど……二度目はない。心の中だろうがなんだろうが、アリエスを馬鹿にするのは許さないよ?」
「……………うぃっす……」
「よろしい。じゃあ、はい。早く全部吐け」
…………とうとう普通に〝全部吐け〟と言われてしまった。
子供相手に脅すとか大人としてどうなんだ……と、思わなくもないけれど……。なんかルイさんにはそういうの通じなさそうだし。
大人しく吐かないと、もっととんでもないことになりそうで……頭が痛くなる。
(あ、無理。吐くしかねぇや)
おれは逃げられないことを悟り……渋々と、〝全て〟を話すことになるのだった……。
*****
現在、ジャクリーン平民学校には三つの派閥がある……らしい。
一つ目は、貴族派(もとい自称・女王派閥)。
ニュイ・ザコーニ子爵令嬢(その名前は、ギャグなのか? ギャグなんでしょうね)をトップとした、〝貴族は偉いのよ!〟っていう貴族連中+〝貴族を持ち上げてれば将来的に有利になるんじゃね?〟って思ってる取り巻き(※平民)達の派閥らしい。
二つ目は、平民派(またの名をガキ大将派)。
平民ドットをボスとした〝貴族がなんぼのもんじゃい!〟+〝貴族の取り巻きなんかしやがって、恥知らずどもめ!〟+〝貴族も平民も同じ人だろう!〟的な、貴族を目の敵にしてる(または、平民を対等に見ている貴族の)一派らしい。
そして、最後は中立派(どうでもいい派)。
派閥争いとかクッソ面倒くさい。そんなことしてる暇あったら、勉強したい。なんのための学校なんだか……と冷静に(貴族派と平民派を馬鹿にしている)傍観している者達の派閥なんだとか。
…………で。
「…………ボク、この学校には金銭的な理由で学園に通えないけど、勉強したい貴族の子息令嬢が通ってるって校長に聞いたんだけど?」
その話を聞いたルイ君は素晴らしいぐらいの呆れ顔になっていた。さもありなん。
メノウ校長から聞いた話と違うからね! もうちょっとちゃんと説明しておこうよ、校長先生!
だけど、ガットはパンを齧りながら補足説明をする。
「自分の意思でこの学校に通うことを決めて、ちゃんとまじめに勉強してる奴もいるけどよぉ。貴族派の連中は親がマトモ、子供に学をつけさせたいってパターンで……子供自体は阿呆だったり、〝平民だらけの学校なんて受け入れられません〟って態度だったりするんだよ」
「………あぁ、そういう……」
「ちなみに……ウチの学校の先生達は学ぶ気がない奴は生徒と見做してないらしいぜ。そういう奴は先生達にマトモに相手にされない。というか、話しかけられれば対応するけど、それ以外の時は無関心決め込んでるからな」
………おぉう……。
つまり、先生達の中じゃ学習意欲のない子は生徒じゃないから、話す価値すらない的な? そして、同じ理由で放置してるってこと? 自分の尻は自分で拭けってことなのね?
………………実は結構、シビアな学校だった……!
「それに、この学校の卒業生って人によっては貴族のお付きになって貴族社会に関わったらするようになるからさ。学校内の子供同士の派閥争いとはいえ、そういう争いはまさに貴族社会に馴染むための練習にピッタリだとかで……。こういった環境での立ち振る舞いを身を以て学ぶ良い機会だと判断したらしく、この件に先生達は一切触れないんだよ」
「「……………」」
「加えて……この学校は〝生徒の自主性を重んじる〟校風でな……。つまり、どうにかするなら自分達でなんとかしなきゃいけないって訳」
「「………………………………」」
ドンドン明らかになっていくジャクリーン平民学校の実態に、私達は遠い目になる。
成る程……うん。こりゃメル先生が入学を進める訳だわ。
多分、メル先生はこの学校の実態を知ってた。だって、メル先生だもの。
で……将来的に貴族入りするだろうルイ君(と私)の練習(慣れ)に丁度良いと思ったんだろうね……。
メル先生が〝うふふっ、頑張ってくださいませね〟と優雅に紅茶を飲みながら、応援してる光景が簡単に想像出来るぅぅ……!
「それで? ガット君の目的は?」
ルイ君は私のお皿におかわりスパゲッティを乗せながら、そう問う。
ふと配膳してばっかりでルイ君自身が食べてないなと気づいた私は、フォークにスパゲッティをクルクルと巻いて、彼の口に突っ込んだ。
美味しい? うん、良かった良かった。あ、お返しですか?
あーん……美味しいよ、ルイ君。食べさせてもらうと更に美味!
「えっと……(すっげぇ自然に食べさせ合いっこしてんな……)ルイさん達も中立派に所属しない? ってお誘い、だな」
「…………へぇ? 続けて?」
ルイ君の纏う空気が変わる。それはさながら王者のような威厳ある雰囲気。
精霊王よりも王らしいその態度に……私は悶絶した。
だって!! ルイ君っ、すっごいかっこいい!!
「…………最初は、これ以上他の派閥に所属する奴を増やして、兄ちゃん達が助長するのを防ぎたかったからだけど……平民でありながら貴族と関わりがあるなら、他派閥に対する牽制にも使えるかな、って……今は考えてる」
「随分と素直に打ち明けるね?」
「隠したら、隠したこと自体に気づくだろ? ルイさんは」
「まぁ、そうだね。つまり、ボクらを利用したいってことなんだね?」
「こちらとしてはそう。でも、そっちにだってメリットはあると思うぜ。面倒に巻き込まれないで済む。現に、ルイさん達は兄ちゃんとニュイに目ぇつけられてるだろーからさ」
「「は?」」
「二人とも、顔がいいから……兄ちゃんはアリエスさんを。ニュイはルイさんを、手元に置いときたいって思ってるんじゃね?」
…………え? つまりは……顔が良いからルイさんを所有したいと……あの女は思ってる訳?
…………は? そんなの、許す訳ないでしょう。
「うふふっ……うふふふふふっ……」
急に笑い出した私に、ガット君はビクッとする。
忘れちゃいけない。ルイ君の方が大人だし、精霊王の息子だから〝ヤバい人〟認定を受け気味だけどね?
本当に危険なのは……精霊王すら殺せる、〝私〟なんだってことを。
まぁ、それを知らないガット君は……ご愁傷様って感じだけど。
少しは私達の首と指に嵌めたお揃いのアクセサリーの意味を、理解するべきだったね。
「ル〜イ君」
「…………なぁに、アリエス」
甘ったるい声でありながら、どこか底冷えするドロドロとした闇を感じさせる彼声に……私は笑う。
「実際に手を出してくるまでは猶予をあげるけど……あの女は敵認定(仮)ね。私からルイ君を奪おうなんて……許さない」
「なら、あのドットとかいう餓鬼もね。ボクからアリエスを奪おうなんて……殺したくなる」
そんな物騒過ぎる会話をしながらクスクスと笑い合う私達を見て、ガット君は頬を引き攣らせる。
きっと、彼の目には私達は異常者に映っていることだろう。
でも、仕方ない。だって……私達は互いに互いを縛り付けるほどに愛してるんだもの。
それにね?
夫への秋波を許容出来るような、出来た妻じゃないのよ。私は。
「……………え? おれ……やらかした……?」
震える声で呟かれたその言葉に、私は敢えて何も答えてやらなかった。
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