第62話 という訳で、学校編が始まるようです。
昔懐かしのあのヒトが登場!
詳しくは第一作の続編「悪役令嬢とハイエナの物語。」をお読みください。
それでは〜よろしくどうぞ!
「家庭教師を務めるようになって五年。アリエス様がとても優秀でしたので、一通りのことは教え終えることが出来ました。ですが……人生とは日々勉強。という訳で……アリエス様には将来のため、学校に行っていただきますわ」
そう言ったメル先生は、ここ最近で一番の良い笑顔でした。
シェリー様の超混沌☆婚姻式が終わって早二週間ーー晴れやかな春の、今日この頃。
目の前には前世の記憶にあったようなデザインの校舎(※なお、コンクリではなく煉瓦)と様々な遊具が設置された校庭。
背後には「ここが学校ってヤツなんだ?」と言いながら、私を抱き上げるルイ君。
そして隣には……首をゴキゴキと鳴らす、ちょっと(いや、かなり?)楽しげな様子のルイン様の姿。
「それじゃあ、早速挨拶に行こうか。ルイ、アリエス」
はい、という訳で……まさかまさかの唐突なる学校編の始まりっぽいです。
いや、本当になんでこうなったのかなぁ……? 説明なしでここまで連れて来られたんですけど……?
*****
「ちょっと、来るなら一報ぐらい寄越しなさいよ! マナーでしょう、マナー! かぁぁぁ、これだからあんたらは常識外れなんて言われるのよ!」
「相変わらず失礼だな、メノウ。喧嘩を売ってるなら、喜んで買わせてもらうぞ?」
「ちょっと! 喧嘩なんて売ってないわよっ、あたしを殺す気!? 買うんじゃないわよ、絶対! あんたとの手合わせなんて命が幾つあっても足んないんだから!」
「「…………」」
事務員さんらしき人によって案内された校長室。
中央に置かれた応接用のソファに座った私とルイ君は、それはもう驚きまくった顔で……隣に座るルイン様と向かいのソファに座った、中性的な容姿の赤毛さんを交互に見た。
これが驚かずにいられるか。いや、無理。
「今じゃもう俺にそんな態度取るのはお前ぐらいだぞ」
ケラケラと笑うルイン様は、いつもと違って見える。なんていうか……いつもよりもっと気楽そう?
対する赤毛さんは、呆れ顔で溜息を吐いている。
「そりゃそうよ。あんたにこんな風に接せるのは、昔馴染みぐらいでしょ。というか……そもそもの話、エクリュ侯爵家のヤツに下手な接し方なんざ出来ないわよ。あんたら、爆弾みたいなモンなんだから」
「そんなに恐くないと思うんだけどなぁ? ただの愛妻家だぞ?」
「本気でそう思ってんなら病院行った方がいいわよ。あんたら、最愛のためなら世界すら滅ぼすのを躊躇わないような恋愛中毒者なんだから……普通に恐いわよ、ド阿呆」
いや、驚きだよね!
今まで会ったことがある人達の中で、ルイン様にこんな態度取ってる人なんていなかったもん! こんなポンポンと軽口叩き合える人なんて、全然っいなかったもん!
めっちゃ親しいって感じがする!
「はぁー……取り敢えず、世間話はここまでにして。で? 今日はなんの用よ? まぁ、用件はそこのちっさい子に関することだろうとは思うけどね」
「あぁ、忘れるところだった」
私達をスルーして会話を続けていた二人は、そこでやっと本題に戻る。
ひとまず、ルイン様は私達の紹介をすることにしたらしかった。
「ルイ、アリエス。目の前にいる赤毛はメノウ。この学校の校長で、俺の昔馴染みだ。まぁ、一応よろしくしておくといい」
「一応って何よ、一応って! ……はぁ、もういいわ。あんたの相手してると疲れるもの。自己紹介するわね? あたしの名前はメノウ。魔族のメノウよ。五十年ぐらい前からこの〝ジャクリーン平民学校〟の校長を務めているけれど、身分自体は平民だから様付けはいらないわ。メノウさんでもメノウ校長でも、メノウオネエ様でも好きに呼びなさい。どうぞよろしくね?」
ーーぱちこーんっ☆
そう言ったメノウ校長は、とっても自然な動作でウィンクをした。
いや、マジで精霊王とは段違いだよ。精霊王のウィンクは、ただただ腹立たしいだけだもん。
というか、やっぱりオネエ様だったか! うん、まぁそんな気はしたたけど! ぶっちゃけ、偏見とかないからめっちゃ似合うなぁと思います!
メノウ校長の自己紹介が終わると、今度は私達の紹介になる。
「メノウ。こっちはルイ。俺の弟」
「だと思ったわ。あんたら、そっくり過ぎるもの」
「よろしく」
「こちらこそ、よろしく」
ルイ君はひらひらと手を振って、軽く挨拶をする。
それを見たメノウ校長も苦笑顔で、返事を返した。
「ルイの膝に乗ってる子がアリエス。アリエスの頭に乗ってるのが、ひよこだ」
「よろしくお願いします」
『ぴよっ』
「えぇ、よろしく…………え? ひよこが名前なの?」
「ひよこはひよこです」
『ぴっぴっ!』
「あ、そうなの……随分と、素敵なネーミングセンス、ね……?」
微妙になんとも言えない顔をされてるけど、ひよこはひよこだからそれ以上何も言いようがない。
メノウ校長は「ま、いいわ。名前なんてヒト(?)それぞれだものね」と納得すると、視線をルイン様に戻した。
「それで? もしかしなくてもそこにいるアリエスちゃんをウチの学校に入学させたいってことかしら?」
「そうだ。ついでにルイもよろしく」
「「えっ!?」」
いや……確かにメル先生に〝将来のために学校に通いなさい〟とは言われたけれど!
ルイ君も一緒なんて話、一切聞いてないよ!?
メノウ校長も驚いたのか……目をパチパチとさせながら、首を傾げた。
「ううん? ルイン様の弟なら、貴族の学校に通ったんじゃないの?」
「俺は元々、平民上がりだから。今のルイの身分は一応は、平民なんだよ」
「…………でも、その年齢でエクリュ侯爵家ってなんなら……入学条件である十歳を超えた頃辺りに、問題なくウチの学校には普通に通えたわよね? あたしの記憶が間違ってないなら、通ってないわよね? どうして通わなかったの?」
どうやら平民学校は十歳にならないと入学出来ないらしい。
成人が十四歳だから……前世の記憶と比べたら、遅い気もする。
でも、なんか理由があるんだろうなぁ〜って、なんとなく思った。
「ルイは幼い頃、親父のところで暮らしてたんだ。引き取った時点で、肉体年齢は十二歳ほど。でも、考え方が精霊そのもの、というか。力加減がとんでもなく下手くそだったからな。下手に学校なんて入れたら……とんでもないことになってた。だから、二年間はエクリュ侯爵家でひたっすら手加減やら基礎基本の知識を叩き込んで……そのまま軍部入りさせたんだよ。軍人なら鍛えてるから、多少の無茶も効く」
「あぁー……成る程。ウチの学校にいる子は普通の子供ばかりだけど、授業の一環で精霊術での模擬戦とかあるものね。確かにそれじゃあ入学させられないわ。危な過ぎるもの」
「そういうこと。入学の最低年齢は十歳だが、上限は確かなかっただろう? どうせアリエスの護衛で離れられないんだ。いい機会だから……一緒に入学して卒業させてしまえばと思ってな」
「「あっ」」
揃った声を漏らした私達に、ルイン様が苦笑を零す。
その目は呆れつつも……どこか優しい光を宿していた。
「君ら、忘れてたな? 一応、ルイはアリエスの護衛だからね?」
そう……そうでしたね。
一緒にいるのが当たり前になり過ぎて。ルイ君が《邪神兵団》に狙われている私の護衛として一緒にいるんだってことを、すっかり忘れていた。
私達は〝シュン……〟となって、反省する。
「…………ごめん」
「す、すみません……」
「まぁ、新婚だし気が緩んでも仕方ないか。俺もそうだったし。ついでに言っちゃうと……ここ最近は、何もなかったしね? でも、ちゃんとアリエスを守るって役目があることを忘れるなよ? ルイ」
「分かってるよ。アリエスはボクが絶対に守る」
真剣な声と共に背後から強く抱き締められて、私の胸がキュンッとする。
いや、本当。ルイ君に抱き締められるのは当たり前だけど……こうね? 格好良いよね! 最高か、私の旦那様!!
だけど、話の流れについていけていない方が一人。
「いやいやいや、ちょっと待ちなさい!? しんこん? 新婚!? 何言ってんの、法律知ってる!? 結婚は成人してからじゃなきゃ出来ないのよ!?」
メノウ校長がギョッとした顔で叫ぶ。どうやら私達が結婚しているということに、驚きを隠せないらしい。
そんな彼の反応に、ルイ君は呆れたような顔をした。
「はぁ? 何言ってるの? 知ってるに決まってるだろう。俗に言う事実婚、ってヤツだよ。勿論、肉体関係はない。まぁ……アリエスが成人したらちゃんと婚姻届を出して法的にも婚姻するし、そういうこともするつもりだけどね」
どろりっと蕩けた瞳で見つめられて、私の頬がじんわりと熱くなる。
あ〜……本当、ルイ君って素敵。
「………まだ四年も待たせちゃうけど、我慢してね? 浮気も駄目だよ? 浮気したら、殺しちゃうからね?」
「うん、大丈夫。五年もあっという間だったんだから、残りもあっという間だよ。アリエスも……浮気したら、許さないから」
チュッ、チュッと額やら頬にキスをされて、嬉しくて口元が緩む。
本当は唇にキスして欲しいけど、それは二人っきりの時だけの約束。だって、ルイ君のキス顔を他の人に見られたら……その見た相手が許せないもの。
「な、な、なっ……」
「馬鹿メノウ。新婚なんだから、下手に突くとイチャつき始めるに決まってるだろう。あーぁ、これじゃ暫くはこのままだな」
「いや、もう本当にエクリュ侯爵家には突っ込みたいところが満載なんだけど!! 取り敢えず!! 結婚して五年も経ってりゃ、新婚とは言わないのよぉ!!」
「残念、侯爵家では十年目までは新婚だ」
「もう本当にっ、この恋愛中毒一家はっ!! なんなのよぉぉぉぉぉぉお!!」
(…………嫁の名前を学校の名前にしてるお前には、言われたくないと思うけどな……)
まぁ、そんな感じで?
完全に二人の世界に入ってしまった私達は、側にいるルイン様達の会話に……一切気づかなかったのでした。




