第63.5話 義姉様からの入学祝い
体調に気をつけて過ごすんだよ〜!
よーろーしーくーねー!
学校初日の朝ーー。
扉の連続ノックに起こされた私は、隣で愚図るルイ君の腕からノロノロと抜け出し……目を擦りながら、廊下に繋がる扉を開いた。
そしてーー。
「学校に通うなら、制服が必要よね」
ニッコニコしながら制服(もどき)を手にしているシエラ様の姿を見て……驚きのあまり、目が覚めました。
………………えっと……。
「………取り敢えず、おはようございます……?」
私は動揺しながら、頭を下げる。
え……? どういうこと……?
連続ノックの煩さに起こされたと思ったら、シエラ様がいた……。いつもより一時間ぐらい起きるの早いけど……まぁ、それはいい。
………それ以前に……何故に、SE・I・FU・KU……?
「あぁ、挨拶が先だったわね。おはよう、アリエスさん。今日もいい天気よ」
「そう、ですか……朝から元気ですね……シエラ様……」
「そうかしら?」
不思議そうに首を傾げてますが、多分、貴女は朝に強い人です。
現にルイ君はまだベッドの上で呻いてますからね……。
「う、ぅぅ……」
ーーぱさりっ。
布団が落ちる音に振り返れば、ゾンビみたいにベッドから降りているルイ君の姿。※ちなみに、私もルイ君も朝に弱い。
そんな彼は「ふわぁ……」と欠伸をしながら、緩慢な動きで歩いて来た。
「………おは、よう……義姉様……朝から……何……?」
私の後ろに立ったルイ君は、扉に身体を預けながら腕を組む。
………うん。気怠そうに見える(正確には寝惚けてる)顔がどことなく色っぽいな……うん……。
「おはよう、ルイ君。貴方達の制服を持ってきたのよ」
「…………制服?」
「そう、制服」
ーーしゃらららら〜ん☆
そんな効果音が聞こえてきそうな手つきでシエラ様が渡してきた服は……まぁ制服っちゃ制服っぽいけど違うっちゃ違う服だった。
ノースリーブとオフショルダーを合わせたようなブラウスに、黒いレースが付いた赤リボン。赤いチェックのプリーツスカートにも黒のレースが付いている。
私がしてるチョーカーと合わさったらパンクスタイルっぽくなりそう……。
ルイ君の方は腕を捲るタイプのワイシャツに黒いチェックのズボン。ネクタイは薄水色で、コバルトブルーのネクタイピンが付いていた。
…………うん。やっぱり制服じゃないな、コレ。
「…………あの学校、服装って指定されてたっけ……?」
少しずつ意識が起きてきたらしいルイ君は首を傾げながら、マジマジと服を観察する。
すると、シエラ様はにっこりと笑ってそれに答えた。
「いいえ。貴族が通う学園とは違うもの。私服が普通だわ」
「えっ? じゃあなんで?」
「それは勿論、二人の関係性を周りに見せつけるためよ」
「「はい?」」
意味が分からなくて首を傾げる私達。
シエラ様はまたもやにっこりと……でも、どこか仄暗さを感じさせる笑顔を浮かべると、制服を指差した。
「その制服を見て、思うところはないかしら?」
「………制服を見て……? あっ……私とルイ君の色、ですか?」
「そう、大正解。これは互いに互いを縛る服なのよ?」
シエラ様の指摘の通り、私の服にはルイ君の色が。ルイ君の服には私の色が使われている。
それに気づくと私のテンションが一気に上がった。
だって、私の色をルイ君が纏うんだよ!? 嬉しくならないはずがないよね!
「学校なんて、不特定多数の人間が通う場所だもの。それもまだ身の程を弁えていなーーごほんっ。丁度、初恋をするような思春期の、ね。保護者の色目を抜きにしても、二人とも容姿が整ってるから……貴女達に恋をして、秋波を送ってくるような輩が一人や二人、五人や六人ぐらい出てきてしまっても、おかしくないと思ってね」
「「……………は?」」
〝秋波〟と聞いて、私達の口から低い声が漏れる。
いや、だってね? ルイ君が私以外の人にモテるとか……普通にイライラするよ?
「でも、この服を着て……更には普段通りにアリエスさん達がイチャついていれば、よっぽどのお馬鹿さんではない限り、貴女達の関係を理解するでしょう? だから、分かりやすく周りに見せつけるための制服を用意してみたの」
「「!!」」
「私からの入学祝いだと思ってくれたら嬉しいのだけど……流石にお節介だったかしら?」
こてんっと首を傾げるシエラ様の前で、私とルイ君は顔を合わせる。
視線だけで交わす会話。うん。多分、おんなじこと思ってるね。
「シエラ様」
「義姉様」
「えぇ、何かしら?」
「「ありがとうございます、最高です」」
勢いよく頭を下げる私達の耳に、鈴を転がすような笑い声が聞こえる。
その声に顔を上げると……シエラ様はそれはもう素晴らしい笑顔を浮かべておりました。
…………………闇深めな感じの、笑みを。
「うふふっ、どう致しまして。いい? 最初っから全力でイチャイチャするのよ? 周りの奴らに知らしめておけば……将来的にもそういった輩は減るわ。最愛は自分のモノであると、お前のモノではないのだと見せつけてやりなさい。けれど、それでも。もしも最愛を奪おうとするような奴が出てきたならば……容赦なく潰しなさい」
最後の声は、かなりドスが効いている。
…………つまり、かなり実感こもっている。
「…………それ、義姉様の経験談?」
ルイ君の質問に、シエラ様はにったりと笑う。
あぁ……うん。その笑顔が答えですね?
「うふふふっ。ルインは私のモノで、私はルインのモノだもの。互いに互いの敵を排除するのは……結構、気持ちがいいモノよ?」
あぁ……シエラ様。
貴女はやっぱり、エクリュ家の方ですね。
その気持ちが理解出来てしまうから、人のこと言えないけれど……シエラ様も立派なヤンデレだ。
改めて……エクリュ侯爵家の感染型ヤンデレは本当に凄いな、と思う一日の始まりだった。
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