第58話 転生モブメイドの動揺(3)
この場を借りて、御礼申し上げます!
誤字脱字報告ありがとうございます! 細かいところまで指摘してくださって、助かりました! 今後ともよろしくお願い致します!
それでは〜今後とも、よろしくどうぞっ!
【イリス目線】※解説は後書きにて
『シナリオは、積極的に叩いて殴ってぶっ壊せ☆』
ーーばちこ〜ん☆
ピースサインを目元に寄せ、ウィンク&てへぺろっ☆ をした精霊王がいた。
*****
「…………という訳でして。この世界、積極的にシナリオぶっ壊せが推奨されてるらしいです」
…………意味が、分かりませんでした。いや、分かりましたけど。
乙女ゲームのシナリオはあくまでも、数ある未来の可能性の一つ。運命は切り開くもの。
ゆえに、シナリオだろうが運命だろうがなんだろうが、変えたって問題ないーーというのが、精霊王様のお言葉だそうです。
というか……。
「ピースサイン……」
「いえす」
「ウィンク&てへぺろっ……」
「ふざけてるよね」
「……それ、本当に精霊王様がしたんですか……?」
「あのヒトなら必ず、する」
「あの性格なら必ず、する」
「必ず」
「「うん」」
アリエス様とルイ様が遠い目をしながら、頷きます。
するんですね……? この世界の人々に信仰されてる精霊王様がそんな馬鹿っぽい行動するんですね……?
なんか、アリエス様達から話を聞かされると、今まで持っていた厳格な精霊王様のイメージがガラガラと崩れ落ちていくんですが……。
「まぁ、そんな感じで。ぶっちゃけ、貴女の考えはこちらに筒抜けだったから、こうして対面して話をする必要も本当はなかったんだけど」
「筒抜けなんですか……」
「父様が味方についてるからね。父様はボク以上にプライバシーがないよ。なんせ固有能力持ち以外の心の声はいつでも聞いてるらしいから」
「………ルイ様の、お父上、ですか?」
困惑した私に、ルイ様は首を傾げる。
そして、私の心の声を読んだのか記憶を読んだのか……「あぁ……」と呟いてから、サラッと爆弾発言を落とされました。
「それはゲームに出てこなかったから、知らなかったんだ? ボクと兄様はハーフエルフ。半分は勿論エルフで……もう半分は精霊王の血なんだよ」
「ぶはっ!?!?」
さらりと告げられた新事実に、私は思いっきり噴き出しました。
えっ!? えぇっ!?
ルイ様がっ、精霊王様のご子息っっ!?!?
「………もしかして。父様がヤンデレ好きだからボクらにもヤンデレ属性が付与されたって話も知らない?」
「ヤンデレなのそんな理由なんですか!?!?」
「そう。ボクらの母様がナイフ片手に父様を襲ったからボクらが産まれたんだよ」
「ぶふっ!!」
また噴き出しました。
精霊王様を襲うって!! 襲うってそういう意味ですよね!?
というか、ナイフ片手とか物騒極まりないですね!?!?
「まぁ、この話。知ってる人は知ってるけど、子供には刺激強めだからあんまり教えないようにね」
「アトム様も子供なんですが!?」
思わず抱き締めながらそう叫ぶと、ルイ様はニヤリと笑います。
ついでに、アリエス様もニマニマと笑いながら、楽しげに語り出しました。
「子供……子供ねぇ?」
「…………?」
「イリスさんにはそう思われてるらしいよ、アトム君」
……………?
意味が分からなくて首を傾げると、腕の中にいたアトム様がピクリッと震えます。
「いいこと教えてあげよっか、イリスさん」
ーーニマニマ、ニマニマ……。
アリエス様の目と口が三日月のような弧を描いています。
………一体、何を……。
「同じ転生者さんがいつまでもシナリオに囚われてたら、アトム君が報われないから。こうして話をしに来たーーというのも、理由の一つです」
「……………え?」
ーーピシリッ。
私の身体が、岩のように、固まります。
ま、待ってください……?
アトム様が報われないって……。
……………え?
「だからね? 貴女が攻略対象と結ばれても、問題ないんだよ」
……ど、どういう、ことですか……?
私は〝はてなマーク〟を飛ばしまくりながら、首を傾げます。そんな私を見てアリエス様達はまたもやニヤリ。
そして、楽しげな雰囲気のままルイ様がアリエス様を抱き上げながら、立ち上がりました。
「さぁーって。イリスさんがこれからどうしようが何をしてって問題ないってことは伝えたし? お邪魔虫は退散しようか、ルイ君」
「うん。早く帰ってアリエスとイチャイチャしたい」
「そっか……なら、早く帰ろ? じゃあ、そういうことで。また機会があったら、気楽にお茶でもしようね。ばいばい、イリスさん」
「見送りはいらないよ。これから、大切な話があるだろうしね? じゃあね」
ひらひらと手を振って勝手に退室なさったアリエス様達。
私は呆然とその後ろ姿を見送り……ハッと我に返ると、慌てて後を追いかけようとしました。
お見送りがいらないと言われても、私はノートン伯爵家の使用人です。しない訳にはいきません。
ですがーー……。
「待って」
「!!」
強く引っ張られた腕。
驚いて振り向けば、そこには真剣な顔でこちらを見つめるアトム様の姿。
いつものヤンチャ様とは違うその姿に、私はビックリして言葉を失くしました。
「…………僕、全然、話がついていけなかったんだけどさ」
「…………ぁ……」
あ……そう、です、よね。
アトム様は……転生者なんて、知るはずもありません。
「ずっと、イリスは何か隠してるって感じてた。それが……今の会話、なの?」
真剣なアトム様の瞳は、〝偽ることは許さない〟と雄弁に語っています。
…………私は少し悩んでから、恐る恐る口を開きました。
「…………私には、この世界に生まれる前ーー違う世界で生きていた記憶があります」
「……違う、世界」
「……はい。それで……それで………」
「ねぇ、イリス。〝シナリオ〟とか〝攻略対象〟ーーって、何?」
「!」
その質問に、私は息を飲みました。
…………やっぱり、それも……話さなきゃ駄目ですよね……。
「前世の、世界には……乙女ゲームーー分かりやすく言えば、主人公が選んだ恋の相手次第で結末が変わる恋愛物語がありまして……」
「……………シナリオは、その恋愛物語のこと?」
「……そう、です。そして……その物語の恋の相手を……」
「攻略対象、って言うの?」
「…………はい」
「…………ふぅ……」
それを聞いたアトム様は、小さく息を吐かれました。
俯きかけていた私は、チラリと顔を上げて主人の様子を伺います。
「……っ!」
そして……。
困ったように笑うアトム様を見て、私は大きく目を見開きました。
「そういうこと、か。僕がその、攻略対象……ってヤツなんだ?」
「!?」
まさか、今の会話だけでその答えに辿り着くと思わなかった私は驚愕します。
だって……私の知るアトム様は、ヤンチャな子供でーー。
「…………僕のこと、ヤンチャな子供だと思ってた? ごめんね、騙してて。でも、ヤンチャな子供でいて欲しいって思ってたのはイリスでしょう? 僕はイリスの望む子供らしい子供のフリをしてただけだよ」
「!?!?」
アトム様の言葉に、私は大きく目を見開きました。
待って……待って待って、待ってください!!
子供のフリをしていた? 私が望む、子供らしい子供のフリを?
嘘……どういう、こと?
「……あのさ。義理の姉君は誰だか分かる?」
………え? 何故、ここでメルンダ様の、話が?
「メルンダ義姉君は、貴族の当主でさえ引けを取らない立ち振る舞いから王族すら一目置く存在で……社交界でも名高い女傑として有名なんだ。加えて、あの《イカれ侯爵》の娘でもあり、軍属ではないにも関わらずあの特殊部隊に深く関わってる。そして、あの人達と一緒にいるからなのか……教育が無駄に高度でね。アリエス嬢専属の家庭教師だけど、夫の弟ということで義姉君の教育を受けさせてもらってきた僕は、多分、同年代の子達よりも大人びてる自覚があるよ」
「…………」
「でも、イリスは……いつも〝子供は子供らしくしてれば良いんですよ〟って口癖にしてるだろう? だから、イリスがそれを望むならと、その通りにしてたんだ」
「………………私……そんな、こと、を?」
「……自覚がなかった?」
「…………はい……」
全然、気づきませんでした……。
私、無意識にそんなことを口癖にしていたなんて……。
「………でも、そっか。イリスが僕に子供らしくって言ってたのは……僕がその攻略対象ってヤツだったから、なんだ?」
「!? 違っ……!」
「違わないだろ。その恋愛物語の僕になって欲しくないから、言い続けてたんじゃないの?」
「…………!!」
……そう、なのでしょうか……?
…………そう、だった、のかもしれません……。
私は、心の奥底で思っていたのです。
いつかアトム様はヒロインと結ばれるかもしれない。
だけど……ゲームのアトム様と違ければ……。
ーーーーアトム様は、ヒロインと結ばれないかもしれなーー……。
「………!」
自分の心の奥から滲み出したその本音に、私は息を呑みました。
………わ、私……! まさか……!?
「…………これは、多少は望みはあるのかもね」
混乱している私には、そう呟いたアトム様の言葉は届きません。
だけど、この時ーー彼の獰猛な笑みに気づいていれば、私の未来は少しは変わっていたのかもしれない。
けれど……生憎の私は、そんなことに気づかないほどに、自覚してしまった想いに動揺してしまっていて……。
「なら……これから覚悟してね、イリス」
ーーーーこの日から、アトム様の猛攻の日々が始まるのですが……この時の私はそんなの一切、知りませんでした。
解説〜( ・∇・)ノ
アリエスが無自覚(?)チート(精神年齢が大人だからか、若いから頭が柔らかいのか……教えたことはなんでも吸収する)なので、メルンダはどんどん高度なことをアリエスに教えてた。
アリエスに教えるために、自分も勉強する。それに、他人に教えると自分も学ぶよね。
そのため、メルンダも立ち振る舞いが洗練され、高い教養を持つように……。(※多分、イカれ侯爵の娘なので素質があった)→結果、色々な人々から一目置かれる存在になった。
そんなメルンダに教育を受けていたので、アトムも同年代より大人びた性格に。
でも、イリスが子供らしくいて欲しいって思っているようだったので……そういう振る舞いをしていた。
「まぁ、子供っぽく振る舞ってると油断してくれるから、結構役に立ったよ。情報収集とか情報収集とか、お菓子を隠れてもらうとか」
ゲームアトム……気弱わんこ
現実アトム……強か忠犬(一途だから忠犬。イリスを嫁にする気満々)※敵には猛犬




