第61話 転生して十年目、また最初から飛ばしてます。(3)
【注意】
倫理観アウト発言(人外ゆえ含め)があります! ご注意を!
それでは〜よろしくどうぞっ!
またお前かよ……。
そんなルイ君達の心の声が聞こえてきそうな中ーーこちらにやって来たシェリー様とメルヴィン様が精霊王に気づき、パァァァッと顔を輝かせた。
「あら、お祖父様! 来てくださったの!?」
『当たり前だろう、シェリー! 大事な孫娘の晴れ舞台だぞ!? 婚姻おめでとう、シェリー! 幸せになるんだぞっ!』
「あったりまえよ! というか、メルヴィンと結婚出来た時点で幸せ絶頂なんだから!」
流石、類友。こんな白けた空気の中で、普通に会話してるわ……。
『メルヴィン君もシェリーを頼むぞ!』
「えっと……はい。それは勿論」
チラッ、チラッと〝何事なんですか?〟と視線で訴えてくるメルヴィン様。
今日の主役としても世界で一番偉い(?)精霊王が招待なしで勝手に参加してたら困惑するよね。
だけど、生憎と私達も精霊王が来た理由が分からないから首を振るばかり。
メルヴィン様はそっと視線を動かしーー偶々近くにいたらしい王太子が、精霊王を見て〝なんで……精霊王様がいらっしゃるんだ……〟と、死んだ顔をしているのを見て……思わず目元を手で覆っていた。
王太子、南無三。
「…………ふと思うのだが。エクリュ侯爵家の婚姻式には必ず、精霊王が出て来ないと気が済まないのか?」
キャッキャっと話をしているシェリー様達を見て、ポツリと溢れたクヴァル様の呟き。それと同時にスッと目を逸らすエクリュ侯爵一家。
…………シエラ様、ルイン様だけじゃなくて、ルーク様とルシェラ様も目を逸らしてるってことは……今んところ、全員の結婚式に、精霊王が出て来てるんですね?
…………ってことはですよ?
…………絶対、私達の結婚式にも来るじゃん……えぇ……(困惑+微妙な顔……)。
「その……お祖父様は……ほら……神出鬼没な、歩く災害だから……」
「……………………成る程」
その長い間が、クヴァル様の認めたくないという葛藤を表しているようだった。
でも、最終的に諦めたような顔しちゃってるけどね!
「…………はぁ……今回は何の用なの? 父様」
このままじゃ埒が開かないと思ったのか……〝面倒くせぇ〟って態度を隠しもしないルイ君の言葉に、シエラ様達がハッとする。
そして、それぞれ一言ずつ、精霊王に文句を言い出した。
「そうよ。四大精霊達に過干渉禁止されてるのに来るなんて……今回は何やらかしたの?」←シエラ様
「まーた何かやらかしたって言うなら、殴るぞ。クソ親父」←ルイン様
「というか……ここに来る前に、四大精霊達に一言かけましたか?」←ルーク様
「えっと、その……仕事ほっぽって来てるなら、とっとと帰って……ください……ウザい……」←ルシェラ様
『なんか皆っ、わたしの扱い酷くない!?』
「「「「そんだけのことを、いつもしてるからだろう(でしょう)が(……)」」」」←全員
『息子達が虐めるぅぅぅう!!』
そう叫びながら子供みたいにギャン泣きし始めた精霊王に、荒んだ目を向けるシエラ様達。
というか、特にルシェラ様が容赦ない。ウザいって言っちゃってる……。
「相変わらず、精霊王に対する信仰心がなくなるような本性してるな、コレは」
顔を歪めたクヴァル様はもっと容赦ねぇ!! 本当にオブラートに包みませんね!?!?
ルシェラ様っ、さっきまでオドオドしてたのに急にはっきりと頷かないであげて!!
それを見て、余計に精霊王が泣いてるから!! 余計にウザいから!!
まぁ、うん……夫婦生活長いと似てくるもんね……。
多分、素直に言っちゃったのはクヴァル様の影響だって、思っておくよ……うん。
「…………うぐぅぅぅ……胃痛……!!」
「頑張ってくださいませ、グラ様〜」
……………まだ側にいたらしい王太子殿下が、胃の辺りを押さえていたのは、見なかったことにしとく。
ポケットから胃薬らしき瓶を取り出したのは、気の所為ったら気の所為だよね。うん。
「確か、精霊王が仕事から離れると世界的に大変だって四大精霊達も言ってた気がするけれど……仕事を放棄してまでここにいらっしゃるなんて、どうなさったの?」
こてんっと首を傾げたシェリー様のサラッと出された〝世界的に大変〟という言葉に、今度こそ王太子殿下が崩れ落ちた。
このままだと血反吐吐きそうですね、殿下。あっ、妃殿下に支えられて離れて行った……。
『ごほんっ』
精霊王は若干涙目になりながら、咳払いをする。
そして……真剣な顔になると……キリッとした様子で、口を開いた。
『実はだな……』
ーーパァァァ……!!
『!?』
精霊王の腕の中が急に輝き始め、光が集まっていく。
それは徐々にカタチを変えて……ゆっくりとその姿を露わにしていく。
『!?!?』
………光が収まっていくと共にはっきりとしていくその存在。
少しだけ生えた淡い金色の髪。ぱっちりとした紅い瞳。雪のような白い肌を包む、薄緑色の子供服。
そう……そこにいたのは、紛うことないーー……赤ちゃん。
「あぶー?」
精霊王に抱っこされた赤ん坊は、キョトンと首を傾げる。
その赤子を見て呆然とする私達に向かって精霊王はーー……。
『娘が、産まれました』
ーーーー爆弾発言を、堕としたのだった。
……。
……………。
…………………………。
『………………はい?』
皆の、呆然とした声が、揃っていた。
……………え?
『ルインとルイの、妹が、産まれました』
「「…………は?」」
ぽかんっとするルイ君達。
そんな二人に向かって、精霊王は更に爆弾を堕とした。
『で……ルーナに殺されちゃうかもしれないなっと思ったので……引き取って欲しいんだな☆』
ーーバチコーンッ☆
てへぺろっ、と舌を出しながらウィンク&ピースをする精霊王。本人は超ふざけていたけれど、私達は〝ピッシャーン〟と硬直せざるを得なかった。
いや、だってね? 今、サラッとルイ君達の妹さんが殺されそうって言ってるよね……?
……………え?(恐怖)
「「…………………」」
恐怖からドン引きする私達だったけれど、黙り込んでいるルイ君達に気づいてハッとそちらに顔を向ける。
そこには据わった目で精霊王を見つめる、ルイン様とルイ君の姿。
だけど、次の瞬間ーー……。
ーーーー精霊王に、綺麗なアッパーが、決められていた。
(※赤ん坊はサラッとシエラ様が回収しておりました、はい)
「「ふざけんなよ、馬鹿親父!!」」
『あふんっ!?』
『ぶふっ!?』
精霊王一家の行動に、思わず噴き出すーー正確には、息子達に殴られてるのに恍惚とした表情を浮かべる精霊王に、更にドン引きする私達。
びたーんっと床に倒れ込むけど、その顔は……うわぁ……美形のあの顔は、ヤバい。なんであんな嬉しそうなの……? ドMなの……? ヤンデレ好きなだけじゃなくて、そう言う性質もあるんですか……? ……とんでもねぇな……じゃなくて。
えっと……どうしよう……展開が混沌とし過ぎてて、どうすればいいか分からないわ……うん……。
というか……ルイ君達が、めっちゃ荒れてるぅ〜……。
「ルイの時もそうだったけどさ? なんでそんな唐突なんだよ? なんでもっと早く言わねぇの? ルイの事後報告癖はお前に似たのかよ!! 毎回毎回唐突過ぎんだよっ、殴るぞ!?」
いやいや、ルイン様? もう殴ってますよね??
「というかさ……何してんの、何考えてんの? 母様は元祖ヤンデレだよ? 女なんて産んじゃったら、娘に父様を取られるかもしれないって殺そうとするに決まってるだろう? ボクと兄様は男だったから、ギリギリセーフだっただけなんだからね?」
『それに気づいたから、ルーナに気づかれる前に連れて来たんだよぉっ!! わたし、ルーナ第一だから!! ルーナが望んだら、うん……言葉に出来ないような非道なことしそうだなって思っちゃったからぁ!!』
あっ、ルーナさんってルイ君達のお母さんの名前だったんだ……って!
実の母親が娘殺そうとしてんの!? 奥さんが望んだから叶えちゃいそうなの!?
えっ!? 精霊王夫妻、ヤバくない!?!?
「…………そういうとこ、やっぱり精霊って感じするよね」
「ヒトしての倫理観がズレてる感じな……ルイを預けられた時のことを思い出すわ……」
『…………精霊は所詮、精霊だからな。人間らしくなんてなれない。だから、この子が手遅れになる前に……お前達に預けた方が良いと思ったんだ』
今更キリッとした表情でそんなことを言うけれど、もう手遅れだからね?
本当に今更過ぎるからね?
そんな私達の心の声を含んだ目線に晒されたからか、精霊王はスススッ……っと目を逸らす。
ルイ君はそんな駄目親を見て、何度目か分からない溜息を零した。
「あのさぁ? ヤンデレ好きな父様の所為で母様のヤンデレは毎年毎年酷くなってってるのにさぁ……何してんの? 娘が生まれたらどうなるかとかも考えつかなかったの? それも……父様似じゃなくて母様似の子とか……余計に母様を刺激するだけだろ……はぁ……。どうせ、この子が産まれる前に、そこまで考えつかなかったんだろうね? この馬鹿親父が」
『だってぇ〜……!! ルーナが可愛くてつい!! 励んじゃったんだもんっ!!』
「ついじゃねぇよ。だもんじゃねぇよ、クソ親父。本当、毎回毎回毎回毎回何かしらの問題起こしやがって……叩かれて喜ぶな、反省しろ。ウィンクとかしてんじゃねぇよ、屑が。真剣な話だろうが、ふざけんな。すっごい反省しろ。お前は最低な親だかんな!? 分かってんのか、あぁんっ!?」
極寒零度の眼差しで睨むルイ君と、胸ぐら掴んで父親の顔面を平手打ちしまくるルイン様。
…………なんていうかね。ルイン様の怒りようが凄いよ。めっちゃ怒ってるよ……。今までで一番、口が悪いもん……。
精霊王に対するフラストレーションが溜まってんだろうなって感じだわ……うん……。
流石にそこまで怒られたからか、顔がパンパンになるまで叩かれたからか……『むぐぐぅ〜……すみませんんうぅぅぅぅ……』と泣きながら謝る精霊王。
まぁ、ね。奥さんがヤンデレ過ぎて育てられないからとはいえ、育児放棄だもんね。それぐらい反省したら良いと思います、はい。
「「チッ」」
舌打ちをしながらポイッと投げ捨てられる精霊王。
ルイン様はシエラ様の腕に抱かれた赤ん坊ーー妹ちゃんを見ると、またもや大きく溜息を零す。
そして、ビシッと指差しながら告げた。
「いいか? この子を引き取るのは……お前のためじゃない。こ・の・子・のっ! ためだ」
『……ふぐぅ……すまん、ありがとう……』
「この子の名前は?」
『……ルルアだ』
「そう。ルルア、ね。分かったよ、うん」
ルイ君はにっこりと笑う。だけど、目が一切笑っていない顔で親指を首元で横にスライドさせた。
「今すぐ帰って? ちょっと今、どうしようもないぐらい父様を半殺しにしたくて堪らないから。アリエスにボクがドン引きされるようなことしちゃいそうだから」
「まぁ、実際に母さんが手を出す前に連れて来たことだけは褒めてやるよ。でもそれ以外は普通にアウトだから、失せろ」
『ぴぇぇぇぇぇんっ!! 息子ーズが意地悪するぅぅぅぅ!!』
「「さよ〜なら〜からの、《強制帰還》!!」」
ルイ君とルイン様の蹴りと拳が放たれて、それと同時に精霊王の姿がその場から消え去る。
やり遂げた顔で、額に滲んだ汗を拭うエクリュ兄弟。
えっと……まぁ、そんな感じで?
「ばぶー?」
エクリュ侯爵家に新しい仲間が増えたのでした。




